第017話 『状況分析』④
一般的な兵士をはるかに凌駕する神聖騎士たち、その万の数を以て組織された『神聖騎士団』とて、魔導武装を使いこなし、高難度迷宮で『成長』を繰り返した、たった五人の少年少女に蹴散らされることすらあり得るのだ。
事実、カインやフィアが近隣の迷宮都市で直接会った騎士団長や副官、騎士団員あたりが強さの頂点付近だというのであれば、それは実際に可能である。
彼らの組織の中では圧倒的であろう団長と一団員の力の差など、より力を持つ『野晒案山子』にとっては誤差でしかない。
踏み潰す蟻の大小など、ヒトは頓着しないものだ。
逆に言えばたった一人、たった一つの魔導武装にでも『野晒案山子』が経た『成長』、保有する魔導武装の能力をはるかに凌駕されていれば、その一人、一つに五人は蹂躙されることにもなる。
それこそが圧倒的な『個』の存在を可能とさせる、『魔法』という奇跡の力なのだ。
確かにシロウたちは魔導武装を持ち、迷宮で『成長』を繰り返している。
世で持て囃される『冒険者』など、冒険者ギルドによって判定されている位階を無視してしまえるほどの圧倒的な戦闘能力をその身に宿していることは間違いない事実だ。
だが反面では「その程度」ということもできる。
大魔導期に生きた人々の如く『魔法』も『職』もその躰や魂には宿っているわけではなく、魔導器官を備えた古代種に先祖返りした個体だというわけでもない。
魔導武装という便利な道具を使うことによって、その真似事をできているだけの、ただのヒトの集団に過ぎない。
どれだけ『成長』を繰り返してその力を上げてはいても、所詮は強くなれた『ヒト』に過ぎないのだ。
ヒトの最強など、神々は気付くことすらなく踏み潰すだろう。
今はまだその程度の『野晒案山子』の持つ力では、『開かずの扉』すら完全に制御し、産出される『魔石』を世界中から集め、便利な道具の電池替わりなどではなく正しく使えている相手にかなうはずもない。
もしもそうだとしたら、聖シーズ教はこの時代に正しく魔法を復活させた唯一絶対の存在になるのだから。
だがシロウもカインも、まだその可能性は低いと判断している。
あるいはその最悪の予想に近い存在が『聖シーズ教』の中枢において、秘匿された状態で存在しているのかもしれない。
少なくともそれに近い存在はいるだろうとカインは見ている。
『神聖騎士団』の当時の強さから判断して当面の脅威ではないと看做しただけであり、最終的な脅威の対象からも除外したわけではないのだ。
最低でも伍せるだけの力を『野晒案山子』が身に付ける前に見つけられてしまえば、相当にまずいことになるとも思っている。
だからこそカインは今まで自分たち『野晒案山子』の存在を、自分に可能なありとあらゆる手段を駆使してほぼ完璧に隠蔽してきたのだから。
だが『開かずの扉』を含めたこの地――古の大魔導期には『水の都トゥー・リア』と呼ばれた遺跡を制御している存在は、また別である可能性が高いともみている。
もしも『聖シーズ教』がそうだというのであれば、シロウたち『野晒案山子』を数年間というスパンで放置しておく意味も必要性も感じられないからだ。
聖シーズ教がこの『水の都トゥー・リア』の存在を把握しており、『開かずの扉』すらも完全に制御しているというのであれば、今頃この地は直轄地として『神聖騎士団』による探索と育成の場になっていないとおかしい。
少なくともエメリア王国、もしくはフレイム帝国、あるいはその双方に話を通した上でこの地の共同管理くらいは行っていて然るべきだ。
それだけ迷宮、遺跡、魔物領域という特殊な地から得ることができるモノは桁外れの価値を持つ。
その価値をもっとも正しく知っているのは、『奇跡認定局』を使って大陸中から魔石をかき集めている聖シーズ教であることは間違いない。
『迷宮保持国家群』に管理されているそれらとは、一線を画する規模であるここともなればなおのことである。
カインやフィア、つまりはたかが泳がせているだけの相手が、辺境領の迷宮都市常駐部隊とはいえ仮にも『神聖騎士団』に属する騎士を『強くない』と断じてしまえる状況を、放置しておくわけがないのだ。
よって『聖シーズ教』、少なくともその中枢を警戒するにしくはない。
だがまだこの地の存在は知らず、つまり『開かずの扉』を制御している可能性はないとみてもいいはずだ。
「……じゃあ本命は?」
『聖シーズ教』の可能性が低いのであれば、本命――より可能性が高いと看做している存在があるはず。
それが何なのかをフィアが問うのは当然のことだろう。




