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修道院長が来た

 舞踏会の前に学院の中間試験が行われ、その前の一週間はテスト勉強のために講義は休講となる。

 ルシアナは王都の屋敷に戻っていた。

 本当はシアとしてバルシファルのいる学院に残りたかったのだが、冒険者ギルドから依頼があったのだ。


 ルシアナの作った美白クリームの噂が彼女の想定以上に広がりを見せていた。

 既に、貴族だけでなく王族の耳にも入った。

 そのため、薬師ギルドがシアに特別な美白クリームの調合をお願いしたいと言った。

 だが、一つ問題が起きた。

 それがシアの所属だ。

 シアは冒険者ギルドの所属であり、これまでポーションの作成も冒険者ギルドで行っていた。

 ここで薬師ギルドがシアに調合の依頼をすれば、それは冒険者ギルドの面子を潰すことになる。

 かといって、薬師ギルドに依頼してきたのは高位の貴族や王族だ。無下に断ることもできない。

 結果、冒険者ギルドが間に入る事になった。

 ルークには世話になっているので断り切れず、ルシアナは公爵邸に帰った。

 

 午後から冒険者ギルドに行く。

 午前中は悪役令嬢としてマリアを虐めるフリをする。

 マリアが用意した多数のシチュエーションの中から、その場に合ったものを選ぶ。


「ふふっ、マリアには頭が上がりませんね。まさかこんなに資料を用意してくれるとは」


 マリアが用意した悪役令嬢の言いそうな台詞、シチュエーションでの言動の数は目が見張るものがあった。

 ルシアナのお小遣いで悪役令嬢が登場する恋愛物語を色々と買った効果があった。

 その中から、周囲にできるだけ迷惑を掛けず、物を壊さず、できるだけルシアナの評判を下げる方法を選択することにする。


「さて、今日は――」


 そう呟いたとき、扉がノックされた。

 このノックの音はマリアだと即座に理解する。


「お嬢様にお会いしたいとお客様がいらっしゃっています」


 今日、誰かと会う予定はなかったはずだ。

 大貴族や大事な人物だったら名前を伝えるように教育している。

 ということは、訪れた客はアポも無く訪れた下級貴族、もしくは平民ということになる。

 そしてもう一つ。

 扉の外からマリアとは異なる人の気配を感じる。

 まさか、客がここまで入って来るとは思えない。

(なるほど、そういうことですね。さすがマリアです)


 ここは悪役令嬢らしくマリアに激しく怒鳴りつけて、悪役令嬢ポイントを稼げ。

 そういうことなのですね。

 ルシアナは気合いを入れた。


「聞いていませんわ! 私はシャルド殿下の婚約者で未来の皇太子妃であるルシアナ・マクラスですわよ。その私の貴重な時間を奪うだなんて、例え誰であっても許されるわけがありませ――」


 ルシアナは大きな声を上げながら扉を開け、マリアの隣にいる女性を見た。

 そこにいたのはメイドではない。

 修道服を着た老婆だった。


「ん……わ」


 なんとか最後まで言い切ったルシアナだったが、その表情は青ざめている。

 その修道女はルシアナを見るなり、愉快そうに微笑んだ。


「やれやれ、どんなお嬢様かと思ったら随分と元気な跳ねっ返りじゃないか」 


 そう言って彼女は年季の入った皺を歪ませるように口角を上げて笑う。

 その笑い方は、まさにルシアナの記憶の中にある彼女そのものだった。


(どうして修道院長がここにっ!?)


 彼女の名前はゼニス。

 ファインロード修道院の修道院長だった。

 今すぐ土下座をして謝りたい気持ちになり膝が僅かに落ちたが、持ちこたえる。

 ルシアナとゼニスは初対面だ。

 ここで変な行動をするわけにはいかない。


「マ……マリア。こちらはどなた?」

「ファインロード修道院の院長、ゼニス様です」

「そう、ファインロード修道院の……」


 ルシアナはまだ公爵家を追放されていないので修道院送りにもなっていないが、現時点で全く無関係というわけではない。

 ルシアナが用意したシアという架空の人物のプロフィールは、ファインロード修道院の修道女だった。

 そして、誰かがシアの出自を怪しみ、調査に乗り出したときのためにルシアナは父、アーノルに頼み、多額の寄付をすることで口裏合わせをお願いしている。

 元々、屋敷の外でお忍びで出掛けるときは修道服を着るようにと言ったのはアーノルだ。

 アーノルは二つ返事で了承してくれた。


「その辺境の修道院長がどのような御用でしょうか?」

「なに、王都の教会にちょっと用事があってね。それを済ませたついでに寄らせてもらったのさ」

「ゼニス様、お嬢様に対してその口の利き方はおやめください」

「それは失礼したね。私は田舎のしがない修道院長だから、貴族との口の利き方を知らないのさ」


 マリアが注意するも、ゼニスは笑って躱す。

 ルシアナは頭を抱えたくなる。

 実際、彼女はスピカ男爵と話したときも一切敬語を使わなかった。

 ここでマリアが何を言っても彼女が敬語を使うことはないだろう。


「お嬢様。あんたには礼を言いたかったんだよ。理由はどうあれ、公爵家からの寄付のお陰でうちもだいぶ助かったからね」

「お礼は結構です。あなたに感謝されるためにしたことではありません。私はしたいことをしただけです。要件はそれだけでしょうか? 私はこの後用事があるのでもうお帰りください」


 これ以上話したら、なにかしらのボロが出るかもしれないとルシアナは気が気ではなかった。


「乗合馬車の時間があったんだ。じゃあ、お暇させてもらうよ」 


 そう言ってゼニスは帰っていく。

 本当に挨拶に来ただけなのだろうかとルシアナは少し拍子抜けした。

 でも、あの飄々とした態度もゼニスらしいとどこか懐かしく思う。


 いつか公爵家を追放されたら、ちゃんと挨拶に行って今日のことを詫びよう。


(さっきまで早く帰って欲しいと思っていたのに、いまは次に会える日のことを楽しみにしているなんて我儘ですね)


 まるで悪役令嬢のようだとルシアナは笑った。


「マリア、少し出掛けます」

「まだ冒険者ギルドに行くには少し早いのでは?」

「トーマスさんと食事に行くことにしてるんです。ファル様に教えていただいたお店に連れて行こうかと」

「かしこまりました。お気を付けて」


 ルシアナは修道服に着替え、そっと屋敷を抜け出して裏口に向かった。

 約束通り、トーマスが待っていた。


「トーマスさん、お待たせしました。では、参りま……」


 ルシアナはそう言って固まった。

 何故なら、トーマスの横にゼニスがいたからだ。


「おやおや、立派に化けたもんだね、お嬢様」


 彼女はルシアナを見て愉快そうに微笑む。


(また会いたいって思いましたが、早すぎますよ!)


 ルシアナは心の中で大声で叫ぶのだった。

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― 新着の感想 ―
ゼニスは一体どこまで知ってるのか、気になっていたお話がやっと読めます!
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