#45 海底神殿
ショウのターン!ドロー!イベント四日目!え、二日目と三日目?ヴェルと同じ事を言わせるつもりで?総カットですよ総カット。
「ショウさん!起きてください、ショウさん!」
「…ん…あと五分」
クシナダちゃんが、布団型寝袋を揺さぶり、ショウを起こそうとする。
「駄目です。朝ごはん冷めちゃいます。お布団はがしますよ…きゃあああ!あ、朝からなんてことをっ!」
下半身の一部を見るなり、クシナダちゃんは悲鳴をあげる。
「バカ!いきなりはがすな!あと、別にこれはそういう意味じゃなくてだな、男の朝はみんなこうなんだよ!」
慌てて飛び起き、自分のソレを手で覆い隠す。
「うぅ…そ、そうなんですか…?なら良いですけど…あ、ショウさん、うしろ髪ハネてます」
「えっ…」
ふいに近づくクシナダちゃんに、少なからず魅力を感じてしまったショウは、無意識にそのきゃしゃな体に手を伸ばし、
「…ショウ兄、朝から何やってんの」
「え、読者サービス?」
「しなくていいよ!オレの精神が持たない!危うく薄い本が出来るところだったからな!出来たらこの小説お蔵入りだっ!」
「え、スサノオ君。お兄ちゃんってこうやって起こさないの?」
「どこのラブコメだ!ラブコメの波動を感じちゃったぜちくしょう!あとクシナダちゃんにお兄ちゃんはいないっ!」
スサノオの、小学生とは思えない鋭いツッコミに敬意を表しつつ、話を進める。
「お前も成長したな、スサノオ。この二日程で素晴らしいツッコミスキルを習得したな」
「いらねぇよそんなスキル……あとどこ見て言ってんだ。目線を上げろ」
「うぃ」
「上げすぎだ!はるか上空を見上げてどうする!」
「スサノオ君、もう百文字は無駄にしたよ?」
「うわぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
発狂寸前のスサノオから目線を外して、クシナダちゃんを見る。
純粋な笑顔を見せるクシナダちゃんは、もはや大天使サマで、俺達のパーティーの癒やしだ。そんな癒やし担当クシナダちゃんの作る料理は、さぞかし美味しいんだろうなぁ…
「さぁ、二人とも。ひとまず朝ごはんです。料理スキルが無いので、形はどうやっても悪いですが…味の保証はします。なんたって〈兵糧師〉ですから」
ふんすふんすと鼻息を荒立て、自信満々のクシナダちゃん。可愛い。こんな娘が俺も欲しいなちくせう。
「ゲフォゥフ」
「うわ、どうしたスサノオ。吐血しやがって」
「ラブコメ臭に酔った」
「スサノオ君、大丈夫ですか?」
「命に別状は無いから問題ナシっ!」
男ってみんなバカだな。
まぁ、それはそれとして。早く兵糧師の作ってくれた朝ごはんを食べよう。【料理人】よりかは見た目に支障が出るが、それでも戦場で栄養を補給するのに特化した食事だからな。おまけに、空腹ゲージは量の割に回復量が多いから、緊急時には欠かせない職業だ。
「さぁ、冷めないうちにどうぞ。芋がら縄汁をイメージして作りました。干し飯もありますので、一緒にどうぞ」
「おぉ、芋がら縄なんてよく知ってたな。それに干し飯か…やっぱり日本人なら米だろ」
干し飯を芋がら縄汁に混ぜ、しばらくしてからサラサラといただく。うん、美味い。スグルの料理も一級品だが、ゲーム内で食べる米はまた格別の美味しさだ。
「なぁ、ショウ兄。芋がら縄汁ってなんなんだ?」
「あ、さすがにスサノオは知らないか。見ての通り、味噌汁だ。戦国時代の一般兵は、農民やらが多くて、こういう兵糧が多かったそうだぞ」
「へぇ…それで、何が入ってるの?」
「芋づるを編んで、味噌で煮込むんだ。それを天日干しにして、食べる時はお湯で戻して出来上がり。ま、昔のインスタント味噌汁だな」
「そうなのか!じゃあ、干し飯っていうのは?」
「干し飯は、炊きたてご飯を急速に乾燥させたもので、今でも非常食として出回っているらしい。お湯や冷水で戻す事が出来るから、芋がら縄汁と相性が良いんだよ」
ちなみに、ショウは知っているような口ぶりで話しているが、これら全てググル先生に教えてもらいました。本当にありがとうございます。
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「「ごちそうさまでした」」
「はい、おそまつさま」
美味しい陣中食を食べ終え、とりあえず掲示板を覗く。何か面白そうなクエストを発掘するのだ。
「お、今日は色々あるな。廃坑調査にビーチにてボス討伐。それに海底神殿か…スサノオ、クシナダ。ちょっとこっち来い」
「ショウ兄、今日はどこに行くんだ?」
「私は、ショウさんが行くところならどこでも」
「それを、今から決めようと思ってな。二人はどこに行きたい?希望を言ってくれ」
「うーん、そうだなぁ…オレはボス討伐かなぁ…」
「私は海底神殿がいいです。すごく綺麗だと思いますし、見てみたいです」
「そうか…時間的にどっちかなんだよなぁ……よし、お前ら二人でジャンケンしてくれ。勝った方の希望を通すから」
二人はその提案に賛成し、最初はグー、と掛け声をかける。勝敗は、クシナダの勝利だった。
「よし、じゃあ海底神殿に行こう。ボス討伐は、きっと明日だな」
「オレの希望がどうとかの以前に、負けたのが悔しい」
「ふふ、私の勝ちだよ、スサノオ君。もっと修行したまえ」
これは萌える。いや、萌えた。嫌味でも、自慢でもなく、ただちょっと自信ありげに慰めるのクシナダちゃんマジ天使。男心をつかんで離さない乙女だね。
閑話休題。
「それじゃあ、そろそろ行こう。掲示板によると、潮の満ち引きが関係あるそうだからな」
「あ、はい。わかりました、急ぎましょう」
「オレ、手伝うよ。食器の片付け」
「それじゃあ、スサノオ君。食器類をこの辺にまとめておいてね。いっぺんに浄化魔法かけるから」
二人より大人の俺は一切口出しはしない。自分から言い出した事は、やらせておくのが一番だと思うからな。
そんな二人を待って、浜辺へと向かう。ちょうど潮が引いている時間帯だったらしく、数多くのプレイヤーが浜辺に集まっていた。
これだけ人数が多いと、海底神殿へは迷う事なく行けると思っていたのだが、どうやら未だ一人とて海底神殿にたどり着けていない様だった。
「ショウ兄、海底神殿の入り口はどこなんだ?」
「俺にもわからん。掲示板にも、詳しくは書かれていないんだ」
「もしかして、デマ情報だったのでしょうか」
「ありえなくは無いけど、デマを流すメリットがわからないな」
「意外と、陸から行くんじゃねーの?」
「もしそうなら、潮の満ち引きはどうなるの?」
うーん、陸からか。俺はてっきり転移ポイントが海中からひょっこり現れて、それに触れれば海底神殿まで行けると思っていたんだが…どうも少し違うらしい。
スサノオとクシナダちゃんは、ああでもないこうでもないと、子どもながらに頭をひねって考えている。
「どう?何か思いついた?」
「いや、全然。転移ポイントがひょっこり海中から現れて、それに触れれば海底神殿まで行けると思ったんだけど…それなら、こんなに人は詰まってないかなって」
「あ、そうだ。潜って行くのは?」
「うん、息は続かないし、泳ぐのにもスキルが必要だろ?」
「それもそうね…」
俺はスサノオと同じような頭の出来なのか…俺が低いのか、はたまたスサノオが賢いのか。今はそれが問題だ。
違うだろ。問題は海底神殿への行き方だろJK。
…誰だ今の。ナレーターが別次元の人間だったぞ。
まぁ、そんな事はどうでもいいか。それで、何だっけ…そうだ、海底神殿への行き方だった。まず、陸からという考えだが、これはありえない。もしそうなら、潮の満ち引きが関係するという情報が嘘になる。そして泳ぐのも無しだ。これはスサノオが言った通りの理由である。そうなると、移動方法は転移ポイントで行われるのが一番矛盾しない答えだ。
そして転移ポイントが隠されているという事を考慮させ、そこに潮の満ち引きで引き起こされる現象を当てはめれば。
「……入江と岩礁…だな」
「え、ショウ兄何か言った?」
おのずと、答えは見えてくる。
「あぁ、転移ポイントのありそうな場所の目星がついた。それで、ちょっと探して欲しい場所があるんだ。スサノオは、入江を探してきてくれ」
「お、おう!ショウ兄の頼みなら」
「え、ショウさん、私は?」
「クシナダちゃんは、別の事をしてほしい。その上で聞きたいことがあるんだが、土魔法は習得してるか?」
「え、土魔法ですか?えぇと…ちょっと待ってください」
虚空をスライドさせる動作をさせ、クシナダちゃんは自分のステータスを確認した。
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クシナダ【兵糧師】:Lv.18
未振り分けSP:5
職業スキル
【陣中食】Lv.5
戦闘エリア内でのみ、料理を作れる。
【食毒感知】Lv.3
食物毒を感知する。
【薬品調合】Lv.3
回復薬を合成、作成する。
【耐久保護】Lv.4
耐久力を保護する。
【体力補正】Lv.5
体力+50
ユニークスキル:無し
魔法
【火魔法】Lv.3
火を飛ばす事が出来る。
【風魔法】Lv.3
気体濃度を操作する。だだし、半径10m以内。
【水魔法】Lv.4
作成した水のみを操作する。
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「すみません、ショウさん。土魔法は習得してませんでした…」
申し訳なさそうに、下を向いて肩を落とされた。
「いいよ、怒ってないし。それに、土魔法って最大レベルにしないと戦力としては向かないからね。取ってる方が珍しいから」
「そ、そうなんですか?」
みるみるうちに、クシナダちゃんの顔に光が戻る。戻りすぎて、後光が差して直視出来なくなった。知り合いに土魔法を使っている娘がいるのは、黙っておこう。
「じゃあ、クシナダちゃん。土魔法を習得してくれるか?」
「えっと、SPが5Pしかなくて…それでも構いませんか?」
「5P…か…レベル3かな?うーん…ちょっと待ってくれ」
もう一度掲示板を開き、土魔法の詳細を調べる。
調べた結果、レベル1で穴掘り。レベル2で地質調査、レベル3で地震。レベル4が物体作成で、最後のレベル5が創造と書かれていた。
…レベル5の創造ってなんだよ。まぁ、目的の情報は手に入ったし、良しとしようか。
「うん、問題無いよ。クシナダちゃんの持ってるSPで充分足りるから。レベル2まで取ってくれるかな」
「あ、はいわかりました……習得しました、ショウさん」
「うん、ありがとう。あとは、スサノオを待つか…」
砂浜にありきたりな、流木に腰を下ろし、スサノオの帰りを待つ。クシナダちゃんは、俺の隣に座った。
「あの、ショウさん。土魔法のレベル3って何だったんですか?」
「え、あぁ、地震だって書いてあった」
「地震…ですか。私、習得しようかなぁ…」
「いいんじゃないか?スキルや魔法の習得は個人の自由だし」
「それもそうですね」
再びメニューを開き、虚空をスライドさせて残ったSPを土魔法に使ったようだ。今度、ヴェルちゃんに地震の魔法を見せてもらうかな。
「……」
「……」
話す事もなく、ただ静かに海のさざ波の音だけが聞こえる。いつの間にか、探索していた他のプレイヤーは探すのを諦め、どこかへ行ってしまった。
「…遅いですね、スサノオ君」
「そうだな」
「…あの、ショウさん。すごく失礼な事聞いてもいいですか?」
「…あー…うん、内容によるけど」
「CDOに、現実世界の知り合いはいますか?」
なんだ、そんな事か。それくらいなら、俺にとっては失礼でも何でもないな。
「いるよ。二人くらい」
「どんな人達ですか?」
「どんなって…そうだな…うん。一人は料理が美味くて頼りになって、周りに気が効くんだ。もう一人は気が強くて頑固で、強がってるけど無理して壊れて…なんて言うか、俺が護ってやらなきゃって思える人だよ」
「そう、ですか…」
まぁ、スグルもマミナも、俺がなんとかする前になんとかなるから、出る幕なんか無いけどな…。
「えと、それじゃあ…」
「ん?」
「…す……」
「す?」
「…す…好きな人は、いますかっ!」
「!?」
驚いた。急に大声を出されてすごく驚いた…。で、何?好きな人?恋バナか?…そうか、クシナダちゃんはスサノオの事を…そうかそうか。あいつも、隅に置けないなぁ…。
「いるよ、好きな人」
「…っ」
「でも、俺の気持ちは絶対に届かない。俺に勇気が無かったから、変えられなかったんだ。もし、あの頃に戻れたなら……いや、多分戻ったとしても結果は変わらなかったかもしれない」
「…ショウ、さん…?」
「…あぁ、ごめんな。意味不明だったよな…えぇと、つまり……どんなに気持ちを伝えたくても、言わなきゃ伝わらないって事だ」
「…伝える勇気が無かったら?」
「無かったら…勢いに任せて言ってみる、かな?」
「…わかりました」
分かってくれたか。当たって砕けろみたいな事しか言ってない気もするが、俺が基本的にそうする派だからな。仕方ないよなぁ、これは。
「…勢い…勢い…勢い……」
「そんなに力まなくても、大丈夫だって。相手も、その気があるからな」
「いきお……っえぇ!?そ、そうなんですか!?」
気付いてなかったのか!?鈍くね!?
「で、でも、世の中の人に否定されないですか?」
「どうして?好きなんだろ?」
「え、えと………」
「だったら、なんの問題も無い」
「……そうなんですか?」
「ん?……おう」
「…………あの、ショウさんっ!」
「はい?」
流木に座ったまま、クシナダちゃんが詰め寄ってくる。どういうわけだか、呼吸もままならないらしく、顔を真っ赤にして何か言いたげだった。
「…わ、私、初めて助けてもらった時からずっとショ「ショウ兄!ここにいたのか!探したんだぜ?」………っ」
「おう、サンキューな!こっちも準備終わったぞ!」
「これでいよいよ海底神殿か?ワクワクするな、ショウ兄。それで、二人で何してたんだ?」
「クシナダちゃんに魔法を習得してもらった。あ、そう言えばクシナダちゃん、さっき何か言いたげだったけど、何だった?」
「……………………なんでもないです」
「そ、そうか。ならいいんだが」
俺が初めて助けた時から……なんだったんだろう。
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スサノオに案内され、入江に到着。
「他に入江は無かったのか?」
「うん、引潮で出現する入江はここだけだったよ」
「そうか、それは都合が良い。じゃあ、クシナダちゃん。土魔法で【地質調査】お願いな」
「はいっ!頑張ります!」
そんなに力入れなくても良いんだが…まぁ、本人が張り切ってるなら、それでいいか。
「…ショウさん、終わりました」
「お、そうか。どうだった?」
「この水の下、地下2m程に、魔法で作られた空洞があります。でも、中の様子まではちょっと…」
…分からなかったか。でも、そっちの方が楽しげだから、別に構わないけどな。
「うん、ありがとう。空洞がわかっただけでも助かったよ。これで何も無かったら、正直詰んでたし」
「…ショウさん…」
「クシナダちゃん…」
そっと、クシナダちゃんの頭を撫でる。
「…ショウ兄、ラ波感じるぞ。もっと周りに気を使え」
「え、何が?」
「これで無自覚とは…主人公代理は恐ろしいぜ、全く」
「…?」
さて、問題はこの水と砂をどうするか、だな。単純にかき出すとしても、潮が満ちてきてアウト。やはりここは、魔法使い様のお力をお貸し頂かなくては。
「クシナダちゃん、火魔法は覚えてる?」
「あ、火魔法ですか?はい、レベルは3ですけど、覚えてます」
「そうか。なら、悪いけどこの入江の海水全部蒸発させてくれるか?なるべく急いで」
「はい、わかりました」
そう言って、ザブザブと入江の中に入って行く。中で火魔法を発動させ、自分の周りから蒸発させていった。
なるほど、範囲を自分の周りに絞って、持続力と温度を上げているのか。賢いなぁ。
見る見る内に、入江の海水は無くなり、残ったのは、むわっとした蒸気の熱量と含まれていた塩だけとなる。
この塩、食べられるのかな…?後で一応、採取してアイテムBOXに詰めておくか。
「終わりました。次はどうしましょう?」
「ん?あぁ、そうだな。塩を採取して、穴掘りを頼む…魔力消費で疲れているなら、無理にとは言わないが」
「いえ、やります。やらせて下さい」
「そんなに張り切らなくても…」
クシナダちゃんは、魔力を込めながら入江の底に触れる。しかし、掘れたのは俺の腰程の深さだけで止まり、クシナダちゃんは力が抜けたようにへたり込んだ。
「…………」
「…そんな泣きそうな顔すんな。後半分は、皆んなで掘ろう。な?」
「そ、そうだぜクシナダ。なんでもかんでも一人で背負い込むな」
「ごめんなさい…ありがとうございます」
魔力の切れたクシナダちゃんには少し休憩してもらって、俺とスサノオは残り1mを掘る。しかし、掘れども掘れども上から砂が落ちてきて、全く掘れた感じがしない。
「…改めて、魔法って偉大だな」
「魔法のちからってすげー」
そのうち、砂の下の空洞が尖出してくる。中には転移ポイントも見えており、鈍く光っているのが見て取れる。しかしそこには、見えない壁のような物が存在し、とても力技で中に入れそうもない。
「…ここに来てシステムの壁かよ…」
「俺はてっきり、強力な風魔法による空洞だと思ったのになぁ…」
「スサノオ君、ショウさん、どうですか?」
クシナダちゃんの魔力が少し回復したらしい。穴の上から話しかけてきた。
「あぁ、クシナダちゃん。もう大丈夫なのか?」
「あ、はい。なんとか」
「ショウ兄、どうすんだよコレ」
「うん、どうしよう。もうコレを穴の外に掘り出すしか思いつかないし…でも人力じゃあ、時間かかるし…あー、やべぇ…詰んだかも」
「ショウさん、それって魔力を入れれば解けるんじゃないですか?」
「…なるほど、ここに来るまで魔法使いは必須条件だったしな。やってみる価値はある。が、誰が魔力を込めるんだ?」
「それは、私がやります」
「ダメだ。仮に魔力を込めるのが正解だったとして、どれくらい込めればいいか分からないのにMP切れ寸前のクシナダちゃんに無理はさせられない。もう少し上で休んでろ」
「…はい、わかりました」
だがまぁ、しかし。魔力を込めるのは正解で間違い無いだろう。問題は誰が、どうやって魔力を込めるか、だ。今から掲示板に投稿して、協力者を得るのも一つの手だが、それでは恐らく間に合わない。
後2、3分でこの入江は海に呑まれる。そうすれば、もう発見するのは難しいだろう。ここは水深で言えば10mはあるからな。
「なぁ、ショウ兄。ポーション持ってないか?」
「ポーション?なんの?」
「MPポーションだよ。クシナダちゃんに飲んで貰って、それでどうにかならないかな?」
「どうにかって?」
「クシナダちゃんがMPポーションを飲んで、魔力を回復させればいいと思うんだ」
「どれくらい込めればいいか分からないって、俺さっき言ったよな?MPポーション一本じゃあ足りないと思うぞ?それに、二本目以降は回復量が減るんだぜ?」
「だったらさ、調合して貰おうよ。クシナダちゃんはそれが本職なんだぜ?おまけにスキルだからMPは消費しない」
「……スサノオ、お前…天才か!」
それならいけるかもしれん!やる価値は十二分にある!
「おーい、クシナダちゃん。薬品調合頼む。それから、魔力注入頼む。スサノオ、お前MPポーション何本持ってる?」
「8本」
「俺のと合わせて10本か…なんとかなるといいが」
「ショウさん、呼びました?」
「うん、呼んだ。頼みがあるから、ちょっと降りてきてくれるか?」
クシナダちゃんは、砂の壁を滑るように降りてくる。
「じゃあ、このポーションを合成して、1本にしてくれ。合成が終わったらそれを飲んでコレに魔力注入頼む」
「はい、頼まれましたっ!頑張ります!」
「うん、もっと気楽にな」
「はいっ!気楽にいきますっ!」
……気楽に、と言ったのに全力でポーション合成しているクシナダちゃんを横目に、一度穴の外に出て潮の満ち引きを確認する。
この様子だと、後1分半だな。
「クシナダちゃん、急いでね。もしかしなくてもかなりギリギリだから」
「はい、ごくごく、ぷはー、美味しい」
「MP切れの時に飲むポーションは身に染みるか…」
まるでおっさんだな!とは言わないでおこう。良識ある青年は、女の子にそんな事は言わないのだ。
「クシナダちゃん、おっさんみだだぞ」
「……」
「…スサノオ君、サイテー」
「えっえっ!?」
「スサノオ…もうちょっと乙女心を考えろよ」
「…えぇえ…」
とか言っている内に、後ろから水の音が聞こえてくる。潮が満ちて来たのだ。
「クシナダちゃん、後どれくらい?」
「…もうちょっとです」
「うわわっ!ちょ、ショウ兄!ヤバイって!オレ泳ぐスキル持ってないんだから!」
「俺だって持ってねぇよ、そんなマイナースキル」
「…ショウさん、スサノオ君っ!魔力注入終わりましたっ」
「いよっしゃ全員中の転移ポイントに飛び込めぇ!」
固まりながら三人揃って転移ポイントに触れる。その刹那、俺たちの体は飛ばされて、掘った穴や解除した転移ポイントは全て海水に呑まれて消えた。
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「ここが海底神殿か…」
「結構デカイ建造物だな」
「綺麗…水族館の海中トンネルみたい……」
皆それぞれの感想を述べつつ、別々に海底神殿を調べる。海底神殿は、海の中に建っており、どうしてか呼吸が出来る。流石ファンタジーだぜ。海底神殿自体はピラミッド型で、階段状の四角錐で出来ている。それぞれの四方には小さな建物が建っており、海底神殿の出入り口は固く閉ざされていた。
ちなみに俺は、一人で人魚がいないか探索中だ。欲望に忠実なのさ、俺は。
「……おぬしら、何者じゃ?」
「うわっとビックリしたぁ…じーさん、背後からいきなり声かけんなよ」
胸の大きい人魚を探していると、背後から杖をついたヨボヨボ魚人に遭遇した。何を言っているか分からない?俺もだ。なんだこの魚じーさんは。
とりあえず、質問には答える。
「安心して下さい。別に神殿の宝を強奪とかしません。ただ、美人魚を探しているだけですので」
「そうか、美人魚を探しておるのか。それなら神殿の中におるぞ」
「え、マジで!じーさんありがと!」
「礼には及ばんよ。それでの、少々頼まれてくれんか?」
「え?礼には及ばんって今……」
と、目の前にメニューが表示され、クエスト受注画面が点滅していた。
…なるほど、これが海底神殿のクエストか。
「構わねぇぜ。何を頼まれるんだ?俺は」
「それはのぉ……」
クエストを受注し、じーさんと一度別れて、チャットを開く。
「おーい、二人とも。探索はどうだ?」
「すごく綺麗なスポット発見です」
「変な宝玉ゲットしたぜ!後で売ろう」
「うん、皆思い思いの探索が出来たな。それで、悪いがスサノオ。その宝玉はクエストアイテムだから、売れねぇぞ」
「マジかよ!」
「ショウさん、クエストってなんですか?」
「それも含めて後で話す。とりあえず、海底神殿の扉の前に集合してくれ」
そこで一度チャットを切り、固く閉ざされた扉の前に行く。しばらくして、スサノオとクシナダちゃんがやってきた。
「ショウ兄、クエストって?」
「さっき魚人のじーさんに頼まれたんだ。難易度はそんなに高く無いが、この海底神殿に眠る〈無垢の精霊石〉を取ってくる事がクエスト内容だ。報酬が良かったから引き受けた」
「報酬って?何があったんです?」
「〈精霊のビン〉っていうアイテムでな、仲良くなった精霊をイベントエリアから出せるんだってさ。今回のイベント限定アイテムだぜ?欲しいだろ?」
本音は、美人魚をこの目に焼き付ける事だが、口にはしない。
「売れるのか?」
「当たり前だろ。俺とクシナダちゃんとスサノオでパーティー組んでるし、報酬は人数分出る。美味しい話だろ?」
「うん、ショウ兄が受けるなら、オレは問題ない」
「私も大丈夫です。ショウさんが受けるなら」
「決まりだな。それじゃあ、スサノオ。チャットで言ってた宝玉をこの扉の穴にはめてくれ」
スサノオは無言で頷き、アイテムBOXから無色透明の宝玉を取り出した。
「…なぁ、ショウ兄」
「ん?」
「…穴4つもあるぞ?」
「あれ?」
おかしいな。じーさんに聞いた話だと、宝玉で扉を開けるって言ってたんだが……あ、数指定されてねぇ……。
「ちなみにオレ、宝玉2個持ってるからな?」
「え、じゃあ、あと2個は?」
「さぁ?でも、多分あのちっちゃい建物の中だと思う。この2個もそこで見つけたし」
スサノオの言う通り、残り2個は四方に建っている小さな建物の中にあった。しかし、それでも扉が開くことはない。
「もうわけ分かんねぇ…どうすりゃいいんだよ」
「落ち着けスサノオ。この海底神殿のキーパーソンは魔法だろ?4つの宝玉から分かる答えは?」
「…魔力を込める、か?」
「おそらく」
「だとすると、どれにどの魔法を込めればいいのでしょう?転移ポイントの時はなんでも良かったのですが…」
「そうだぜショウ兄。宝玉が4つで全ての魔法系統は5つ。一つ足りないぜ?」
「確かにな。でも、そのうちの雷魔法は風魔法の派生魔法だろ?」
「そうか…なら、雷魔法は無しか」
「そういう事だ」
問題は、どの宝玉に火魔法や風魔法を込めるかだが…そちらについては大体検討はついている。しかし…先に全ての宝玉を取ったのは失敗だった。
「スサノオ、その宝玉がどの建物に入っていたか、分かるか?」
「えっ、いや…無理」
「だろうなぁ…何か、宝玉に違いがあれば良かったんだが…」
「宝玉に違い?あるぞ。宝玉のアイテム名が全部違う」
「それを早く言え!それで、なんて書いてあるんだ?」
「ええと、1の宝玉とか2の宝玉とか……」
「そっちかぁぁぁぁ……」
くそう…火の宝玉とか書いてあれば良かったのに…
「あの、ショウさん。小神殿の中に入って現在地を見れば分かるのでは?」
「小神殿?」
「あ、はい。あの小さな建物です。私が見た時は、第一小神殿とか書いてあったような…」
「クシナダちゃん有能すぎ」
「クシナダちゃんマジ聖母」
「いやいや、そこは魔法も剣も使える戦乙女だろ」
「ビーナス?バルキュリー?な、何を言っているですか二人とも?それに私は剣なんて使いませんよ?装備はできますけど。あ、私の話聞いてますか?ねぇ私の話…」
▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎
「はい、クシナダちゃん。この宝玉に火魔法を込めてくれ」
「はい…終わりました」
「うん、流石に小さいからたまるのも早いな。じゃあ次はこっちに水魔法を……」
もう一度小神殿を回り、どの宝玉がどこの小神殿にあったか確認し、クシナダちゃんに正しい系統魔法を込めてもらう。
「しかしショウ兄、なんでどの宝玉に火魔法だとか風魔法だとか分かったんだ?」
「スサノオ、小神殿の内装はしっかり見たか?」
「…いや、全然。全部同じに見えたし」
「そうか…あのな、スサノオ。宝玉はどんな風に小神殿にあった?」
「え、確か丸い台座の上にこう…三本針に乗ってた」
「その丸い台座に火のエフェクトとか書いてあったぞ」
「へぇー…ショウ兄は細かい事に気がつくんだな」
「まぁ、な」
最早、一種の職業病だな、これは。
「ショウさん、全ての宝玉に魔力注入終わりました」
「うん、ありがとう。所持魔力とかは、大丈夫か?」
「えぇ、なんとか」
「じゃあ、しばらく休憩しててくれ。もしかすると、この後もクシナダちゃんに頼るかもしれないから」
「…はい、頼ってくださいっ!」
クシナダちゃんから魔力の入った宝玉をもらい、頭を撫でる。スサノオは声にならない悲鳴を上げて、何か訴えているが…まぁ、気にしない。
受け取った宝玉はそれぞれ赤、青、緑、茶と色分けされており、一目で火、水、風、土と分かる。
「じゃあ、はめ込むぞ」
「ショウ兄、これで開かなかったら?」
「詰みだな」
それぞれの穴に、宝玉をはめ込んで行く。穴の中には火のエフェクトなどが描かれていて、どこにどの宝玉をはめ込むのかはすぐに分かった。
4つ全てをはめ込んだ時、宝玉は激しく光り始め、そして色を失った。それはつまり、宝玉に注入した魔力が扉に吸われた事を意味する。
「さぁ、いよいよピラミッドの中とご対面だ!」
「中にどんなお宝が…」
「私も、少しワクワクしてきました!」
しかし、待てども待てども扉は開かない。
まさかここに来て何か間違えたか?
「開かなぇな、ショウ兄」
「え、本当にこれで詰み?」
「いえまさかそんな…ショウさん、元気出して下さい」
「く、クシナダちゃん…俺、頑張ってくれたクシナダちゃんに面目ないよ…」
「いいんです。私は、ショウさんの力になれるだけで、それだけで私は…楽しいんですから」
「くっそ…なんだよ。ショウ兄もクシナダちゃんも頑張ったのに…開けよこのっ!」
扉に、怒りの飛び蹴りをするスサノオ。
「もういいよ、スサノオ。帰ろう」
「で、でもよぉ……あれ?ショウ兄、ちょっと待ってくれ」
「ん?どうした?スサノオ」
扉の前でなにやら目星を効かせるスサノオ。何か見つけたしらしい。
「ショウ兄、そっちの扉持ってくれ。オレはこっち」
「お、おう」
「せーので横に引いてくれ。もしかすると…」
「おいおい、ファンタジーの世界に来てまでまさかこんな開け方…」
「だからこそかもしれねぇ。いくぜ…せーのっ!」
「二人とも、何を…」
力一杯、扉を横に引く。すると、ごろり、と何かが転がる音が聞こえ、扉は横にスライドされていく。
「ここまで来て最後は手動かよ!!」
「ショウ兄、いつからこれが自動扉だと錯覚していた?」
「ショウさん、良かったですね、扉開きましたよ」
「なんっっっっにも良くない!おいコラファンタジー仕事しろっ!」
「まぁいいじゃん。早く入ろうぜ」
「ショウさん、お先に失礼します」
どんなに文明が進んでも、最後は人力か……あーくそっ!全くその通りだよっ!
モヤモヤする気持ちを抑え、俺は海底神殿の本殿に足を踏み入れた。
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「中は結構、殺風景だな」
「下り階段だけですしね」
「本当に楽勝だな、このクエスト。これで報酬が激レアアイテムなんだろ?美味しいな」
「でも、美味しい話には必ず裏がありますからね。気をつけてよ、スサノオ君。綺麗なバラにはトゲがあるのよ?」
「お、おう…」
「あはは、クシナダちゃんの言う通りだな」
全ての階段を下り終え、今度は長い一本道に出る。両壁には、剣を構えた騎士が描かれており、天井や床にはびっしりと〈ヒカリゴケ〉が群生していた。
「結構明るいな」
「ショウ兄、〈無垢の精霊石〉ってどこにあるんだ?」
「この先の祭壇らしい。依頼主の魚人じーさんはそう言ってた」
トラップも、敵対モンスターも現れる事はなく、一本道をひたすらに進む。やがて、少し拓けた小部屋に出た。
天井には大きな結晶石があり、そこから〈ヒカリゴケ〉の光を拡散させ、小部屋全体を照らしている。周りには、人口的に作られた水辺が存在し、結晶石で拡散された光が水面に反射していた。
そしてその中央に祭壇が設けられ、クエストアイテム〈無垢の精霊石〉が納められている。
「これが〈無垢の精霊石〉…」
「思ってたのとちょっと違う…」
「何はともあれ、これで激レアアイテムゲットだな!」
スサノオが〈無垢の精霊石〉を取り、アイテムBOXに詰め込んだその時。突如として、地鳴りが響いた。
「な、なんだ?なんだってんだよ!?」
「安心しろ、クシナダ!お前はオレが守るっ!」
「ショウさんっ!助けてっ!」
「この状況で頼られないスサノオの存在価値って…」
「くっそ、ショウ兄っ!冗談は後にして、今は逃げよう!」
「それ、すごく同意!」
来た道を走り出した時、後ろで水の跳ねる音と、何かが崩れる音が聞こえた。
振り向けば、先程までいた小部屋は祭壇ごと崩壊し、水辺からは気色の悪い魚型のモンスターが襲ってきていた。
「なんじゃあ、こりゃあぁぁぁ!くっそ、人魚はいねぇし何のためにこのクエスト受けたかわかりゃしねぇ!」
「ショウ兄、あのモンスター〈人魚〉って表示されてるよ!」
「バカ言え!人魚ってのはもっと清く美しく漢の浪漫だって決まってんだよ!あれは、紛れもなく〈シーサーペント〉だ!」
「じゃあ自分で見てみなよ!」
「現実を直視してる暇なんざねーよ!」
「ショウさん、まっ、待って…」
クシナダちゃんが、俺たちの後ろを走るが、徐々にその速度は落ちてきている。
「もうちょい頑張れ!〈シーサーペント〉は水辺からそんなに離れられない筈だ!」
「だからショウ兄!あれは〈人魚〉だっ!」
「っ…あぁもう!クシナダちゃん!手をっ!」
「はいっ!」
差し出された手を引っ張り、そのまま担ぐ。ちょうど肩と足を持って俺の体の前にクシナダちゃんがいる状況だ。
「ちょ、ショウさんっ!?」
「なに!?」
「っ…………いえ、なんでもありません」
「しっかり掴まってろ。〈シーサーペント〉じゃなくて〈人魚〉だから、もうどうなるか分からん」
「…私に、任せて下さい……穴掘り」
「…クシナダ、ちゃん?」
土魔法で天井に穴を開け、落盤させてしまったクシナダちゃんを見るに、この子は手段を選ばないと思えた。
結果的に〈人魚〉はそれ以上追ってこなかったけど、な。
「……おろして、ください」
「お、おう…」
「ショウさん、今なにやったか分かってますか?」
「へ?」
「…やっぱり…はぁ、もういいです。行きましょう」
「ぉ、ぉぅ」
何がなんだかもう分からん…とりあえずクシナダちゃんは怒ってるし、女の子はみんな怒ると怖いし、スサノオに至っては何も分かってないなって顔で俺を見るし……なんなのこれ。
「ショウ兄、人魚もう追ってこないよな?」
「この崩れた天井と落ちてきた土砂を見て、追ってこれるとは思えないけどな」
「まぁ、これでもう走らなくていいから、別にいいけど…あ、待ってよクシナダちゃん!置いてくなって!」
これで良かったのだろうか。まだ、何か来そうで怖いんだが……。
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「お、魚人じーさん。持ってきたぜ、精霊石」
「おぉ、待っておったぞ!さあ、はよう精霊石を見せてくれ」
スサノオがアイテムBOXから〈無垢の精霊石〉を取り出す。それを預かり、じーさんに見せた。
「ほほ、おほほほ。笑いが止まらんのぉ…感謝するぞい」
「…なぁ、じーさん。この精霊石ってなんなんだ?」
「…おぬしには、関係なかろう」
なんだろ、この変な違和感は。渡さないほうが良い気がしてならない。
「…言ってくれなきゃこの精霊石は渡さねぇ」
「ショウ兄!?じゃあ、精霊のビンは!?」
「無しだな。そうなったら、その精霊石はスサノオにやる」
「じゃあ問題ねーや。むしろ大歓迎」
「おのれ…人間共が…」
怒った魚人じーさんは、うねうねとその体を巨大化させ、なんかタコのオバケに変身した。
何だか、戦う予感がするので、取り敢えず〈無垢の精霊石〉は俺のアイテムBOXに入れる。
「…ショウさん、これってまずいですよね」
「うん、非常にまずいな」
「焼いたら美味そうだけどな。クシナダちゃん、焼いてくれない?」
「ごめん、無理」
こういうの、なんていうんだっけ……そうだ、思い出した。クラーケンだ。
『スナオニワタセバ、シナズニスンダモノヲ…』
「…はぁ、いいぜ。俺たちがお前を倒せばなんの問題も無いな」
『シネェイ!』
軟体動物の足をしならせ、鞭のように攻撃してくる。
振り下ろされた後には、砕けた床が見えた。
「スサノオ、剣を構えろ!まずはこの触手を切り落とす!」
「了解!」
「回復は、私に任せて下さい!」
連続して振り下ろされる足を、1本ずつ確実に切り落とす。
『ムダムダムダムダァ!アシナド、イクラデモサイセイスル!』
切ったそばから足は再生し、新しい足が生えてくる。ダメージも、そんなに入っていないようだ。
「きゃあぁぁぁ!ショウさん!スサノオ君!」
「「クシナダちゃん!」」
前ばかりに気を取られて、後ろに気が回らなかった。クラーケンの足が、クシナダちゃんを絡め取る。
『サイゴノチャンスダ。コノムスメノイノチガオシケレバ、〈ムクノセイレイセキ〉ヲヨコセ!』
「くっ…卑怯な…」
「二人とも、私の事は良いから、早くこのタコを倒して下さい!…ひゃっ!?」
クラーケンの足が、クシナダちゃんの体を締め上げる。だんだんと締める足は数を増していき…。
「きゃあ!?ちょっと、やめ、やめてぇ!」
『ホレホレ、ムスメガシヌゾ?ハヤク、セイレイセキヲヨコセ!』
なんていうか、ですね。クシナダちゃんがすごく……そそられるんです。
あ、ほら。クシナダちゃんの綺麗な御御足に、タコのヌメッとした足が……っと、ヤバイヤバイ。薄い本が厚くなるところだった。
「スサノオ、クシナダちゃんに見惚れるのもいいが、早く終わらせてタコ焼き食うぞ」
「…え?このクラーケン、食べるの?まぁ、良いけどさ」
「スサノオ、ちょっと耳貸せ。作戦がある」
「何々?…………うん、分かった。それで行こう」
『ソウダンハオワッタカ?』
俺は、クラーケンに背を向け、答える。
「あぁ、終わった。精霊石な、悪いけど俺らが貰うわ」
『ナニッ!?』
俺の答えに一瞬だけ強張ったか。予定通りだ。
「今だ、スサノオ!来いっ!」
「うぉおおお!」
俺に猛突進し、飛び掛かるスサノオを、俺の月夜見之剣に乗せて、さらに上へ飛ばす。
「スサノオ!ついでだ、こいつも使え!」
「おう!」
月夜見之剣を投げつけ、スサノオはそれを見事に空中で捉えた。
「スサノオ君!」
「待ってろ、今助けるからな!」
両手に二本の剣を握りしめ、飛び上がる勢いのまま、クシナダを捕らえている足を切り落とす。
「ショウ兄、クシナダちゃんを!」
「任せとけ!お前はそのクラーケンの頭から真っ二つに切り裂いてやれ!」
落ちてくるクシナダちゃんを見事に受け止め、スサノオの行く末を見守る。
「頭から割れろぉぉおおおお!」
『バ、バカナァァァァ!』
脳天に突きつけられた月夜見之剣は、見事クラーケンを仕留める。これで、海底神殿のクエストは完全に達成不能になった。
『……くそぉ…人間共が……この程度で私が死ぬとでも…………』
その言葉とアイテムを残し、クラーケンは光の粒子となって消え去った。
「…さて、この精霊石どうする?ショウ兄」
「…どうしよう。このまま持って帰るのは、ちょっと気がひけるなぁ…」
「元の場所に戻そうにも、私が通れなくしてしまいましたし…」
三人で必死に考えていると。
『勇敢なる冒険者よ』
「…スサノオ、何か言ったか?」
『…勇敢なる冒険者達よ』
「オレは何も。ショウ兄こそ、何か言った?」
『クラーケンを倒した勇敢なる冒険者達よ!』
「あの、二人とも。何か言ってる大きな人がいますけど」
『…あぁ、ありがとう少女よ。てっきり無視されてるのかと…』
さっきのクラーケンとは比べものにならない程の巨大魚人が、そこにいた。
「おっさん、もしかしてクラーケンの仲間?」
『そうだ、とも言えるし、違う、とも言える。人間の中にも、色々な奴がいるだろう?』
「つまり、おっさんはオレらの味方って事か?」
『そうだ。勇敢なる冒険者よ、ワシの名はネプテューンという』
ねぷてゅーん?…あぁ、ネプチューンか。海の神の。
『何者かが神殿内に浸入したと、言われて来てみれば…クラーケンが〈無垢の精霊石〉を寄越せと言っておるのが聞こえてな。冒険者達は、それを取り返してくれたのじゃろ?』
「「「あー……はい」」」
ここは相手の解釈に乗ろう。神殿壊したとか、言えないし。全部クラーケンの仕業、いいね?
「ええと、どうぞ。精霊石です」
『あぁ、すまない。何かお礼がしたいのだが…すまない。今これしか持ち合わせておらんのだ』
精霊石と引き換えに、俺たちは〈精霊のビン〉を貰った。同時に、クエストクリアの効果音が頭に響く。
『本当は、それにクラーケンを封じるつもりだったのだ。それで、冒険者よ。ワシは感謝してもしたりない。何か、望むものはあるか?』
「望む…もの?」
自然と、クシナダとスサノオの顔を見る。
「いいよ、ショウ兄の好きなもので」
「私も、それで構いません」
「そうか!それじゃあ………」
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うへへへへ、俺は今凄く幸せ者だなぁ…!
『冒険者さん、もうすぐですよ?』
『おにーちゃん、変な事望んだね。大体みんなお金とかなのに。お昼ご飯と見送りとか、誰も言わないよ?』
「皆さん、ショウさんにあまり近づかないでください」
「おいおい、クシナダちゃん。それはちょっと無理じゃないかな?」
俺たちは今、とっても美人魚な方達に地上まで送ってもらっています。
浦島太郎のように、亀の背中で帰るのもいいが…それはスサノオとクシナダちゃんに譲るとして、俺は美人魚さんの細い腰に掴まって、泳ぐとしよう。そうしよう、うへへ。
「やはり人魚は漢の浪漫だな!」
『冒険者さん、地上まであと数秒ですよ。カウントダウンしますか?』
『お、もう出る?もう出る?さん、にー、いちっ!どっかーん!』
盛大な水しぶきと共に、俺たちは地上へと帰ってきた。同時に、至福のひと時との別れでもある。さらば、俺の心の竜宮城。
『おにーちゃん、またねー!今度来た時はもっと凄いことしちゃうからねー!』
『冒険者さん!いつかまた地上の話を聞かせて下さいね!』
「皆さんこそ、お元気でー!」
夕暮れの海に手を振り、美人魚達に別れを告げた。
「っあー!面白かった!」
「ショウさん。ショウさんはやっぱり女性は胸の大きい方が好みですか?」
「ん?何を突然。そりゃ、大きければ大きい程好きだけど…可愛いなら、無くても良いかな」
「ショウ兄、セクハラは駄目だろ」
「はぁ!?セクハラ!?」
「ショウさんは、可愛ければ胸は気にしない、と…」
それぞれ、自分の思いを胸にしまい、黄昏ていく夕暮れの海をバックに。今日も一日イベントを満喫したのだった。
海底神殿と人魚は漢の浪漫だろ!
そうだろ!みんな!
「ちげえよ、クズ作者め」
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ご愛読ありがとうございます。
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上位魔法から派生魔法に変更。上位魔法だと、風魔法だけがレベル10になりますからね。しかも雷の神が存在する以上、誤魔化せませんからね。仕方ないね。




