第028話 『鬼が嗤う話』⑤
シロウとカイン、フィアの年長組はいきなり二年生として入学することになるが、知識的には何の問題もない。
今のシロウたちであれば、一度読んだ本の内容はほぼ完璧に知識へと変換されて記憶野へと格納される。
それに商学部よりも、より実力主義なのが冒険者養成学部である。
純粋な戦闘力――迷宮において魔物を叩き殺せることこそが、唯一絶対の評価となるのが冒険者養成学部なのだから。
今まで例がないとはいえ再度『聖別』を行った結果、冒険者になりうるという判定が出たということにすれば二年生からの編入に何の問題もない。
それが嘘であって嘘でないことなど、力の片鱗を見せればこれ以上ないほど歴然と示すことができる。
二年生からがだめだというなら、みんないっしょに一年生からでも全く困らない。
何ならその方が卒業の時期がずれなくてありがたいくらいである。
もっとも王立学院冒険者養成学部には、強者を拒む道理などない。
もしも規律がそれに合わなければ、規律の方を合うように変えるだけにすぎない。
規律の本質とは力に裏打ちされたもの。
その力を凌駕する力が、その規律に縛られることなどありえない。
よってシロウたちがそう望んだ時点で、『野晒案山子』党員の王立学院ヴァグラム分校への入学はすでに確定事項といって間違いではない。
必要な根回しは、カインがすでに行ってもいる。
都会に出るのだ、お金はあるに越したことはないというカインの発言ももっともだ。
女性陣にそんなつもりはないとはいえ、カインとしてはこれからの周回に対する目的意識が低下するのは避けたいという、副長視点の発言でもある。
「……男性陣は悪いことに使いそうねえ」
「悪いこと?」
「都会は怖いのよ、シェリル」
だがフィアから帰ってきた答えはわりと下世話なものだった。
キョトンとしたシェリルに対して、悪い笑顔で濁しているが、さてシェリルも本当にわかっていないのか、わかっていてシロウ好みの反応を返しているのか、知れたものではない。
個人的にカインは十中八九後者だと判断しているのだが。
彼女らとて二桁に上る『成長』を経ている以上、見た目こそ可憐な11、12歳の美少女であっても、中身は年経た妖女並みの知識を持っていても不思議ではない。
もっとも実地を伴わない知識など、この手のことに関しては何の役にも立たないわけだが、カイン以外はそんなことを理解できる歳でもない。
確かに迷宮都市には冒険者という上客が多数存在しているので、その手のお店の充実度は王都に並ぶかそれ以上ではある。
特に来年シロウたちが拠点を移すヴァグラムは、一部では「大陸一の性都」などという名誉なんだか不名誉なんだかわからない通り名を得ている迷宮都市だ。
若手の冒険者たちがそれに溺れる話もよく聞くとなれば、フィアのからかいを装った心配も、あながち的外れなものとも言えない。
力を持ち、それを金に兌換できる「お客様」であれば、見た目が子供であろうが公式な身分が学生であろうが、夜街のお姉さま方にはなんの問題もないのだ。
不本意ながら、『野晒案山子』の男性陣がそういった意味以外でもモテるであろうことは、フィアの身内ゆえの厳しい目線を以てしても間違いないだろうし。
「貴女っていう人は本当にもう……最近、見た目とのギャップが一層酷くなってきてはないですか?」
「え? わたしそんなおかしなこと言ったかしら?」
シロウとヴァンにそんな心配はないと信じつつ、その手の転落は本人の素養によらない場合もあるので、当然カインとしても十分気をつけるつもりでもいた。
一方では社会見学的に行ってみるつもりも当然あったわけだが。
あきれ声のカインに対して、何も知らない純真可憐な乙女として完璧なムーヴを見せるフィアである。
知らぬものが見れば、たまたま発言がそれっぽくなってしまっただけの美少女が狼狽えているようにしか見えないだろう。
カインのほうが何やらセクハラ発言をかましているようにしか見えない。
まあそんなカインは、夜街に行けばこの中で一番モテるであろうことは疑いえない容姿を誇っているのであるが。
「これだよ……」
「まあ村では鉄壁ですし、僕たちの前限定ならそう問題でもありませんよ」
いつものこととはいえ、フィアの豹変にげんなりした表情を浮かべるシロウ。
それに対するフォローを入れるのも、いつもどおりカインである。
「……ホントいいヒトよね、カインは」
「……それはどうも」
わりといつもどおりの雰囲気の中、珍しくまじめな表情でフィアが珍しいことを口にする。
さすがのカインも、そう答えつつも「おや?」という表情を浮かべている。




