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【書籍第一巻】愛されない悪役令嬢に転生したので開き直って役に徹したら、何故だか溺愛が始まりました。【コミックス全二巻】  作者: 心音瑠璃
おかしいどころでは済まされないのでは

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第三十話

「へぇ! アリス様は親切な方の元へいらっしゃったのですね!」


 ララの言葉に頷き、久しぶりのワインを味わう。

 今夜は無礼講だと、エリアスは立食形式の晩餐会を開いた。

 普段なら絶対にしない、侍従達と一緒に食事をするというエリアスの計らいは、私のためであることを知っているから、もちろん私も皆と久しぶりに話をしながらゆっくりと時を過ごしていた。

 そして、ララから開口一番に尋ねられたのは、私がこの一ヶ月どこにいたのかということ。


(そうよね、公爵家であるエリアスが国中をくまなく探して見つからないと言っていたんだもの、私がどこにいるか気になるわよね)


 ましてや、元凶である実家に帰るなんてことも出来ないものね、と苦笑いしながら答えた。


「そうなの。その人は命の恩人でね。とても大切な方なの」


 神様だってことは言えないけれど、これくらい言っても良いわよねと口にすると、ララはじっと私を見つめて言った。


「ま、まさかその方は男性ですか!?」


 ララの言葉に、私は慌てて首を横に振る。


「そ、その心配はないわよ!? 本当に命の恩人なだけであって、エリアスもきちんとお会いしているから」

「その通りだ」

「「「!?」」」


 不意に背後からエリアスが現れ、私の頭に手を乗せる。

 驚き見上げれば、拗ねたように口を開くエリアスの姿があって。


「アリスは俺のだ。彼女が他に目を向けるなんてことはない」

「!?」


 な、何言っているのこの人! と慌てる私をよそに、ララを含めた侍女達がきゃっと短く黄色い声を上げる。

 エリアスはそれだけ言って、私を黙って甘やかな色を湛えて見つめると、カミーユの元へと歩いて行ってしまう。

 その姿を目で追っていると、ララが口にした。


「……そうですよね、余計なことを言ってしまいました。申し訳ございません」

「あ、謝ることではないわ。私も、一ヶ月も姿を眩ましたんだもの、本当だったら許されないことだと自分でも思うの」


 そこで一度言葉を切り、グラスに目を落としながら続けた。


「確かにこの一ヶ月、自分の好きなことが出来た。

 それはとても気楽で、何も考えずにただ時の流れに身を任せられて。……このままここにいた方が楽になれるし、私の願いも叶えられる。そう、思っていたのだけど」


 今度はララや侍女の顔に目を向けると、小さく笑って言った。


「同時に、エリアスやララ、皆がいないことを寂しく思った。自分から屋敷を飛び出したというのに、いつだって皆の顔が思い浮かんで……、皆が許してくれるのなら、私は戻りたいと思った」

「……アリス様」

「迷惑をかけて、我儘を言ってごめんなさい。これからは絶対にいなくなったりしないから。

 ……これからも、ここに居させてもらえたら嬉しい」

「……何を、言っているんですか」

「え?」


 ララが不意に私に近付く。

 刹那、私の首に抱きついてきた。


「!? ラ、ララ!?」

「私は、アリス様がいらっしゃらなくて、寂しかったんですぅ!!

 私のご主人様は、アリス様なんですからぁ!!」

「ラ、ララ、奥様に失礼よ」

「申し訳ございません、奥様! 今酔っ払っていて、大分おかしくなっていますけど、本当に奥様のことを心配していたので……」


 オロオロと侍女仲間が酔っ払って泣き上戸になっているララを、私から引き剥がそうとする。

 それを制すると、そんなララの背中をそっと叩いて口を開いた。


「私は幸せ者ね。大丈夫、もう絶対にいなくなったりしないから」

「っ、ほ、本当に?」

「えぇ、誓うわ」


 私が頷くと、ララが顔をあげ私を見る。

 そんなララの涙をそっと拭いながら、私はもう一度笑みを浮かべてみせたのだった。





 晩餐会も終わりに近付いた頃、私はエリアスを追ってバルコニーへと出た。

 エリアスは私に気付くと、着ていた上着を私の肩にそっと掛けてくれる。


「ありがとう」


 礼を述べると、エリアスはじっと私を見つめた。

 その視線がどこか甘やかで、落ち着かない気持ちになり慌てて尋ねる。


「な、何かついている?」

「いや。……改めて、君が戻ってきてくれて本当に良かったと」

「……っ」


 エリアスの切実な声音に、息を呑んでしまう。

 彼は笑って言った。


「もちろん俺もそうだが、この屋敷を来て早々大改造して活気づけてくれたのは、他でもない君だ。……覚えているだろう?」

「「“幽霊屋敷”」」


 続く予想していた言葉を重ねるように口にすれば、彼は笑う。

 そして、後ろを振り返り、部屋の中の賑やかな声の方を見やりながら言葉を続ける。


「君が来なければ、きっとこんな風に皆の心からの笑みが見られることはなかっただろう。

 ……俺は、自分だけがずっと不幸だと思っていた。それを知らず知らずのうちに、周りにも不快な思いをさせていた」

「それは違うと思うわ」

「!」


 私はエリアスの頬に手を添えると、氷色の瞳を私に向かせて言葉を紡いだ。


「ララもクレールも、カミーユも。貴方に仕えているこの屋敷にいる全員が、貴方のことを想っている。

 それは貴方のことを主人として認め、同時に貴方の幸せを祈っているから。

 でなかったら、“幽霊屋敷”という噂をたとえ知らずとも、雰囲気が悪いからととっくに逃げ出していると思うわ」

「っ」


 エリアスが小さく吹き出す。それを見て、思わずムッとした。


「真面目に話しているんだけど?」

「いや、君の言う通りだと思って。……だからこそ、そう言う風に言ってくれる君が戻ってきてくれたことが、俺も皆も嬉しいんだ」

 ありがとう。

 そう言って優しく発せられた礼に、不意に泣きたくなる。


(私がたとえ、“アリス・フリュデン”でなくても、関係ない)


 そうか、フリュデン侯爵という肩書きよりも、他でもないただの私を見てくれている。

 だからこそ、私を必要としてくれているのね。


(それなら、私は)


「……エリアス」


 そう彼の名を呼んでから、私は瞳に滲んだ涙をそっと拭うと、笑みを浮かべて言った。


「もう一つ、お願いしたいことがあるの」






 翌日。

 私とエリアスは馬車に揺られ、向かった先は。


「……本当に、ここに来るのも久しぶりね」


 まさか、もう一度足を踏み締めるとは思わなかったけれど。


「大丈夫か?」


 エリアスはそう言って、私に向かって手を差し伸べてくれる。

 その手を取りながら、私は答えた。


「えぇ、大丈夫。貴方が、居てくれるから」


 そう口にすると、エリアスは繋いだ手にそっと力を込め、ゆっくりと……、フリュデン家の屋敷に向かって足を踏み出した。

 久しぶりに訪れたフリュデンの屋敷は、何だかいつもと違って見える。

 その違和感の正体は、仕えている侍従達の数が私が居た頃に比べて減っている上、顔ぶれも見たことのない人ばかりで。

 少し戸惑いつつも、案内された部屋へと向かうと。


「アリス……!」


 応接室には、フリュデン侯爵と兄……クルト様の姿があった。

 その姿を見て思わず固まってしまう私の背中を、エリアスそっと押してくれる。

 意を決して部屋の中へ入ると、淑女の礼をして口を開いた。


「ご無沙汰しております」

「遠路はるばる、よく来てくれた。疲れただろう、椅子にかけると良い。今すぐお茶を用意させるから」


 その優しくこちらを労わるような言葉に少し驚いてしまう。


(怒られると思ったのに)


 この一ヶ月、居なくなっていたことは知っているだろうから、と思いながらも、言われた通り彼らの前に座る。

 そして、もう一つ気が付いた。


(お二人とも、痩せた?)


 というか、疲労の色が顔に色濃く出ている。

 どうして、と思っていると、侍女によって用意されたお茶を置かれ、その侍女が外へ出たのを確認した途端、彼らは一言口にした。


「「すまなかった!」」

「!?」


 まさか頭を下げられるとは思ってもみなくて。

 驚く私に、侯爵は続ける。


「私はずっと、アリスが私達の本当の娘ではないということを口にするのを避けていたんだ。

 間違いなく、傷付けることになるからと」

「それは、世間体を気にして、ではないのですか?」

「断じて違う!!」


 その剣幕に思わず驚くと、それに気付いた侯爵様がハッとしたように慌ててもう一度謝罪を口にしてから続けた。


「……こんなことを言っても言い訳に聞こえるかもしれないが、聞いてほしい。

 私達は、お前のことを間違いなく愛していた。

 だが、母親がいなくなってから、女の子の育て方も分からなかった私は、どう接すれば良いのか分からなくて……、全て侍女に任せていた結果、侍女達に誰一人お前の味方がいなかったと気付いたのは、お前が嫁いで行ってからだった」

「え……」


 初めて聞くその言葉の数々に、驚く私にクルト様が力なく笑って言った。


「母上は、病弱で身体が弱かった。本当は私の他にもう一人女の子が欲しいと願っていたのは、誰よりも母上だった。

 そんな母上が庭先に女の子がいたと……、まだ小さく布に包められた宛ら天使のように愛らしいその子が、他でもない君だったんだ」

「もちろん、私の妻が病弱であり子供を授かるのが難しいことは、皆が知っている。

 だからこそ、お前が大きくなった時、誰かから『本当の子ではない』と指摘され、揶揄されることを庇うために……、誰の目にも触れさせないよう、デビュタント以外の……、極力社交の場に出ずとも良いように育てたのは、私の責任だ。

 そのせいでお前が孤独を抱え、逆に寂しい思いをさせてしまった……」


 知らなかった。

 そんなの、私は知らない。

 私は、ギュッと拳を握ると、口を開く。


「……窓の外を見ていたんです。いつも、一人で。

 遠くで花火が上がるのを、毎年一人で眺めていた……」

「「……っ」」


 その言葉に、二人が息を呑み、隣に座るエリアスが私の手をギュッと握ってくれる。


(思い出すのは、いつもそれくらい。毎日退屈で、つまらなくて空虚で)


「いつだって私は独りぼっち。寂しいなんて常に思っていたし、それを周りに八つ当たりしてしまうこともしょっちゅうあって。

 だからこそ、侍従達とは上手くいかないし、侯爵様達に振り向いてもらえないのだと、そう思っていました」


(そうか、私)


 私は確かに、“アリス”として生きていたんだわ……。

 ストンと、腑に落ちた。

 今までのこと、全てに。


(それなら、私がすべきことは)


 一度目を閉じて、ゆっくりと目を開けると、言葉を紡いだ。


「今日ここへ来たのは、私の話を聞いて欲しかったからです」


 一ヶ月。整理をつけたこの気持ちにケリをつけるために。

 思っていたことを口にする。


「先程のお二人のお話を聞いても、傷付いた私の心が癒えることはありません」

「「っ」」

「ですが、お話を聞くことが出来て良かったとは思います。……私が魔法を使えなかったということは、血の繋がりがなかったから当然だということも腑に落ちましたし。

 それに、私を“アリス・フリュデン”としてでなく、ただの“私”として必要としてくれる方が、今こうして隣に、それから他にもいてくれるから前を向くことが出来た。

 ……それは、私を拾って名付けてくれた亡き夫人と、育ててくれた侯爵様とクルト様のお陰です。ありがとうございます。……それから」


 私は意を決して、ゆっくりと口を開いた。


「もしよろしければ、以前のように、お父様とお兄様、とお呼びしてもよろしいでしょうか」

「「!?」」

「もちろん、お嫌でしたら断ってくださって構いませ」

「嫌なわけがない!!」


 侯爵様の必死すぎる声に、私は思わず小さく笑う。

 そして、頷いた。


「多分、時間はかかってしまうと思いますが。

 これからも、どうぞよろしくお願いします。お父様、お兄様」


 その言葉に頷いた二人の目には、涙が光っていたのだった。

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