#54 終了
人形の強い攻撃を受け、スグルの身体が後ろに吹っ飛んだ。
「……ぐっ!」
「あれあれ、どうしたの?さっきの威勢はどうしたんだい?」
「うるせぇ……黙ってろ補食野郎ッ……!」
スグルとショウに十数体の亡骸が襲いかかる。元々死んでいるのが作用して、怯むことがない。さらに、厄介な能力をそれぞれが使用してくる為、対策し辛いのだ。
『スグル、こいつらボコっても無駄だ。さっさと本体を叩くぞ』
「それが出来りゃ苦労しねぇよ」
どれだけ亡骸を退けようと、勢いは止まらない。破壊に成功しても、回復型の亡骸が立ち所に復活させてしまう。更に厄介な事に、回復型は三体存在し、破壊しても復活して、とイタチごっこになるのだ。
「二人とも!あたしも手伝う!」
「「ダメだ」」
「なんでよ!」
「あのなぁマミナ、普通に考えてみ?」
「マミナが倒れたら俺たちの傷は誰が癒すんだ?」
「あ、そっか……」
先走るマミナに規制をかけた所で、スグルとショウの二人はやるべき事を成す。
「ッシャアオラァ!!回復型二体撃破!」
「叫んでねぇで残り一体を先行して撃破!」
「分かってらァ!」
運良く二体同時撃破を達成したスグル達だが。
「ぐぁぁっ!もう復活してる!」
「ほらほら、そんなんじゃ永遠に僕は倒せないよ」
「くそがっ!黙ってろ薄異本!」
「ぼっ、僕は薄くないっ!厚いんだっ!」
「薄異本が厚くなるんですねわかりました」
「〜〜っ!コケにしたなっ!許さないっ…僕の鑑賞物達!遊んでないでさっさとブッコロせ!」
ショウが暴食を煽ると、過剰に反応して総攻撃を仕掛けてきた。
こいつ、案外単純かもしれない。
そう思ったらちょっとだけ落ち着いた。
「おいスグル!この人形に弱点は無いのか!?」
「あったらもう射抜いてる」
「そりゃそうだが……」
「なぁ、ショウ。俺思ったんだけど……この人形全部倒しとかねぇか?」
「だからそれが無謀だって言ってんだろ!」
「いや、でもさ……」
「なんだよ」
「…なんだかこの亡骸、死ねなくて悲しい顔してね?」
「……はぁ?」
言われてみれば、確かに。
暗い顔はしてる。
「…死んでるから暗くて当たり前なんじゃ……」
もっともな事をヴェルは呟いたが、それに意見する者はいなかった。
「まぁ暗いって言えばそうだけどよ……」
「死ねないって、やっぱり辛いと思うぜ」
「……はぁ、仕方ねぇ。協力してやるよ。ただし、貸しな」
「いつも俺の家で飯食ってる恩返しじゃねぇのか?」
「それはまた今度な」
こいつ、はぐらかしやがった。
「それじゃ、まずは回復型を壊さないと。それでスグル、回復型の法則には気づいてたか?」
「…いや?」
「じゃ、確認。今まであの人形が連続して回復行動を取った回数は?」
「回数……?えぇと、ちょっとまて」
スグルは瞬間的に頭を廻らせ、一つ一つ行動を思い出した。
一番最初に使った回復は【裁縫】みたいな感じ。それから【蘇生】的な方法と…最後は動画の【逆再生】な風で……あれ?
「…ゼロ………じゃね?」
「そうだ。上手く悟られないように動いてるが、同じ回復型が連続して回復行動を取った回数ゼロ。ここに、付け入る隙があると、俺は思う」
……なるほど、魂胆がわかったぜショウ。つまり、最後に回復行動を取った奴を放置して、残る二体に攻撃を集中させる、って事だな。それならやり易い、二体破壊はさっきから何度か成功している。
「……ブチかますぞ、スグル」
「…了解!」
ショウは近くにいた適当な人形を破壊。続けざまに、回復型の人形がこちらへ向かってくる。
「今だ!やれ!」
回復に回らなかった人形二体に、スグルが発泡。首筋を半分程度もがれ、再起不能に。ついでに頭を足で踏み潰しておく。
「こっちは片付いたぜ!」
「さんくす!」
ショウは豪剣で頭部を両断。丸い頭が宙を舞った。
「……さぁて、面倒な奴は破壊出来た。次は……」
「他の人形達、だな」
「おう」
復活はもう出来ない。あとは、黙って殴るだけだ。
「行くぜェ……こうなりゃ全部晒し首にしてやらァ!」
「待ってろよ、暴食。お前を引き裂くのは最後だ」
ショウは剣先を、スグルは銃口を暴食に向ける。
「…ふざけるなよ、僕は強いんだ。お前らなんかに負けるか。絶望の底に叩き落として食い尽くしてやる」
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さて、こちらはハクジュン姉妹。彼女達は、映画館のような場所で、イベントを眺めていた。
実を言うと彼女達、イベントエリア内で倒され、ゲームオーバーとなってしまったのだ。負けてすぐに通常エリアに帰されるのかと思いきや、目覚めた所は今いる場所。ゲームオーバーになったプレイヤーは、一度この場所に送られ、通常エリアに戻る場合は後方に設置された転移ポイントに触れればいい、という仕様になっていた。実際、ここに来た半分ほどのプレイヤーは通常エリアに戻っている。
ちなみに、このエリア内では空腹によるバッドステータスやプレイヤーからの攻撃、その他諸々の影響を受ける事がなく……と言うよりスキルと魔法とアイテムが使えない……それでいて時間経過はイベントエリアと同じ時を刻んでいる。
「……スグ、ル、いい、読み」
「そうだな。ショウ君との呼吸も素晴らしい」
映画館のような場所には、当たり前だが一枚の巨大スクリーンが設置されている。そこには、スグル達が映っており、今ちょうど回復型人形を全滅させた所だ。
「…スグルさん、優しすぎませんか?」
「なんで?」
「死んだって言ってもNPCですよ?どうしたって命なんて無いのに」
「まぁ、それがスグルのいい所なんだろ。仮初めの命だとしてもな」
ブラウンとゲシュタルトが話している間にも、スクリーンに映るスグルとショウは手当たり次第に人形を手にかけている。
「ショウ兄すげぇカッコイイ」
「ショウさんがカッコイイのは当然です!」
「……どうしたんだよクシナダちゃん。逆ギレ?」
「そ、そんな事は……」
「……あっ!まさかクシナダちゃん、ショウ兄の事を……」
「…っ!」
「ショウ兄の事を目標にしてるのか!」
「……へ?」
「いやいや、よく分かるよクシナダちゃん。オレもショウ兄みたいな漢になりたいもんな」
「ア、ウン、ソウダネ」
スサノオが鈍感で良かった、そう思うクシナダだった。
「あー……ボクもあの戦いに参加したかったなぁ……」
「……スグ、ル、に、賭け、る…そう、言った、の、姉ぇ」
「そうは言ってもなぁ……」
「耐えてくださいよ、ギルマス。俺だってもどかしくて仕方ないんですから」
根っからのゲーマーであるジュンは、スクリーンの中で駆け回る二人の姿を見て、自分も暴れたくなったのだ。
「…姉ぇ、ヴェル、が、そろ、そろ」
「あぁ、だろうな、あの様子だと。果たしてそれが吉と出るか凶と出るか……」
「なんの話ですか、ギルマス?」
「ブラウン君、さっきから画面端にヴェルが映っているのが見えるかい?」
「……えぇ、見えます」
「自分の不甲斐なさに呆れて、今にも突撃しそうな顔をしてないかい?」
「…言われてみれば」
「…ヴェル、装備、して、突、る、準備、して、る。もう、時間、の、問題」
ハクがいい終わら無いうちに、スクリーンに映ったヴェルは全ての準備を整えて、前線に向かう。
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「……スグル」
「…ヴェル、もう大丈夫なのか?」
「うん、傷はふさがったし、体力(HPとスタミナ)は全回復した。話す気はまだだけど……気持ちの整理はついた」
「……そっか」
「…とにかく、後はウチに任せて」
「任せるって言ったってよ…ヴェルちゃん、勝てるのか?あいつに」
「大丈夫。ショウも知らないだろうけど、これでもウチ結構成長したんだからね」
そう言って、ヴェルは自分の四肢に憑依したキュウを見る。
「……行くよ、キュウ」
ーーよっしゃ!ぜーんぶ燃やしたろ!そんで萌えろや!
「何バカな事言ってんの。もう、やるからねーー点火!!」
ヴェルが、点火と叫んだその刹那……空間が、爆ぜた。
先程までそこにいたヴェルは、数メートル先に移動し……人形を一体、木っ端微塵に粉砕する。
…いや、少し違うな。〈微塵〉では無い。正しくは〈無塵〉だ。つまり、文字通り何も残らない。それこそ、何も。
「……お、おいスグル…あ、りのまま今目の前で起こった事を話すぜ……今確かに、そこには一体の人形がいた……だが気付いたら何も無い……な、何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのかも分からねぇ……」
「安心しろ、俺にも分からん。ただ一つ言える事は……」
「…なんだよ」
「ヴェルがすげぇ強いって事だ」
さて、スグルでさえ今起こった事を理解できて無いのなら、暴食は理科出来たのだろうか。
「……な、なんなんだよお前はぁぁぁぁぁ!!!ぼ、僕の、僕の鑑賞物が!消えて無くなっただとッ!?そんな、そんな馬鹿な話があるかっ!このクソガキ!どこに隠したっ!」
「ウチはどこにも隠して無いよ。あなたのコレクションなら、ほら、この辺りに」
ヴェルは、自分の立っている場所の周りを一見する。つまり、空気を見ているのだ。
「…認めない…認めない…認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、絶対に認めないッ!」
暴食は、玩具を壊された子供のように叫び、狂い、連呼する。
「僕の、僕の集めた選りすぐりの精鋭だぞ……それが、あんなクソガキに瞬殺だと……?ありえ無い、そうだよ、ありえ無いんだよ!」
「煩い」
言うが早いか、暴食の身体はヴェルの突撃で後方に吹っ飛んだ。
「……がふっ」
「しばらくそこで悶えてよ。すぐに終わらせるから」
その言葉を最後に、ヴェルの姿はいよいよもって視認出来なくなる。分かるのは、一体ずつ確実に仕留められているという事だ。
空間が爆ぜる爆音と、人形一体が消える時の衝撃音。どういう仕掛けを組めば、こんな芸当が出来るのだろうか。
十数体いた人形は、残す所あと四体。それぞれが厄介な能力を有していたはずなのに、発動する事すら許されない。
「……ふ…ふふ、あははは!いいね、いいよ!僕の鑑賞物がほとんど壊滅?構わないさ!こうなったら最終演目だ、あの〈二人〉を使う時が来たんだからねぇ!」
もう完全にブッ壊れた暴食は残った四体の人形を退却させ、その際に振り上げた手を、今度は振り下げた。
「……さぁ、まだまだ新鮮な肉体だよ?出せる実力はほぼ百%、勝てるものなら……」
落ちてきた人形を目にした時から、ヴェルには暴食の言葉など聞いていない。何しろ、その人形はヴェルにとって、かけがえのない、代わりなど無いものなのだから。
『……マズイな』
「何がだよ。アレだけ強いヴェルなら余裕だろ?」
『違うな、そうじゃ無いぞスグル。俺が言ったヴェルと似通った魔力ってのは、あの二体だ』
「……つまり?」
『ヴェルが暴食側に付く可能性がある』
何を馬鹿な事をと、少し前の俺ならそう言うだろう。だが、今なら……その可能性が十分あると、言えた。
「……そん、な…なんで…………」
「……」
「……」
「…なんで、どうして……パパ、ママ…?」
そこに立っているのは、かつて魔王と呼ばれた男と、かつて魔王妃と呼ばれた女だ。
魔王の名を〈ヴォルディモ・ル・シル・サタン〉と言い、魔王妃の名を〈オリヒル・ビアンカ・ル・シル・ヘラクイーン〉と言った。
「さぁ、魔王よ!そのクソガキを消し去ってしまえ!」
指示を受けたヴォルディモは、その手に【無二消全】を発動させ、迷いなくヴェルに襲いかかる。
「……あ」
「あはははは!そのまま消炭になれ!」
呆然と立ち尽くすヴェルは、そのまま暴食の言うように存在を消され…………
「……そんなわけ無いでしょ」
「はは………は?」
ヴェルに当たる寸前、ヴォルディモの〈無二消全〉は虚空を裂き、当たるはずだったヴェルは強烈な回し蹴りを暴食に当てていた。
「ぎぃッ……!」
「確かに、ウチにはパパとママを攻撃するなんて出来ないけど……操っている貴方を、細切れにすればいいだけの話でしょ」
「…誰が暴食と組むって?」
『……無さそうだな』
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またまた視点を変えて、姉妹サイド。
「そろそろ行くか、ハク」
「……ん」
「え、最後まで見ないんですか?」
「勝敗の決まった私刑なんて、ツマンナイだろ?」
「それは…まぁ」
「んじゃ、君達は最後まで見るといい。ボクはもう行く」
「……ばい、ばい」
そう言うと姉妹は席を立ち、後ろの転移ポイントに触れて消えた。
「…どうしますか、先輩?」
「そうだなぁ……俺としてはゔぇるたんの服が大破するのを期待してたんだが…無さそうだからな、戻るわ」
「じゃあ、私も戻ります」
「……そんなに俺が好きか」
「べべべ別に好きとか嫌いとかそんなんじゃなくて、ほらアレですよ、戻って幼女型NPCに手を出させない為の見張りです、大体どうして私が先輩を好きにならないといけないんですか、私が好きなのは先輩であって……あぁもう!ややこしいなぁ!」
惚気話をしつつ、バカップルは転移ポイントに触れて退席。残るスサノオとクシナダは、最後まで見るつもりのようだ。
「オレ、早く強くなりたい」
「どうしたの、いきなり」
「強くなって、ショウ兄の隣で一緒に冒険したいんだ」
「ふぅん……」
「そ、それにさ、えと……オレが強くなったらクシナダちゃんは傷つかないで済むし……」
「別に、スサノオ君が強くなる必要は無いと思うなぁ」
「……は、はは…そう、かなぁ…」
「スサノオ君は、私が守ってあげればいいし、ショウさんの隣は私がなりたいもの」
……それは、どうなんだろうか。一人の男として。
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八百長?何のことだ。ヒロイン補正?知らんな。
要するに、ヴェルが強者で暴食が弱者なんだよ。弱い者は強い者に喰われる…誰もが知っている世の理だ。あえて例外を告げるなら…弱者は強者と渡り合う為に、勝つ為の知識を得る。だが、暴食には勝つ為の知識が足りていないようだ。
「クソッ!おい、魔王妃!僕を護衛しろ!」
「……」
命令を受けたビアンカはヴェルと暴食の間に割って入り【有利得瑠】を発動させた。
その効果を知るヴェルは数歩だけ間合いを取り、その場で魔法を行使した。
「【地鳴】」
「ばぁか、そんな遠くで使っても僕には当たら無いよ」
「知ってるわよ。ウチの目的は、コレ」
若干崩れた瓦礫を適当に掴み、今度はそれを暴食に全力投球。
「わっ!」
反射的に避ける体制を取ったが、当然のように【有利得瑠】に消し飛ばされた。
「…あは、あはは、あはははは、当たるわけ無いじゃん(あーびっくりしたもー)」
「んー……やっぱり速度が足りないのかなぁ……じゃあ」
今度はさっきの瓦礫より大きい物を拾い上げ。
「だからさ、当たらないって言ってんじゃん?馬鹿なの?死ぬの?」
「馬鹿かどうかはやってから言うといいよ」
投げるわけではなく、宙に浮かせて殴りつけた。
亜音速を得た瓦礫は、ただ一点に暴食の眉間を目指す。
「……」
当然の如く、瓦礫は【有利得瑠】によって〈速度〉を消され、〈質量〉を消される……ハズだった。
「な、なぁッ!」
瓦礫としての〈質量〉は消滅しているのだが〈速度〉は消えないのだ、どういう訳か。
「やっぱりね。さっきの瓦礫でなんとなく分かってた」
「お、おい魔王妃!〈速度〉を消せ!」
「……」
「ッ!〈質量〉もだ!」
どういう事だ。暴食が命じた通り〈速度〉は急激に落ちている。しかし同時に、外殻から消えていた瓦礫は途中で消えなくなっている。
「慌てふためいてる所悪いけど、ママの【有利得瑠】はパパの【無二消全】ほど万能じゃ無いの。【無二消全】は全てを消し去るけど、復活は出来ない。文字通り存在が消えるから、同時消滅は出来る。でもね、ママのは消し去るんじゃなくてゼロに〈戻す〉の。そこからか新たに創り出す事が出来るから、同時消滅は無理。貴方に取り込まれて変わったかと思ってたけど、そうじゃ無いみたいだし、足掻くだけ無駄だと思うな」
「……ッ!」
急いで飛んでくる瓦礫を避け、使え無いと判断した【有利得瑠】を解除。
亜音速から時速に変わった小指の爪程度にまで小さくなった瓦礫は、後ろの壁に当たり、砕いた。
壁を。
端から端まで亀裂が入る程度に。
「……」
「驚いて声も出ないの?まぁ、当たればウチが勝ってたんだけどね」
「……もういい、もういいよ〈完全例外〉…君の実力はよく分かった……だからね……僕もそろそろ本気を出させてもらう」
ゴキリと、骨が折れる音がして。暴食はその姿を豹変させ始めた。
「…魔王、魔王妃、こっちに来い」
呼ばれた二人は暴食の下へ。辿り着くなり頭から喰われた。
「…く…ククク…クハハ、あははは!もう容赦はしないよ〈完全例外〉!あわよくば取り込んで僕の鑑賞物に加えるつもりだったけど、もう要らない!」
魔王と魔王妃を取り込んだ暴食は、いよいよその変化を加速させる。先ほどまで人に近かった姿が、どんどん面影を失い。
骨の折れる音が止む頃には筋肉ムキムキの角生やしたイカツイ長身おっさんが立ち尽くしていた。
斬り飛ばした左腕も、回復している。
「……ふぅ、この姿になるのは久しぶりだね…最後になったのは千年前だったかな?」
ニタリと気色の悪い笑みを浮かべ、目の前の非力な少女を見下ろす。
「…なんだったかなぁ、細切れにするって?僕……いや、我を、か?」
「…図体だけデカくなっても、意味無いよーー点火!」
爆音と暴風が吹き荒れ、空間が爆ぜる。幾らか開けていた暴食との間合いは一瞬で埋まり、ヴェルの強烈な右ストレートが懐に入った。
「……それだけか?」
「…!」
「驚いているようだな…だが、この身に受けて初めて理解したぞ〈完全例外〉…そうやって、我の鑑賞物を壊していったのだな」
腹に当たっているヴェルの腕をつまみ、ぶら下げて己の目の位置まで持ち上げる。
人形が粉無塵になったように、てっきり暴食も消し飛ぶかと思ったが、どうやら効かなかったらしい。
「……そんな顔をするなよ飼主…今、我の身に起こった事をありのまま話してやる」
それによると、仕組みはこうだ。
まず空間が爆ぜるのは【火魔法】と【風魔法】の合体魔法。空気配合をいじり、爆発的威力を自身の後方で起こさせ、それを起点に高速移動。
目標の懐、もしくは弱点にキュウを接触させる。
当たった箇所から目標の体内に魔力を送り込み、時間差で送り込んだ魔力を魔法に変換。時と場合によるが基本は【火魔法】と【風魔法】で発火。防御無視の体内燃焼により物体は消滅……と言う具合だ。
「中々良い戦術だ…どこで習った?」
「……言うもんか」
「…フン、まぁいい。このまま喰ってもいいが、せっかくここまで本気を出したんだ。もう少し付き合ってもらうぞ」
まるでゴミを捨てるように、ヴェルをこちらまで放り投げる。
空中でくるりと回ったかと思うと、地に着く頃には受け身無しで綺麗に着地した。
「そら、飼主に助けを求めろよ」
「…スグル」
「……分かってる。手伝わねぇよ」
『おい!』
「いいのか、スグル?ヴェルちゃん死ぬかもしれねぇぜ?」
「ヴェルは死なない」
「『……』」
一体どこからそんな自信が湧くのか。気にはなる所だが、そこはそれ、スグルだからと言うしかない。
「……ねぇ、スグル。どうしてあいつにウチの魔法が効かなかったと思う?」
「…いいのか?それは俺に助けを求めたのと同じじゃあ無いか?」
「情報交換。生きて帰れたらパパとママの事全部話す」
「あいつに魔法は効かない。体内に入った魔力を持つ物は全て魔素に変換して無効化、魔法に関しては原理を暴かれて複製可能、だから重要なのは体術…レベルを上げて物理で殴れって事だな」
自分の見解を事細かに説明してやると、どこからか拍手が聞こえる。
…いや、この場合、拍手を送るのは一人しかいないが。
「いいね、ほぼ正解だ。どこで気が付いた?」
「俺の弾丸を手で受け止めたあの時から。だからその後の攻撃は全部物理だったろ?」
「なるほど、つまり手から喰らうのも見抜かれてるわけだ」
あ、すまん、そこまでは見抜いてなかった。
「ククク……さぁ、選べ。再演目か続編か」
「…完結にするわ。ノヴァ、手伝って」
『…は?俺?』
「スグルの助けはまた今度。今はノヴァにお願い。ウチを手伝って」
『……はぁ、仕方ない』
ノヴァはチラリと俺の方を見たが、気にしない事にした。と言うより、聞かなかったフリだ。
『俺はどうすればいい?』
「魔法が効かないなら、スキルで対抗するしかない。でも、それも喰われたらきっと無効化される。だから、スキルを施すのはウチ自信。ノヴァをウチに憑依させるから、なるべく手足に【質量操作】をお願い」
『憑依って…俺にはそんなスキルも魔法も無いんだぞ?』
「大丈夫、キュウがいるわ」
キュウの【幻術】と【変幻】は相手と自分に幻を魅せるスキルだ。その応用性は夢幻に広がっている。
まず、ノヴァを幻術にかけて霊体化させる。魂となったノヴァはヴェルの体内に侵入し、留まる。普通の肉体ならいざ知らず、ヴェルの【魂魔庫】により問題なく憑依。続いて【変幻】で自分の一部となったノヴァを表面化。
結果として、ヴェルは黒い鎧を身にまとい、紅炎から黒炎に変色した四肢の装備を付けている。
「さて、と」
ヴェルはまっすぐ敵を見据えて、移動した。
そう、移動したのだ。足音なく、無音で、空間が爆ぜる音もさせずに。
ただ静かに、空間を移動した。
「……っ!」
とっさに危機を感じ取り、暴食は上に飛んだ。
「惜しい」
暴食に目を奪われて、上を見上げていたのがマズかった。
ヴェルの攻撃を見逃した。
おそらく、ヴェルはただ一発の蹴りを繰り出したのだろう。しかしその後には、裂けた空間が広がっており、ゆっくりとその口は閉じた。
「…危ないだろ!怪我でもしたらどうする!」
「これから細切れになる古本が何言ってるの?」
そう言って、ヴェルはまた空間を移動する。まばたき一回をする間に、地表から暴食の後方にまで移動した。
「ンぐっ!」
宙に浮いた状態だった暴食はヴェルの手によって地に打ち付けられる。
「…貴方さぁ、ウチのパパとママを取り込んだんでしょう?だったらその魔法、使いなよ」
「…ほざけッ!後悔するがいいわ!くらえ【無二消全】!」
ほぼゼロ距離、発動と同時に黒い球体はヴェルの全身を包み込む。
「クク…クハハ!我の勝ちだ!」
「………弱い」
本来であれば、触れただけで消え去る虚無魔法から、何事も無いようにヴェルは姿を見せた。
「所詮は、誰かの真似事……パパの方がもっと凄かった」
暴食は驚きと驚愕の表情を浮かべ、続いて現れたヴェルに恐怖する。
「どうして消え無い!」
「貴方ウチに言ったわよね?ウチの中にはママの魔法が受け継がれているって。だったら、パパの魔法が受け継がれていても不思議じゃないでしょう?」
「……っ」
「まぁ、貴方の【無二消全】なんてウチのパパ以下って事よ。それに、上手く魔力量をコントロールすれば、二つの虚無魔法を合体させられるし」
「合わせる、だと?」
仕方がないという風に、ヴェルは右手に【無二消全】を発動させた。
「これが貴方の作った魔法。ここに、同じ魔力量と同じ属性、違う方向性を掛け合わせる」
そう言って、今度は左手に【有利得瑠】を発動。両手の相反する力をぶつけ合った。
本来なら反発しあい、下手をすると魔力崩壊を起こすところだが。
「……ね?分かった?合体魔法の応用技。いつも真似事ばかりしている貴方には到底至らない領域よ」
混ざり合った二つの虚無を見つめながら、自分では決してたどり着く事の出来ない強さを認識し、暴食はしばらくの間、長考した。
やがて、自分の中で答えを見つけたのだろう。
「クク…それもそうだな。我には行けぬ」
「もう終わりにするわ。歯、食い縛んなさい。生きてたら、見逃してあげる」
硬く拳を握り、目一杯溜めを作る。同時に、ヴェルの手首から黒の魔法陣がまとわりついた。
「…一枚じゃ、足り無いか」
続いて白の魔法陣、黒の魔法陣、白の魔法陣、黒の魔法陣、白の……と白黒の魔法陣が延々と続き、ヴェルの手の長さからはみ出て、更には部屋の中を貫いて魔法陣は外に広がって行く。
「……これに勝とうなどと考える方が、おかしいのだ」
「さぁ、トイレは済ませた?神様にお祈りは?部屋の隅でガタガタ震える準備はいい?……この先に待つのが死か再生か。その身をもって体験しなさい」
ヴェルが拳に力を込めると、どこにあるかも分からない最後尾の魔法陣が明滅し、発動する。
連鎖的に発動を繰り返し、威力がヴェルの腕に蓄積される。
「……返してもらうわ。ウチのパパとママを」
その小さな腕に蓄積された巨大な力は、わずか一メートル程度の射程距離から発生した。
それほど振りかぶった訳でもなく、ただ突き出しただけで、暴食は凄まじい圧力に押し潰されそうになっている。
「む…ぐ、ぬぅ……っ!」
指は取れ、二の腕には関節が生まれ、足はもがれて、それでも死ぬまいと、暴食は耐えた。
▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎
全てが終わった後に残ったのは、広範囲にわたって陥没した地面と、一冊の本。
そこから湧き出る光の粒子は、とても綺麗なものだ。
「やっと終わったな」
「とんでもなくグダったがな」
「それは言うなよ…」
全身全霊をかけて決着を付けたヴェルは、元の姿に戻っている。キュウの【幻術】と【変幻】が解かれたのだ。
『あー……疲れた…』
「ノヴァは何もしてないだろ」
『何言ってんだ、あの魔法陣は俺が調整したんだぞ。どれだけ繊細な作業だと思ってる』
「知らん」
座り込んで光の粒子を見つめるヴェルは、なんだか清々しい表情をしている。それをもう少し近くで見たくて、俺は駆け寄った。
「…スグル、これでパパとママは天国に行けたかな」
「さぁな、魔王だから地獄に言って楽しく暮らしてるかも知れないぞ」
「何それ、笑える」
座るヴェルの隣に腰を下ろし、空に上る光を見上げた。
「すごく綺麗だな」
「…ふぇ!?」
「なんか星空みたいで」
「…あ、うん、そう、だね……」
恥ずかしいのか顔を真っ赤に染めるヴェル。こっそり手で髪を整える辺り、気にしているのだろうか。
「…なぁ、アレどう思う?」
「鈍すぎ。そもそも、そういう目で見てないのかもね」
「だとしても気付くだろ普通は」
「仕方ないでしょ、スグルだもの」
「…まぁ、スグルだもんなぁ……」
はぁ、と二人はため息を吐く。この朴念仁はどうしても無駄だ、と。再認識させられた。
さて、並んで座っている二人は、本から発生する光の粒子が少なくなったのを見て、いよいよこのイベントの終わりを見たのだが。
「…………姫さま」
天より舞い降りしフクロウによって、再び辺りは緊張感に包まれた。
「テメェ…黄泉アモン!生きてたのか!」
「はい、スグル殿。私は暴食に喰われて生きていたのです」
「なるほどな…そういや、ヴェルの壊した人形の中にテメェはいなかったな」
「はい。私は自我を奪われ、安全な場所で策を練っておりましたから」
「で?今更俺たちに何の用だ?ご主人の敵討ちってか?」
二丁拳銃を構えたスグルに対し、黄泉アモンは静かに首を横に振った。
「私は暴食の呪縛より開放され、もう消え行くのみにございます。最後に、姫さまにお会いしたく参上仕りました」
目線を俺からヴェルに移し、じっと見つめた後。
「数々のご無礼をお許し下さい」
「…もういいよ。怒ってないし。あの時ウチを傷付けたのはスグルの実力を見るためだよね」
「流石に見抜かれておりましたか」
「まぁ、結構痛かったけど」
「それでは、最後に一つ。小言を言わせていただきます」
「ん?」
「何ですかその泣きそうな顔は。亡き魔王様が嘆かれますよ」
「う、うるさい!泣いてないし!」
「意地を張らないでください。先程から魔王様の魂を探しておりますでしょう?」
「ぅ…」
「……仕方ありませんね。私最後の、魔法です。しっかりとお受け取り下さい……【死者転生】」
小さな青い魔法陣が浮かび、そこから二つの光が出現する。周囲の石や砂利を吸い寄せて、やがてそれは二人の肉体を作り上げた。
「……久しいな…と、言うべきかな?」
「久しいも何も、私死んでるから。ていうか私が助けた命を何無駄な事に使ってんのよ」
「さて、ビアン。ここはどこだ?」
「…聞いてないし。あのねぇ、そろそろビアンって呼ぶのやめない?」
「最初にビアンがそう言ったのだろう」
「それ、何年前の話だと思ってるの?」
「……三十年?」
「三百年よ、サンビャクネン!桁が違うわよ!」
な、なんだこいつら…出てくるなり痴話喧嘩始めやがった。
そもそも自分の娘の前だぞ、自重しろよ、悲しむだろ。
「……ぷ、クス」
「あ、ごめんねベルちゃん。泣かないで」
「大丈夫、いつも通りで安心した」
いつも通りかよ。
「ベルではない、ヴェルだ。ヴェルタニア・ル・シル……今はサタン、かな?」
「だから、ベルタニアだって言ってるでしょ!まだ聞き違えてるの?学習すれば?」
「そう怒るな。ヴェルもベルも変わらんだろう?」
「違うわよ!」
また始めやがった。馬鹿かこいつら。
「パパ、ママ、その話は黄泉でやって。スグルが呆れてるでしょ」
「むぅ…仕方ない、そうするとしよう。所で、だ。スグルとは誰だ?」
「あ、俺です」
「ほう……」
そう言って、魔王は俺の目ではなく、手に刻まれた刻印を見た。
「……それで?何故、貴様がヴェルタニアの主人なのだ?」
「…………ッ!」
流石は元魔王と言うべきか。少しの殺意だけで周囲の空間は歪み、吐き気とめまいがした。
「どうした?答えられんのか?何故に貴様がヴェルタニアの主人なのだと聞いておろうが」
「パパ、やめて。主従契約を結んだのはウチを助ける為なの。ウチも、自分の意思でスグルと契約したの」
「ならば、何故ヴェルタニアが従者なのだ?普通は逆だろう」
「それは…まぁ、うん……」
チラリと目線を外した先にはマミナがいる。
見られた本人は全く気付いていないが。
「…ほう、彼奴が施したのか。それで?貴様はヴェルタニアに手を出しておらんだろうな」
「…手?……えぇ、実にいい子ですよ。聞き分けもいいですし学習意欲も高いですし、何より美人ですからね」
「ちょ!?スグ、スグル!?」
「ほほう、貴様、中々分かっておるではないか。てっきり欲にまみれた下衆かと思うておったぞ」
「あ、あはは……」
これでゲシュタルトだったら瞬殺だったな。あいつなら、下心丸出しで答えそうだ。逆にあそこまで明らかな下衆も珍しいけど。
「では、我はそろそろ逝く。自慢の娘だ、しっかり守ってくれ」
「あぁ、いいぜ。安心して逝け」
今度こそ本当に、魔王の魂は空に昇っていった。
「ベル、次はママね」
「うん」
「好き嫌いはしてない?ちゃんとご飯食べてる?」
「うん。スグルのご飯はとっても美味しいの」
「そう、それなら安心ね。毎日歯は磨いてる?虫歯には気を付けて。お菓子の食べ過ぎもやめなさい」
「う、うん……努力する」
「それから、スグルさん達にしっかりご奉仕するのよ?身の回りの世話をしてくれている人にはいつも感謝しなさい」
「うん」
「どんなに絶望したって希望を失わないで。どんな時もベルが光になるのよ」
「うん」
「そうそう、好きな人は出来た?ママはパパの事を好きになっちゃったけど、正直ハズレだったわ。喧嘩ばかりして……」
「でも、楽しそう」
「そうね、楽しいのは大事よ。ベルも、一緒にいて楽しい人を好きになりなさい」
「……うん」
他にも話し足りない事はあるだろうけど。流石にそこまで時間は残っていないので、それ以上は何も言わなかった。
「最後に、スグルさん」
「あ、ハイ」
「まだまだ未熟な、不束者のベルですが、どうか見捨てないで、末長くよろしくお願いしますね」
「は、はい。分かりました」
ちょっと意味がわからなかったけど、まぁなんとかなるだろ。
最後は俺への言葉を残して、ビアンさんは魔王を追うように空へと昇った。
「……では、私もこれで。姫さま、あまり無理をなさらないように」
「はいはい、分かりました」
一番最後に、黄泉アモンが空に昇る。下に落ちている本からは、もう光の粒子は発生しなかった。
それから数秒後。スグル、ショウ、マミナ、ヴェル、ノヴァ、キュウの姿は塔の中から消え去った。
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塔から消えた俺達は、イベントエリアを追い出されて、特設ステージの裏に転移していた。
転移ポイントに触れていないのに転移した、という事はイベント時間が無くなったのだろう。
『さぁさぁ、お待たせしたね諸君!現実時間で二時間、無事に終了しましたァ!』
どこからか宮藤さんの声が聞こえる。まるで番組MCみたいな口調だ。
『それでは、今回のサバイバルイベントを無事にクリアした勇者達をお呼びいたしましょう!』
特設ステージの表からは拍手喝采が湧き起こっている。
いや、ちょっと待て。呼ぶって何だよ、聞いてないぞ。
「よっしゃ、俺は先に行くぜスグル。超面白そうじゃん」
「あ、ちょ、ショウ!?」
スグルの制止も聞かず、ショウは特設ステージ上に上った。
『先ずは彼、プレイヤーネーム〈ショウ〉!圧倒的防御力を誇り、幾重にも重なる危機から仲間を守り抜きました!』
「いやぁ、ドーモドーモ」
このやろう……大衆慣れしてやがる。当然といえば当然だけど。
『続いて自称メインヒロイン!プレイヤーネーム〈マミナ〉!特に何もしてません!』
「ちょ!?やったし!ほら、えっと……あれ?」
呼ばれたマミナは、宮藤さんに一言言ってやろうと壇上に上がったが、墓穴を掘った。
いや、まぁマミナはイベントの半分は寝てたし。そこは仕方ないんじゃないかな?ウン。
『そして最後にーー』
…まぁ、分かってた。ただの三人でヒーローインタビューが終わるだろう事を。
その理由が、ヴェル達はNPCだからだと言う事も。
『ーー最後に、プレイヤーネーム〈スグル〉!多彩な戦略を駆使し、彼等三人を勝利へと導きました!』
湧き上がる賛美の声と拍手喝采。しかしその評価を真に受けるべきはスグルで無いだけに、かなり複雑な心情で壇上に出た。
宮藤さんによる人物紹介が済むと、今度は勝利の要因を聞かれて、マミナとショウは多少の尾ひれを着けて話す。それが済んだら、次は得点発表に移った。
『ーーさて、先ずはどのようにしてポイントが割り振られるか。イベント前には秘密にしておいたが、それを明かそう』
宮藤さん曰く、割り振りはこうだ。
雑魚モンスターは一体につき一ポイント。
中ボスと一定レベル以上のモンスターは一体につき十ポイント。一定レベルはエリアによって違う。
大ボス…ある一定範囲を統括する組織の頭に担うモンスターは百ポイント。
これでモンスター一体の内訳が終わる。続いて、そのモンスターにプラスアルファだ。
まず、クエストとしてある特定のモンスターが対象の場合、得られるポイントは倍になる。例えば雑魚モンスターを十体倒すのがクエストだとしたら、最後には二十ポイントが得られる。さらに、達成ボーナスとして得られたポイントの四分の一が得られる仕組みだ。最終的には二十五ポイントが得られる計算になる。
採取系クエストに関しては、モンスターからのドロップ系クエストを除いて…薬草採取だとしよう…達成ボーナスのみが与えられる。薬草を十個集めるクエストの場合は、指定数分の数だけポイントが得られる。だからと言って需要が無いわけでは無い。採取系クエストには追加クエストが発生する事がある。これは運だが、採取系から追加クエストを受け、最終的には一度のクエストで五百ポイントを得た者もいるそうだ。下手をすると討伐クエストより稼げるかもしれない。
それから最後に……ここからが一番重要だ。今回のイベント目的はサバイバル。故に、協力プレイと生き残りが一番大きなポイント稼ぎとなる。
先ずは、生存ボーナス。これは一人千ポイント。チームを組んで生き残った場合は、チーム人数分のポイントが得られる。つまり、スグルとショウとマミナにはそれぞれ三千ポイントが与えられるのだ。
次に協力ボーナス。これはチームを組んでいた時間数に応じて与えられる。イベント時間で一時間につき五百ポイント。更に支援や回復、または蘇生を試みた場合は、その回数につき百ポイント。
これで、正当に加算されるポイントは終わる。続いて、少し黒く染まったポイントの取得方法が明かされた。
要するに……YK。
他のプレイヤーと戦い、勝利した場合、敗者の持つポイントを総取りする事が出来る方法。もちろん、減点だってされる。減点ポイントは、倒した相手の持つポイントの半分だ。つまり、YKをして得られるポイントは負かした相手の半分だけ。ちまちまと弱い奴を狙っても意味は殆ど無く、必然的に自分と同等かそれ以上の相手と戦わなければならない。
『ーー以上で、内訳は終了。そろそろ順位の発表をしようか!だけど残念な事に公表出来るのは上位十名のみ!予算の都合だ許してひやしんす。自身の順位は個人のメニュー画面に表示させてもらうので、そいつを見てくれ』
上手く誤魔化したな、宮藤さん。上位十名のみ公表するのは、イベントアイテムの取り合いを避ける為だ。まさかイベント一位に勝負を仕掛ける馬鹿は、いないだろうからな。脳筋を除いて。
『さてさて、それでは第十位から行ってみよう!カウント……ドーン!』
アウトォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
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第十位……ぽっこりまんじゅう
「よっしゃぁ!」
本人の雄叫びに対して周囲の反応。
「「「誰だお前」」」
第九位……万金丹
「当然の結果だな」
以下、周囲の反応。
「「「きんたm……おっと誰か来たようだ」」」
第八位……クシナダ
「えっ私!?」
以下略。
「「「くぁいい……」」」
同ポイントにより同順位……スサノオ
「なんだよ同数かよツマンネ」
以下。
「「「お前がツマンネ」」」
第七位を飛ばして第六位……ジュン
「なるほど、ボクが六位か…第六天魔王とでも名乗ろうかな?」
以下、ハクと周囲の反応。
「…姉ぇ……厨二、乙」
「「「DBギルマスが六位か…」」」
第六位と僅差で第五位……ハク
「…………」
恥ずかしさで顔を赤らめるハク。
「「「知ってた。そしてくぁいい」」」
第四位……キョウカ
「…あー…私かぁ……うん、まぁ、三位以下だし目立たないからいいかな」
以下。
「「「副料理長、万歳!」」」
「恥ずかしいからやめてぇぇぇぇぇ!!」
第三位……ショウ
「くっ…俺が……三位…だと…?マミナにも負けたってのか……?」
以下略とマミナとスグルの反応
「まぁ、落ち込まなさんな。どうせ私はスグルより下よ」
「くくく……慰めてやるからな、ショ……ぶふっ」
「「「外道め……」」」
第二位……スグル
「「「「「!?!?!?!?」」」」」
スグルを含めて皆が驚愕の表情。そりゃそうだろう、何しろ生存者PTのリーダーで料理長。口にはしないものの数多くのNPCと共にイベントを生き残った超人なのだから。
それゆえ、一位が誰なのか俄然気になり始めた。
そして、一位の人物が公表される。そこには、こう書かれていた。
………………ゲシュタルト…と。
「「「「「「「「…………お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!」」」」」」」」
……そうして、イベントは静かに、その幕を下ろしたのだった。
ゲシュタルトが一位になったのは、ひとえにロリコンの力です。
嘘ですごめんなさい踏んでくださいハァハァ。
ご愛読いただきありがとうございます。




