#55 後日談
戦闘シーンはありません。
イベントその後……というより、後日談。
上位十名には特別なイベント報酬が与えられた。もちろん、獲得ポイント数によって得られる報酬もあるが。
……まぁ、いちいち細かい説明をするのも大変なので、俺の…スグルの周りに関係する人達のだけを紹介しよう。
まず、一位の…ゲシュタルトの報酬は二つだ。一つはギルド創設増設チケット。二つ目は最大強化確定素材。そしてポイント報酬でNPC創作チケット。
ギルド創作増設チケットは自身の所属するDBに寄付。これでまた、ギルドメンバーが増えるだろう。
最大強化確定素材は、装備品の強化をする際に使用する消費アイテムだ。武器や防具の強化時に使うと、一度の強化で限界まで強化させる事が出来る。消費する金と素材が浮くので、正直一つでは物足り無い。
NPC創作チケットを手に入れた時、ゲシュタルトは迷わずこう言った。
「俺に超ラブな美幼女NPCを作るのだ!」
ブレない。流石ゲシュタルト、ブレない。
しかし、その考えはブラウンさんによって阻止された。結局、NPC創作チケットはギルドに強制寄付され、今は初老の執事NPCがギルド窓口をしている。ヴェルやノヴァ、ディーナ同様に感情があり、一緒に冒険する事も可能なので、意外と重宝されているようだ。
次は俺、二位のスグルが得た報酬だ。まず、ゲシュタルトと同じギルド創設増設チケット。それから最大強化確率五割素材。ポイント報酬でNPC創作チケット。
ギルド創設増設チケットは、今度考える事にして保留。最大強化確率五割素材はショウに譲った。
残るNPC創作チケットでは、カフェの従業員を作るつもりだ。
三位のショウは、やはり俺と同じくギルド創設増設チケットと成功率確定強化素材。ポイント報酬は新スキルチケットだ。ただし、次回アップデートまで使用不可の。
キョウカさんは百万Cとランダムスキルチケット。神スキルかクズスキルかは運次第だ。ポイント報酬は最高位ポーションセット各十個。
ハクちゃんには五十万Cとランダム魔法チケット。とは言え、ほとんど習得しているハクちゃんには無用の長物だけど。
ジュンさんは五十万CとSランクの防具。イベント終了時の職業によって変わるので、動きやすい鎧だ。多分、商店街で売りさばくだろうけどね。
スサノオとクシナダは同じ報酬だ。十万CとAAランク武器。ジュンさんと同じくイベント終了時の職業によって変わるので、スサノオには盾と剣を。クシナダちゃんには魔法の杖を。
これで、十位まで入った俺の周りの人は終わりだ。続いて、惜しくも上位十名に入らなかったマミナとブラウンさん。
マミナの順位は三十九位。得られた報酬は一万Cのみ。ショボい。
ブラウンさんは意外にも十一位。まぁ、妥当と言えばそうだけど。得られた報酬は十万CとAランク以下ランダム武具。前者同様のイベント終了時の職業によって変わる仕様に加え、ランクまでもがランダム化され、さらには武器か防具もランダム化されている。
以上で、順位報酬とポイント報酬の報告は終了だ。
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「さて、と…」
カフェに戻ったスグルが最初にしたのは、ディーナを井戸に住まわせる事だ。
「出て来い、ディーナ」
ーーうん?ここが私の家?なんだか暗くてジメジメしてるわね……
「この井戸水は、俺の生活上必要不可欠な水だ。衛生上、水道水は客にしか出さ無いし、実質利用するのは俺だけだな。まぁ、水道代の節約だ」
ーーふむふむ、つまり私の聖水をスグル君が美味しそうに飲むのね?なんなら今すぐにでも飲ませてあげようかしら?
「今は遠慮する。とりあえずは、井戸水の浄化を頼む」
ーーはぁい、了解しました。
ポチャリと、ビンごと井戸に放り投げる。今のディーナの本体があのビンになっている以上、これでこの井戸からは無闇に出られ無いはずだ。もちろん、寝込みを襲うなんて無理な話だな。
次はカフェの二階……自室に向かう。
「あ、スグル。おかえり」
「ただいま」
『店の開店はいつだ?準備は終わってるぞ』
「まぁ慌てるなよ。やる事を整理しないとな」
その部屋には、ヴェルとノヴァがいる。イベントの後、二人はカフェに先に帰しておいたのだ。
ちなみに、キュウはヴェルの側で眠っている。ちょっとやそっとでは起きなさそうだ。
「さて、まずはカフェ店長として業務連絡。イベントの報酬を使って新たにウエイターを雇おうと思う」
「うえいたー?」
『主に、注文や料理を運んだりする従業員の事だ。調理し無い代わりに、接客をするんだよ』
「あぁ、なるほど……」
解説ありがとう、ノヴァ。
アイテムBOXからNPC創作チケットを取り出す。
「このチケットを使えば、ウエイターNPCを一人作れる。そこで一つヴェルに質問なんだが……」
「なに?」
「ヴェルが魔法を習得する時、SPを使ったか?」
SP…つまりスキルポイントと言う単語を聞いて、火山でブラウンさんから一通りの説明を受けた事を告白する。その上で、ヴェルは言った。
「使って無いよ。ウチの魔法は全部自力で…れべりんぐ?したもん」
「そうか、わかった。という事は、だ……NPCでも努力次第でスキル習得が出来るって事だな」
例えば、ウエイターNPCを作ったとして。
食器の片付けはまぁ良いとして、掃除をするのにスキルが必要だった場合、プレイヤーで自由度のある俺が表に出なければならない。そうすると、調理に専念する事が出来無い。それだとウエイターNPCを作った意味が無いだろ?
つまり、学習によって実現可能かをヴェルに確認したわけだ。
「よし、それじゃあ早速NPCを作るか」
『作り方は分かるのか?失敗したら取り返しがつかないぞ?』
「大まかな流れはゲシュタルトに聞いてある。まぁ問題無いだろ」
チケットを破り、効果を発動させる。
最初に出てくるのは、メニュー画面だ。ここで作成するNPCの性別を決める。ウエイターなら女性だろうと、選択する。そうすると、空中に女性型の人形……マネキンが出現した。
ゲシュタルトの話によれば、このマネキンをメニュー画面で着せ替えたり体格をいじったりして作るそうだ。
「服装は…メイド服を基準に少し印象を柔らかくして……身長はどうしようか」
『それなら可愛気のある中学生くらいで良いんじゃ無いか?』
「なるほど、じゃあヴェルより高くて俺より低いくらいが丁度良いな。俺としてはこれで十分なんだけど、ヴェルから何か要望はあるか?」
「え?なんでウチ?」
「俺は一日中ここにはいないからな。接する機会が一番多いヴェルに決める権利があると思うぞ」
「そっか…うん、わかった。それじゃあね……髪型はセミロングな感じで色はブロンドレッド。目はちょっとつり目で瞳の色はとび色、それから……」
ヴェルの言う通り、メニュー画面を操作してマネキンをいじる。さすがに性格とかキャラ設定は決められないけど、なんだか気の強そうな女の子が完成した。
「……よし、作成完了…っと」
最後に全ての外見設定を確認し、画面に表示された〈創作完了〉を押す。
すると、作り物感が漂っていたマネキンの皮膚が徐々に生々しくなり、十数秒後には一人の女の子になっていた。
「……おはようございます」
「「『あ、オハヨウゴザイマス』」」
発せられた言葉は外見と見合わず、丁寧な感じだ。欠点を上げるなら、少々ダミ声のキー音高めだという事くらいだ。
「…私の創作主は〈スグル〉様でよろしいですか?」
「…あ、ハイ。そうです俺が創作しました」
「では創作主にお尋ねします。一人称や性格を外見と一致させますか?それとも設定されますか?」
なるほど、性格はこうやって決めるのか。
「外見と一致で」
「畏まりました、では……」
一拍だけ間を空けて、少女は深呼吸をする。
「あたしに名を付ける権利を与えるわ、愚民」
……素っ転びそうになった。比喩表現ではなく、本当に。
「あー……え?」
「聞こえなかった?あたしに名前を付けろって言ってるのよ」
「…ウチ、こんな人嫌だ……」
「そこの駄犬!誰が話す権利を与えたかしら?黙りなさい」
ゲシュタルトなら喜んで罵倒されに行くのだろうけど、生憎俺にはそういう趣味はない。
とはいえ、このまま放置していても良い事は無いから、性格設定を変更するか。
「…ちょっと、何ジロジロ見てんのよ。あたしの可愛さに欲情したのかしら?だったら特別に靴を舐める権利を与えるわ」
あ、ダメだこれ。性格変更出来ねぇや。だってもう関わりたく無いんだもの。
「……まぁ、世の中には需要と供給があるからな。そこに賭けるか」
「何一人でブツブツ言ってるのよ。あんたのムスコを蹴り飛ばすわよ?」
「それだけは勘弁して欲しいな……シェスタ」
「……シェスタ?それがあたしの名前かしら?」
「そうだな、そのつもりだ」
「シェスタ…シェスタ……ふぅん、愚民にしてはいい名前を思いついたじゃない。ご褒美に踏んであげるわ」
「遠慮する」
周りに変態しかいないからか、このキャラに慣れるのは早かった。要するに気の強いお嬢様系のサディスト風…って所だろ?彼女もちロリコン紳士の下種風に比べれば可愛いもんだ。
「で?あたしは何をすればいいわけ?」
「そうだな、この部屋の下にちょっとした食事処がある。そこのウエイターをやってくれ……分かるか?」
「バカにしてるの?お客がきたら席に案内して注文聞いて料理運んで清算して片付けする役職のことでしょ?」
「そうだ。完璧だな」
「当たり前よ、犬でも出来るわ。というわけで駄犬、あなたがやりなさい」
「……え?」
なるほど、あくまでもキャラ設定を覆さないつもりか。
「悪いな、シェスタ。ヴェルは調理担当なんだ」
「料理ならあたしも出来るわ。変えなさい」
「ダメだな。失敗して足を引っ張られても困る。それにな、俺はシェスタに期待してるんだよ、ウエイターにしか出来ない事を完璧にこなしてくれるって」
「…………し、仕方ないわね。そこまで言うんなら、やってあげない事も無いけど」
ちょろ……いや、聞き分けが良くて助かる。ある意味、こういう性格は慣れてるからな。
「じゃあ、頼んだぞシェスタ」
この手の性格を持つ人は、大抵が頼られた事が少なかったりする。だから、お願いとか頼み事には結構弱いのだ。
「〜♪」
鼻歌混じりにシェスタは部屋を出て階段を下りる。
食材の下ごしらえは済んでるから、残るは座席の整理と簡単な床掃除だけだ。
「……よし、じゃあ次だ。今度は、これ…ギルド創設増設チケット」
NPC創作チケットと同様に、アイテムBOXから取り出した。
「こいつの使い道を考えたい」
「考えるもなにも、スグルが使えば良いんじゃないの?」
『ヴェル、ギルドを作れば少なくとも不特定多数の人間がヴェルを見る事になる。果たして、全ての人間が善人だと……地に堕ちた魔王の娘を無下に扱わないと、言い切れるか?』
「う……」
「まぁ、そういう事だ。とはいえ、例えば料理専門ギルドを作ったとすれば、大きなビジネスになると思う。しかし同時に、俺には守りたい人達がいるのも事実だ。だから、この件に関してはヴェルに一任しようと思う」
大きなビジネス、というのは料理スキルを有効活用する為だ。
考えても見て欲しい。そこに居るだけで標的の弱点を見抜き、空腹という時限爆弾を回避させることができるのだ。
これほど頼もしい後衛が、優遇されるとは限らない。YKがどこでも起きる世界で、出る杭が打たれないというのは、あり得ない話だからだ。
「……スグルの言うビジネスって、どういう物?」
「料理専門ギルドを立ち上げて、冒険に出るプレイヤーに料理スキル保有者を貸し出す。有料化させる事により暴力行為をある程度抑制させる。プレイヤーは料理スキル保有者が確実に使え、対して保有者は自らの安全を保障されて経験値まで手に入る。両者共、怪しいプレイヤーに引っかかる事もない。まさにウィンウィンな関係だ」
有料化に対しては、本当に効果があるのかは保障出来ない。しかし、ある程度は効果が出るのは目に見えてる。
例えば、あなたが飲食店に行ったとしよう。料理を注文し、テイクアウトする。するとサービスでお箸やスプーンが差し出されたら、おそらくは家に帰って差し出されたお箸等で食すだろう。更には使った後には捨てるだろう。ところが、このお箸やスプーンに料金が発生したらどうなる?一度で使い捨てず、二回か三回程度は繰り返し使うのでは無いだろうか?
この話は仮の話で、信憑性は低いかもしれないが、一理ある話では無いか?少なくとも俺は思うな、一考の価値があると。
「……スグル、ウチはギルド創設に賛成する」
「いいのか?」
「スグルがいるなら、どこでも安全だと思う」
「…そうか。じゃあ、そういう方針で。創設に関する細かい事はジュンさんに聞きながらするから、今の所は保留だな。残るは……SPの振り分けか」
なんやかんやあって、俺もヴェルもそれなりにレベルが上がってるから、貯まったSPを割り振る。とりあえず、今のステータスを確認しないとな。
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スグル:レベル18
未振り分けSP:25P
スグルのスキル一覧
ユニークスキル
【鷹の目】Lv.95
麻痺効果付与&ホーミング
【料理人】Lv.32
料理が作れる
弱点発見
【危機回避】Lv.5
自身より強者に限り気配察知
【蜘蛛の糸】Lv.17
粘着性の糸を発射する
【蜘蛛の糸X】Lv.19
粘着性の糸を射出する
職業スキル
【連射】Lv.4
11連射可能
【回避行動】Lv.5
回避に成功すると最大HPの5%回復
【立体逃走】Lv.2
全ての物体を足場にする
【スタミナ補正 Ⅰ 】Lv.4
スタミナ補正+40
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うん、思った通りだ、結構貯まってる。とにかく、可能な限り職業スキルを最大にしておこう。
「スグル、ウチも上げて欲しいんだけど。自分じゃあいじれないし」
「そうだな、じゃあ先にヴェルのスキルを上げようか……あぁ、キュウとノヴァのもやらないと」
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ヴェル:レベル20
未振り分けSP:60P
スキル
【魔眼】Lv.17
魔力感知と魔力線を視認する。
【魂魔庫】Lv.75
魔力が無限になり、防御力がかなり低下する。
他者に魔力を与えられる。
ユニークスキル
【料理人】Lv.5
料理が作れる。調理時に多少の補正機能あり。
魔法
【火魔法】Lv.5
灼熱の炎を操る。
【水魔法】Lv.5
水流を操作し、従える。
【風魔法】Lv.5
気体操作。空気振動による攻撃が可能。
【土魔法】Lv.5
創造。物体を生成し、使用する。ただし、本物よりはるかに劣る。
【虚無魔法:有利得瑠】
白の空間を生み出し、その内部を零に戻す。そこに新たな世界を創り出す。
【虚無魔法:無二消全】
黒の空間を生み出し、その内部を無に帰す。本人の意思とは関係なく全てを消し去る。
【虚無魔法:有二得全】
七大魔法の一つ。強欲の体現。
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……まぁ、分かってた。虚無魔法がヴェルに発動しているのは、予測できたからな…それは驚かない。
だけど、三つ目の虚無魔法……あれはなんだ?強欲?
「…どうしたの?スグル」
「……あぁ、いや。なんでも無い。それからな、虚無魔法が発動してたぞ。レベルの設定が無いから、おそらくは込める魔力で威力が変わるんじゃ無いかな?」
有二得全に関しては、俺の中だけに伏せておこう。しっかりと調べて、正体が明らかになった時に話せばいい。
「ふぅん……それで?ウチのレベルはどうなってたの?」
「…そうだった。レベルは二十、未振り分けSPは六十ポイント貯まってた」
「じゃあ、早速割り振ろうよ!」
「……してやりたいけど、割り振るスキルと魔法が無い」
「えぇ……」
「じゃあ、新しい魔法でも覚えるか?」
「何があるの?」
「雷魔法が残ってるぞ。風魔法を最大レベルにしたから解放可能になってる」
「雷…?どうやって出すの?」
「さぁ……?多分、空気を圧縮してプラズマを引き起こすんだろうな。デフォルト単体魔法じゃあ、最強の部類に入ると思…う……ぞ……」
空気を圧縮して、と言った所でヴェルは実践し始めた。手の中で空気を圧縮し、限界まで小さくする。光の屈折率が変わって、そこだけ歪んで見えるほどに。
「む……ぐぬぬ…もう、少し……」
思わず、こちらも力んでしまう。やがて歪みの中に青白い発光体が生成され始め、それはパチパチと音を立て始めた。しかし。
「…………ふはぁぁぁ……もうだめ…」
反発する空気を抑えきれず、圧縮する力を抜いた。そうすればどうなるか……わかると思うけど。
予想通り、圧縮された空気は外に解放され、部屋の中を突風が吹き荒れた。発生していたプラズマは解けて消え、何も残ら無い。
「やっぱり、難しいか?」
「……空気の圧縮だけじゃ無理。もう一つ、何かが欲しいんだけど…」
「SPで習得もできるけど、どうする?」
「いい、自分で考える。SP振り分けは……また今度でいいや」
「そうか。それとな……今度から練習するなら外でしてくれ」
「え?」
部屋の中を見渡し、初めて気が付く。突風で色々と散らかっている事に。
「あ……ご…ごめん」
「うん、まぁ、初めての事だし。次から気をつけてくれればいいよ」
「……ウチ、片付けとくね」
そう言って、ヴェルは部屋の中を整理し始めた。
「……さて、と。次はキュウだな」
「…………」
「ヴェルがいなくなったからって不機嫌になるなよ…」
『大丈夫だ、スグル。鳴か無いだけで無視はして無いぞ』
「ふぅん…なぁ、ノヴァ。訳せるか?」
『任せろ。えぇと、今は……『さっさとせえやドアホゥ』……だってさ』
「口が悪いなぁ……」
『『やかましいわ。早よせえ』』
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キュウ:Lv.9
未振り分けSP:27
スキル
【幼獣】Lv.2
成獣化するまで、各ステータスに制限が掛かる。時間が経つとレベルが下がり、ゼロになると成獣化する。
【魂魔庫】Lv.68
魔力無限になり、防御力がかなり低下する。
他者に魔力を与えられる。
【幻術】Lv.12
相手に幻を体感させる。
【変幻】Lv.14
自身の体を違う物に見せかける。
ユニークスキル:無し
魔法
【火魔法】Lv.5
灼熱の炎を操作する。
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「………」
『『どやねん』』
「…偏ってるなぁ」
『『あぁん?あんた喧嘩売ってんの?』』
「あのさ、キュウ。他の魔法を習得しようとか思わないのか?」
『『なんでやねん。アタイはキュウビやで?火を司ってなあかんやろ』』
「…ヴェルはほぼ全部の魔法を習得したぞ」
『『で?』』
「キュウ、全部の魔法を覚えたら掛け合わせの幅が広がるぞ」
『『だからどないやっちゅうねん』』
「……キュウが魔法を全部習得したら、俺の入る隙が無くなるなー困るなーでもキュウは覚えないみたいだし安心だなー」
『『………』』
お、そう言ったら悩むのか。損得勘定抜きでキュウはヴェルを気に入ってるんだな。嬉しいよなぁ本当に。
『『……おい、スグ』』
「……お、おぅ」
『『全部の魔法。覚えるで。最大レベルで』』
「そうか。ちなみに、ヴェルは全部自分で覚えたぞ」
『『……魔法の原点だけや。それだけ覚える』』
全く、素直というかなんと言うか。ヴェルの隣はキュウだけしか認めないんですねわかりました。
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キュウ:Lv.9
未振り分けSP:24
スキル
【幼獣】Lv.2
成獣化するまで、各ステータスに制限が掛かる。時間が経つとレベルが下がり、ゼロになると成獣化する。
【魂魔庫】Lv.68
魔力無限になり、防御力がかなり低下する。
他者に魔力を与えられる。
【幻術】Lv.12
相手に幻を体感させる。
【変幻】Lv.14
自身の体を違う物に見せかける。
ユニークスキル:無し
魔法
【火魔法】Lv.5
灼熱の炎を操作する。
【水魔法】Lv.1
水質浄化。
【風魔法】Lv.1
気温感知。
【土魔法】Lv.1
穴掘り
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「……よし、こんな物だろ。雷魔法は風魔法をマスターしないとSP使っても習得できないからな。頑張れ」
『『当たり前や。アタイを舐めとったら承知せんぞワレェ』』
……なんだろ、このB級映画の極道みたいな喋り方は。エセ関西弁みたいな…きもちわる。
散々俺に暴言を吐いたキュウは、もうお前に用はない。的な雰囲気と態度を出しつつ、部屋の片付けをするヴェルの元に走る。
既に定位置と化した頭に飛び乗ると、くるりと尻尾で体を包んで眠り始めた。
「…………最後はノヴァだな」
『おう』
「何気にノヴァのステータスを見るのは初めてじゃないか?」
『…そうだな。俺のスキルと魔法の秘密に関するあの時も、結局見なかったし』
「……ちょっと緊張するな」
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ノヴァ:Lv.15
未振り分けSP:45
スキル
【質量操作】Lv.86
任意の質量を操作する。
ここでの質量とは体積と密度を示す。
【思念伝達】Lv.99
他者と言葉を使わずに話す。
レベルが上がると対象範囲が広がる。
【魔力五感】Lv.99
魔力を感知する。
レベルが上がると効果範囲が広がる。
魔法
【重力操作】Lv.72
特定範囲、特定位置の重力を操作する。
重力源を発生させる。
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「…色々スゲェな、ノヴァ」
『何が?』
「ステータスを見て初めて分かった。最強だコレ」
『お、おぅ……お世辞か?』
「いやぁ……ノヴァが味方で良かったよ本当に」
『なんだよ、気になるじゃないか。俺のステータスはどうなってんだ?』
「知らない方が今後のためだ。割り振れる魔法も殆ど無いし、他の魔法を覚える気も無いだろ?」
『ん?……そうだな、覚えては見たいけど使いこなせそうに無いしな。いやいや、話をそらすな』
「……じゃ、今度ノヴァの力を検証しよう。その時までお預けだな」
『くそう……気になるぞ……自分で見れないのがここまで苦痛だとは…』
「さて、と。開店準備だ」
納得の行かないノヴァは放置して、部屋を出る。しばらくすれば思考を切り替えて店に降りてくるだろ。
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「うわぁ…」
下に降りた俺は、自分の目を疑った。
何一つ終わっていなかったのだ。それに、下手をすると最初の方がマシかもしれない。
「どう?すごいでしょ?褒めなさい愚民」
「…………あ、うん…すごいね」
うん、何も教えなかった俺が悪いな、コレは。
ここまで店を荒らされるとは思ってなかった。
「…シェスタ。今から掃除の仕方を教える。まずは…その手に持っているホウキとチリトリの使い方からだ」
ホウキは毛の生えた方を下にし、床を毛で何度も掃きながら一直線に端から端まで徐々に進む。同じ動作を二歩分後ろで繰り返し、最後に掃き出したゴミは一箇所にまとめる。
チリトリは集めたゴミをゴミ箱まで運ぶ物だ。前のめりに角度を付けたり、掃き入れながら後ろに下がるとキレイになる。
と言う風に、一通りシェスタに掃除の何たるかを教えた。学習が終わると、今度は綺麗に掃除が出来るようになった。それどころか、自分なりに効率の良い方法を模索し始めたくらいだ。
「……じゃあシェスタ、終わったら言ってくれ。俺は客席を整えてくる」
「うんわかった」
そこでふと、思いついた事を聞いてみる。
「ところでシェスタ。お客様がご来店されたら、どう接客するつもりだ?俺を客だと思ってやってみてくれ」
「……よく来たわね愚民。帰っていいわよ」
シェスタの頬をつねった。それはもう足が浮くくらいに。
「バカか!お客様を帰してどうする!」
「ひはは!はひふんほよ!(痛たた!何すんのよ!)」
「ちょっとは考えろ!例えばシェスタがメイドを雇ったとして、愚民とか言われたらどう思う!」
「ほんはほ、ほふくひほ(そんなの、即クビよ)」
「…今のシェスタはメイドと同レベルだと思ってくれ。そして、来店されるお客様は仕えるご主人様だ。メイドの気持ちになって話し方をやり直せ」
シェスタの頬から手を離し、口を使わせる。
「……いらっしゃいませた。ご主人様…こっ…ちらにどうぞ……?」
まだ言葉がつたないが、出会い頭に愚民呼ばわりされるよりはマシだろ。
「まぁ、そんな所だな。設定上、俺の事を愚民呼ばわりするのは構わない。そのキャラに対する需要と供給も認める。でも、全部がそうとは限らない」
「……はい」
「よし。お客様はご主人様だ。もう店を開ける、俺は厨房に入るが後は頼んだぞ」
「は、はいっ!」
店の看板をCLOSEからOPENに変え、厨房へ。仕込みは終わっているし、そろそろヴェルが降りてくる。ノヴァと二人ならメニューに書いてある料理はほとんど作れるし、俺は新しい創作料理でも考えようかな。
「きゃぁぁぁぁ!!!」
「な、なんだぁ!?」
表からシェスタの悲鳴が聞こえてくる。慌てて厨房を飛び出し、声の元まで駆けつけた。
「ふひへほほほほ、かわええ!かわええよメイドたん!ごほーししてけろ!」
「いやっ!キモイ!帰れ!しねっ!」
「美少女!ツンツン美少女キタコレ!ふひ、ふひひひひひひ、おっとよだれがじゅるり」
「キモイキモイキモイ!」
…………まぁ、察しの良い方ならもう分かるだろうけど。ゲシュタルトが来店しました。カエレ。
「…ゲシュタルト」
「ふひ…お?スグルか。飯を食いに来たついでに、愚痴りに来た」
「そうか、カエレ」
「しかしよぉ、NPC創作チケットで美少女を作るとは。お前も隅に置けないな」
「ヴェルがほとんど作ったんだよ、俺の意思じゃねぇ。カエレ」
「ほほう、ゔぇるたんが?そうするとお姉ちゃんが欲しかったのかな」
「どうだろうな、カエレ」
「……」
「……カエレ」
スグルとゲシュタルトの間に、無言の火花が散る。
しばらくして、ゲシュタルトの後ろで動く人影に気が付いた。
「…あ、ブラウンさん」
「……こんにちは。ごめんなさい」
「…いや、もう良いですよ。ゲシュタルトですから」
「……本当にごめんなさい」
「おいゲシュタルト。てめぇの彼女困ってんじゃねぇか、幼女美少女とホザく前に自分の嫁を大事にしろやボケナス」
「おぉおぉ言ってくれんじゃねぇか。そう言うてめぇこそ周りの気持ちに疎いんじゃねぇのか人たらし」
犬猿の仲、ああ言えばこう言う。スグルとゲシュタルトの相性は何処まで行っても最高で最悪なのだった。
「……えぇと、愚m…てんちょお。お二人様ご案内で良いのですょうか」
「…いや、一名だ。後ろの女性を案内して差し上げて」
「あ、スグルさん。一応、先輩もお願いします。ギルマスから伝言もあるそうなので」
「……良かったなぁゲシュタルト。てめぇの彼女に感謝しろよ?」
「あぁそうだな、代わりに毒が入れられないか心配だぜ」
未だ火花を散らしつつ、ゲシュタルトとブラウンさんは中に案内された。接客は、俺がしたが。
「ご注文は?」
「うさぎで」
「しねやくそが」
「私、モーニングセットで」
「はい、かしこまりました」
「おい、俺はまだ注文してねぇぞ」
「燻兎だろ?適当に作ってやるよ感謝しやがれ」
注文を受け、俺は厨房に戻る。もうヴェルは降りてきていた。ノヴァも一緒だ。
「…ごめん」
「ん?何が?」
「…スグル、怖い顔してるから部屋の事まだ怒ってるでしょ?」
「あ……いや、違うよ。いまゲシュタルトが来てるから」
「え……ゲシュタルト…が?」
「ブラウンさんもいるぞ」
「あ、そうなんだ……」
ほっと安堵の息を吐き、安心する。
『で?注文はあるのか?』
「そうだった。ブラウンさんはモーニングセット。ゲシュタルトはうさぎだとさ。俺がうさぎをするから、二人はモーニングセットを頼む」
「分かった」
『了解』
今日のモーニングセットはフレンチトーストとスクランブルエッグ、オニオンサラダ、それから珈琲だ。
燻兎は手の平サイズに切って蒸し焼きに。中まで火が通ったらバターを薄く塗ってオーブンへ。外をカリカリに焼いたらパンに挟んで終了。珈琲も忘れずにな。
▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎
『お待たせしました、モーニングセットです。こちらがうさぎです』
「ありがとう、ノヴァ君」
「うめぇ!うめぇよこれ!」
うん、口は悪いしロリコンでキモイし救いようのない下種な変態だが、素直なのはいい事だ。感想はこうでなくては。
「いやぁ、さすがゔぇるたんの手料理はうめぇなぁ!」
前言撤回だ。解体してミンチバーグにしてやる。食わずに捨ててやるから有難く思え。排泄物にならねぇだけマシだろ。
「……ふぅ、食った食った」
「もぐ…先輩、何か忘れてませんか?」
「ん?……あぁ、そうだった。スグル、ギルマスからの伝言だ。耳の穴かっぽじってよぉく聞け」
まだ隣で食事を続けるブラウンさんは放置して、ゲシュタルトは珍しく真面目な表情を浮かべた。
「……スグル君、君の事だからきっとギルド創設増設チケットを使用するだろう。さしずめ、料理支援を主体としたギルドだろうな」
なんと言うか、見透かされてるな。さっき決めた事だぞ?
「創設動機も、いい所に目をつけている。事実、DBのメンバーもその手のプレイヤーに騙された事がある位だ。恥ずかしい事だが」
その手の、という事は料理スキルを持つプレイヤーに、金品を騙し取られたという事だろう。
「そこで、ここからはDBギルドマスターからのお願いだ。ギルド創設が終わったら、うちのギルドと同盟を結んで欲しい。対価はもちろん、スグル君の望むものだ。頼りにしているよ」
俺の望むもの。ジュンさんは、恐らく何が対価とされるか分かっているらしい。俺からジュンさんに求める対価なんて、一つしか無いじゃないか。
「……とまぁ、これがギルマスの伝言だな」
「…ゲシュタルト、ジュンさんに伝えてくれ。対価はDBの持つ情報網だ」
「はぁ!?お前、馬鹿なのか!?うちのギルドじゃ情報は命に関わるんだぞ!」
「…情報網全て、とは言わない。俺の必要な時に、必要な事を調べてくれるだけでいい。出来れば、最新情報もここに流してくれ。小ネタから最重要機密まで」
「ばっ…ンな要求呑めるかっ!」
「…先輩、それはジュンさんが決める事だと思うけど?」
「むぐっ……!いや、けどよ」
「たらればの話を、先輩がしていいの?」
「………ぐぬぅ…」
「伝言は伝えた。ギルド同盟はあと一歩。スグルさんの要求も聞いた。仕事は終わった。あとは……帰るだけ」
「……」
「ごちそうさまでした、スグルさん。そろそろお暇しますね」
まだ少し納得の行かないゲシュタルトを連れて、ブラウンさんは店を後にする。
さて、新しい波乱の予感がしないでも無いが……どうなる事やら。
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街の中心から、外壁の東西南北にかけて巨大大通りが引かれている。そこから合計幾百もの大通りが十字に引かれ、さらにその大通りから裏路地や入り組んだ道……という風に、この街の地図は為されているのだ。商店街なんかもこの無数にある通りの一つだ。
迷わないのは、至る所に転移用のポイントが設定されていて、街にいる人達はNPCを含めてそれで移動しているから。
では、街の中心とは一体何で出来ているのだろうか?街の中心には、無数の摩天楼があり、その全てはギルドが保有している。もちろん、全て有名なギルドばかりだ。
そこからちょっとズレた外側に、彼ら……DBの本拠地が存在する。
「まぁ、そう硬くならなくていいよ。楽にしてくれ」
「楽に……って言われてもね…」
DBのギルドホールは、地下一階に訓練闘技場、地上階にギルドクエスト発令所兼休憩所、地上二階に巨大会議室、三階はマスター室と仮眠室と応接室と幹部会議室で構成されているのだ。
今回は、マスター室に彼らは呼ばれていた。誰に、と訪ねるのは無粋だろう。このマスター室に入れるのはジュンギルドマスターとハクサブマスターしか入れないのだから。
今は、マスター権限で誰でも入室可に設定してあるが。
「ねぇ、ジュンさん。あたし達に用事って何?」
イベントの結果発表が一通り終わると、ジュンはマミナ、ショウ、スサノオ、クシナダ、キョウカの五人に声をかけて自分のギルドホールまで来るようにと招待していた。
「うん、単刀直入に言うとだ。君達五人をボクのギルドに勧誘したい」
「「「「「……はぁ?」」」」」
「意味がわからないかい?」
「いや、意味は分かるぜ?そうじゃなくて、何で?って事」
「理由はいくつかある。増えたギルドメンバー枠に優秀な人材を入れる。それぞれの才能と能力。それから、スグル君との太いパイプだ」
五人は、頭にハテナを浮かべた。どうして、ここにいないスグルの名が上がるのだろうか、と。
それを察したのか、ジュンは少し話を掘り下げる。
「スグル君、ギルドを作ると思うんだ。で、ボクとしてはそのギルドと深く繋がっていたいわけ」
「…なるほど、そう言う意味なら俺たちは最高の人材って事か」
「そゆこと」
「……嫌、なら、断って、いい」
「そうだな、ハクの言う通りだ。DBに所属したから、と何かを押し付けたり規制するつもりは無い。今ボクは君達の好意に甘えているのだから」
ニコリと屈託の無い笑みを浮かべ、ジュンはそれ以上は何も言わなかった。
「まぁ、あたしは別にギルドに入ってもいいけど」
「ありがとう、マミナ。DBは君を歓迎する」
「俺も入るぜ。スグルのギルドに行くのもいいけど、俺じゃあギルドの助けになりそうに無いからな。スサノオも入るだろ?」
「おう!ショウ兄のいる所にオレ有りだぜ!」
「クシナダちゃんは?」
「入ります!入れて…ください」
「ありがとう、みんな。感謝するよ」
そして、その場にいる全員の目線はキョウカに注がれた。
「私は……やめておきます」
「…そうか」
「はい、せっかくのお誘いなのに、ごめんなさい」
「いや、咎めはしないよ。断るのも勇気がいるからね。それに、キョウカ君はボクのギルドより、スグル君のギルドに入る確率が高かったからね」
一通りの返事が聞けた辺りで、彼らは部屋を退出した。そのしばらく後、マスター室の扉がノックされる。
「入っていいよ」
「失礼します」
扉が開き、顔を見せたのはゲシュタルトとブラウンだった。スグルのカフェから帰ってきたようだ。
「報告します。スグルはサブマスの読み通り、ギルドを創設するつもりの様でした。その際に提示された対価ですが……」
ゲシュタルトは少し、言葉を濁す。
「…対価ですが、DBの情報網全ての貸し出し自由権利と情報の横流しを求められました」
「よし、交渉成立だな」
「ですよね、交渉決裂……ファ!?」
「ん?何を驚いている?」
「………あ、いえ…別に…」
「……姉ぇ、また、前提、話て、無い」
「…あぁ、すまない。スグル君の出す対価には、ある程度予想がついていたんだ。それに合わせて、ボクも動いてたって事。さっき外でマミナやショウとすれ違わなかったかい?」
「……いえ」
「そうか。とすると入れ違いになったのかな?後で君達幹部には知り渡るだろうけどマミナとショウ、クシナダにスサノオが新しくメンバーに加わった」
「…あいつらか」
「まぁそんな所だな。仲良くしてやってくれ、ゲシュタルト君」
「……わかり、ました」
軽く一例し、ゲシュタルトは部屋を後にした。それに続いてブラウンも会釈して外に出る。
二人だけになったマスター室で、姉妹は深いため息をついた。
「……はぁ…疲れた」
「……ハク、も」
「やっぱ一度に複数人と話すのは疲れるなぁ…」
「……なら、一人、ずつ、対話、しよ?」
「やだよ、同じ話を何回も言うのは面倒じゃん?」
「……それ、じゃ、本、末、転、倒」
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再び、視点をスグルのカフェに。
「スグル!いる?」
「いるぞ、なんだよ」
「あたしね、ジュンさんのギルドに入る事になった」
「……だろうな」
「…うん?知ってたの?」
「知ってたっていうか、ジュンさんならそうするだろうと思ってた。ギルド創設増設チケットを貰った時から予感がしてたし、ここにゲシュタルトが来た時には殆ど確信を持ってたよ」
「んー…よくわかんないけど、まぁいいや。あたしとショウと、それからスサノオ君とクシナダちゃんがギルドにはいったからね、それだけ。じゃあ、あたしは帰るわ」
「おう。それから悪いんだけどさ、帰ったら炊飯器でお米炊いといてくれ」
「うん、いいよ。五合でいい?」
「おう、よろしく。炊き上がるくらいには戻るからな」
「…ちなみに、今日のおかずは?」
「もやし肉味噌炒め」
「帰ってもやし洗っとくね!あ、ヒゲは取った方がいい?ミンチ肉は?それからそれから……」
「落ち着け」
軽い興奮状態のマミナは一頻り騒ぐと、「こうしてはいられない!」とそのままログアウトした。早めに炊き上げて置きたいのだろう。
俺は、明日の分の下ごしらえを軽く済ませ、さっさと店仕舞いを始めた。CDO内時間で夜九時には、このカフェは閉めるようにしたのだ。
店の看板をOPENからCLOSEにするため、店の扉を開けると。
「……あ」
「こ、こんにちは…いえ、こんばんは……?」
そこには、キョウカさんが立っていたのだ。
「……もう店仕舞いだけど、何か用?」
「…あ、いえ、用と言うか、なんというか……」
「……あー、キョウカさん。とりあえず閉めるから中に入って」
「えっ!あ、はい」
店前でおどおどするキョウカさんを中に招き入れ、防犯目的で施錠する。
適当な席にキョウカさんを座らせ、とりあえずカフェオレを出した。
「砂糖はいる?」
「あ、いただきます」
余談だが、カフェオレには自律神経を整える効果があるとされている。
分かりやすく言うと、精神を落ち着かせる効果があるのだ。飲んでから三十分程度すると全身……特に脳に達して効果を発揮する。
ちなみに、飲んで直ぐ落ち着くと言う人は、単に思い込みでそうなるらしい。
「……はふぅ」
「落ち着いた?」
「はい、少し」
はたと、キョウカさんは今自分がどういう状況に置かれているかを考え始めた。
まず第一に、そこそこ広い店内にスグルと二人っきり。ついでに、さっき聞こえた施錠音。
「……あの、ヴェルちゃんやノヴァ君は…?」
「ん?今は上じゃないかな?入浴中だと思う」
あと数分、もしくは一時間程度、キョウカはスグルと二人っきり。ここは裏路地だから人もそれほど来ない。上、と言うからには住居スペースが二階なのだろう。そこと繋がる階段などは店の構造上、外付けか厨房の中。そして今自分が座っている場所は厨房からは見えにくい。
…………オトシゴロの男女が、夜中に二人っきり。
「……あ、ぁあ、あばばばば」
「おうどうした落ち着け」
「そ、その…スグル、さん…は……そういう意味で私を招き入れたのでしょうか」
「……そういう意味じゃないのか?」
てっきり俺は新設ギルドに入るために、こんな時間に来たのかと思っていたのだが。
「そそそそうですよね、オトコはみんなオオカミですよね、美味しい獲物がいたら無条件で食べますよね、そうですよね、そうですよね。私は、スグルさんになら…その……食べられてもいいというか、なんと言うか……」
「……は?」
「もう!煮るなり焼くなり好きにしちゃってくださいっ」
「何言ってんのキョウカさん。なんで俺が色欲魔みたいになってんの」
「……ほえ?」
「……一つ確認したいんだけど、俺がギルドを作るっていう話は知ってた?」
「えぇ、ジュンさんから聞きました」
「キョウカさんはそのギルドに入りに来たんじゃ無いのか?」
「…そういえば、そうでした」
そこまで自分で整理した後、先ほどまでの言動を思い出して赤面する。
「……忘れてください」
「お、おぅ……」
一呼吸置いて、俺はキョウカさんに尋ねる。
「で、だ。元々勧誘するつもりだったけど、今度新しいギルドを作るんだ。入ってくれ無いか?」
「入りますっ」
即答ですかそうですか。まぁ嬉しいのはそうなんだけど、もっとこう……駆け引きとかしてみたかったかな。
「そ、そうか。まぁ意思は聞けたから、創設出来次第連絡するよ。えぇと……フレンド登録は済んでたっけ?」
「いえ、まだです」
「じゃあ、申請しておくよ。俺はそろそろ帰るから」
「はい、分かりました。また明日です」
キョウカさんにフレンド申請を送り、俺はそのままログアウトした。
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目が覚めたのは、自室のベッドの上だ。たった数時間前に見たはずの天井が、懐かしく感じられた。
「…ふん……ぐぐ…はぁ」
横たわった状態で、全身の筋肉を引き延ばす。指の関節や首の辺りからパキポキと軽快な音を立て、軽くストレッチ。上体を起こすと同時にリンクギアを外し、こみ上げる欠伸を噛み殺しながら自室を後にした。
………もう一度部屋に戻って二階の窓を閉める。そして今度こそ下に降りるのだった。
「あ、響おはよう」
「…まぁ、真美菜はいるよな」
「ん?」
「なんでも無い。翔は?」
「まだ来てない。家にいるんじゃないかな?」
「そうか。お米は炊いてる?」
「うん、五合炊いてるよ。おかずは?」
「冷蔵庫にもやしがあるだろ?ミンチ肉は今から買いに行くけど……真美菜も行くか?」
「行く!」
「お菓子は買わないぞ」
「…………やっぱ行かない」
子どもかっ!馬鹿すぎるだろ!
「…荷物を持つなら考えないでも無いぞ」
「やっぱ行く!」
「よし、それじゃあ行くか。一応、他に買うものも調べて……と」
キッチン周りと冷蔵庫の中を一通り覗き、買うべき物をメモに書いていく。
「えぇと、まずはミンチ肉。それから…牛乳も残り少ないな……卵は…少しだけ余裕があるな。安売りしてたら買うか。その他調味料は……醤油とマヨネーズが切れかけ……と」
響があれこれメモに書き記している間、真美菜は身支度を整えている。
別に化粧をするとかそう言うのではなく、部屋着から外行きの服に着替えるだけだ。
……この辺りの女性特有の行動、未だに全然わからない。特に、五分もあれば済む準備が十五分以上かかる辺りが。
「…さ!行きましょ!お買い物だよん!」
「……なんでそんなに上機嫌なんだよ」
火の元を確認し、翔が来た時の事を考えて「買い物に行ってきます」と書き置きをしておく。
「行ってきます」
「……無人の家にその言葉をかける響は流石だわ…」
「普通だろこんなの」
家から最寄りのスーパーまで、徒歩十分。三葉マークが目印の、この辺りの地方では割と有名なスーパーだ。
店の駐車場やらが大通りに面しているのと、他のライバル店が無い……というより生存競争に打ち勝った……事もあって、地方民には馴染み深いスーパーとなっている。
店は二階建てで上は日用品、下は食品売り場だ。今日、用があるのは一階の食品売り場だが。
「おっかしーおっかしー」
「真美菜の頭がおっかしー」
「ひどいっ!」
「……さて、と。まずは醤油とマヨネーズかな」
手押しカートにカゴを乗せ、カラカラと錆びた車輪の音を立てながら店内を物色する。
「……あ、そういえば明日の朝の事を忘れてた。材料も無いし…不本意たが惣菜パンでも買うか」
「え?何?完成された既製品でも買うの?」
「あぁ、不本意たがな。それとも、朝ごはんが遅くなっても良いのか?」
「買うわ。あたしは、食パンがあればそれでいいし」
食パンと、それからバターロールなる物をカゴに入れ、次は乳製品コーナーへ。別に順番なんて考えて無いが、たまたますぐ隣に牛乳が置いてあったのだ。まぁ、パンのお供に牛乳をどうぞ、という店側からの粋な計らいなのだろう。
「牛乳はとりあえず三本でいいか」
「え?そんなに多く買うの?」
「……真美菜、我が家で一番多く牛乳を飲むのは誰だと思う?」
「えー……翔?」
「鏡を見てこい馬鹿。真美菜一人で半分消えるんだよ」
「えー?うっそだー」
「…………」
「……ごめんなさい」
牛乳を三本、カゴに追加。
再び店内を物色する。醤油とマヨネーズは乳製品コーナーから少し遠い所で販売していた。
「ギュエピー印のマヨネーズが一本、バツコメ醤油が一本」
「ほほいのほい」
響はメモを見つつ、真美菜は言われた物を取ってくる。
カゴに入れた物はメモから削除していった。
「最後は……ミンチ肉か」
「待ってましたっ!」
「真美菜の目利きが頼りなんだからな。一番美味しくて安いミンチ肉だぞ」
「ハイハイ、分かってるわよ」
真美菜は、醤油とマヨネーズが置いてあったソースコーナーから精肉コーナーへ。響は、その途中で卵コーナーを見る。
「卵は……と……あぁ、あった」
いつもの値段と、今日の値段を頭の中で比べる。
うん、今日は安いな。買っておこう。
そう思い、近くにあった卵に手を伸ばすと、横から入った誰かの手とぶつかった。
「あ、すみません」
「いえ、こちらこそすみません」
「どうぞ、俺……僕は別の物でいいので」
「いえいえ、先に取ろうとしたのはあなたです。私は別の物を……」
「いえいえ遠慮なさらず」
「どうぞどうぞ、私は結構ですから」
譲り合いの譲り合い。無限ループって怖くね?
「おい茶子、卵は……なんだてめぇ」
「…君こそなんだ。初対面に『てめぇ』は無いだろう?」
「あ?うっせぇよ。茶子から離れろ」
「ちょ、重人。この人は……」
「茶子は黙ってろ」
周囲の人間がナンダナンダと視線を寄せるが、最終的には痴話喧嘩とみなして離れていく。
「響ぃ、お肉あったよ……って、誰この人」
「おうおう、いいご身分じゃねぇかよアァン?彼女がいるのに人の彼女ナンパたぁいい度胸じゃねぇかよ、お?」
「もういいよ、重人、行こ?卵はあったし、ね?」
「……よくねぇ。こういう野郎は叩きのめさねェと気がすまねぇ」
「奇遇だな、俺も人の話を聞かねぇ馬鹿は嫌いだ」
もう一言、どちらかが発すれば殴り合いに発展しそうな空気になった辺りで、真美菜は側に立つ彼女を見て、ある事に気が付いた。
「……あれ?確かあなた、毎朝烏丸高等学校の門前に立って無かった?」
烏丸高等学校とは、俺や真美菜、翔の通う高校だ。
「え、えぇ」
「……って事は、もしかして副生徒会長さん…で、合ってますか?」
「…確かに、私は副会長ですけど」
「じゃあ、もしかしなくても、隣の人は……」
「はい、生徒会長ですけど……?」
血の気が引いていく真美菜は、怯えた笑顔を浮かべながら、響の腕を取る。
「……なんだよ」
「あのね、響。うちの学校の会長が気難しい人だってのは、知ってる?」
「知らん」
「……だと思った。とにかく、その気難しい生徒会長を手玉にとる最強副会長が、この人なのです」
「……へぇ、すごいな」
褒められて照れているのか、乾いた笑みをこぼす。
「その名も『黒幕ブラウニー』!生徒会顧問の先生をパシらせ、生徒会長を足蹴に靴を舐めさせる、恐ろしい人なんだから!」
「ちょ!?言いがかりです!」
「あああごめんなさいっ!今すぐ失せます消えますだから消さないでっ!」
半泣きの真美菜は忘れ去られた安売り卵を一パック取り、響の腕を引いて逃走した。
「え、えええぇ!?」
困惑する茶子副会長を残して。
「……えぇ」
「良かったな、茶子……ククク、ナンパされて、なくて…ククク」
「笑わ無いで下さい!」
「クク…悪い悪、ぶふっ、黒幕ブラウニー……ぶははは」
「ぐぬぬ……」
重人は笑いを堪え……きれてないが……その異名をもう一度つぶやく。
「ブラウニーって、あはは、平らなチョコレートだろ?ぴったりだな、あははは」
「どこが!?」
「ん?どこがって……そりゃあ、ねぇ?」
重人は茶子の胸板に視線を送る。
強調性のない、その胸板を。
その意図に気が付いた茶子は、無言で右ストレートを重人のみぞおちに。
「ぐわらばっ……ククク、いてぇ、ははは、いてぇよちくしょ、あはは」
「……笑いながら痛がるとか、変態ですか?」
「クク…いやなに、黒幕ブラウニーが、的を射過ぎてるって思ってな……だってそうだろ?平らなチョコレートだぜ?」
「……もう一発逝きますか?」
「最後まで聞けよ。要するに、名付けた奴は茶子をチョコレートだと例えたんだぜ?詩人だとは思わねぇか?」
「…どういう意味です?」
「つまり、だ」
ぐい、と重人は茶子に顔を近づけたかと思うと、衆人環視の中だと言うのに。
茶子の口を、その口で塞いだのだ。
周りからは「あらあらまあまあ」といった視線が贈られている。
「……!?」
「…こうしてやりたいと、思ってるって事じゃねぇかよ」
「……!」
「……あーはずかし。さっさと買い物済ませて帰ろうぜ」
目的の一つである卵を茶子の持つカゴに入れ、響の逃げた方向に背を向けた。
未だ鳴り止まぬ鼓動と、口に残った感触を確かめながら、茶子は重人を追うのだった。
▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎
「はぁ……緊張した…」
「真美菜にもそんな感情が?」
「…………えっ?」
「……えっ?」
帰宅後。牛乳やら調味料などを片付け、響は早速だが料理に取り掛かった。
今日の夕食は『もやし肉味噌炒め』と『野菜サラダ』だ。サラダの材料はキャベツにキュウリ、トマトを切って盛っただけの簡単な物なので、これといって難しい物ではない。
一部、先ほどのスーパーで材料を調達したが。
「じゃ、真美菜。サラダは頼んだぞ」
「まっかせなさーい!」
キャベツはザク切り、キュウリはステイック、トマトはヘタを取って八分の一カット。
包丁が使えれば誰でも出来る簡単なサラダだ。スライスオニオンがあれば、尚良い。今日はたまたま無かったので使わないが。
「さて……俺はもやし肉味噌炒めだな」
家庭科の授業で使うような三角巾を頭に巻いて、材料をキッチンに揃える。
いつもなら料理に集中する為に視点を変えるが、今回は簡単なのでそれは省く。
とにかく、もやし肉味噌炒めの作り方だ。材料は二人前だと思ってくれ。
もやし一袋、豚挽肉百グラム、おろし生姜三グラム、味噌小さじ二、酢小さじ一調理酒小さじ一、砂糖小さじ一、醤油小さじ一。
作り方は豚挽肉、おろし生姜、味噌、酢、調理酒、砂糖、醤油をフライパンに入れ、強火で炒める。
味噌がはじけ出したら、もやしを入れて炒める。
完成。
簡単でしょう?料理するのが面倒だったり、時間が無い時なんかに便利なおかずなのです。
最初から最後まで強火で炒めることにだけ注意しておけば、子どもでも作れるんじゃ無いかな?
「よし、出来たぞ。後は皿に盛り付けて、ご飯が炊くのを待つだけだ」
「……あと数分で炊けるよ」
「ありがと、真美菜。ところで、翔はどこだ?」
「え?……さぁ?」
ん?俺より先に戻ったんじゃ無いのか?
「……ちょっと心配だな。悪いんだけど真美菜、翔の様子を見てきてくれ」
「うんわかった」
真美菜はリビングから出て玄関へ……行かずに、二階へ。例によって窓から行くつもりらしい。
もうそろそろ、玄関から出入りしろと言うのも疲れて来たな。
「……そろそろ炊き上がるか」
炊飯器のタイマーはあと一分を示している。もう秒読み段階だろう。
それを見越してか、上から降りてくる足音が聞こえる。
「……?」
おかしい。足音が一人分しか聞こえない。
「響」
「お、真美菜。どうだった?」
「……これ」
翔の部屋から持ち帰ったのだろう、一枚のメモ書き。
そこには、俺と真美菜に対してのメッセージが書かれていた。
『しばらくかえれない』
「……」
「……響、どうしよう」
「……どうにかなるだろ」
リビングには、炊飯器の圧が抜ける音と、炊き上がりを知らせる原始音メロディが鳴り響いていた。
ご愛読ありがとうございます。




