#61
リースの語りがメイン
「まずは僕の出生から話したほうが分かりやすいかな」
そうリースは、己の事を語りだした。
……リースが生まれる数年ほど前、当時のソード男爵家は家系的に裕福な状態であり、当主はボンクラでもなく、そこそこのやり手で次の出世で爵位が向上するかもとまで言われていたらしい。
だが、その時に男爵家にとっては痛い事件が起きた。
当時の男爵家と血縁関係にあった親戚の一人が、どうやら怪しい商売に手を出していたそうで、その風評被害によってあまり関与していなかったのだが、男爵家も悪い噂が流されるようになったらしい。
貴族社会というのは面倒なもので、あの手この手でその貴族を追い落とそうとする輩がいたりするものだから、ずいぶんと辛い状態になったのだとか。
……シグマ家?悪い噂を流される前に処理するそうですよ。というか、流したら潰されるとまで言われているそうだから、そう簡単には出ないけどね。
話を戻して、それからしばらくは男爵家は家計的につらい状況が続き、追い打ちをかけるかのように当時手を出していた商会の一つがつぶれて、やや落ち目になったそうである。
根性で盛り直してなんとか爵位剥奪のような状況は免れたものの、かなりの負担だったそうで、その当主はしばらく色欲に溺れる毎日を送っていたそうである。
街中にある娼館に通いづめたりして、それでいて街中の娘を攫うような暴挙を抑制していたのだとか。
それから数年が経ち、男爵家ではある日突然悲劇が起きた。
「……それが、この僕が生まれたことにあったのさ」
「リースの誕生が?不義の子とかだったのか?」
「それだったらまだましだったのかもしれないね」
「え?」
……不義の子とかならまだましだっただろう。
その場合相手を黙らせるなどの手段がいくらでも取れたからだ。
それに、子供を授かって跡継ぎを得ることを考えると、まだ悪い状況ではない。
けれども、その当時に遭った悲劇とは……
「なんというか、その恐ろしい事態というか……父と言いたくないようなくそ野郎だけど、そいつの自業自得ともいえることが起きたのさ」
「自業自得な事?」
「男だというのに、子供を身籠ったのさ」
「……はぁ!?」
まさかの男性が妊娠である。
当時最初の頃はただの肥満かと思いきや、妊娠していたのだとか。
そしてその原因というのが、色欲に溺れていたことであった。
「あれに荒れていた状況だけど、色欲に溺れていたくそ野郎はあろうことかサキュバスとも関係を持ち、楚々て子供を自分に産み付けられたそうだ」
「いやいやちょっと待て!?サキュバスが出て出産したんじゃなくて、サキュバスによって男が妊娠したのかよ!?」
『……なるほど、それでその髪色なんですか』
どうやらアンナは何かわかったらしい。
本の姿の状態で、その情報を浮かび上がらせた。
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「サキュバス」
別名「夢魔」と呼ばれる。モンスターとも、亜人とも呼ばれる曖昧な存在。女しかおらず、色欲まみれの人から精力を吸い取り、己の力とする恐るべき種族。娼館などに潜り込んでいたりもして、カモとした男性を虜にしてしまう。
互に愛し合う仲であるならばサキュバス自身が子供を産むのだが、愛のない色欲だけの関係の場合、最悪その相手とされた男が身籠るという。
生まれた子はハーフサキュバスとなり亜人に分類されるようなもので、愛されて生まれたのなら美しい光沢を放つ金髪に、愛のない男が生んだ者は、その家系では決して出ることがない髪色に独特の光沢を放つ髪を持つという。
また、サキュバスは同族嫌悪しやすく、ハーフだろうとたいていの場合仲たがいをしやすい。
正反対に「インキュバス」というのもいるが、こちらは草食系で隠居したご老人のような精神を持ち、ほとんど出現しない。
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そう言えば、先ほどのリースの女の子の姿は……白っぽい銀色の光沢を放つ髪だった。
そして、ソード男爵家は青い髪を持つそうであり、銀髪なんてどこにもない。
隔世遺伝だとか言われたが、そんな髪色を持つ者が血筋にはいなかったのだとか。
……そもそも、男性の当主が身籠った時点でハーフサキュバスとして子供が生まれるのは確定だろうけどね。
どうやって出産したのかは、物凄く痛々しい事をした様で、そこまではよくわからないらしい。
ただ、色欲に溺れた挙句に子供を産まされた男性としての醜聞を当主は避けたくなって、産んだらすぐにリースを軟禁に近い状態にして、誰にもバレないように徹底的な緘口を敷いたそうである。
愛があるならまだしも、色欲に溺れた自業自得だという醜聞を当主は避けたかったそうだが……
「それからしばらくはずっと一人で、屋敷の中で冷遇されて軟禁されていたんだ」
そもそも醜聞をさらしたくないのなら、なぜ身籠った時と出産してすぐに消してなかったことに出来そうなチャンスがあったのに、あえて当主は手を出さなかったのか。
『流石にそこまで腐りきっていはいなかったんでしょう』
「違うな。我が子を手に書けて秘密裏に処理したというのがばれたら、それこそとんだお笑い草だからな」
アンナの意見に対し、すぐにリースは答えを述べた。
そしてそのあと数年ほどは放置されているに近い状態であったが……
「色欲のつけか、ある日事故にくそ親父は遭ったのさ」
本当に偶然の事故か、それとも当時他に敵対しようとしていた貴族によるものかは不明である。
盗賊に襲撃されて、一時捕えられていたが何とか助かったらしい。
だが、その捕えられたときに……
「その盗賊の一人が面白半分でその……男に取っては恐ろしくつらいことをしたそうだ」
「うわぁ……」
その言いにくそうなリースの表情で、カグヤは察した。
とにもかくにも、その事でソード男爵家当主は跡継ぎができないような体にされたらしい。
後を継ぐ者がいな狩れば、男爵家はその代でつぶされるはずだった。
「だけどな、あのくそ親父は……」
その頃になると相当悪い状態だったようで、自身の貴族家がつぶされるのが耐え切れなかったらしい。
そこで、唯一男の自分が生んでしまったリースを男装させて、無理やり跡継ぎの座に据えたらしい。
跡継ぎは別にこの国の法律だと男だろうと女だろうとかまわないらしい。
けれども、女だった場合た貴族のところに嫁ぐこともあり、血は繋がれども家の名がそこで途切れるのだとかいって、無駄な名前のプライドがあって男装させていたらしい。
「魂魄獣を受け取る儀式のときに、この『完全偽装の才能」を得たことでさらに男に見せるように言われたのさ。幼いがゆえに、逆らったら生きていけないような状況になるだろうし、必死でくらいついて生きてきたんだよ」
そして、ある程度育って大丈夫になったら絶対に逆襲してやろうとも考えていたそうだ。
「今は落ち目になっているとはいえ、まだまだあのくそ親父の権力の方が強い。だけれども、耐えて耐えて絶対に逆襲してざまぁとでも叫びたい。そういう思いで生きてきたんだよ」
そう言い切ると、ふぅっと息をリースは吐いた。
話を聞き終え、カグヤはどういえばいいのかわからなかった。
最初はただ喧嘩を売って来ただけの奴だとは思っていたのだが、今はもう友人である。
そんな友人の秘密を知って、どういえばいいのかカグヤははっきりとした言葉をかけられなかった。
互いに重い沈黙が流れる中、アンナがポンッと人の姿になった。
『とにかく、これで何で私がリースさんとよく仲違いが起きていたのかも分かりましたね』
「「え?」」
『私もなんというか……同じようなものですからね』
「……はぁぁぁぁぁぁっつ!?」
そのアンナの発言に、カグヤとリースは驚きの声を上げた。
聞くと、アンナも似たような存在だったらしい。
ただし、リースとは違って夫婦仲超・良好な両親から生まれていたのだとか。
そこで気が付くが、アンナの髪色は金髪だが通常の髪色よりもより美しい光沢がある。
そして、ハーフサキュバスのような存在だとしたら……リースも同種族という事になり、サキュバス同士の同族嫌悪が起きているのだとか。
そこでようやくカグヤは二人がいがみ合っていた本質を知って、納得できたのであった。
「……って、決闘場での爆発って人為的なもので狙ってきたやつだろ?どうしてリースが狙われたかまでの説明がまだできていないじゃん」
そこでふと、今回あった事件の事でまだ話されていないことがあったことにカグヤは気が付いた。
「貴族の権力争いかな。あのくそ親父は多方面からどうも恨まれるようなことを最近しでかしたようで……
その仕返しとして、狙って来たんだろう」」
「なるほど、跡継ぎを亡き者にして、ソード男爵家を終わらせてやろうとしたやつがいるのか」
先ほどまでの重い話とはうって変わって物凄く単純明快な話しであった。
「いとことか、親戚とかが男爵家の後釜を狙っているようなこととは違うんだよな?」
「それはないはずだ。何しろだいぶ落ち目になっているようだし、そこまで頭が回らないやつが多いからな。いい意味で助かるけど、悪い意味では吹き込み次第でこれから先狙ってくるかもしれないし……」
問題が山積みのようであり、リースは深いため息を吐いたのであった……
重い他家状況を聞き、ため息を漏らすカグヤたち。
こういうのは内輪もめのような状態であり、他から得に手出しができるような状況ではない。
果たして、リースのその独白にカグヤはいかなる手段を用いるのだろうか。
次回に続く!!
アンナは愛されて母親から、リースは愛されないで腐れた父親から生まれたという、ある意味対極の関係。
金と銀だけど、最初は赤と青とも考えていたりもした。




