第一話
大変長らくお待たせいたしました…!
多方面からの溺愛加速第四部、
『いや、おかしすぎるでしょう!?』スタートです!
「突然だけど」
そう話を切り出せば、向かいの席で食事を摂っていたエリアスの氷色の双眸がこちらを向く。
そんな彼に向かって意を決して口を開いた。
「誕生日プレゼントは何が欲しい?」
「ほ、本当に突然というか直球だな」
狼狽える彼に、私は詰め寄るようにして言う。
「だって、あなた尋ねてもいつもはぐらかすじゃない!」
エリアスの誕生日まで一ヶ月を切った今、あまり時間がない。
少しずつ準備は進めているものの、当の本人があまり乗り気でないのか、いつも困ったような顔をしておしまいなのだ。
(まあ、小説中の彼の描写の中に色々と書いてあったから、何となくその理由は分かっているのだけど……)
それなら尚更、妥協は許されない。だって。
「私の誕生日パーティーをあんなに盛大に開いてくれたんだもの、私が手抜きをすることは許されないわ!」
「君は本当に律儀だな」
「言っているでしょう? 私、貸し借りは嫌いなの。
……それなのに、まさかあんな……、一人だけ値段が明らかにおかしいカーテンを贈られるとは思わないじゃない!」
そう、エリアスから誕生日に贈られたものは、まだここへ来たばかりの頃、脱幽霊屋敷を図り黒カーテンを替えようとした時に目にした、豪奢な高級カーテンなのだ。
確かに見た目は可愛く目を引いたが、値段が全くもって可愛くなかったため、その場では別のカーテンを選んだのだけど。
「あの高級カーテンをあなたから贈られるとは思わなかったわ……」
そう呟き、頭を抱えた私に、エリアスが聞き捨てならない言葉を発する。
「でも気に入ってくれたんだろう? 毎日眺めているらしいじゃないか」
「!?」
誰からそんな情報が、と考える間もなくバッと後ろを振り返れば、専属侍女のララがニヤリと笑う。
(そこで有能ぶりを発揮しなくて良いのよっ)
彼女には後で言い聞かせないと、と前を向き、エリアスに向かって口を開く。
「もちろん気に入ったわ。だって、あれは私が一目惚れしたカーテンだもの」
「……認めた」
そう呟いたエリアスの言葉を聞き漏らすことなく一睨みしてから続ける。
「でも、それってずるいと思わない? 私の好きなものをララや人伝に知るなんて。
……私なんて、エリアスの好きなものなんてあまり知らないのに」
「!」
いくら前世の小説の知識があるといえど、小説中に描かれていたエリアスの情報は限られている。
(それはそうよね、彼は当て馬役の準ヒーローだもの)
限られた情報の中で、プレゼントに適した情報の記載は記憶を辿ってもなかったように思う。
そんなことを考えている間に、エリアスはクスッと笑うと……。
「知りたい?」
「……!」
そういたずらっぽく尋ねられ、一瞬息をするのを忘れてしまうけれど……。
「なんて、秘密だ」
「!?」
唇に人差し指を当て、クスクスと笑うエリアスの姿にようやく我に返る。
(っ、からかっているわね……!)
人のことを何だと思っているのかしら! と腹が立った私は、ふんっとそっぽを向いて言った。
「よく分かったわ。あなたのお望み通り、この際適当に決めてしまいましょう。
それで良いのよね? エリアス」
「て、適当……」
もちろんそんなワケにはいかないけれど、人が真剣に悩んでいる時に笑った罰よ、とそっぽを向いたままでいると、さすがに私が怒ったと思ったのか、エリアスが慌てたように言った。
「ご、ごめん、からかいすぎた」
「……」
「謝る。……だが、実際適当でも何でも良いのかもしれない」
「えっ?」
無視していたのに、思いがけない言葉に反射的に視線をエリアスに戻してしまう。
そして、私と目が合った瞬間、氷公爵の異名はどこへやら、まるで雪解けに咲く花のような笑みを湛えて言葉を紡いだ。
「君からもらえるものならば、何でも嬉しいと思う」
「なっ……!?」
思いも寄らない言葉に思考が停止しかけたものの、何とか言葉を飲み込んだ私は、勢いよく席を立って口にした。
「何でも良いワケにいかないから困っているのでしょう!?」
「っ、ははは」
エリアスは耐えきれないというように声を上げて笑う。
そんな姿にまた見惚れそうになってしまう自分を叱咤して声を上げた。
「とにかく! エリアスがどうしても自分自身で見つけられないというのなら、一緒に探してあげるわ」
「え?」
「忙しいだろうけど、一日時間をちょうだい。その一日で何とかするから」
「それって……」
戸惑ったように彼がその先を口にするよりも前に、席を立った私は彼に歩み寄る。そして。
「街へ出かけるわよ」
「……つまり、デート……」
そんなエリアスの呟きには聞こえぬフリをして、踵を返して告げる。
「忙しくて時間を作れないというのなら、プレゼント、一人で勝手に決めてしまうから」
「ま、待ってくれ! それなら明日、必ず一日空けるから!」
またしても彼の口から飛び出た驚きの言葉に突っ込まざるを得ず、振り返って言う。
「いくら何でも明日なんて無理でしょう?」
ほら、エリアスの後ろに控えているカミーユも高速で首を横に振っているし。
だというのに、エリアスもまた必死な様子で訴えた。
「いや! 大丈夫だ、明日の分は今日と明後日で何とかするから」
そう言って、まるで子犬のような瞳で訴える彼を見て怒りの感情はどこかへ消える。
代わりに、自然と笑みが溢れた。
「ふふ、無理はしないでね?」
「!」
さすがにそこまで私も鬼……、いや、悪女ではないわと笑ってしまいながら、その場を後にする。
そして、後ろからついてくるララに向かって振り返ることなく言った。
「そういうわけだから、ララ、明日はきっと無理でしょうけど、街へお忍びへ行く洋服選びを一緒に手伝ってくれる?」
そんな私の言葉に、ララは顔を見ずとも分かる機嫌の良さで、元気よく答えた。
「はい、お任せください!」
本日より毎週金曜日、20時の投稿を予定しております。
読み返しながら一つ一つ物語を綴りたいため、お時間を頂戴してしまうこと、それから、書きたいことが多く第四部で収まらないかもしれない…と思い始めておりますが、完結するまで執筆いたしますので、引き続きアリスとエリアスの物語にお付き合いいただけましたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。




