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VRMMO始めました。  作者: 星野すばる(旧:★すばる★)
第四章 竜使い達の死乱舞/ドラゴニクス・デスワルツ
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#62 豪焔の結晶竜

「…あぁ、来た来た。遅いぞスグル殿……と、キョウカ君?どうしたんだい」

「いや、そこでバッタリ会ってさ。誘ったんだよ……あ、確認取れば良かったかな」

「いや、私は構わない。人数が多い方が、獲物を狩り立てるのに苦労しなくてすむ」

「…よろしく、お願いします」


 スグルの後ろで、キョウカはぺこりと頭を下げる。

 ちなみに、服装は戦闘用に変わっている。白を基調とした可愛らしい格好だ。


「あの、それで……今日は何を狩りに行くんですか?」

「あぁ、それはもちろん(ドラゴ)……」


 竜使い(ドラゴニクス)と言いかけて、慌てて口を閉じた。

 いくらジュンさんに言われたとはいえ、UKの手伝いをさせるわけにはいかない。


「ドラ?」

「……ど、ドラゴンだ!それも、かなり強い奴でなぁ!人手と戦力が欲しかったんだよ!あは、あははは!」

「お、おぅ…」

「さ、さぁ行こうか!時間は有限なんだよ、もったいないなぁ!」


 転移結晶に触れ、四人と二匹は何処かに飛んだ。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 〈テイマー〉

 獣使いと称される、CDO(クリスタルドラゴンオンライン)の職業の一つである。

 特殊な職業スキル【調教(テイム)】を使い、モンスターを従えて戦う職業。幼体、もしくは卵から孵化させて使役させる。

 使役するモンスターには個体差、才能、性格、使える魔法の適性などがあり、それらを交配させ、優秀なモンスターを生み出す事が出来るのも現在は〈テイマー〉のみ(KO(クドウオリジナル)を除く)とされている。

 テイマーの中でも、竜を従えて戦うプレイヤーの事を〈竜使い(ドラゴニクス)〉と称し、竜を従える事その行為が至難の技とされる為に〈テイマー〉だけでなく、他の職業からも一目置かれた存在とされている。


 ーー『CDO公式Ggpedia参照』


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「…とまぁ、そういう事だな」


 買ったものの整理や、使った弾丸の補充、装填をしながらハクアさんは言う。


「へぇ……じゃあ、実際には竜使い(ドラゴニクス)っていう職業は無いわけだ」

「あぁ。ちなみに私も〈テイマー〉だ」


 飛ばされた先……荒野の、更に奥地。

 廃れた廃村の中で、俺はハクアさんに竜使い(ドラゴニクス)について教えてもらっていた。


「ハクアさんも?でも、使役獣なんて……」

「私の使役獣はこいつさ。ほとんど無口で鳴かない〈テイ・ダック〉と言ってな……育てるのに苦労したよ」


 背負ったスナイパーライフルを撫で、ハクアさんは軽く小突いてみせる。

 言われて、じっくりと見てみれば…なるほど、後部照準器(リアサイト)の辺りに、小さい目のような物が付いていた。


「…………………グア」

「鳴いたぞ」

「珍しいな。三日間エサなしでも鳴かないと言うのに」


 砲身の付け根や引金の手前を撫でると、心なしか目を細めているようにも見える。


「…………グアァ」

「…スグル殿はテイマーに向いてるのでは無いのか?」

「口うるさい竜と関西弁妖狐だけで手一杯です」

『おうそれはどういう意味だ詳しく』

「それで、今日はどんな竜を討伐に行くんですかね」

「討伐…出来ると良いんだが。スグル殿はこのゲームのラスボスについては、知っているかい?」


 スグルは、首を振る。


「この世界を統べるのは結晶竜とされていて、それらは常に争いあっている。そこに召喚されたプレイヤーは、結晶竜を従えて統一させる……と、いうのがこのゲームそもそもの目的であり、結晶竜の支配する土地には魔王と呼ばれる守護者が統括、管理をしているんだ」

「あ、それウチ知ってる。魔導大戦で負けた魔種は結晶竜に絶対服従を誓ったんだよね」

「ヴェルちゃんは物知りだね」

「えへへ、ありがと」


 知っていて当然と言えばそうなのだが、そこは追求しない。

 ハクアさんには、ヴェルが元魔王候補だとは言ってないからだ。


「それでハクアさん、その結晶竜がどうしたんです?」

「うむ。その問題の結晶竜なのだが、世界のどこにいるのか分かっていないのだ」

「…というと?」

「この世界には五体の結晶竜が存在するが、それが各方面に散らばって存在していて、自分の支配する領域から出る事は無い。さらには寝床と呼ばれる場所を作らず、転々と移り住んでいるから仕留めるのに時間がかかるのだよ。だから私たちプレイヤーは、支配された土地や空間を狭めて、探索範囲を広げると同時に移り住む場所を特定しようとしているんだ」


 なるほど、それで魔王ヴォルディモと魔王妃ビアンカは討伐されたって事なのか。


「で、ここからが本題なのだが……ちょっと前に倒された魔王の統括する範囲内で、問題の結晶竜が確認された。その時に誰が着けたのか【マーカー玉】を当てたそうなんだ」

「マーカー玉……っていうと、店で見たマーカー弾と同じ物ですかね」

「そうだ。そしてその指し示す場所が……ここだ」


 そう言って、ハクアさんは自分の足元を指差す。

 それは、この付近にいる事と同義だった。


「…さて、準備は整った。待たせて悪いね」

「いえ、面白い事が聞けて良かったです」


 ハクアさんは立ち上がり、テイ・ダックを再び背負う。

 そんな彼女に、今まで黙っていたキョウカさんが口を開く。


「……あの、ハクアさん」

「ん?」

「…私達、肝心な事を聞いてないんですけど」

「…何をだい?」

「その結晶竜、どんな竜なんですか?」


 そういえばそうだ。俺達は、結晶竜についてほとんど何も聞いていなかった。


「あぁ、そうか。すまない、私とした事が……これから討伐、というか一目見に行くのは〈豪焔の神龍〉と呼ばれる、火属性の結晶龍……〈ベテルギウス〉だ」


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 豪焔結晶龍・ベテルギウス。

 その姿を誰も見た事がなく、そして誰もが知っている。

 ーー曰く、全身を炎で燃やしている。

 ーー曰く、消え無い黒炎を吐く。

 ーー曰く、溶岩の中を泳ぐ。

 火属性魔法を体現したような竜であると。

 彼女が最初に見た竜は、数多ある曰くを兼ね備えていた。


「おや、旅のお方。この様な所までどの様なご用件でしょう?」


 一年前、彼女がCDOを始めた所から、彼女の目的は作られる。


「……もしかして、私に話しかけているのか?」

「……?他にどなたかございますかな?」


 新人(ルーキー)の彼女は、興奮のあまり街を飛び出て迷子になっていたのだ。

 そこへ、馬を引いた初老の男と遭遇する。


「いや、なに。道に迷ってしまって……途方に暮れていたんだ、あはは」

「それは大変でしたなぁ……よければ、ワシらの集落に来ませんかな?なにも無いが、雨風くらいはしのげますぞ」

「それは助かる。ご老人、ありがとう」

「はっはっは。困ったときは、お互い様じゃろう」


 初老の男に連れられ、武器無し防具無しアイテム無し一文無しの彼女は、その集落に案内される事になった。

 その集落は、小屋が十二棟ほどの小さな集落で、中心に井戸が設置されていた。女性達が水汲みをしながら、井戸端会議を繰り広げている。

 そして皆、何故か被り物をしている。


「人が少ないですね」

「まあの。男共は狩りか畑仕事、女性や子どもは家の事。ありきたりな田舎集落じゃ」


 来客が珍しいのか、子ども達は彼女の元にやってくる。肉付きや健康そうな肌を見るに、貧しくとも飢えることのない集落の様だ。


「道に詳しい者が、狩りから明後日に戻ってくる。それまでは、ワシの家を使うといい。向かいの小屋じゃ」

「ありがとうございます」


 目の前家は、他と比べて少し大きい家だった。きっと先程の初老の男が、この集落のまとめ役なのだろう。


「……そういえば、職業とか何も決めてなかったな」


 招かれた家で、彼女はメニュー画面を開いた。

 チュートリアルで何も貰えなかった彼女は、戦うべきスキルも武器も魔法も習得出来ず、デフォルトのインナー姿にホットパンツのみという、ラフな格好だ。


「……武器無し防具無しで選べる職業は…と」


 派生職など選べるはずもなく、かといって剣士や魔法使いになるには現状無理な話だ。

 そうして考えると、選べるのは二つに絞られる。


「格闘家と獣使い……か」


 拳で殴って殴って殴りまくる職業は……まぁ、攻撃力の低い自分には到底出来るとは思えなかった。

 比べて獣使いは、自分のステータスに関係が無く、就職で【調教】のスキルが付与される。モンスターや動物はそこら中にいるし、レベルを上げて交配させれば強いモンスターになる。


「今は、獣使いでいいかな……」


 そう思い、彼女は獣使いに就職した後、集落の外に出て弱いモンスターを探した。


「…【調教】は自分のレベルより低い相手にしか使えない、か……1以下って事は本当に弱いモンスターしか使役出来ないのか」


 街から飛び出て戦闘らしい戦闘をしなかった彼女は、開始数時間経つにも関わらず経験値を一つも得られていなかったのだ。

 だが彼女も現代っ子。こういう剣と魔法のファンタジーな、ドラゴンが空を飛ぶゲームにおいて、最も多く存在し最も最弱と呼ばれるモンスターには、心当たりがあった。


「スライム、いないかな」


 ゲームによっては緑、青と様々だが…大抵は透き通った水の体をもち、何でもかんでも溶かす体液を出す……エロ同人誌ではもっぱらお世話になった賢者も少なく無い、大先輩だ。


「そうそう、ちょうどこんな感じの……」


 目の前の、プルプルとした半透明の液体を、彼女は指でつつく。


「…いや、見つけた。これじゃん」


 うっかり触ってしまい、ダメージを受ける。ごっそり半分持って行かれた。

 敵対モンスターのレベルを確認し、それがレベル1であることも確認する。


「お願い、成功して……【調教】!」


 スキルを発動させると、淡い光がスライムを包み込む。

 ぶるぶると抵抗する動きを数秒させたかと思うと、大人しくなった。


「……成功!」


 敵対モンスターの表示が消え、代わりにスライムのステータスが表示された。


「普通…いや、レベル1だからかなり低い……が、私よりは強いな」


 捕まえたスライムを引き連れ、ひとまずは集落に戻る事にした。


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 集落に戻った彼女はまず、自分の使役獣について説明しておいた。間違えて処理されては元も子もないからだ。

 続いて、集落の整備。井戸の周りに掘建小屋がある様な集落なので、それを取り囲む様に柵を設置。畑も、その範囲内に収めた。


「これで良し。次は…」


 中心の井戸を少し改造。長椅子を向かいあわせる様に設置した。


「あのおばさん達、立ちながら話すのは疲れるだろうし、な」


 そうこうする内に日は沈み、1日の終わりを告げる。初老の男の家…というか、集落長の家で、彼女は床に就き、ログアウトする。

 翌日、彼女がログインすると、集落は彼女に感謝していた。


「柵を設置してくれてありがとな!」「あの台座、水桶を置いても壊れないのねぇ、便利になったわぁ」「おねーちゃんのすらいむかわいいー」


 一部自分のとは違う結果になりつつも、感謝されるのは嬉しい事だった。


「いや、数日泊めてもらうんだ。これ位はやらせてくれ」


 そうして彼女は、その集落を少しづつ発展させていった。約束の日が来て、街まで帰れる様になっても、彼女はその集落に通い続けた。1ヶ月…2ヶ月……。

 そんな頑張りがあってか、集落の人口も増え、掘建小屋は茅葺屋根の家になり、物見やぐらが建設され……やがてそこは、村になった。


「あんたのお陰だ。俺達は、もう足を向けて寝られねぇよ」

「よしてくれ。なんだかやめ時が見つからなかっただけだよ」


 その頃になると、彼女はもう村の一員として扱われていた。

 最初に捕まえたスライムも、今では巨大化、武装化して貫禄に溢れている。

 ……というか、色々と強化し過ぎてちょっとやそっとじゃ負けなくなった。


「いやいや、礼を言わせてくれぬか。お主が来てから、集落は大きくなったし、倒せなかった害獣はスライムのおかげで撃退出来た。何より……」


 村長は、自分の被り物に手を触れる。

 それに連れて、他の人も自分の被り物に手を回した。


「……お主になら、この秘密を話てもいいかもしれんのう」


 被り物を取った下には、人それぞれ数は違ったが……一本か二本、ツノが生えていた。村長に至っては五本も生えている。


「ワシら鬼の一族。世界に散らばりひっそりと生きるワシらを代表して、礼を言わせてもえぬか」

「………」

「…やはり、ヒトと違うだけで嫌かのぅ?」

「…いや、驚きはしたが……別にどうこうされるわけではないのだろう?」

「それは、もちろん。この様な見た目であるが、ワシらは平和に暮らしたいだけじゃ」

「ならば問題無い。その礼、気持ちだけ受け取っておこう」


 そうして今度こそ、彼女は感謝された。

 その後も問題なく時は過ぎ、村の住人が鬼族である事を隠しつつ、彼女と鬼族の交流は続いた。育てたスライムは魔法も覚えたし、それなりに楽しくゲームをしていたのだ……その時が来るまでは。

 ゲームを始めて半年、村の周辺のモンスターでは敵無しになってしまったスライムを、更に強くさせる為に少し遠くに出る事にした。その事を村の皆に言ってから、彼女はもっと強い敵と戦いに行く。

 ……村からどれほど離れただろうか。人気の無い樹海というか、森林でレベリングしている時に異様な光景を目にした。


「……人が襲われてる」


 別に、プレイヤーがモンスターに襲われていても不思議ではない。が、この場合不思議なのは襲っているのが同じプレイヤーである。という事だった。

 そこから先は、記憶が少し曖昧になっている。というのも、考えるより先に体が動いて、気がつけば襲っていたプレイヤーは〈DEAD〉の表示を残して消えていたし、襲われていたプレイヤーには泣いて感謝された。

 その後は何も無かったように狩りを続け、数日してから村に帰ったのだ。


 ーー本当の悪夢は、ここから始まる。


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「…アイテムBOXいっぱいになったな。村の皆に少し渡すとして、残りは換金かな」


 そう呟くと、相棒のスライムが訴えるように震える。


「わかってるって。お前の分も、ちゃんと残してあるぞ」


 それを聞いたスライムは、嬉しそうに飛び跳ねる。なかなか、感情表現が豊かなやつだ。


「しかしまぁ、あの時のお前がこんなに強くなるとは、思えないよなぁ……」


 懐かしくなって、少し思い出す。

 歩くだけで地面の草を食べ続けて回復魔法を習得。切っても殴っても効かない、物理に対する絶対的な耐性。魔法も、初級ではあるが【水弾(ウォーターショット)】を覚え、遠距離にも対応した。


「あれ、最初から意外と強かった?」


 思い出せば、そこらかしこに最強になれそうな片鱗が見えている。


「才能あるのかな、お前」


 そのうちドラゴンでも食べて本物の最強になるのでは無いのか?


「ま、それは夢見すぎかな……っと、そろそろ見えてくるかな…」


 森林を抜け、地図を見ながら歩き続けて数時間。時にスライムにまたがって歩きながらも、なんとかたどり着いた鬼族の村。

 ………見えたのは、燃える村だった。


「……な」


 瞬間、歩みを止めた足は再び動き始め、その速度はどんどん上がる。

 地図もスライムも、全部置き去りにして、息を切らし、村に入る。


「なにが、どうなって……!」


 暖かく見送ってくれた村長も、皆も、子ども達も。逃げ惑う姿さえ、見えない。


「…なにが、どうして、こんな……!」

「あんたが悪りぃんだぜ、全部よぉ…」


 不意に、炎の中から二人の男が現れる。そのうち一人には、見覚えがあった。


「……森林の、人殺し」

「殺られたら、殺り返す。それがうちのギルドの鉄の掟よぉ……俺ァあんたに殺られたからなぁ、文句はねぇよなぁ!」

「…そんな、のは……あんたの勝手だろ!」

「るせぇ!殺すべきモンスターを保護して一緒に暮らしてるような裏切り者のくせしてよぉ!」

「静かにしろハルキ。殺る気のあるお前がその場にいて、逆に殺られた。それだけだろ」

「でもギルマス!こいつァ……」

「お前が殺る気でいたなら、殺られる覚悟を持て。その殺られる相手は、通りすがりのミサイルにだって持てと、いつも言ってる。そうだろ?」

「……スンマセン」


 ハルキと呼ばれた森林の人殺しは、そのまま炎の中に姿を消した。

 そしてギルマスと呼ばれた男は、優しい笑みを浮かべる。


「さて、話をしようか」

「……皆を、どうした」

「自分より他人を優先させるのか。美しいね」

「どうしたって、聞いている!」

「まだかろうじて、生きているよ。でもそろそろじゃあ無いかな」


 どんな魔法かスキルか男が手を挙げると、背後の炎が開けてその先を見る事が出来た。

 ………そして、見なければ良かったと思った。


「………う、げぇ…」


 ゲームだし、なにも食べていないはずなのに。胃の中を全て吐き出した。

 磔にされ、その身を燃やされ、それでも生かされて、うめき声を上げる……鬼。


「俺も、鬼族は初めて見たけど…不思議な耐性持ってるよね」

「……耐、性…?」

「そ、耐性。最初はこの全員燃やして晒してやろうかと思ったんだけどね。全力で燃やしても半分以上残ったんだ…なんでだと思う?」


 もうその時点で、彼女は目の前の男が狂人であると理解した。


「答えはね、鬼族特有のツノにあった。産まれながらにツノを生やした彼らはね、ツノの数だけ生き返るんだ……こんな風にね!」


 男の出した炎の槍が、五本生やした鬼に刺さる。かすれた空気の抜ける音が聞こえ、鬼はまた呼吸を始める。


「面白いよね!殺しても死なないってさ!何回でも殺せるんだ!」

「……狂ってるっ」

「………俺はね、君をスカウトに来たんだよ。ハルキを殺した、君をね」

「誰が、お前みたいな狂人と組むか」

「…そ。じゃあ仕方ないね………ベテルギウス」


 一瞬にして、頭の上を何かが横切ったと思うと。男の後ろに竜の姿が確認できた。大きさは、3メートルほど。


「君も、獣使いなんだろ?そろそろかな」


 呆気にとられている彼女の元に、ようやくスライムが追いついた。


「俺のベテルギウスと、君のスライム……どちらが強いかな。そう思わないか?」

「……戦うなら…お前を倒して、皆を助ける!」


 呼応するように、スライムは体から水の弾を発射する。自分の溶解液を混ぜ込んだ、特別製だ。

 だが、ドラゴンの吐く火炎に当てられ、すぐに蒸発する。


「せっかちだなあ、聞いただけじゃん」

「黙れっ!お前みたいな外道の狂人と対峙するだけで悪寒がする!」

「……君さ、何をそんなにムキになってんの?もしかしてあの鬼に情でも湧いた?たかがNPCに?」

「それでも、彼らは……私の大事な友だ」


 スライムはドラゴンに飛びかかる。弾力性のある体を跳ねさせ、その顔面に張り付いた。酸性の体は、それだけでドラゴンの顔を溶かしていく。


「おお?中々良い攻撃だね……でも」


 ドラゴンはその前足でスライムを引き剥がし、鋭い爪で切り裂いた。

 物理ダメージは効かないと、そう思うが……切られた体がなかなか元に戻らないのを見て、嫌な汗が流れる。


「…触れた場所から蒸発してる……?」


 ようやく、スライムは元の形に戻ったが…一回り小さくなった。


「……俺のベテルギウスはさぁ、最初は普通のトカゲだったんだよね」

「何を突然……」

「それに色々交配して、強くして…誰にも負けなくなった時にさ、ふと思ったんだよ。命を狩り取ったら、どんな気分かなって」

「やめろ…」

「燃やして、灰にして、グズグズのケシズミを作った時……俺の中の何かが目覚めたんだ」


 恍惚とした表情を浮かべ、男は続ける。


「最ッッッッッッ高にハイってヤツだった!!!命と命を削り合うあのヒリヒリした感覚ッッッ!もう俺は後に引けねえし戻れないと知っていても!あのヒリヒリした感覚を忘れずにはいられないッッッ!」

「やめろ!」

「燃やして!燃やして!燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして燃やして!!!!!!!!!!!!!………」


 すう、ふう……と、男は呼吸し。


「燃やし尽くした後に残るのは、なんだろうね」

「やめろぉぉ!!」


 気づけば、彼女は走り出していた。その拳を握りしめ、男の後ろにいるドラゴンなど視界に入ってないように。

 だが、その拳が男に当たるより早く……男が、ドラゴンに命令を下した。


「う、あぁぁぁぁぁッッッ!」


 吐かれる黒炎、包まれる黒鬼、消えない炎……届かぬ拳。


「ざぁんねん、俺のが早かったね」


 まだ、助けられる。そう思っていた。でも彼女の手は短く、決して届かない。


「あ、ぁぁぁぁぁ………」

「残念で可哀想な子、こんな事になったのは全部君のせいなんだよ?」

「……なに、を」


 呆れた顔をして、男は彼女の目を見る。


「俺は誰かを殺す時、自分も殺される覚悟をしてる。それはハルキの甘い覚悟と違って、第三者の君にもだ」

「……違う」


 続けられる言葉を聞きたくなくて、彼女は耳をふさぐ。


「俺はNPCを殺る気でいたし、それに参戦した君に殺られる覚悟もしていた。殺られたく無いから本気で抵抗して、そして俺は殺られずにいる」

「……違う、やめろ…」

「もし俺が殺られたらベテルギウスに命令を下す事も無かったし、残った鬼族は生き残った」

「違う…っ!」

「だからこの結果を招いたのは、他でも無い」

「やめろ…っ!」


 必死で、次の言葉を妨害しようとする。

 耳を塞ぎ、喚き散らし、目を伏せる。


「君自身だ」

「……っ」


 そこまで言い切って、男は彼女の肩を叩く。


「俺は竜使い(ドラゴニクス)

「……」

「俺を憎め、俺を恨め、俺を怨め。そして俺を殺しに来い」

「……竜使い(ドラゴニクス)

「お前が殺る気で来た時、お前が殺られる覚悟をした時。俺も殺る気で迎える、俺も殺られる覚悟をする」

「…竜使い(ドラゴニクス)…っ」

「じゃあな」


 そう言って男は、ベテルギウスの背に乗り何処かへ飛んで行った。

 残された、燃える村とスライムと彼女は。


「………竜使い(ドラゴニクス)ぅッ!」


 雄叫びを上げた。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「……さん…クアさん、ハクアさん!」

「……あ、ん?どうした?」

「それはこっちのセリフですよ。どうしたんですか、ぼうっとして」

「…あぁ、いや。なんでも無いよ」

「は、はぁ…そうなのか?それで、ベテルギウスはこの岩山の上で間違い無いのか?」

「問題無い。この岩山だ」

「じゃあ、ささっと登ろう。日が暮れたら、冷えるからな」


 そう言って、スグルは足場の悪い岩肌をなんでも無いように進む。最後尾から追うハクアは、もう一度山の下を見た。


「…待ってろ、皆……仇を取ってくるからな」


 小さくなった荒野の廃村を背後に、ハクアは歩みを止めない…否、止まれない。

ご愛読ありがとうございます。

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