第016話 『状況分析』③
「より中枢、ということですよ」
カインとて迷宮都市で実際に逢った『神聖騎士団』への評価はフィアとそう変わるものではない。
フィアには内緒で実際に闇討ちもしてみているのがカインの恐ろしいところである。
さすがに殺すのはもちろん怪我をさせてすらいないが、そんなことが可能なくらい彼我の戦闘能力に差があったということでもある。
その程度の戦力に辺境とはいえ迷宮都市の常駐を任せている聖シーズ教の総戦力についても、そこまでの脅威を感じてはいない。
だからこそ、聖シーズ教がこの『開かずの扉』を制御できている可能性は低いとは見ている。
だが辺境の迷宮都市などではなく、本国――聖シーズ教の教皇庁が存在するウィンダス中央王国、その王都を固めている者たちがカインの想定以上の化け物たちである可能性も捨てきれるものではない。
一つの組織が保有する戦力が、ある程度平均化されている保証などどこにもないのだ。
それも圧倒的な『個』が存在することを可能にしている『魔法』が絡むとなればなおのことである。
自分たちの存在こそが、それを逆説的に証明しているともいえるのだから。
それに――
「魔石の流通から判断すればその可能性も捨てきれない、か」
シロウが発した言葉もまた、聖シーズ教を黒幕だという可能性を捨てきれない要素のひとつである。
カインが自身のノーグ家を通して闇ルートに流していた『魔石』
ある程度の利益を捨てることによって、間に入る多くの商人との関係を表裏共に強固にすることをカインは成功している。
表向きはカインの父親である村長が、だが。
まさか十二歳の少年がそのような搦手を行使しているとはだれも思わない。
そこからもたらされる本来は知り得ない情報を基に流通を追い、カインは『魔石』の高値が維持されているカラクリをある程度把握するまでに至っている。
冒険者等から魔石を高値で買い上げるのは冒険者ギルドだ。
そこから魔石が流れる先は、あらゆる商人や貴族、時には王族まで多岐に及んでいる。
だが最終的に『魔石』が集中する先はたったの一か所。
聖シーズ教の教皇庁。
そこの教皇直轄部署である『奇跡認定局』が膨大な予算を与えられ、流通するほぼすべての魔石を収集している。
『迷宮所持国家群』とも、それらが運営する『冒険者ギルド』とも深く繋がり、今やそこらの国家など純粋な軍事力においても凌駕している世界規模宗教。
『聖シーズ教』こそが破格の値付けを以て、世界中から『魔石』をかき集めている黒幕であるのだ。
その事実に辿り着いているというだけでも、カインはある意味においては危険な立場であるともいえる。
だからこそ、その情報を共有する相手は今日までシロウだけに限定していたのだ。
だが少なくともそれだけの金を費やすだけの価値を、聖シーズ教は『魔石』に見出しているということは間違いない。
その理由がシロウやカインたち『野晒案山子』と同じく、神遺物たる魔導武装を保有しているが故であればまだマシかもしれない。
手持ちの魔導武装の質と数、それ次第によっては対抗することができる可能性も皆無ではないからだ。
だがシロウたちが数年がかりでも開くことすらできなかった『開かずの扉』
それすらもその制御下にあるとなれば、とてもではないが手に負える相手ではないということになる。
そもそも自称にすぎない少年少女冒険者一党、それもたった五人の『野晒案山子』に、メダリオン大陸においては知らぬ者とてない世界宗教『聖シーズ教』が「手に負えない」ことなど、わざわざ言葉にする必要もないほどに明白なことだ。
だが『魔法』が介在すればその常識はあっさりと覆される。




