#74
前兆かな
SIDE開戦派:過激思考共
「……どうやら平和的に終わってしまいそうだ」
「いけませんな。きちんと戦争が起きるようなきっかけが起きねば」
「そうでないと、我々が手柄を立てる機会が失われてしまう」
……深夜、デストロイ帝国の貴族の屋敷にて、現在行われているバーステッド王国とデストロイ帝国の会談の状況の報告を聞き、「開戦派:過激思考」の貴族たちと彼らと癒着している商人たちは苦々しい顔をしてそう言いあった。
戦争で手柄を立てて出世、そのどさくさで村や町を襲い男は惨殺女は色欲を満たす、武器を売って大儲けなどと、様々な欲望が入り混じった者たちではあるが、今のところ全くの成果が出ていなかった。
会談が失敗するように、気が付かれないように人を何重にも介して、モンスターを引き寄せる薬を捲いて騒ぎを起こそうとしたり、爆薬などを仕掛けてテロじみたことを仕掛けようとしていた。
だが、モンスターは齢ゴブリン程度の者たちぐらいしか集まってこず、全てあっという間に護衛たちに討伐される。
爆薬はなぜか湿って使いようが無くなり、不発に終わる。
毒を料理に混ぜようにも、毒味役が当然両国ともにいるので仕掛けようにも気が付かれる。
様々な策を仕掛けはしたものの、ことごとく失敗に終わっていたのである。
中には、危うく自身の場所までかぎつけられかけた同胞もいるのだ。
「このままではもうすぐ会談は終了し、完璧に平和的に終わってしまい戦争が回避されてしまう」
「わが国の兵力であれば、バーステッド王国なんぞおそるるに足らずなのにぞい」
「皇帝はなんて軟弱なんだ!!」
ダァン!!っと、憎々しげに拳を机にたたきつける者もいて、その場にいた全員は同様に思っていた。
「……ならばいっその事、亡き者にするのはどうだ」
一人の言葉がつぶやかれ、その場がシン……っと静まり返った。
その言葉がさすのは何か。
明らかに、皇帝の暗殺もしくは会談その物に対して大規模な強襲をかけることを意味しているだろう。
だが、それを実行して露見すれば彼らは明らかな逆賊。
国家に対して最も重い反逆罪や謀反の罪を企てたことになるのだ。
……そうすればもちろん、戦争での手柄を立てようという話にならないどころか死罪にもなりかねない。
けれども、先をあまり読まない、まだ経験も浅く深く考えるという事をしない彼らは……
「なるほど、その手があったか」
「皇帝には子供がいるし、適当な奴を帝位に据えて開戦するように誘導もできるだろう」
「証拠も残らないように素早くできるようなやつがあれば完璧だぞい」
なんというか、やってはいけないことに踏み入れようとしていた。
「そういえば、この間手に入れた道具もあったな」
「ああ、物凄く凶暴なモンスターが封じられているとかいうやつか?」
「なんでそんなものが流れてくるんだと疑問に思うが、まぁそんなのはどうだっていいぞい。都合のいい道具なのは間違いないぞい」
「その会談の場に放り込み、そして……」
ニヤリと彼らは悪い笑みを浮かべた。
人伝いにそれを設置させれば、彼らの事が露見する可能性も少ない。
成功すれば、確実に亡き者に出来るどころか、うまいこと行けば王国側がそれを出したと言って罪を擦り付けて、開戦のきっかけにもできるだろう。
こういう時ばかりは有能な人のように素早く動き、夜明けにはもうすでにその物は運ばれていったのであった……
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SIDEカグヤ
「痛たたたたた……まだ痛いな」
『すいませんカグヤ様、骨にまでたっしていたようで……』
湖畔の護衛が泊まる宿屋の部屋にて、カグヤは寝込んでいた。
原因は、昨日のアンナとリースの強烈な一撃である。
魔法で強化された拳に、魔拳闘士の才能で強化された拳と、物凄い一撃を同時に受けたダメージが、まだ残っているのであった。
さすがにシグマ家の一員とはいえ、不意打ちのような、油断したこの一撃は重すぎて、じわじわ痛むのである。
『本当にすいません。自らさらけ出すのは良いのですが、ああも事故的に起きると恥ずかしくなって……』
物凄く申し訳なさそうな顔をするアンナ。
人の姿の状態で、せめてもの安らぎにと魔法で痛みを抑えるようなものをかけ続けているのである。
「いやいいよ。こっちだって予想外だったし、ふっ飛ばされた衝撃で何が見えたのかが抜け落ちているからね……」
頭の中では、確実に男たちが知ったら物凄い光景だっただろうとはわかっている。
だが、もらった一撃が大きすぎて記憶までもが天高く飛んでいってしまったようなのだ。
「とはいえ、一応護衛の役割をしているのにしないというのもな……、アンナ、すまないけど俺の代わりに護衛に行ってくれないか?痛みが引くまで宿の方に籠るからさ」
『カグヤ様の命令なら聞きますけど、一人で残って大丈夫ですか?』
アンナとしては、カグヤの状態から傍について世話したいと考えてはいるが、魂魄獣としての立場で言えば主であるカグヤの命令は聞かなければいけない。
だけど心配なのでカグヤにアンナは尋ねた。
「大丈夫だよ。流石にトイレとか食事もとれるし、寝たきりってわけじゃない。でも、ミルルたちの護衛を今日は任せたい」
一応護衛としての役割を任されているので、カグヤとしてはその責任を果たしたい。
なので、代わりにせめてアンナだけでも護衛に行くように言った。
『そうですか……では、わかりました。カグヤ様の代理として護衛に行きますが、余り無茶して動かないでくださいよ?』
そう言い、アンナは魔女の姿のまま宿から出ていき、護衛へと向かった。
残されるのはカグヤだけである。
他の護衛の者たちも会談場所へ行き、リースも会談の場に交わる予定らしい。
その為、今日はゆっくりと癒そうかとカグヤはそう考えて二度寝に入る。
……ただ、ふと嫌な予感をカグヤは感じた。
気のせいだとは思いたいが……何かこう、嵐の前の静けさが今の状態ではないだろうかと思えるような感覚を味わいながら……
……アンナと離れて宿屋で休むカグヤ。
会談場所はそう離れたところではなく、古城にて行われるのだがどうも嫌な予感がする。
不安を覚えつつも、とりあえずは自身の状態を治そうと集中するのであった。
次回に続く!!
……さてと、会談場所にはアンナ、リース、ミルルと、護衛たちと帝国からの皇帝を含む者たちがいる。
重要人物が集まっている場所だが……




