#63 むせ返る黒炎①
お久しぶりですね。ある程度落ち着いたので投稿……
「……燃ぉーえろよ燃えろぉーよー…」
コツリ、コツリと、硬い足音が反響する。
「炎よ燃ぉーえーろー……」
ピタリと、十字架の前で足音の主は歩みを止める。
「火ぃーの粉を巻き上ぁーげぇー……」
「……………!………!?」
十字架に縛られ、目隠しされ、もがく一人のプレイヤー。
「……てぇーんまで…」
「…………………!?!?!?!?」
制裁を加えんとばかりに、男は手を振り下ろした。
「届けぇぇぇぇぇ!!!」
「…………!!!!!!!」
縛られたプレイヤーと共に、十字架は紅蓮の炎に焼かれた。
「さぁさぁ復習を!果たしに!舞い戻って来いよぉ!!!もっと俺を!ヒリヒリさせろぉぉぉぉ!!!!」
狂気の、沙汰。
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「…おっと?」
グラリと揺らいだ地面に足を取られ、スグルはついその場に膝をついた。
「スグル、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。ちょっとバランスが取れなかっただけだから」
ヴェルの手を借り、膝の土埃をはたきおとす。もう頂上がそこまで見えており、徐々に緊張感が増していった。
「…ストップだ、スグル殿………いや、遅かったかな」
ハクアさんの制止より早く、周りをモンスターに囲まれた。流石は活火山といった所か、定番のフレアウルファングに加えて赤泥しいスライム、大型犬くらいはあるリトルドラゴンが出てきた。
『ひのふのみの……結構いるな』
「下がってくれスグル殿、この数は少し分が悪い。煙幕を焚いて逃げるしか……」
「いや、特に問題無いですよハクアさん」
そう言って俺は二丁拳銃を装着した。同時に、ノヴァは重力操作を開始する。
「さぁて、久々の対多数なんだ。かるーくご挨拶ってな!拡散壁!」
『だからこれ疲れるんだっての!』
四方八方に撃ち出した弾丸が、周囲のモンスターの弱点に向けて放たれた。【鷹の目】と【料理人】は本当に規格外な組み合わせだと思う。まぁ【鷹の目】はハズレスキルと言われているから、使いこなす人が少ないだけだと思うが。
「……ウチも負けてられないねっ!キュウ!」
ヴェルの言葉に応え、スカーフは手足へと乗り憑る。成獣化していないのはサポートに徹するためらしいが、ともかく俺と同じく弱点が見えているヴェルはその箇所を的確に突き、体内から粉砕していった。
「恐ろしく強いな、二人は」
「いやぁ、俺なんてまだまだ……相手が弱いだけですよ」
「言うだけのことはあるか」
瞬殺されていく仲間を見て、モンスターは我先に逃げ出す。こちらも、目的が違うので逃げるモンスターは追わない事にした。その間に、キョウカさんは回復をかける。
『落ち着いた雰囲気のところ悪いけど、もっと最悪な事になったぜ』
「ん?どういう……」
視界の端から何かが飛び込んだ刹那、辺りは真っ白な煙で包まれた。これは一度見たから知っている、ハクアさんの使っていた煙幕弾だ。
「フンフフン、フンフフン……とぅーるっとぅるー………」
「な、何が起こっているんだ!?」
煙幕と共に聞こえる、音程の外れた鼻歌。そして、首筋の裏に強烈な一打が加えられた。
「がっ……!」
「さぁーてさてさて、有能お姫様は攫っちゃおうねぇー」
「きゃあ!?」
「ヴェル殿!?スグル殿!?大丈夫か!…っぐ!」
見えない視界、朦朧とする意識、ヴェルの悲鳴とハクアさんの声。次に目を覚ました時には、ハクアさんと一緒に地面へと転がされていた。
「………何が…起こって……そうだ、ヴェル!どこだ、ヴェル!」
『…いねえよ』
「……なんだと?」
痛む体を無理矢理動かし、ハクアさんを起こす。唯一被害を受けなかったノヴァに、起こった事を聞いた。
『……モンスターに囲まれたあと、落ち着いたと思った俺は周囲の警戒を一瞬だけ解いた…その隙を突かれて、前みたいな………金縛りを受けたんだ』
前みたいな、とはイベントの時の事だろう。おそらく、術者は〈テイマー〉だ。
『煙幕の奇襲を受けたあとは、感じた通りだ。スグルとハクアは術者に気絶させられ、ヴェルは……』
「……攫われた」
『あぁ……そして、アイツは俺に言ったんだ…「俺を殺してみろ。上で待ってるよ、主人公」…ってな』
話を聞いていた俺の隣から、段々と殺気が膨らんでいった。怖くて見れなかったが、ハクアさんはきっと険しい顔をしていたんだろう。
「………すまない、スグル殿。君を巻き込んでしまった」
「……どうしたんですか、突然」
「結晶竜を仕留める話だったが、ここまでだ。ここからは、私の………私怨の問題だ。ヴェル殿は、私が責任を持って取り戻す」
どうやらハクアさんは、自分のせいだと思っているようだ。だけど、そんなのはまちがっている。
「ここから先は私の、私だけの話だ。スグル殿は街で待っていてくれ」
「………」
「今日中に、ヴェル殿を送り届けよう」
「……何を言っているんですか」
自分のせい?自分の失敗?巻き込んでしまった?馬鹿言ってんじゃねぇよ。
「俺は、俺の意思でここにいるんです。ヴェルも、自分の意思でここに来てくれた。それだけで、十分理由としては成り立つんですよ」
「……スグル殿?」
ビシリとハクアさんを指差し、失礼とは承知で、言う。
「関わっちまったら、それはもう他人じゃねぇ」
「……!」
「生意気言ってすみません。でも、俺は街で、店でただ待ってるってのは出来ないんです。それに…」
視線を落とし、俺は手の甲に付けられた刻印を見た。淡く光るそれに意識を向ければ、ヴェルの居場所はなんとなくわかる。
「…俺はヴェルを、任されましたから」
ヴェルの……父親に、母親に、師匠に。
「……そうか。なら、共に行こう」
そうして、スグルはヴェルを追いかけた。
「……完全に空気だよね、私」
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「………んぅ…」
「やぁ、おはよう」
目覚めたヴェルは、まず自分の目を疑った。
「……………っ」
「恐怖より、驚愕が勝ったかな?どうだい、溶岩湖の上は?やっぱり暑い?」
宙に浮かぶ身体、十字架に拘束された手足、そして何より『感覚の無い左手』だった。
「ふふふっ……気になる?気になるよねぇ?俺も気になってたんだぁ」
懐から、独特な魔法陣が書いてある手首を取り出す。遠目だけど、淡く光を放っていた。
「本当はさ、主人公が来るまでにお姫様にはズタボロになって欲しかったんだけど……」
瞬間、ヴェルの頬を何かが浅く切り裂く。しかし、血が流れる間も無く傷は塞がった。
「こんな傷じゃあ、なんでか塞がるんだよ。だから色々と『切り取らせて』もらった」
その時初めて、ヴェルは自分の身体中の『違和感』を理解する。理解、してしまった。
右腕、左足、腹部、そして左手。それらが一部を除き、それぞれ十字架に、あるべき場所に、釘で打ち付けられている。
「あと、それからコイツ……まぁ、大した事無いから縛り上げてるんだけどね。あ、助けてとか念を送っても無駄だよ?この紐は魔法とスキルを封じる効果があるから」
キュウは正体を暴かれたのだろう。言われている通り、紐状の拘束具をつけられている。
「こんな、ものっ!【有利得瑠】!」
自分の周囲に白い結界を展開させ、手足や切られた部分を治す。釘を消し、足場を作り上げ、対峙している人物の後ろに飛んで回り込んだ。
「流石だね。まぁ、これくらいはやってもらわないと」
くるりと、回れ右をしたそいつは、その時初めて自分の名を名乗った。
「俺は『エンゴク』……漢字で書くなら炎の黒だね。さぁ、俺をヒリヒリさせてみろよ……第六六六代魔王〈ヴェルタニア・ル・シル・サタン〉!」
「っ……!」
ヴェルは驚愕しながらも、キュウを助けるため、エンゴクの懐に飛び込んだ。
……そして思いつかない続き。またかなり開きそうです。他作品は更新されてますので、そちらもお願いします。作者ページからどうぞ。




