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VRMMO始めました。  作者: 星野すばる(旧:★すばる★)
第四章 竜使い達の死乱舞/ドラゴニクス・デスワルツ
57/64

#56 狙撃

遅くなって申し訳ありません許してヒヤシンス

 ヴェルの朝は早い。

 日の出と共に起き、畑の井戸に水を汲みに行く。水道は通っているので、これは生活用水だ。

 寝癖をとかし、顔を洗えば幾分かサッパリする。ディーナはまだ寝ているのか、特に反応しない。

 太陽が完全に上ると、一度二階に戻ってシェスタを起こす。客席を整えさせると、ヴェルは厨房に入って軽い朝食を食べた後、簡単な仕込みを開始する。食材の在庫を確認したり、調味料類が切れてないかなど、だ。

 それらが終わる頃、スグルが二階にやってくる。階段から下りてくる足音と、誰かと話す声が聞こえていた。多分、ノヴァと話しているのだろう。やがて、会話がはっきりと聞こえるまで下りてくる。


「……で、だ。今度ノヴァの能力の限界に挑戦しようかと思ってるんだよ」

『それは別に構わないけどな…』

「…おはよう、スグル」

「ん?あぁ、おはよう、ヴェル。いつも早いな」

「まぁね」

「シェスタは?」

「今客席の準備してる」

「そうか」

「それから、もうすぐ燻兎(ローストラビット)が無くなりそうだったよ」

「えっマジで?どうしよ……」

『なら今日は店を閉めて狩りに行けばいいんじゃないのか?』

「あ、そうか」


 ……なんだろう…今日のスグルは違和感がするというか…変。


「……ねぇ、スグル。何かあったの?」

「ん?何も無いよ?」

「…そう?なら良いんだけど」


 嘘だ、いつものキレが無い。いえ、違う……心ここにあらず…と言う感じだ。


「……じゃあ、今日は休みにして狩りに行こうか」

「うん、そうする。ところでだけど、ショウとマミナは?」

「…………ショウは…今日は来ない。マミナは今ジュンさんの所だ」

「…そう、わかった。準備するからちょっと待ってて」


 今のは禁句だったのかな。スグルの顔が少し歪んだ。一瞬で元に戻ったけどね。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 街の外、ここしばらく街の中に引きこもっていたからか、少し背伸びをしてみたい気分ではある。


「……さて、と。燻兎(ローストラビット)はどこだ?ノヴァ」

『えぇと……南南西に三匹、北北東に一匹……だな。この辺はまだ生息地域の端っこみたいだ』

「……よし、じゃあ南南西の三匹を狙おう。着くまでに生息地域の中心を探しといてくれ」

『…えぇ……メンドクセ』

「つべこべ言うなっての。昼飯をひよこ豆にすんぞ」

『やらせていただきます』


 ノヴァには感知範囲を広げてもらい、俺はとりあえず燻兎(ローストラビット)を狩りに向かった。

 南南西が終わると、ノヴァに連れられて数の多い方へと進んでいった。途中、ウルファングと遭遇したりもするが、ヴェルを見ると一目散に逃げていくから楽ではあった。


「…なんでウチを見ると逃げるんだろ」

「そりゃあ、死ぬとわかってて挑む奴はいないだろ?」

「スグルは、負ける相手でも挑むよね?」

「………俺は馬鹿だからな。その辺はよくわからないんだよ」


 しばらく狩りを続け、ようやく俺たちは燻兎(ローストラビット)の生息地域を探し当てる。

 街からは徒歩で約半日かけてたどり着く場所で、言うなれば草原と荒野の中間くらいの土地だった。


「……おい、本当にここか?」

「なんか不気味なんだけど、ノヴァ大丈夫?」

『……この辺のはず…というかまさにここなんだけど』

「……って言ってもなぁ…」


 見渡す限りは枯草枯木(かれくさかれき)に大岩小岩だ。兎の影どころか生き物の気配すらしない。


「…今更スキル使っても意味ないしなぁ……そもそも効果薄そうだし」


 俺の【危機回避】は自分より強者にしか反映されない。それ故、明らかに自分より弱い燻兎(ローストラビット)が引っかかるはずが無いのだ。


『……まぁ、別にいいんじゃないか?ここに来るまでにかなり狩れたし、今日はこの辺で終わりにしても、な?』

「……まぁ、乱獲は良くないよな」


 ノヴァの誤魔化そうとするのが手に取るようにわかるが、まぁそのへんは騙されといてやろう。


「さて、と。ここに来るまでに半日かかったワケだが、どうやって帰る?」

『そりゃあ、飛ぶか転移だろ』

「まぁそうだよな」

「じゃあ、早く帰ろ?ウチもうお腹空いて死にそう」

「そんじゃまぁ転移結晶使って帰って、それから昼食にするか」


 そう言って、アイテムBOXから転移結晶を取り出そうとした、その刹那。


『あぶないっ!』


 突如として、ノヴァから顔面にタックルを食らったのだ。それに合わせて地面へとダイブ。

 その後、間髪入れずに高速の何かが地面をえぐった。


「んなっ!?」


 えぐられた地面を見ると、何やら粒子が登っていくのが見える。残った後から推測するに、銃痕だろう。

 つまりは狙撃されたのだ。


『あぶねぇ……後ちょっと遅かったら街に強制送還だったぞ』


 その言葉が意味するのはつまり、弾丸は俺の頭を狙って放たれたという事。すかさず、飛んできた方向を向いた。


「…………遠いな。あの距離を撃ったのか?」


 周囲にポツリポツリと点在する大岩のうち、特に高い位置からの狙撃。殆どカンスト状態の【鷹の目】を使っても見えるか見えないかの位置だ。

 スグルがつぶやく頃にはもう移動を開始しており、見えたのは鈍い砲身の光沢だったという事を付け加えておく。


「だ、大丈夫なの、スグル!?」

「あぁ、大丈夫だ。それより早く帰ろう……嫌な予感がする」

『……そ、そうだな』


 俺とヴェルは空を飛び、歩いて半日かかった道を小一時間で戻る。

……結晶を使えば良かったと、後悔しながら。

気が動転してたんだよ、察しろ。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 カフェに戻ると、とっくにお昼を過ぎていたので、簡単な食事を作ってすませる。

 それが終わったら、狩ってきた燻兎(ローストラビット)を下処理して食料庫へ。


「早かったわね」

「まぁ、ちょっとな。午後は店を開けられそうだから、準備だけはしておいてくれ」

「わかった。そうそう、さっき愚民の友達とか言う、マミナって女が来たわよ。面倒だから追い返したけど」

「……マジか…絶対怒ってるよな」


 急いでメニューのフレンドリストからマミナを選択し、チャットを送った。


「悪い、マミナ。ちょっと街の外に出てた」


 しばらくして、返信が返ってくる。


「あそ。で?あの生意気なのはどちら様で?」

「あれは俺の作ったNPCだ」

「ふーん」


 どうやら、マミナはかなりご立腹の様子で。ピリピリとしたイラつきが伝わってくる。


「まぁいいや。それで、少し調べが付いたからその報告」


 マミナは今、DBのデータベースに直接入り、ショウの昨日の行動を調べている。

 ショウが消えたのは、昨日の夕方のログアウト直後。置手紙があったから、連れ去られたって事は無いだろう。つまり、何かしらの理由があって自分から行動した事になる。

 その理由を探るべく、マミナはショウの痕跡を探していたのだ。


「まず前提として、『ショウが目覚めてから誰かに会った』っていう可能性は捨てたわ」

「どうして?」

「あたしがログアウトして目覚めたのは、ショウがログアウトしたほんの数十秒後。いつもカーテン開けっ放しの窓からショウの部屋は見えるけど、ショウ以外の人影は無かったわ」

「なるほど」

「となると、誰かと接触したのはゲームの中。それも、かなり意識の浅い…現実とゲームの境で」


 そんな事が出来るのかと、書きかけたが消した。今は報告を聞くのが先だ。


「それで、ログを昨日までさかのぼって見てみたんだけど」

「うん」

「予想通り、ショウのアカウントにだけ、何者かが接触してるわ」

「それはつまり、バーチャルの回線を途中で横取りしたって事なのか?」

「まぁ簡単に言えばそうね、その解釈でいいわ」


 そんな芸当が出来る人は、俺は一人しか知らない。それも、ショウ一人に用があるとするなら、尚更だ。


「まぁ、犯人はショウの親父さん……翼おじさんだろうな」

「十中八九そうね」


 おそらく、マミナはチャットの向こうで深いため息でも吐いているのだろう。

 数十秒だけ間を空けてから、マミナからチャットが届く。


「ともあれ、翼おじさんがショウを連れ出したなら、何も心配はいらないわ。一週間もすれば帰ってくるでしょうし」

「それもそうだな、調べてくれてありがと。今度何か作るよ」

「別にいいわよ。あたしも知りたかったし、今回は利害の一致って事で」

「そうか?マミナがそう言うなら、それでいいが」

「じゃあね、スグル。この後ジュンさんに呼ばれてるの」

「おう、わかった。じゃあな」


 それっきり、マミナとのチャットは途絶えてしまった。

 そう書くと、なんだか俺が名残惜しそうな感じがするが、そう言う事では断じてない。


「あ、スグル終わった?」

「あぁ、終わったぞ。ショウの奴、人がどれだけ心配したと思ってんだ」

『戻って来たら、ロシアンシューでもやらせたらどうだ』

「はは、そりゃいい」


 張り詰めた空気が和んだところで、午後の開店準備を開始を始めた。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 一通り準備を終え、ある程度区切りが着いた所で、何気なく気になった事をつぶやく。


「……そういえば、ディーナは」

 ーースグルくーーん!おかえりー!

「……スグルが呼ぶから」

『またやかましいのが来た…』


 畑につながる裏口から、身体が液体の水精霊(ウンディーナ)……通称〈ディーナ〉が姿を現した。ただし、井戸が遠いのか元の大きさより頭二つ分くらい小さい。


 ーーごめんね、スグル君。こんなに小さくて…でも安心して?アソコの締め付けはその分増してるし、胸もほら、スグル君の手の中に全部収まるんだよ……?

「ごめん何言ってるかわかんない。とりあえず……ちぇすとぉ!」

 ーーイッ……たくない!もうっ!いきなり頭に手刀はやめてよねっ!驚いて身体がビクンビクンするでしょ?……まさかそういうプレイ?

「そんなわけあるか。それに、身体がビクンビクンじゃなくてプルンプルンだろ」

 ーーえっ?胸がぷるんぷるんの方がいいって?

「誰も言ってねぇよ!」


 ぎゃあぎゃあと、夫婦漫才のような流れをしばらく続け、その展開はスグルの深いため息で終わりを迎える。


「……で、だ。ディーナ」

 ーーなぁに?スグル君。

「一つディーナに、仕事を任せたい」

 ーーうん、わかった。

「……やけに聞き分けがいいな。仕事内容も言ってないのに」

 ーースグル君の頼みだもん。断るわけないでしょ?あわよくば借りを作って貞操を捧げて私とスグル君のぐへへへ。

「……ディーナには、裏の畑を任せようかと思う。土壌管理はお手の物だろ?」

 ーーまぁね。

「……ロクでもなさそうだが、一応聞いておく。仕事の報酬は何がいい?」

 ーー何がって言われたら、迷わずナニが欲しいって言うけど……


 しばらく沈黙が続き、やがて答えが出たようだ。


 ーーじゃあ、毎朝私と(みそぎ)をして欲しい。

「…ミソギって言うと……あれか、体を清める」

 ーーそう。それで、私の加護を、スグル君に……

「…まぁ、それならいいか。わかった、それじゃあ今から畑の事はよろしくな」


 そう言って、小さくなったディーナの頭を撫でつつ……液体を撫でるというのも変だが……ひとまずは満足気なディーナ。

 何も起こらない事に安堵するヴェルとノヴァは、やれやれと落ち着く中。


「……なっ」

「ん?どうした、シェスタ」

 ーースグル君。この女の子は何かな……?

「……ちょっと、愚民…その、精霊様は……」

 ーーちょっとぉ?スグル君を愚民呼ばわりとはいい度胸ね、子ねずみちゃん?

「あ…いえ、そ、そのような事は……」


 どうしたのだろうか。いつもは強気なシェスタが、急にオドオドし始めた。


「ぐみ……いえ、店長さん……その精霊様はどうしてここにいらっしゃるのでしょうか…?」

「うん?ディーナの事か?……裏の井戸に住んでもらってるんだけど」

「……精霊様に、真名を…?裏の井戸って……毎朝使うあの水……まさか」

 ーーどうした、人間(・・)。私の顔に何か付いてるか?


 俺たち二人と一匹を無視して、精霊と従業員は言葉の攻防を繰り広げる。

 正確には、ディーナが攻撃してシェスタが防御する側だったが。

 そのうち、シェスタは黙り込んでしまい、ディーナはお怒りのようで罵詈雑言を述べると、身体を軽く沸騰させながら井戸まで戻って行ってしまった。


「「『……何だったの、今の…』」」


 わけのわからない会話が終わるとシェスタはその後、スグルの事を愚民と呼ぶ事は無くなった。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 午後の仕込みをある程度済ませ、店の看板をOPENに返してからしばらく後の事。ドアの開く音とシェスタの声が来店客を知らせる。


「……珍しいな、新規か」


 今まで来たお客といえば、ショウとマミナを主に、時々ゲシュタルトとブラウンさんだ。一度だけ、DBの人たちが来たが…あれは例外みたいなものだろう。

 そういう訳で、新規のお客様はこの人が初めてだったのだ。


「店長、オーダー入りました。スタミナパスタとコーンスープです」

「はいよ」


 スタミナパスタ、というのは燻兎(ローストラビット)のミンチとトマトを使ったソースのパスタで……早い話がミートソースだ。コーンスープは言わずもがな。


「……出来た。持っていけるか?」

『俺が行ってくる』

「あ、ありがと」


 スタミナパスタとコーンスープを浮かせ、落とさないように席まで運ぶ。

 厨房では使ったフライパンやら寸胴鍋を洗っていると、客席の方から皿の割れる音が聞こえた。


「おいおい、早速トラブルかよ……シェスタ、何があった」

「あ、店長。お客様がノヴァを見た瞬間から何故か怒ってるみたいで……」


 起こったことを全て見ていたシェスタは、そう説明する。

 それほど広くない店だ、意識するだけで誰が何を言っているかは聞き取れる。


「大人しく潰れろ!ドラゴン!」

『おいおい、待てよ。皿が落ちたらどうする』

「黙れ!」


 客は腰に差したナイフを抜くと、ノヴァに斬りかかる。その攻撃を、ノヴァは紙一重で避ける。

 ……なんとなく状況が分かったぞ。これはよくある光景だな。


『おいスグル!こいつ止めてくれ!』

「お前たち何をしている!逃げるか戦うかしろ!」


 面白いから放っておくのもいいが、あまり暴れられても困るからな。止めてやるか。


「ノヴァ、運ぶのはもういいから、こっちに来てくれ」

『…わかったよ』


 未だナイフを振り回す客は、逃げるノヴァを追いはしないが、完全に敵意を持たれてしまった。


「……お客様、すこし落ち着いたらどうですか?」

「…お前……なぜあのドラゴンをかばう」

「なんでって……まぁノヴァは俺のだし。細切れにされるのを黙って見てられないからな」

「っ……お前も〈竜遣い(ドラゴニクス)〉か!」


 ……お前、も?


「…ならば、貴様に恨みは無いが……死んでもらう!」


 いやいや、ゲームで死なないだろ。という野暮は言わない。

 構えられたナイフを振り、的確に俺の喉を狙ってくる。軌道が読めれば止めるのは簡単なわけで。


「っぁぐ…」


 腕を掴み内側へと大きくひねれば、ねじ伏せるなど容易い。


「くっ……殺せ!」

「ンな事しねえよ。寝覚めが悪いわ」

「………っ」


 ……何やらドラゴニクスに恨みがあるようだが、力の差を理解したのかそれ以上は暴れようとしなかった。


「ノヴァ……いや、ヴェル。上から何か縛る物を持ってきてくれ。シェスタは、椅子を」

「うん」

「わかりました」


 とにかく、話し合う為にもこの体制は解いたほうがいい。そういうわけで、このお客を椅子に縛る事にした。

ご愛読ありがとうございます。

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