#60 擬人化
ヴェル:レベル20
未振り分けSP:60P
スキル
【魔眼】Lv.20
魔力感知と魔力線を視認する。
【魂魔庫】Lv.78
魔力が無限になり、防御力がかなり低下する。
他者に魔力を与えられる。
ユニークスキル
【料理人】Lv.25
料理が作れる。
弱点発見
魔法
【火魔法】Lv.5
灼熱の炎を操る。
【水魔法】Lv.5
水流を操作し、従える。
【風魔法】Lv.5
気体操作。空気振動による攻撃が可能。
【土魔法】Lv.5
創造。物体を生成し、使用する。ただし、本物よりはるかに劣る。
【雷魔法】Lv.3
球電作成。その他身体能力の向上。
【虚無魔法:有利得瑠】
白の空間を生み出し、その内部を零に戻す。そこから新たな世界を創り出す。
【虚無魔法:無二消全】
黒の空間を生み出し、その内部を無に帰す。本人の意思とは関係なく全てを消し去る。
【虚無魔法:有二得全】
七大魔法の一つ。強欲の体現。
▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎
「おぉう……マジかよ」
「…んぅ」
ベッドの上で、ヴェルの頭を撫でながら寝かしつける。
かなり久々ではあるが、愛娘のステータスチェックだ。
「各属性習得に加えて、虚無魔法を兼ね備えている……ホント、すげえ才能だよな」
そう言って、スグルは頭を振った。
「いや、努力の結果…だな」
無防備な顔で寝こける少女は、特に警戒する訳でもなく頭を撫でられ続けている。
「…むにゅ」
それどころか、撫でられる手が心地いいのか自分から擦り付けるほどだ。
……どこかの変態が俺と同じ状況なら、とうの昔にサカっていただろうな。
「…しかし、この【有二得全】ってのはなんだろうな。強欲の体現って説明じゃ全然わかんねぇ」
「そりゃ簡単だぜ大主人。大罪魔法シリーズの一つじゃねぇか」
「うん?大罪?って言うとアレか、暴食とか色欲とかの」
「あぁ、間違いねぇよ」
「へぇ、一体そりゃどんな魔法……」
…待て待て、ウェイトスグル。何をナチュラルに不法侵入者と会話してんの?
まぁ俺の知りたい事を知ってそうだし?聞くだけ聞いて最後はKO-BANまでご案内してあげよう。
さぁ視線をメニューからグイッと外して犯人の顔がドーン!
「どっぺるげんがぁぁぁぁ!」
「やかましいっ!主人が起きるだろっ!」
ケモミミの生えた俺が、いた。
▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎
キュウ:Lv.9
未振り分けSP:24
スキル
【幼獣化】Lv.1
各ステータスに制限が掛かるが、代わりに魔力の消費を抑えられる。
【成獣】Lv.1
成獣後は存在するだけで魔力を消費するが、代わりに各ステータスにブーストがかかる。
【魂魔庫】Lv.85
魔力無限になり、防御力がかなり低下する。
他者に魔力を与えられる。
成獣ブースト:消費魔力代用
【幻術】Lv.21
相手に幻を体感させる。
成獣ブースト:擬視化
【変幻】Lv.20
自身の体を違う物に見せかける。
成獣ブースト:擬体化
ユニークスキル:無し
魔法
【火魔法】Lv.5
灼熱の炎を操作する。
成獣ブースト:冷気
【水魔法】Lv.2
水質浄化。
水源を作る。
成獣ブースト:治癒
【風魔法】Lv.2
気温感知。
風を起こす。
成獣ブースト:真空
【土魔法】Lv.1
穴掘り
成獣ブースト:奈落
▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎
キュウが成獣化したとか、ブーストってなんぞや、みたいな事は後で調べるとして。
不法侵入者かと思ったそいつは、初めから部屋の中にいました。という、ありきたりなオチも置いておいて。
ドッペルゲンガーかと思ったそいつは、化けたキュウでした。
「なんで俺がキュウの主人なんだよ」
「俺の主人はヴェルだけだが、ややこしくもヴェルの主人はスグルだろ?だから大主人」
「なるほど……で?何故にキュウが俺の顔をしてんだよ」
「変態の顔にしろ親友の顔にしろ、しなかった理由は一つだが……聞きたいか?」
「…言ってみろ」
「大主人を化かしてみたかった」
「そろそろ本気で殴っていいよな?」
左手で拳を作り、右手は優しく少女の頭を撫でる。
「まぁ、冗談はさて置き」
「……冗談って言うなら、俺の格好して俺の声で喋るの、やめてくれないか?」
「…じゃあ、こうするか」
音も無く、キュウがその場でバク宙をすると。
「…あら可愛い。どこの美少女?」
「女体化した大主人や」
「一気に吐き気がしたよ!」
とても可愛らしい、ケモミミの生えた俺がいた。
「注文多いわね。兎でも頭に乗せよか?」
「そんな難民ホイホイしなくて良いから……もう良いから、話を続けてくれ」
「なんの話やったっけ」
「大罪魔法シリーズとその効果」
「せやせや、せやったね。アタイも詳しくは知らへんのやけど……ちと虚無魔法と違うんや」
「…って言うと?」
「ホンマは魔法名と効果は何年たっても同じなんやけど、大罪シリーズはちぃと特殊なんや。使う魔法使いがそれぞれ違う魔法名を紡ぐんや…でも、効果は変わらへんのや」
「……んん?意味がわからん」
ため息を吐き、再び音も無くバク宙すると。
ケモミミ女体化スグルがスーツ姿の美人教師風に。どこからかホワイトボードまで出して来て。
「第一回!チキチキ!キュウ先生の魔法講座ぁ!はくしゅー!」
「…うぇーい……?」
「えーっと今回、主人が『選ばれた』のは理由不明として、体現した効果は【強欲】や。アタイは、過去に三回大罪シリーズを見た事があんのや」
ホワイトボードには、重要だと思われる単語がわかりやすく表示されていく。
自動で。
「大罪シリーズは全部で七つ。それぞれ【強欲】【暴食】【色欲】【憤怒】【嫉妬】【怠惰】【傲慢】や。せやけど…」
キュウの発言と共に表示されていった七つの魔法名。
「アタイがこの目で見たんは【暴食】と【怠惰】だけや。せやから、他の魔法に関しては情報としてしか知らんのや」
ホワイトボードから、五つの魔法名が消される。
「まぁそれでも?大主人の知りたい事は語り尽くせるやろけどな」
キュウは一つため息を吐く。
「アタイが大罪魔法を見たんは、過去に起きた魔導大戦中やった」
ここでも出るか魔導大戦。どこに行っても技術を進歩させたり見せたりするは戦争なんだな。
「そん時に見たのは【怠惰】の魔法やった。叫んどった魔法名は…【ロングスリーパー】やったかな。効果は相手の魔力を吸い取って己の糧にするんや」
「そりゃすげぇ。必勝じゃねぇか」
「授業中のお喋りは、手を上げてからや」
「なりきってやがるチクショウ」
二度目の私語にも注意し、スグルは黙りこくる。
「そん次が【暴食】や。見たんは大戦中と、こないだの塔ん時やな」
「はい先生、確認です」
「スグル君、どうぞ」
「はい、その塔の時のやつは人形使いで間違い無いですか?」
「せや、あっとる」
もういない、胸糞悪い人形使いを思い出す。
確か野郎は自分を〈絶対規制〉とか名乗ってたような。統括管理書とも言ってたな。
「あん時の野郎はちと特殊やけど…効果は変わらへんかった。右手で魔力、左手で肉体を食ろうて、吐き出す魔法や。先代の魔法名は……確か【ショウタイム】やったで。塔のあいつは、魔法を魔導書に封じ込めて使っとったけど……効果に関しては、変わっとらんかった」
「はい先生、そのグリモアは、全部で七冊あるのでしょうか?」
「それは、わからへん。せやけど、少なくとも【暴食】と【強欲】は解放済やろな」
魔法の、大罪シリーズにそれなりの納得を得たスグルは、一番知りたい質問をぶつけた。
「はい先生。ズバリ、【強欲】の効果はなんですか?」
「……かなり難しい質問やな…言葉で説明するんは、難題やで…」
キュウは言葉を切り、適切な文を構築する。
「…【強欲】は強い欲。アレが欲しい、コレが欲しい、底無しの物欲とも言えるんや……せやから、その効果は」
「………」
「…『己の欲しがる全てを手に入れる』……や。これ以外に上手い言い方が思い浮かばんわ」
「……いいえ、十分ですよ。先生」
己の欲しがる全て。
ーーヴェルの欲しい『家族』
ーーヴェルの欲しい『力』
ーーヴェルの欲しい『知識』
ーーヴェルの欲しい『守るべきもの』
ーーヴェルの欲しい『失いたく無いもの』
その全てを、自分の前に。
手の届く範囲に納める。
見放してしまわないように。
手放してしまわないように。
手から零れ落ちないように。
……それはきっと時を、空間を、他のありとあらゆる柵を超えて、ヴェルの下に届く。
「……だけどもそれは、俺から見れば『欲張り』なんだぜ」
「だからこその【強欲】なんだよ」
これにて、キュウの魔法講座は終了した。
▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎
さて、少し余談だが後日談。
「……わぁすごぉい」
翌日、少し遅めのログインをしたスグルの目には、繁盛するカフェの姿が映っていた。
「お待たせいたしました。ご注文の『冷製トマトパスタ』です」
「「「キャァァァァァァ!!!」」」
…ケモミミの生えた、スグルをそえて。
「あ、おはようスグル」
「…あぁ、おはよう…ヴェル」
『すげぇ人気だよ、スグルは』
「正しくは化けたキュウだけどな」
執事服を着たケモミミスグルは、爽やかな笑みを浮かべながら接客する。
飛び交う黄色い声には、耳が痛くなりそうだ。
…すると、キュウはスグルが来たことに気が付いたようで。
「おはようございます、大主人」
「…えぇ…おま、えぇ……関西弁はどうした」
「接客中ですので」
「お、おぅ……」
「今日はいかがされますか?何時ものように、私が厨房に立ってもよろしいのですが」
「いや、キュウはそのままウエイターやってくれ」
「かしこまりました」
背筋を伸ばし、キュウは再び接客へ。
「ね、すごいでしょ?朝起きたらスグルがいて、ウチびっくりしちゃった」
「俺も、キュウがここまで化けるとは思って無かった。そういやヴェル、昨日の夜の事は……」
「…ん、大丈夫」
「そか……んでノヴァ、キュウの働きっぷりはどうよ?」
『そりゃあもう有能だぜ?キュウは。新しいメニューを考えたり、呼び込みをしたり。今はキョウカが外に出てるが、キュウが出た時だけ一気に客足が伸びるんだよ』
「そいつはすげぇや」
そうして黄色い声を受けながら、爽やかに接客をこなすキュウを見つつ。
今日という日は、何事もなく過ぎていったのだった。
需要と供給ですね。ケモナー歓喜。
ご愛読ありがとうございます。




