#44 戦い方
イベント三日目、ヴェル視点。
ヴェルの二日目?この作者がそんなにホイホイ事件を用意出来るとでも?
誰よりも早く目覚め、自前のエプロンを装着し、朝食の準備をする。昨日と一昨日は特に何も食べなかった所為で、思うように力が出せなかったからだ。
ただし、それだけでは早起きする必要など無いだろう…だがここには変態がいるので、何をされるか分からないのだ。故に、誰よりも早く目覚める必要がある。
ふと、眠っている変態の方を見ると。
「…仲良いなぁ」
二人寄り添って眠るブラウンさんとゲシュタルトさんの姿が目に映った。これもう完全に事後だよね?
どうしよう、起こそうかな?そっとしておくべきかな?まぁ、そのうちどちらかが目覚めるでしょ。
「…うーん…あれ、ヴェルちゃん…何してるの?」
「あ、起きたんですね。今から朝食を作ろうと思って…スグルみたいに、上手には出来ないけど」
「あ、そう…じゃ、私は二度寝を…」
と、再びブラウンさんはまぶたを閉じようとしたところで、飛び起きた。
「なっ…!?何で先輩が隣に!?」
「んぁ…ぅるせーなぁ…少しは静かに出来ねーのかよ」
「出来るかっ!オンドリャてめぇ、誰に許可もろて私の隣で寝ちょるンか!」
「だからうるせーって。寝る場所なんかどこにでも有るんだからあっちで寝てろ」
「そうじゃないっ!こっちは別世界で恥ずかしい思いして来た直後なのよ!?私の隣で寝んなって話!」
「知るかよ、ブラウンの夢物語なんか。俺はまだ眠いんだよ……ってうわぁぁぁぁぁぁぁああああああああああっああぁ!?」
ゲシュタルトはウチの姿を確認すると、奇声を上げて起き上がった。
「ふぉあああぁあっ!ゔぇるたんのエプロン姿ぁぁあ!かわいいっ!かわいいよぉゔぇるたんっ!二度寝なんぞしてられっかよぉ‼︎スクショからの永久保存じゃあああ!」
「あ、そんなに似合ってますか?言われたのがゲシュタルトさんじゃ無かったら嬉しいです」
「さりげなくDISって行くSTYLEッ!そこにシビれる憧れるゥ!!」
「ちょ、シゲ…ゲシュタルトッ!私の話を聞きなさい!」
「はいはい、かわいい子猫ちゃんの言い分は、現実でゆっくり聞こうじゃねーの、俺の部屋で」
「……ふん、全く仕方ないわね。その言葉忘れるんじゃ無いわよ?」
ブラウンさんチョロすぎワロタ。って言うかかわいい。ブレないゲシュタルトさんは最早尊敬せざるを得ないレベル。
「で、ゔぇるたんはエプロン姿で何をなさるおつもりで?誘ってるんですか?」
「あんまり馬鹿な事言っていると目玉、あるいは耳が無くなりますよ?昨日と一昨日はロクに食事をしなかった所為で力が出せなかったので、今日は朝食を作ろうと思いまして。何かリクエストはありますか?」
「なん…だと…?ゔぇるたんが俺に手料理を…?ふむ…ならば俺は美味しい料理を頼む」
この前の毒味で少し自重する事を覚えたらしい。こんな変態でも成長はするのね。
「ブラウンさんは何かリクエストあります?」
「…ぇえと、そうね…キュウちゃんも食べられる料理が良いかな」
「ん、分かった」
空間魔法で、持ってきた食器や調理器具、簡易テーブルを出す。キュウも食べられる…となると、ベーコンエッグかな?油ものは大丈夫なのだろうか。そういえば、スグルには何一つ調理器具を渡して無かったけど…大丈夫かな?
「あれ、そもそもキュウはどこ?」
「キュウちゃんなら、私がさっきまで寝ていた所にいたよ」
「ありがとう。キュウ、おいで」
ウチの声を聞き、丸まっていた体を伸ばす。ついでに大きなアクビを欠いてこちらの方に歩いて来た。
「きゅうん?」
「キュウ、あなた確か火魔法が得意だったよね。力を貸してくれない?」
「きゅうん!」
そう鳴き、複数本の尻尾を束ねて鬼火を起こす。それを使って調理開始。
フライパンを火にかけ、薄切りのベーコンを焼く。卵を落として出来上がり。ウチとブラウンさんとゲシュタルトにはパントーストが付いてくる。
「にしても、キュウ。あなた良く魔力が続くね。ウチならすぐ音を上げるよ?」
「きゅ?」
自覚が無いらしい。底無し魔力とは中々のレアだと言うのに…まぁ、大体は使い方が分からず、成獣するまでに魔力暴走を起して自滅するのだけど。
キュウには、自滅してほしくないなぁ…
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「朝食、出来ました」
「きゅ!」
「キュウも手伝ってくれたおかげで凄く美味しいですよ」
「きゅ!きゅっ!」
何かご褒美をねだり始めたキュウ。かわいいやつめ。褒めると言う名目の元、モフろう。
頭を撫でると、ぱたぱた尻尾を振って如何にも嬉しそう。こんなにかわいい生物がいるなら、ケモナーも悪くないかもしれない。
「あら、美味しいわね。素材の味ってやつかしら」
「ゔぇるたんマジパネェ」
「二人とも、ホメ殺しって知ってる?」
キュウは、ウチの膝の上に鎮座し、綺麗に食べる。みんな美味しいって言うけど、ウチとしてはまだまだの味だった。
食べ終わった食器は、魔法の水に漬け、風魔法による空気振動で洗った。片付けまでが、料理ですから。
「さて、ヴェルちゃん。今日は何する?」
「うーん、昨日と同じく植物採取とキュウの観察がしたいんですけど……イベント、でしたっけ?そっちも頑張りたいんですよね」
一昨日、キュウとの一戦の後、キュウが家族に加わった。これは既に読者は分かっていることだと思う。だけど、他にも変化はあった。まずはウチのこの目…あの時、自分の目に魔力を詰め込みすぎて【邪眼】に変質してしまったこと。そしてもう一つ、ウチの魔力の上限が無くなったこと。
【邪眼】に付いての説明はこの後するとして、まずは魔力とは何かを説明しなくてはいけない。
魔力とは、生物そのものが生きる上で欠かせない力。それらは魂と密接な関係があると言われているが、詳しくはまだ分からない。だが、魔力はその生物それぞれの生死に関わっているのは間違い無いのだ。そして魔力の保有量は魂一つ一つ違っていて、その最大量は魂の寿命によって増減する。ウチやキュウみたいな魔種が人間より多くの魔力を持っているのはつまり、そういうことなのだ。
魔力の生成には空気中に含まれる魔空気を体内に取り込む必要がある。生物はそうやって、体の中に魔力を生成するのだ。
しかし、ごく稀に最大保有量が存在しない生物いる。そういう生物をまとめて【魂魔庫】と言う。【魂魔庫】が一番多い魔種は〈ゾンビ〉などの〈アンデッド種〉だ。しかし、持ちすぎる魔力はいずれ自身の崩壊を招く為に〈アンデッド種〉は耐久性に乏しいのだ。
そしてキュウは、生まれながらにして【魂魔庫】生物で、ウチもまた【魂魔庫】になった、と言うこと。
「私はそれでも良いわよ?」
「でも、キュウを観察しても新しい発見は無さそうなの」
「え、じゃあなんで…?」
「ウチも、魔法とは違う戦い方を考えようかなって…で、キュウの魔力を使えないかなって思って」
「あ、なるほどね。ヴェルちゃんも覚醒しちゃったし、キュウちゃんと魔力の共有が出来れば、あるいは……うん、そっちの方が面白そうね。私にも手伝わせて?」
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ヴェル:Lv.8
未振り分けSP:24P
スキル
【邪眼】Lv.1
魔力感知と魔力線を視認する。
【魂魔庫】Lv.5
魔力が無限になり、防御力がかなり低下する。
ユニークスキル
【料理人】Lv.5
料理が作れる。調理時に多少の補正機能あり。
魔法
【火魔法】Lv.5
灼熱の炎を操る。
【水魔法】Lv.5
水流を操作し、従える。
【風魔法】Lv.5
気体操作。空気振動による攻撃が可能。
【土魔法】Lv.4
岩壁の展開と土人形作成。
キュウ:Lv.1
未振り分けSP:3
スキル
【幼獣】Lv.5
成獣化するまで、各ステータスに制限がかかる。
【魂魔庫】Lv.5
魔力が無限になり、防御力がかなり低下する。
【幻術】Lv.3
相手に幻を体感させる。
【変幻】Lv.3
自身の体を違う物に見せかける。
ユニークスキル:無し
魔法
【火魔法】Lv.5
灼熱の炎を操作する。
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さて、新しい戦い方だけど。有り余る魔力を有効活用しなくてはね。有る物は何でも使おう。
「ゔぇるたんは俺が守るから、そんな事しなくていいよっ!ハァハァ」
「こういう変質者から身を守る為ですので、どうぞご心配無く」
「ゔぇるたんのツンデレ最高です!」
「きもい」
「ヴェルちゃんはサディストに目覚めたのかしら…」
今までの会話にデレ要素は無かったと思うんですけど?まぁ、それはそれとして。どんな感じにするかだけど…実は結構固まってたりするんですよね、これが。
まず、戦う上で一番大事な事は相手の攻撃を受けないこと。つまりは当たらない速さで動き続ければ、防御力は高めなくて良いし、【魂魔庫】のデメリットである防御力低下を気にしなくて良くなる。
では如何にして速く動くか。これは一度体験しているのだ。以前、アモンが使った魔法【風圧移動】を真似れば良いから。
名付けて【風力稼動】。体の周囲に竜巻を発生させ、体を持ち上げる。これなら制御も簡単だし、何より簡単に発動出来る。
次に攻撃方法は、素早い打撃を繰り出す事にした。
以上の事をブラウンさんに話すと。
「うーん、悪くは無いけど、パワーが乏しいかな?折角魔力が無限にあるなら、私はグーパンに魔力を上乗せするわ。そうすれば、きっと岩盤だって砕けるわよ?」
「速く、重い一撃…うん。それ良い!」
話の流れで、ゲシュタルトを見る。
「待ってましたっ!さぁ、俺を実験台に!さぁ!!」
下衆とハサミは使いよう、だね、スグル。気持ち悪い生物には其れ相応の仕打ちをしなければ。
「それでは、ゲシュタルトさん」
「ほいな!」
「死ぬがよい」
「ほいな、っえ?」
有無を聞かずにゲシュタルトの懐に飛び込む。予想通り【風力稼動】は高速で動くことが出来た。まさに計画通り。
そしてゲシュタルトは、はるか向こうの岩石に衝突していた。そこまで吹き飛ばされたらしい。
流石に少しやり過ぎた感がするので、一応駆け寄って声をかける。
「ゲシュタルトさん、大丈夫ですか?」
「…お、おぅ。大丈夫だ。大してダメージは受けていない…あ、別に力が弱かったとかじゃ無くて、ゔぇるたんのグーパンが当たる前に後ろに飛んだ所為と、岩石群に衝突した瞬間に受け身を取ったからな。全然痛くねーよ」
「そうですか、それは良かった」
しかし、困ったことに “ まだ全力じゃない ” んだよね…なんて言うか、【風力稼動】しながら拳に魔力を送るのが難しいと言うか、なんて言うか。せめて、第三者の魔力が関与すれば可能なのだろうけど。
あぁ、どこかに魔力無限で攻撃援助に特化していて、なおかつウチらの事情を気にしない、良い人はいないかな…?
「きゅきゅ!」
「え、もしかしてキュウが手伝ってくれるの?そりゃあ、魔力無限で攻撃援助に特化して、事情どころかそんなの考えてないでしょうけど。どうやって手伝うの?」
「きゅぅ……」
耳と尻尾をペタンと垂れさせ、しょんぼりするキュウ。しかしすぐに、名案が閃いたらしく、耳と尻尾はピンと立ち上がった。
「きゅきゅ!きゅぅん!」
「なに、何か良い考えが浮かんだの?」
「きゅう!こーん………」
聴いたような鳴き声を上げ、キュウの体が光り輝く。まぶし過ぎて、一瞬目を閉じたあと、キュウの体はウチの手に宿っていた。
それは、魔力がキュウと同じなのですぐに分かる。いや、そんなの見なくても分かるかも…?
手に宿ったモノは、以前見たキュウの成獣時の顔をイメージされていて、耳の辺りからは僅かに火が灯っていた。
「キュウ、【変幻】したのね」
ーーヴェルは、アタイが護るで!
「あれ、喋れるの?」
ーー今は、ヴェルの魔力と一体化しとるから、かな?離れると難しいかもしれへん。
「うーん、難しい事は考えるだけ無駄かな?まぁ、今は実験だよね」
ーーヴェルとアタイの力、このアホに教えたろ!な!
もう一度、ゲシュタルトの方を見る。一部始終を見たゲシュタルトは、なんか引きつった笑顔を浮かべているけど、折角実験台を “ こころよく ” 引き受けてくれたわけですし、存分に行きましょうそうしましょう。
「それではゲシュタルトさん、二発目行きます!」
「なるべく手加減オナシャス!」
ーーそれは無理やわ。
再び距離を取り、稼動する。呼吸をも許さぬ速さで懐に飛び込み、その拳を振った。
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結果から言うと、ゲシュタルトさんは間違いなく瀕死。それに加えて炎上効果が付与されるともう…目も当てられない。少しやり過ぎたと、ウチとキュウは反省する。
「でもあれだよね、動いて殴るとかちょっと地味だよね」
ーーそれはしゃあない。
「あのさキュウ。これ、手と足の両方は出来る?」
ーーでけへん事も無いけど、それやるんやったらいっぺん【変幻】解かなあかんわ。
「やって見てよ」
ーー意外とヴェルも無茶言うなぁ…まぁええやろ、ほなったら、ちょっと【変幻】解くわ。
手に宿ったキュウが一度元の姿に戻り、そしてまた【変幻】する。手には同じく成獣時の顔が、足には燃え盛る炎をイメージした獣の脚が宿る。
ーーどや?
「うん、すっごく良い!ありがとキュウ」
ーーやめぇや、照れるやろ。
「これで、まとわりつく炎の魔法が使えればなお良いんだけどね」
ーーおぉ、それはええな!やって見よか?
「出来るの?」
ーー能力と魔法は別物やからな。能力同士の掛け合わせはでけへん事も無いやろけど、相当の技術力がいるんや。
「そうなんだ…そう言われればそうかも。ウチも【風力動作】と【邪眼】の同時使用してるから…あ、だから最初は全力で殴れなかったのか!魔法使ってたから!」
自問自答に納得したところで、さらなる改良に勤しむ。キュウの魔法で手足に炎が点火する。
それを見てウチはあることに気がついた。随分前に、アモンが【フレイムストーム】を見せてくれたけど、アレって火魔法と風魔法の掛け合わせ…だったような?
「ねぇ、キュウ。例えば一人の魔法使いが、魔法を掛け合わせるのは、出来る?」
ーー出来るで?そやけど、やっぱり相当の技術力と経験が必要やな。能力は単純やから合わせやすいけど、魔法はそうもいかん。魔法は、込められる魔力を同じにせなあかんしな。
「だったら、同じ系統魔法は?」
ーーそやったら話は別や。込める魔力と方向性をちょちょいと弄ればええからな。アタイやヴェルみたいに【魂魔庫】とか人柱がありゃ簡単に出来るで……あぁ、なるほど、そういうことかいな。
「それじゃ、息を合わせてね?多分これ、同時発動じゃないと出来ないから」
前方の岩石に狙いを定めて、四脚を地につける。流石にゲシュタルトさんを的にするのはやめようと思ったしね。そして、息を合わせる合言葉は。
「「ーー点火!!」」
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そんな、一人と一匹で特訓を重ねる風景と、床ペロしている瀕死を眺めるのは。
「…頑張るなぁ」
別世界ではメインヒロインをつとめたブラウンさんその人である。
「…まったく、ムチャシヤガッテ……先輩は後方支援職なんですから、壁役には向いていないのに」
そう、ぐちぐち文句を垂れながら膝枕で頭を撫でている彼女は、最早女神以外の何者でもないわけで。
これでゲシュタルトが意識を持っていればトドメを刺されて即死である。
「はぁ…じっとしていれば、モテるんですけどね…この人も」
で、ゲシュタルト本人はその独り言を聞いていた。別に気絶しているのでは無く、ステータス的には眠っているのと同じなのだ。呼吸と心拍数が一定値で、なおかつ体力が減っていると勝手に睡眠効果が付与される。更には体力の自動回復もするので睡眠を取る事は悪い事ではない。
しかし問題は、その間の意識の深さである。通常、人間の睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠が存在し、その違いの詳細はまぁ、ググるとして。簡単に言えば体の全機能が休んでいるのがノンレム睡眠で、そうで無いのがレム睡眠だということ…ですよね?ググル先生?
そんなわけで、今ゲシュタルトの睡眠はレム睡眠であり、眠っているがブラウンの独り言は聞こえているということだ。
ーーモテるのか。そうか。だがまぁ関係無いな、ブラウンがいるもんな。
「まったく、自分に正直と言うか。もう少し、私の気持ちを考慮しても良いのに」
ーーありゃ?もしかして妬いてる?
「あぁもう、何言ってるんだろ私。いよいよもってダメね」
ーーそんなこと無いよって、言ってやりたい。はよ睡眠効果切れろよ。
「…先輩、もしかして聞こえてます?」
ーーもちろんでごさいます!
「…聞こえていたらマジで殺りますからね?私は本気ですよ?」
ーーぐぅぐぅ…スヤスヤ…もう食えんよ…
「すんごい恥ずかしい。私ってばゲシュタルトに本気で口説いてる」
ーー口説いてねぇ…ヤンデレなんですか?
そろそろゲシュタルトの睡眠効果が切れる。そうなると間違いなく判決ギルティ即死刑となるので、ゲシュタルトは依然として寝たふりを続けるのだった。
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昼過ぎ。特訓を一時中断して昼食調理に入る。とはいえ、材料は限られているので大した物は作れない。
ここは無難に、カレーを作りたいのだけど、流石に連続して食べるのには飽きてしまう。一昨日の夜がカレーで翌朝もカレー。昼は香辛料の効いたパンと牛乳、昨日の夜は卵焼きだった。
そして今朝はベーコンエッグだったので…今日の昼はどうしよう?無駄に小麦は余ってるのよね。訂正、小麦と香辛料と調味料類しか無いでござる。あぁ、食材が足りない…バッドステータス背負ってでも狩りに行くべきだったのかな。
「働きたく無いでござる!拙者絶対に働きたく無いでござる!!」
「はいワロはいワロ。先輩、そのネタも良いですけど、昼食の食材が足りないそうです」
「そこに、小麦があるじゃろ?」
「小麦しか無いんです。それともパンが良いですか?今から作ると夕方になりますよ?ゲシュタルトさん」
「そこはこう、魔法でパパッと」
「「魔法使いは、そんなに有能では無いんです」」
そう聞いて、しばらく考えるゲシュタルトさん。やがて、一つの結論を出した。
「調味料類ってある?ゔぇるたん」
「ありますよ」
「味噌は?」
「ミソ…ダイズの発酵したアレですよね?あります」
「なら、それで料理は?」
「使い方がイマイチなので、全然無いです」
「じゃあ、俺がちょっと肉取ってくるから、深めの鍋と小麦粉…を、水で溶いたものを用意していてくれ。俺は作れないから、指示だけする」
そう言い残して、ゲシュタルトさんは何処かへ行ってしまった。
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ゲシュタルトのオリジナルレシピ
材料…小麦粉(本来は片栗粉を使う)・肉(こちらも本来は豚肉)・塩コショウ・味噌(作者は赤味噌派です)・香辛料(ここではダシの代わりに)
作り方
①深鍋で水を沸騰させます。香辛料を入れてダシを取ります。
②肉に下味として塩コショウをします。
③小麦粉を水で溶きます。
④❸とは違う小麦粉を❷の肉にまぶします。
⑤❶のお湯に❸を好みの大きさで茹でます。
⑥❹を❺の鍋に入れて茹でます。
⑦❻の鍋に味噌を溶かせば、完成です。
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「…美味しい」
「そいつは良かった。本来とは材料がちょっと異なるが…まぁ、俺の家庭の味ってとこだな」
「ゲシュタルトさんは時々有能ですよね」
「惚れてもええんやで?」
「ブラウンさんに失礼ですので、丁重にお断りします」
やはりこの人、黙っていればイケメンなんですね、わかります。これはブラウンさんが惚れても仕方ないですよはい。
「…おのれ先輩、マジで許すまじ。こんなの卑怯よ」
現に今、ブラウンさんはゲシュタルトさんに萌えていますし、ウチも時々この人はワザと変態を演じているのではと思うほど。
「さて、そろそろ昼食は終わりにして、みんなで片付けて、敵MOBを狩りに行こうぜ」
「そうですね。ウチも試したいですし」
「なんだかんだでイベントポイント全然溜まって無いからね」
「よーっし、意見はまとまった」
後片付けと食器の洗浄を済ませて、出発の準備をする。
「さて、それじゃ…」
「うん」
「はいはい」
「きゅ!」
先陣を切って歩き出すゲシュタルトさんは、高々とその拳を掲げてこう言った。
「一狩行こうz
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あまりに酷い掛け声ですので、今しばらく美しい風景と尺八の音色をご想像下さい。
これが作者の力です。
この力で、俺は新世界の神と…なりません。
ご愛読ありがとうございます。
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ヴェルの魔法一覧に【火魔法】を入れ忘れていました。追加です。レベルの割にキュウに頼るのはまぁ…料理の味に支障が出ると言うことで。




