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【書籍第一巻】愛されない悪役令嬢に転生したので開き直って役に徹したら、何故だか溺愛が始まりました。【コミックス全二巻】  作者: 心音瑠璃
おかしいどころでは済まされないのでは

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第二十四話

「アリスは、元気なのか」


 その言葉に、ソールは笑みを浮かべたまま固まった……が、目の前にいるエリアスから発せられた言葉を飲み込むと、笑みを消し、地を這うような声音で尋ねた。


「なぜお前に、そんなことを教えなきゃなんねぇ」

「知りたいからだ。アリスがどうしているのか。無事なのか。

 ……貴方の元で、穏やかに過ごせているのか」

「黙れ」

「!?」


 刹那、ソールが一気に距離を詰め、エリアスの胸倉を掴む。

 驚き目を瞠るエリアスに対し、ソールが言った。


「どの口があいつの心配をしてるんだ! お前のせいであいつは……あいつが、どれだけ苦しめられたと……っ」

「!」


 エリアスは思わず息を呑む。

 それは、目の前の男……ソールの瞳から涙がこぼれ落ちたからだ。

 その目元を拭いもせず、ソールは言う。


「何も知らねぇ、覚えてねぇくせに! あいつを苦しめた元凶のくせに、自分だけ被害者ぶって責任から逃れて後悔したっておせぇんだよ!!

 ……あいつがいなくなって、初めてその大切さに気付くお前なんかに、あいつは絶対渡さねぇ。

 幸せにしてやれるのは、お前なんかじゃなくこの俺だ」

「……っ」


 エリアスには、ソールが何を言っているのか分からなかった。

 だが、ソールの言葉を、涙する彼を見ていたら、胸が急激に締め付けられる衝動に襲われる。

 どうしてこんなに泣きたい気持ちになるのか、苦しいのか、痛いのか分からない。

 だけど。


「……俺は、アリスに幸せになってほしいんだ」

「……は?」


 胸倉を掴むソールの手が緩んだタイミングで、エリアスはその手を外し、いけばなの道具が置かれている机に向かう。

 そして、それを一瞥してから机の引き出しを開け始めた。

 それを呆気に取られて見るソールに対し、エリアスは何かを探しながら口を開く。


「俺は、彼女に何もしてあげられていない。

 彼女を励ますことも、上手い言葉の一つだって言えない。

 自分の気持ちを素直に口にすることだって、彼女から学んだくらいだ」


 エリアスは、次の引き出しを開けながら言葉を続ける。


「俺は、彼女に救われてばかりだ。

 ……情けないことに、彼女といたいと思っても、そんな彼女に相応しい男が俺だとも思えていない」

「っ、なら」

「だが」


 エリアスは引き出しから何かを取り出し、それを手にソールの元へ向かって歩み寄る。

 そして、ソールにそれを差し出しながら言った。


「彼女を……アリスを、他の誰にも渡したくない。たとえ貴方が神であろうと、この気持ちは譲れない」

「!」


 エリアスの手に握られていたのは、いけばなには欠かせない花鋏(はなばさみ)だった。

 そこで初めて、ソールが天界へ持っていくために準備したいけばなの道具の中に必要な、その花鋏だけが無かったことに気が付く。

 それに目を瞬かせているソールに、エリアスは真っ直ぐと告げた。


「アリスを、宜しくお願いします」


 その芯の強い眼差しに、ソールは舌打ちをし、エリアスの手から花鋏をひったくるように受け取る。

 そして、エリアスを睨みつけながら吐き捨てた。


「だからお前が嫌いなんだよ」


 そう呟いた刹那、ソールの姿はなかった。

 そして、机の上に置かれていたはずのいけばなの道具もなく、エリアスだけが一人部屋に取り残される。


「……宜しくお願いします、か」


 一人そう呟き、半分の月を見上げる。

 アリスが幸せなら、それで良い。

 だが、違う男といると思うと胸が騒つき苛立ってしまう自分は矛盾していると、鼻で笑う。


(アリス)


 彼女は今、何をしているだろうか。

 笑えているだろうか。

 自分のいないところで……、幸せになっているのだろうか。


「……っ」


 エリアスには、あの神の元にいるのであろう彼女の幸せを祈ることしか出来なかったのだった。






 月夜から一転、眩しいほどに明るい空の下に降り立ったソールは、コンコンと目の前にある扉をノックする。

 そしてガチャッとその扉を開ければ、ふわりと花の香りが鼻を掠めた。

 その部屋の床に座り込んでいる彼女……長い髪が花のように広がっている光景を見て、ふっと肩の力が抜ける。


「何やってるんだよ」


 そう口にして彼女の元へ向かうと、彼女もまたその声に顔を上げ、笑みを浮かべて言った。


「ソール、お帰りなさい。今花冠を作っていたところで……って、その荷物量は何!?」


 気を遣って部屋の中にいけばなの道具だけ転移させたというのに、気が付いていなかったらしい。

 ソールは少々膨れながら答える。


「何って道具、持ってきてやったんだよ」

「道具……、いけばなの!?」


 そう驚いて立ち上がる彼女の周りを、妖精達が飛びながら口々に言う。


「わー! ソールやさしい〜!」

「ソール、アリスのためならなんでもするね〜!」

「うるせぇ!!」


 ソールの声に、きゃーっと妖精達は笑って飛び回る。

 そうしてガシガシと頭をかいたソールは、ふと彼女の黄緑色の双眸がこちらを向いていることに気が付く。


「……なんだよ」


 じっと見られていることに居心地の悪さを感じながら、それを隠すように敢えて不貞腐れた態度を取るソールに近付き、アリスは顔を覗き込むように首を傾げた。


「何かあった?」

「……!」


 その言葉に思わず息を呑むソールに対し、アリスは続けて声をかける。


「何だか元気がないように見えるけれど」


(……あぁ、やっぱりこいつには敵わねぇ)


 昔からそうだった。

 アリスは、ずっと……、会った時から変わらない。

 人のことばかり優先するお人好しで、良い子ちゃんすぎるその性格は、本来ソールにとって苛立つ存在なはずなのに。


「ソール?」


 アリスが首を傾げる。

 そんな彼女の頭を軽く小突きながら口を開いた。


「何でもねぇよ。お前に心配されるようになったらおしまいだな」

「はぁ!? 何よそれ!?」

「そんなことより、いけばな、やったらどうだ。好きなんだろ?」


 そう促せば、彼女は先程の怒りはどこへやら、いけばなの道具に視線を移した瞬間、その瞳を輝かせる。

 その顔が見たくて彼女のために動いていると知ったら、アリスはどう思うんだろうか。


(ま、死んでも言わねぇけど)


 そんなことを考えるソールに対し、アリスは顔を上げると満面の笑みを浮かべて言った。


「ありがとう、ソール!」


 そう告げた彼女を見て、ソールは目を細める。


(後、もう少しだけ)


 彼女を独り占め出来るこの時間が続けば良い。

 いずれ離れていく彼女と居られるこの時間が何より尊く、ずっと……ずっと前から願っていたことだから。


「……俺が力を分け与えたいと思うのは、お前だけだ」


 そう呟いた彼の言葉に、アリスは顔を上げて尋ねる。


「ソール、何か言った?」


 そんな彼女に向かって、ソールは笑みを溢して答えた。


「何でもねぇよ」


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