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#49 合流

 イベント八日目。エリア…不明。


『起きろ、スグル。起きろ!大変な事になってるぞ!』

「ん…なんだよ……まだ朝にすらなってないじゃないか」

『もう朝だ。他の人はもう起きてる。スグルも起きてその目でよーく空を見上げてみな』


 眠い目を擦りつつ、【鷹の目】を使って自分の上を見上げる。そこには、灰色の雲がびっしりと見えており、時折見える雲の隙間からは漆黒の闇しか見えなかった。周囲には、いつもの森以外に、違うエリアにあるはずの火山と、見知らぬ塔が建っている。


「…なん……だよこれ」

『俺にもわからん。だが、マミナとショウの魔力が感じられるぞ。他の皆や、ヴェルの魔力もな』

「本当か!?どこにいる!」

『……ここからだとヴェルが一番近いな。南東の方角に二十キロメートルだ。行くか?』

「当たり前だ」


 早く行かないと、ゲシュタルトに何されるかわかったもんじゃないからな。

 ノヴァに浮かせてもらい、空から行くことになった。道中で、手頃な足場があれば【蜘蛛の糸】を使って加速するつもりだ。


「あ、スグルさん!どこに行くんですか!?」

「キョウカさん、後のことは任せた。ちょっと行くところが出来た」

「え…そ、それでしたら私も……」

「ダメだ。キョウカさんがここを離れたら、指揮する人がいなくなる。大丈夫、昼までには戻ってくるから」


 ノヴァの【質量操作】で体重を軽くし、続いて【重力操作】で移動する。これなら、消費する魔力は少なくて済む。

 しばらく空を飛び続け、無事にヴェルの所まで行く事が出来た。


「ヴェル!」

「スグル!」

「感動の再会、ね」

「あぁ…俺のゔぇるたんが……」

「大丈夫だったか?何もされてないか?それにどうした、その目は…」

「うん、大丈夫。この目はね、ウチの新しい力だよ!今度教えてあげるね!それから、ウチの新しいパートナーの…」

『悪いが話は後だ。今はとにかく合流する事を考えてくれ』


 そうだったな。つのる話もあるだろうが、今は合流する事が先決だな。


「ノヴァ、かなりの大人数だけど行けるか?」

『俺を舐めるなよ?これくらい、大したことない』

「そうか。なら、早く次に行こう。今度は誰が一番近い?」

『次は南西に十八キロメートル。これは…ふむ、既に合流済みだな』


 俺、ヴェル、ブラウンさん、ゲシュタルト、それから狐一匹をまとめて浮かし、次の場所へ向かう。一応、途中加速の事も考えて全員俺の糸で繋げておいた。ゲシュタルトには気持ち悪がられているが、それはコラテラルダメージという合流目的の為の致し方ない犠牲なのだ。耐えろ。


「マミナ、ショウ!」

「スグルぅ!こっちこっちぃ!」


 飛んでいる全員の質量をもどしつつ、綺麗に着地。何人か、知らない人がいるようだ。


「マミナ、この人が朴念仁のスグルか?」

「…わり、と、イケメン」

「…あ、うん。そう。なんか色々付いてるけど、これがスグル」

「人に向かってこれとはなんだ。それで、その二人は?」

「紹介するね。こっちがジュンさんで、そっちがハクちゃん。二人は姉妹で、あたしがこのイベントの間お世話になった人なの」

「そうか。うちのマミナがお世話になりました」


 ジュンさんとハクちゃんに軽く頭を下げる。その顔を、二人はただ覗き込んでくるだけで、何も話そうとはしない。


「…………」

「…じー」

「…あの、何か?」

「…いや?別に。頑張れよ、マミナ」

「…何を?」


 そこで、視線をショウに移す。どうしてそうなったかは後で聞くとして、装備が変わっている。その後ろには子どもが二人。少女に至っては、完全に警戒されて目も合わせてくれない。


「ショウ、その子達は?」

「お?やっと俺の出番か。少年の方はスサノオ、少女の方はクシナダ、だ。マミナと同じで、イベントで仲良くなったんだ」

「そうなのか。初めまして、スサノオ君、クシナダちゃん。スグルです。ショウの悪友です」

「……こ、こんにちは…」

「ショウ兄、悪友ってどういう意味だ?仲良いのか悪いのか、どっちだ?」

「どっちも、だな。良き友でありライバルだ」

「フーン…」


 その後も、しばらくは自己紹介が続く。ヴェルの目が【魔眼】になったり、キュウと言う狐が仲間になった事やジュンハク姉妹の武勇伝など…驚いたり、心踊らせて聞いたりした中でも、一番驚いたのは、ブラウンさんとゲシュタルトの所属するギルドのギルマスがジュンさんで、サブマスがハクちゃんだという事だった。そうして、お互いがお互いを理解した所で、以外にもゲシュタルトが話題を変えた。


「さて、これからどうする?」

「どうするって?何かやる事があるのか?」

「そりゃあ、あの塔の攻略だ。当然、行くだろ?」

「いや、まぁ行くけど……」


 ちらりと、ジュンさんの目を見る。


「…そうだな、スグル君。君の言う通りだ」

「え、今コイツ何か言いました?」

「…攻略、する、なら、下調べ、必要……」

「悲しいなぁ。ボクの作ったギルドの一員なら、真っ先に思いついて欲しい事なのに」

「…すいません、ギルマス。なにせ頭の中まで筋肉なもんで……」

「…のう、きん、ばか」


 ゲシュタルト、ひどい言われようである。


「情報を集めて、それから攻略……も良いと思うが、それより先に皆…お腹空いてないか?」


 その言葉を聞いて自覚したのか、全員の腹の虫が鳴き始め、スグルは少し不敵な笑みを浮かべる。


「元森林エリアに、俺の作った食堂があるんだ。他の客はカフェなんて言ってるが、結構ガッツリ食べられる所なんだ。どうする?」


 スグルの提案に、全員即決で賛成し、急ぎ足でスグルが元いた場所へと移動する。戻った頃にはスグルを含めて空腹が頂点に達していたのだった。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「お帰りなさい、スグルさん……と、お客さん?」

「俺の知り合いだ。何か出してあげて」

「わ、わかりましたっ!」


 キョウカさんに、まかない食を頼んだ後、全員を適当な席に座らせる。朝より少し遅いこの時間になると訪れる客は少なくなるので、周りに迷惑を掛けることは、あまり無いだろう。食材も、最終日となれば、集める気にもならないし、それなら溜め込んだ食材でどうにでもなる。


「それにしてもスグルってば、あたしの知らない間にこんな事してたのね」

「別に、これはただ集まってきただけで…やろうと思ってやったわけじゃないんだよ」

「そっちの方が難しいだろ…」

「そういえば、さっきの子。誰なんですか?スグルさんの知り合いですか?」

「キョウカさんか?まぁ、知り合いって言えば知り合いだな。イベントで会った人だし」

「そんな事より、くしなだたん。おにーさんと良いことシないか?」

「……やだ」

「おいゴルァゲシュタルト。お前年下だったら誰でもいいクチか」

「バカ言え!俺にも好みくらいあるわ!特につるぺたとかな!」

「「……っ」」

「大丈夫だ、ハク、お姉ちゃんがついてる」

「ヴェル、あたしがどうにかするから」

「でゅふふふふふ。ええのうええのう、目の保養やでぇ」

「お前ら自由過ぎるだろ……」


 頭に激しい痛みが走るのを耐えつつ、早く料理が届かないかとやや呆れ気味で待つ。しばらくして、大皿に乗ったグラタン的な何かとパンが出された。

 的な、と言うのは、やはり材料が少し簡略化されているからであって、決して手を抜いたとかそういう類いでは無いので、あしからず。


「お待たせしました。人数が多いので、取り分けて下さい。こちらが、取り皿です」

「ありがとう、キョウカさん。助かるよ」

「…あ、えぇと………」

「?」

「ご、ごゆっくり……」


 そのまま、バツが悪そうに客席から離れていく。俺の知り合いを紹介しようと思ったのに…今は忙しいわけでもないだろう?


「…やはりここでもスグルの女たらしスキルが……」

「なんだよ、マミナ。女たらしスキルって」

「…ははぁ、スグル君。君はいつもああいう態度で人と接しているのかい?」

「え、えぇまぁ。立場とかそういうモノも見ますけど」

「…女、たら、し、越え、て、人、たら、し」

「……?」


 なんだって皆そんな目で俺を見るんだよ。何も悪い事してないだろ?一体俺の何が悪いってんだ。


「なぁ、ショウ兄。もう食べてもいいか?ハラヘッタ」

「お、そうだな。良いよな、スグル?」

「お、おう。どうぞどうぞ。待たせてすまなかったな」


 その言葉を合図に、全員取り皿に手を伸ばす。よほどお腹が空いていたのか、無言で食べる。一人を除いて。


「あぁ、美味しいわぁ…流石はスグルの作った料理ね」

「いや、俺は作ってないぞ?」

「でも、スグルが指導して作った料理でしょ?一緒よ。おぉおっ!とろけるぅ……」

「……マミナはグルメリポーターにでもなるんだろうか」

「んんっ……この釜焼きパンも最高!外はカリッと中はもふもふ…最強のコンビね!」


 この子本気で大丈夫だろうか。ジュンハク姉妹も、なんか引いていますけど?


「…スグル君、マミナはいつもこんな感じなのか?」

「いえ、ご飯食べてる時だけこんな感じです。美味しくないとうるさいですし、美味しすぎてもうるさいです」

「…結局、うる、さい」

「ま、面白いからいいかな?これはこれで、マミナの新しい顔が見れたわけだし」


 ちなみに、マミナが黙って食べる時は美味しくも不味くもない時で、そこだけは信用しても良い点だ。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 さて、少々遅い朝食の後は作戦会議だ。まず、どこからあの塔を攻略するかだが……。


「まだ決まっていないなら、森林エリア(ここ)から攻略して欲しいんだけど」

「なんで?」

『それは俺から言おう。元森林エリアに生成された塔のふもとに、おそらくだが泉がある。そこに、少し面倒なやからが住んでてな…そいつが心配なんだよ、スグルは』

「…まぁ、そんな所だ」


 俺が説明しようとすると、また面倒な事になりそうだからな。ノヴァに言ってもらえてよかった。


「ふむ……何かしら決まった攻略ルートがあるわけでもないし、まずは一番近い場所から下見をするのも良いだろう。道中にその人がいるなら、会ってみるのも面白いかもしれないし、何か聞けるかもわからん。ボクはその提案に乗った」

「…姉ぇ、が、行く、なら、ハク、も」

「俺はギルマスの指示に従うぜ?」

「なら、私は先輩の制御係を」

「あたしは、スグルと一緒に行く」

「ふははは。ついにこの俺が主人公となる日が近づいてきたな!片っ端から攻略して伝説のプレイヤーに」

「ショウ兄にはまだまだ借りを返しきれてねーからな!どこまでも付いていくぜ!」

「私も、ショウさんが行くなら…」

「ウチの新しい実力を見せる時だね、キュウ!」

「きゅっきゅきゅ!きゅう!」

『よし、決まりだな。じゃあ、そろそろ出発しようか?腹も膨れたし、準備は万端だよな?』


 もちろんさ!なんて、言わなくても良いよな?それじゃあ、行くとするかな……


「あ、あのっ!」


 士気を上げつつある俺たちに声をかけたのは、他ならぬキョウカさんだった。


「何?キョウカさん」

「…私も、連れて行っては、もらえませんか?」

「…いや、でも危険だよ?今行って倒れたら、折角ここまで貯めたイベントポイントは全部無くなるんだぞ?」

「…構いません。貯めたポイントなんてたかが知れてますし、それに……」

「それに?」

「…今行かないと、きっと私は後悔します。絶対に足手まといにはなりません、だから……」


 弱ったな…どうしよう。キョウカさんは本気みたいだし、俺がどうこう言った所でどうなるわけでもないし……。


「…キョウカさん……だっけ?君は、足手まといがどういう意味か分かってる?」

「…そ、それはもちろん」

「なら、言ってみなよ。足手まといってどういう意味だ?」

「他者の行動を妨げるって意味です」

「…何も分かってないね。本当の足手まといって言うのは、他者の行動を妨げる何てことはしない。誰にも相手にされず、誰にも気にしてもらえず、ただひたすらその日を生きて、生きながらえて、それでも目に留めてもらえない。留めて貰うには、誰かの足を掴んで離さず、あまつさえその足を引きずり、蹴落とし、上に登るしか……」

「姉ぇッ!」

「っ……つまり何が言いたいかと言うとさ………あまり、過小評価するな……って事だ。君は、君の思っている以上に、誰かに必要とされているんだよ」


 …………ん?あれ?それって結局キョウカさんが着いてくる事になってなくない?今の演説必要だったか?


「スグル君、別に構わないんじゃないかな?連れてきても」

「…いや、でも本当に危険だし」

「あぁもう!うじうじとうっとうしいわね!スグル!お嬢様命令よ!連れて行きなさい!何かあれば全力で守ること!いいわね?」

「御意……って!なにやらせんだ!」

「よかったわね、キョウカさん。着いてきて良いってさ」

「あ、ありがとうございます!スグルさん!」

「…あぁくそっ!やればいいんだろやれば!」


 この後面倒な事になるのが目に見えてるのに現時点で面倒な事になってるって、これどうよ。結局俺の負担が増えただけじゃねぇか!ちっくしょう、胃薬足りると良いんだがなぁ!

ご愛読ありがとうございます。

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