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#50 塔攻略開始

 ーースグルくぅーん!!会いたかったよぉ!!!

「…心配した俺がバカだった。もうわかったからほおずりヤメロ。服が濡れる」

 ーーえっ!男なのに濡れる、ですって?

「ごめんちょっと何言ってるかわかんない」


 俺と水精霊(ウンディーナ)の絡みに完璧な置いてけぼりを食らった後ろの人達は、もうポカン状態である。


「スグルさんが気にしてましたから、どんな人かと思いましたが……」


 と、キョウカさんが呆れ。


「もう人ですら無いっていうね」


 なんでもアリかと、マミナは諦める。


「スグルの周りには変な人しか集まらない法則でもあるの?」


 ヴェルは新たな発見でもしたかのような納得をし。


「精霊…水…濡れ……本が薄くなるな!」

「おう黙れよゲシュタルト」


 ゲシュタルトとショウに至ってはボケとツッコミを交わす始末。


 ーーそろそろ、私を連れて行く算段がついたのかしら、スグル君?

「いや、今日あんたに会いに来たのは……そういえば名前聞いてなかったな」

 ーー好きなように呼んでくれて構わないわよ。スグル君は私のご主人様なんだから、メス豚でも淫乱女でも…ハァハァ。

「なんっでそうなる!」

 ーーさぁ!罵って下さいましご主人様ぁ!

「頭おかしいだろ!?」


 変態は既に間に合ってるんです!これ以上キャラを増やさないでください!…と言ったところで改善されるとも思えないけどな。


「…っだあもう!ディーナ!〈ウンディーナ〉から抜き取って〈ディーナ〉だ!」

 ーー私がウンディーナだからディーナって…まぁ、スグル君がそう呼びたいなら別に良いけどね。

「それで、だ。今日ディーナに会いに来たのは後ろの塔を攻略するためのついでなんだよ」

 ーーえ?私を攻略するために来たって?

「都合のいい耳だなおい」

「スグル君。茶番はその辺にして早く行かないか?ボクはもう、待ちきれないんだが」


 痺れを切らしたジュンさんに注意を受け、さっさと泉を離れる。あのまま話していても、無駄に時間が過ぎるだけだからな。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 ディーナとの会話を適当に切り上げて、本来の目的を達成すべく塔に向かった。


「なぁ、スグル」

「なんだよ」

「あの精霊…どうするつもりなんだ?」


 ジュンさんに気を使ったのか、ショウが小声で話しかけてくる。


「どうするって…連れて行きたいけど、ディーナはあの場所を離れられないんだよな」

「じゃあさ、コレやるよ。〈精霊のビン〉」

「なんだこれ」

「クエスト報酬で貰ったアイテムで、精霊とか妖精…多分魔物もそうだけど、そういう魔力だけで動くような奴を入れるビンだ。持ち運び出来るらしい」

「…らしいって」

「使ったこと無いんだよ。それに、スグルなら上手く使えるだろ?」


 上手く、というのはつまり…ディーナをこのビンに詰めろと?お前は俺を過労死させる気か。いや、持ち運び出来るって事はアイテムBOXに詰め込めるって事だから、喋らなくなるのか。それはそれで助かる…かな?


「さあ、着いたぞ」

「じゃあギルマス、俺ちょっと入り口探してきます」

「あぁ、よろしく」


 ゲシュタルトは一人、塔の周辺を散策するようだ。


「へぇ…ここが昨日言ってた塔?」

「ん…森の、塔…未探索……掲示板、に、前情報、なし」

「え、他の塔ですら誰も入ってないの?」

「…あのな、マミナ。無知に挑めるのは余程のバカか知的探求者だけなんだよ」

「へぇー…あたしは?」

「…マミ、ナ…は、バカ」

「うわひどい」

「ジュンさん、掲示板に情報って…負けても載せられるんですか?一回負けたら即失格なんですよね?」

「あのさ、スグル君。負けそうになったらクエストリタイアすればいいだろう?」

「あ、なるほど」


 そうこうしているうちに、ゲシュタルトが戻ってきた。塔の周りを一周してきたらしい。


「すいませんギルマス、入り口が見当たらないんですけど」

「それを調べるのが、ゲシュタルト君の役目だろう?」

「がん、ば、げしゅた、ると」

「サブマスに応援されるとなぁ……やってやろうじゃないの。行くぞ、ブラウン」

「なんで私まで…あー、ハイハイ分かりましたよ、先輩」


 ゲシュタルトとブラウンさんは仲良く塔を調べ始める。魔法でも使って調べるのだろうか?


『おい、スグル。ちょっといいか?』

「…俺一人に話しかけてるのか?それ」

『まぁな。周りに聞かれたく無いんだ』

「手短に頼むぜ」

『この塔に住んでるボスにはな、勝てないと思う』

「なんで?」

『俺は、ある一定の範囲内なら魔力を探知できるんだ』

「あぁ、うん」


 知ってる、とは言わない。


『この塔の上に、とてつもない魔力が感じ取れる。スグルやヴェル、他の皆よりでかい魔力だ』

「…え、俺たちが勝てない判断基準って、そこ?」

『他のどこにあるんだよ。それとも、勝てる見込みがあるのか?』

「いや、むしろ見込みしか無いんだけど」

『…そうか。まぁ、俺はスグルに着いて行くだけだからな。ところでスグル、入り口を探してるんなら、さっきの泉にあったぞ』

「それを先に言え!!!」

「ど、どうかしましたかスグルさん」

「具合でも悪いの?」

「…あ、ごめん、キョウカさん、ヴェル。このアホドラゴンが入り口知ってるのに教えないからちょっと大声出しただけだ」

『アホドラゴンとはなんだ』

「…ゲシュタルトが戻ってくるのを待つか……」


 しばらくして、ゲシュタルトとブラウンさんが戻ってきた。浮かない顔をしているのは、見つからなかったからだろう。しかし、ゲシュタルトがジュンさんに何か伝えるより早く、俺が入り口を見つけたと言うと、ブラウンさんは喜んでゲシュタルトは睨んできた。なんだってんだよ本当に。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 ノヴァを先頭に俺達は元来た道を戻る。泉から一定の距離になると、ディーナが出現するが、もう気にしないことにした。


「ノヴァ、まだか?」

『もうすぐ』

 ーー今度はどこに向かってるの?案内してあげようか?

「ねぇ、スグル。その精霊倒しちゃだめ?」

「ヴェル、頼むからそんな物騒な装備はしまってくれ。キュウも、張り切ってヴェルに取り憑かなくていいから」

「きゅぅ……」


 気持ちは分からなくもないが、一応俺が主人みたいだし…倒すのは、ねぇ?


 ーーねぇねぇ、なんの話?

「あ?いや…そうだ。ディーナを連れて行ける算段がついたって話」

 ーー本当!?

「あぁ。このビン…〈精霊のビン〉って代物(しろもの)なんだが、知ってるか?」

 ーー大精霊様が幾つか持ってるって聞いてる。

「大精霊?」

 ーーん?あ、生物側(そっち)だと神様かな?火の神とか水の神とか…私の信仰は水神様だけどね。で?そのビンがどうしたの?

「今一つ持ってるから、その中に入ってもらえると助かる」

 ーーハイハイ喜んで。それでスグル君と一緒になれるなら、ね。


 アイテムBOXからショウに貰った〈精霊のビン〉を取り出し、ディーナに差し出す。それに触れると、ディーナは吸い込まれるようにしてビンの中に仕舞われ、アイテム名も〈精霊のビン〉から〈水精霊入りのビン〉と変わった。これで、少しは静かになるといいのだが。


『着いたぞスグル、ここだ』

「え、ここ?」

「ここって、さっき来た泉そのものじゃん。どういう事?スグル」

「いや、俺にもさっぱり…説明しろ、ノヴァ」

『泉の中に、刻印(ルーン)が見えるだろ?』

「見えないよ?ノヴァ君。ボク達の目はいたって普通だからね」

「ウチは見えるよ?どういう事なの、ノヴァ」

『俺もヴェルも、魔力を見て取れるだろ?多分、そういう眼を持ってないと見えないんだ』

「俺も見えるぜ、ブラウン」

「そりゃあ先輩は【魔眼】を持ってますからね」


 うん、よく分からないけど、取りあえずは入り口が見つかった…って事で良いのか?


「で?どうやってこの中に入るつもりだ、ノヴァ」

『普通に飛び込めば良いと思うぞ?刻印(ルーン)に触れた途端、あの塔の中に飛ばされるだろうから』

「ごめん、あたし泳げないんだけど。結構深いよ?」

「すまない、ボクもだ。ハクも泳げない」

「ごめんね、スグル。ウチも無理」

「えっ、えっ、ちょっとすいません皆さん。この中で泳げる人、いますか?」


 話がややこしくなりそうなので、挙手を取る事にしたのだが、誰も手を上げない。どうやら、泳げる人はこの中にいないようだ。


「…あ!そうだ。あたし良いこと思いついちゃった!」

「はい却下」

「聞く前からそれはひどいよ!?」

「だって、マミナがまともな事言うわけ無いじゃん」

「あたしだって、たまには良いこと言うわよ!」

「たまに、な。まぁ、それなら言うだけ言ってみろ」

「水魔法で道を作ろう!ね、モーゼみたいに」

「…本当に、たまにしか良いこと言わないね、スグル君」

「まぁ、バカですから」

「…マミ、ナ、プギャー」

「やめてぇ!」

「大体、それ誰が出来るってんだ。マミナが使える魔法って火だけだろ」

「今から取るもん!ほら、水魔法にSP全フリで…あ、足りない」

「それみろ」

「っていうか一ポイントも無い」

「これをバカと言わずにどうする」


 だが、一つの方法としては悪くない。しかしそこはマミナ、細部まで考えていなかったようだ。

 そもそも、ここの全員が無事に塔の中に入る間ずっと水を操作し続けるわけだから、かなりの魔力を消費する。さらに悪い事に、既に存在する水源を操作するには最大レベルが必要となる為、いくらSPがあろうとレベルは4までしか即席では上がらないのだ。


「…あ、そういえばヴェル、魔法レベルはどうなった?」

「うん?えっとね、土魔法以外は全部レベルマックスだよ」

「…え?何、もう一回。聞き間違えたかもしれん」

「火、水、風が最大レベル、土がレベル4」

「この数日間なにやってたんだよ…」

「…変質者からの自己防衛?」

「めげないゲシュタルトに憧れすら覚えるぜ……」


 いや、そうじゃない。熟練度だけで最大レベルまで行ったのが異様なのだ、これは。だがしかし、ヴェルの成長が涙ぐましいのも事実である。

 さて、バカのマミナが提案した意見が、いよいよ持って実現可能になって来た。なにしろ、ヴェルは無限魔力の持ち主で水魔法は完璧なまでに使いこなせる。さらに【邪眼(デスアイ)】を使えば水の中の刻印(ルーン)を直接見れるから、必要最低限の道を作れるのだ。


『ヴェル、道を作ってくれないか?ここにいる俺以外が無事通れるまでの間だけでいいから』

「俺以外?ノヴァ、あなたはどうするの?」

『俺はちょっとやる事が出来た。そういうわけだからスグル、単独行動してくる』

「は?おいちょっとまて!ノヴァがいなくなったら俺の攻撃手段が無くなるじゃねぇかよ」

『大丈夫、この塔から無事に出て来る頃には戻ってくるから。それにな、別に俺がいなくても頼もしい仲間がこんなにいるんだから、死なないって』

「いや、でも……」

「大丈夫よ、スグル。少しはあたし達を信用しなさいよねっ!行っていいわよ、ノヴァ」

『感謝するぜ、マミナ』


 そう言い残すと、ノヴァはさっさと空の彼方へと消えていった。


「マミナ、お前…」

「なんだかよく分からないが、スグル君。ボクとハクが組む以上、負けは許さないからね?」

「ジュンさんまで……っ!」

「なぁ、スグル。俺もそうだが、このチビ達も侮っちゃダメだぜ?本気を出されたら、勝てるかすら怪しいからな」

「ショウ兄の悪友さん、勝負してみる?」

「だ、ダメだよスサノオ君!暴力反対!」

「お、お前らまで……」


 確かに、俺自身の戦力が格段に落ちるのを防ぐためでもあるが、それ以前にノヴァみたいな小さなドラゴン一匹が何かをやり遂げられるとは思えないのだ。なにしろ、今までに二回は捕まったからな。


「スグルさん、ノヴァちゃんが心配なのは良く分かります。貴方の、実力が目に見えて落ちるのを防ぐという意見も理解できます。ですが、考えても見てください。実力は未知数の強者揃いがスグルさんと共闘するのに加え、大きな戦闘ギルドに意見出来る程の実力を持つギルマスとサブマスがバックに着くんです。ほら、怖いもの無しでしょう?」

「……ブラウンさん」

「まったく、ブラウンの言う通りだぜ。スグル、お前の溺愛するゔぇるたん…いや、ヴェルを見てみな。あんなに小さな身体で俺を幾度となく半殺しにする力を持ってる。どうだ?想像も出来ないだろ?ノヴァも一緒だ、あれだけ小さな身体で何倍もあるお前と対等に渡り合える程、強い。だから、心配するだけ無駄ってもんだぜ?」

「ゲシュタルト、お前ってやつは…っ!」

「まぁもっとも、ゔぇるたんの真の破壊力はその幼いカラダに秘めたるロマンだがな!」

「おう俺の感動返せや」

「みんなー!道出来たよー!」


 俺が皆に説得されている間に、ヴェルは泉に道を作っていた様だ。泉の端から真ん中辺りまで、狭いながらもしっかりとした割れ目が作られている。


「行くよ、スグル」

「スグル君、お先に失礼」

「…スグル、はよ」

「先行ってるぜ、スグル!」

「あ、ショウ兄待ってよ!」

「ショウさん、置いていかないで……」

「スグルさん、お先です」

「行きますよ、先輩」

「だぁもう!手を引っぱんなっての!」


 マミナ、ジュンさん、ハクちゃん、ショウ、スサノオ、クシナダ、キョウカさん、ブラウンさん、ゲシュタルトの順に泉の割れ目に飛び込み、残るは俺とヴェル、キュウだけになる。


「……スグル?」

「…ん?」

「やっぱり、ノヴァの事が心配?」

「…いや、それよりもこれから始まる事に胸が高鳴ってるぐらいだ」

「じゃあ、ウチと一緒に行こう?キュウは…まぁ、ずっと頭に乗ってるし問題無いかな?」

「…おう、行こうか」


 そっとヴェルの手を取り、泉の刻印だけを見据える。せーの、という掛け声と共に地を蹴り、俺とヴェル、それからおまけでキュウは塔の中に侵入した。

短い…かな?スンマセン。


ご愛読ありがとうございます。

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