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#43 スグルが料理と関わるとこうなる

あぁ^〜グダグダから抜け出せないんじゃあ〜


戦闘シーンが雑すぎるんじゃあ〜

目玉焼きの作り方…?

あぁ、未経験でも知っている。

一つ、フライパンで焼く。

二つ、油を引いてからタマゴを落とす。

三つ、少量の水を入れて蒸す。

…この三つだ。

…どうだ、簡単だろう?

だが、あいつは違った…あいつはーーー


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


イベント二日目、朝。


『ふぁ…おはよう、スグル。早いな』

「おう、おはよう。よく眠れたか?」

『まぁな。んで、何作ってんだ?」

「朝ごはん」


ジュウジュウと、熱せられた平たい石の上で、何やら焼かれている。

ノヴァは、それを見たことがある。


『目玉焼きか!俺、あれ好きなんだよ!』

「あまり、期待しないでくれ…“何のタマゴかわからない”んだ」

『…おいおい、大丈夫なのか?それ』

「スキルで見た感じは、特に問題なかった。油は、そこに生えてる〈ベットリソウ〉から取れた問題ない油だ。塩コショウは流石に無理だが…」


アイテムBOXを開き、もともと持っていたパンを出す。

イベントよりかなり前、作ってからすっかり忘れていたパンだ。

え、賞味期限とかは大丈夫かだって?

焼きたての時と同じように、まだ熱を持ってるから大丈夫だろう。

きっとアイテムBOXの中は、時間が止まっているんだ。


「パンと一緒に食べてくれ」

『…まぁ、スグルが大丈夫だって言うからには、大丈夫なんだろうが…』

「ハイハイ、そんなこと言ってるうちに焼けたぞ。フタが無いから、蒸せないし、自然と生半熟になるが」


木を削って石 (割れると鋭くトガる石があった。おそらく、黒曜石)と合わせて作った簡易的なヘラを使い、出来たての目玉焼きをパンに乗せる。

もちろん、数は限られている貴重な主食(パン)なので、薄くスライスしたのは言うまでも無い。


「『いただきます』」


両者ともにお腹は空いていたので、目玉焼きを乗せた〈たまごパン〉を頬張った。


『…なんじゃこりや』

「…美味い」


とろりとした濃厚な黄身が焼きたてのパンに染み込んで、ふわふわのパンのしっとり感がさらに強調され、さらに食材そのままの美味しさがするりと喉を通り、出来たての食欲をそそる香りが鼻を抜けた。


『スゲェ…塩すら使ってないのに、二枚目が欲しくなる!』

「あぁ、濃厚な黄身と植物のほのかな香りが鼻を通って…最高だな!」


もっと食べたいと思うが、大きさがミニラスク並なので、至福のひと時は一瞬で終わってしまう。

もっとも、一人と一匹にとっては何時間にでも感じてしまう程に、濃密な時間だったワケだが。

角して、謎のタマゴはいくつか (繁殖用に)持ち去り、同じく〈ベットリソウ〉もアイテムBOXに詰め込んで、朝の時間は終わった。


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「とりあえず、昨日の戦利品を確認しようか。いろいろとバタバタしてて、確認出来なかったしな」

『あぁ…うん』


目線がそれていく。

悪戯がばれた子どもみたいだった。


取得したアイテムは糸と蜘蛛の目、それからツメやら体皮などの、素材系アイテムだ。

加えて、ユニークスキルをいくつか取得している。

毒蜘蛛(ゲノムスパイダー)〉から【蜘蛛の糸】数枚が。

〈ゲノパイダーキング〉から【蜘蛛の糸X】がドロップしていた。

どう違うのかと言うと、有効範囲。

【蜘蛛の糸】は、任意の箇所から対象物目掛けて発射するのに対し、【蜘蛛の糸X】は任意の箇所から対象物まで射出し続けると言うものなのだそうだ。

簡単に言うと、捕獲用と移動用の違いだ。


『ほっほう。これはなかなか良さげなスキルが取れたんじゃ無いの?』

「なんでだよ。捕獲用はまぁ使えるかもしれんが、移動用は使えないだろう?いちいち糸張ってその上を歩くのか?」

『その方法だと面倒だが、スパイダ○マンみたく移動すれば問題無いだろ?』


うん、問題大アリだけどね。

移動方はぜひとも参考にさせていただきたいが。

せめて、手首から糸が出ないようにしないとな。


「なるほど。じゃあ、糸はそれぞれの【二丁拳銃(ツインハンドガン)】から出るようにすれば…うん、いけそうだ」

『まぁ、俺がいるから振り子移動方にはならないけどな』

「…それはそれで死に急ぎヤローに怒られそうだな」


え、本当にテレビやネット環境に触れたこと無いのかって?

無いよ俺は。俺は、な?


「そんじゃまぁ、とりあえず…スキルを覚えて実戦あるのみだな」


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


スグルのスキル一覧


ユニークスキル

【鷹の目】Lv.62

一定の確立で麻痺効果付与&ホーミング


【料理人】Lv.5

料理が作れる

弱点発見


【危機回避】Lv.3

自身より強者に限り気配察知


【蜘蛛の糸】Lv.1

粘着性の糸を発射する


【蜘蛛の糸X】Lv.1

粘着性の糸を射出する


職業スキル

【連射】Lv.4

11連射可能


【回避行動】Lv.5

回避に成功すると最大HPの5%回復


【立体逃走】Lv.2

全ての物体を足場にする


【スタミナ補正 Ⅰ 】Lv.4

スタミナ補正+40


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


『実戦ってよ、何と戦うんだ?』

「うーん、とりあえずは移動方がやりたいから、その辺の木と木の合間を縫ってみようかと。その間に見つけた敵から狩って行こうか」

『まぁ、せやな』


とにかく、手近な木の幹に糸を張って…っと。

二本張ったら、次はパチンコの要領で糸を巻き戻す感覚をイメージ…あとは、ノヴァの【重力操作(グラビトン)】でブーストすれば。

糸が戻る勢いとノヴァの力で俺の体は宙を舞う。


「いよっしゃあ‼︎大成功ぉ!」

『あまりスピード出すと事故るぞ』


高度が下がれば、次の標的に銃口を向けて射出する。

その瞬間、再び糸を巻き戻すイメージを浮かべる。

するとまた、ノヴァの【重力操作(グラビトン)】で加速する。

空を飛ぶだけなら、ノヴァに頼れば良いのだろうけど、途中で魔力が切れれば即落下は(まぬが)れないだろうし、何より高速飛行は制御が効かなくなる上に魔力消費も激しい。

かと言って、ノロノロと飛べば鳥型モンスターに襲われる。

そういう面では、この移動方はとても都合が良かった。


『スグル、本当にスピード出しすぎだ。制御方は考えてたんだろうな?』

「……」

『おい、まさか…』

「この速さで地面に落ちたら痛いだろうなぁ…」

『おいぃぃ!』

「とりあえず、次の巻き戻しで減速してみるから、微調整よろしく」


細部はノヴァに任せて、俺は俺に出来る事をする。

なんかギャアギャア文句言ってるけど全部無視だ。

物体が放物線を描いて飛ぶ場合、角度45°が一番飛ぶらしい。

逆に、一番飛ばないのは真上と真下に向けて飛ばした時だ。

今回は、無傷で着地したいので必然的に真上となる。


「そんじゃ、行くぞ?」

『スグルの大バカやろぉ‼︎』


巻き戻す糸を、限界まで縮める。

すると、振り子の運動と同じく、短くなるに連れて速さが早くなった。

その勢いのまま、俺は真上へと飛んだ。

当然、一定の高さまで上ったあとは、重力に従って落下するのみ…だが、ノヴァの【重力操作(グラビトン)】により、落下速度を落とすことが出来た。


『結局、疲れるのは俺なんだな…』

「毎度の事だが、声が疲れて無いぜ?」

『頭に直接話しかけてんだから、疲労感は伝わんねぇよ』


とはいえ、毎回こんな止まり方じゃ心臓に悪いので、早急に対処方を考えなくてはならない。

手っ取り早いのは、運動力学のベクトルの相対位置に同等以下の力を……早い話が後ろに重力源を生成することだ。

しかし、それではノヴァの魔力が足りずに落下するのが目に見える。

何か、他に良い考えは…


『お取り込み中悪いんだが、周りに気を付けろよな?』

「はぁ?」


ノヴァに言われ、ふと顔を上げると。

自分の身長の倍はあるクマのような生物が。

それもどうやら、ひどく怒っていらっしゃるようでして。

唸り声を上げて威嚇していた。


「…一体何があったんです?」

『何も無かったんです。ただちょっとナワバリに入っちゃったです』

「…理由としては十分ですね、って言っとる場合か!」

『と言われましても』

「おま、バカなの⁉︎あれ見える⁉︎今にも振り下ろされそうな腕っ!」

『…あぁ、ひどく長い、鋭い爪が付いてますね』


下ろされる腕を【回避行動】で回避…もとい、バックステップで避ける。

無駄にHPが5%回復した。


『何やってんですか。スキルを試す絶好の機会でしょう?』

「簡単に言ってくれるねぇ…あーもうっ!わかったよ!次からは少し(いた)わるから動きを止めて下さいっ!」

『ほいほい』


ズ、ズン…という音と共に、クマのような生物は足から地面にめり込んだ。

そこへすかさず【蜘蛛の糸】を撃ち込み、動きを完全に止める。

あとは、通常弾で頭を撃ち抜けば、頭の先から足の爪先まで綺麗に素材化し、そっくりそのままアイテムBOXへと押し込める事が出来る。


アイテムBOXに素材の塊を押し込めた後、何気無しに大きく凹んだ地面を眺める。

そこで、あることに気が付いた。

どう考えてもこの凹んだ跡は、重力による凹み方ではない。

かと言って、空間ごと沈めたとするならば、もっと魔力消費が激しいはずだ…だとするならば。


「ノヴァ、ちょっと俺に重力操作を掛けてくれ」

『…ぇ?まさかスグル…目覚めた?』

「うんそう、うっかり第三の力が…ってんなわけねーだろ。試してみたいことがあんだよ」

『…まぁ、そういうことなら』


そう言い終わらない内に、体に大きな負担がかかる。

昨夜体験したあの重力と同じだ。

膝や体の節々が悲鳴を上げ、ちょっと気を抜くと砕けそうだった。


「…ぐっ…も、もういい」

『え、もうかよ…ツマンネ』

「そろそろネタやめろや」


再度体感して、よくわかった。

ノヴァは気付いて無いかもしれないが、おそらくノヴァは、スキルと魔法の二つを持っている。

魔法は、自分で魔力を練らなければ (CDOでの魔法は、空気中の何かと体内の何かを混ぜて発動させるそうだ)使えないので、自分の使える魔法はほぼ全て知っていると言える。

しかし、スキルは俺の【鷹の目】と同じく、無意識でも発動するので、知らない内に覚えていても気付けないのだ。


『どうだ?何か良い方法は思いついたか?』

「…あとちょっとで分かりそうなんだ…あと、ちょっと……」


もうここまで、この辺まで来てんだよ!

あと一つのヒントで解けそうな…

…くそぅ、わからん…ちょっと考えを戻すか。

まず、凹み方から…足の形が地面にくっきりと見えるからには、瞬間的に体重が増えなくてはならない。

そもそも体重、つまり物の重さは“質量×重力”で決まる。

で、ノヴァは魔法で重力を操作出来る、と。

だが、重力操作で空を飛ぶ時は、まるで無重力空間で漂っている感覚に近しい。

つまり、魔法で操作出来るのは1Gを倍にするかゼロにするかしか出来ないとなってくる。

となると、変だ…俺の体重はいつ増えた?


…………あぁ、そうか、そういう事なのか。


「ノヴァ、俺の頭の中見てただろ?」

『ん、まぁ』

「言ってみ?」

『…俺は、認識する物の密度を操作出来る…のか?』

「そういう事になるな」


例えば、百グラムの分銅があるとする。

それが、(はかり)の上で百を指すには1Gが必要になる。

この重力が増えれば、秤は百を指さないのだが、同じ重力圏内で秤に百以上を指させる為には、分銅の重さを変えれば良いのだ。

物の重さは“質量×重力”だが、細かくすると“ (体積×密度) ×重力”となるため、最初の考えでは答えに辿り着けなかったのだ。


ちなみに、現実に密度を操作してしまうと、原子的崩壊と核融合を起こしかねないので、あまりお勧めしない。

この世界はゲームで、ファンタジーで、魔力が存在するからこそ出来る事なのだ。


『なぁ、スグル』

「ん?なんじゃらほい?俺は今凄く気分が良いんだぜ?」

『うん、誰も聞いてないから。あと、誰に向けて話してたんだ』

「画面の向こうの読者様」

『…それは人なのか?まぁいいか。あのさ、スグル』

「おう?」

『なんでメニューから俺のステータス見なかったんだ?スキルとか魔法なら、載ってるだろ?』

「…………」


その時、時間は止まり、心に何者も侵入させない絶壁(ゆかりウォール)が建設され、ノヴァの昼ご飯が熊肉からその辺のモロコシの様なナニカへと変更されたのは、言うまでもない。


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


さて、自力飛行での制御方だが、密度操作を使うことにした。

止まりたい位置…つまりは初速度から解放された位置で体重を極限まで減らせば、そこで止まるからな。


「どのみち、体で覚えるしか無いがな」

『お前、俺の苦労を少しは考えろよな』

「考えてなかったら、ノヴァのスキルなんか解明しようなんて思わねぇよ」


再度【蜘蛛の糸X】を使い、空へと飛び立った。もちろん、ノヴァの補助付きで。

今度は目的地があった。最初の安全区域だ。かなり動いたので、それなりに離れていると思っていたのだが、いざ飛んでみるとそんな事は無く、一分とせずして辿り着く。

ただし、上空約十 km(キロメートル)に存在していると付け加えて。

多分、時速六十 km(キロメートル)程で飛んでいるのだが、ここでノヴァのスキルを行使し、重さを極限まで減らした。

すると体から速度が失われ、俺はそのまま落下を始めた。

落ちながら、この前みたいな野郎が出ないとか考えたが、流石に昼間から狙ってくる輩はいないと思ったし、仮にいたとしてもノヴァのスキルと俺のスキルで何とかなるな、とか考えながら、俺はそのまま地面に叩きつけられた。


「速度落とせやァ‼︎」

『やったけど落ちなかったんだよ』

「でしょうね、だって今俺の体重はヒトケタだもんな!」


どうしてこいつはスキルの一つもマトモに使えないのだろうか?

やはり使い方を教え直す必要があるのか?


『まあまあ、そう怒るなよ。怪我は無かったし、日頃の恨み辛みを返しただけだからさ』

「なおさら悪いよ!確信犯ですよね!それ!」


そりゃあね?いつもお世話になってますよ?【重力操作(グラビトン)】はもはや欠かせないし、スキル【密度操作】はそのままでも掛け合わせでも万能ですしおすし。

…あ、なんか魚介類食べたくなった。


『お前……なんか悔やんでると思った矢先に食物かよ』

「あ、いらない?それともさっき見つけたモロコシが良い?」

『お魚食べたい』

「はいはい、じゃ、ちょっと魚捕ってきてよ。さっき森の中に沼あったし」

『…ちょいちょいスゲェな、スグルって』


ノヴァは一人 (いや、一匹か?) 、飛んできた道を戻って、空の彼方へと消えた。

その間に、俺は調理場を作る。

手頃な岩を組み合わせて、焚き火の準備をする。そう、炭火焼きである。

あとは、火打石なり火おこしきで点火するだけだ。

それが終わったら……何しよう?


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


俺がたどり着いたのは、沼と言うよりも湖に近かった。

地の下からは静水がこんこんと湧き出て、止まること無く細い川へと注がれている。

多分、水精霊(ウンディーナ)の一族が住んでいるんだろうな。

そうすると、かなり厄介な事になる。彼奴らは、祈りを捧げず侵入してきた奴らを容赦無く襲うのだ。


『ーー汝、全ての水に感謝の意を捧げ、恵みを我に分け与えたまえ』


それは、如何なる生物だろうと容赦はしない。

となれば、形だけでも語っておくのがベストだ。

さて、もう祈りは捧げた。あまり多く獲ると水精霊(ウンディーナ)の怒りを買う恐れがあるので、手で数えられる程度を獲ることにした。


ーーあれか?

ーーあぁ、間違いねぇ。

ーーあんな奴の主人が…?

ーー舐めてかかるなよ?それでナツメは…

ーーわかってるよ。油断なんかしねぇ。

ーーククッ…ナツメは俺たちの中でも最弱…

ーーバカ、死にてぇのか。


ひそひそ、ひそひそひそ。

その小さな作戦会議は、ノヴァの耳に届かない。

そもそも聞き取る耳が無かったのだ。


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


…遅い。もうかれこれ、一時間になる。

おっかしいなぁ…もしかして、池があったのは見間違いだったのか?

それはそれで、なかなか面白いだろうけど。ノヴァはそこまでバカじゃない。


「…迎えに行くか」


長らく落としていた腰を上げ、足を森へと向ける。

途中から、歩くのが面倒になってスキルを使うのは、当たり前だろうけど。


そうこうして、ノヴァに言った沼へとたどり着く。こうして近くで見ると、湖と言った方が良かったかもしれないな。

すぐに、ノヴァは見つかった。しかし、なんだか様子がおかしい。


「おい、ノヴァ。お前一時間もなにやってんだ」

『スグル、悪いな』

「は?」

『なんでも良いからさ、早く助けてくれねぇか?』

「お前、何を言って…」


その刹那、背後から忍び寄る気配に気付き、振り下ろされる剣技を間一髪で回避した。


「な、なんだお前ら!」

「やかましい!てめえには恨み満載だから切らせてもらう!」

「俺はお前を知らないぞ⁉︎」


にじり寄るこいつを、後ろに下がりながら、チャンスを伺っていると。

何やら下から迫ってくる感覚がする。咄嗟に【立体逃走】で上へと飛んだ。

そして、その判断は正しく、先程まで立っていた位置の下から人が出て来た。小さなナイフを持って。


「あっぶね!」

「チィ、外したか…だがしかし!宙で高速の弾幕を避けられるかなぁ⁉︎」

「何っ⁉︎」


飛んだそのすぐそば、木の上でマシンガンを構える人影が見え、気付いた時にはもう発砲されていた。


「あぁもう!なんなんだよお前ら!」


【蜘蛛の糸X】を発動させ、木々の隙間を縫って避ける。

その動きに合わせて発砲し続けるも、死角へと消えればそれ以上は撃って来なかった。

ついでに、他の二人も俺を見失ったみたいだ。


「なんなんだよお前ら、俺になんの用だ⁉︎」

「スグルと言ったな?貴様は、俺たちの仲間を殺しただろう?」

「殺す奴は殺される覚悟を持って生きるのが、俺たちのルール」

「だから、俺たちはお前を殺す」


ますます意味がわからん!こいつらの仲間って誰だ?


『おーいスグル、聞こえるか?』

「っ…なんだ、ノヴァか」

『昨日さ、スグルを殺そうとした奴がいただろ?そいつのUK(ユーザーキラー)仲間らしいぜ?』

「…なんでお前が知ってんの?」

『こいつらがペラペラ喋ってたからな』

「なるほど、わかった」


ノヴァの意識が明確なら、問題は無い。

お腹が空いて仕方ないから、さっさと倒して腹ごしらえとしましょうか。


「ノヴァ、そこから重力操作使って彼奴らを抑えてくれ」

『ごめん、無理。なんか、ハルキ…あぁ、あの地面から攻撃してきた奴な?そいつに変なアイテム付けられてさ、上手く魔法が使えないんだよな』


魔法が使えない、となると…封魔アイテムか?商店街で見たけど、装着者にバッドステータスを付けるアイテムの一種だっけ?

そうすると、スキルも使えなさそうだな…


「よし、ならノヴァはそのまま待っててくれ。すぐ終わらせる」

『期待してるぜ?』


チラリと、マシンガンを撃ってきた奴を見る。木の陰から顔を覗かせると、早速撃ち込んで来やがった。

俺の位置を特定した奴らは、こちらに突撃してくる。迎え撃とうと、身を乗り出すも、出た位置から撃ち込んで来やがるので、動く事が出来ない。


「終わりだっ!」

「死ねぇ!」


右からは剣を持った奴が、左からは魔法使いが。完璧なコンビネーションだった。

おそらく、右に逃げても左に逃げても命は無い…ならば。


「「なんだと⁉︎」」


切り倒された木、足元に開いた地獄への道…穴の中には土槍が生成されていた。

しかし、そこにスグルの姿は無い。


「シュウト!奴を見たか?」


と、剣を持った奴が話す。


「いや、奴は見ていない。きっと逃げたのさ」


木の上でマシンガンを構えた奴が答える。


「とんだ腰抜けだな、シュウトやフユキとは話にならん」


と、魔法使いのハルキはコメントする。


『お前らアホか。スグルが逃げるワケねぇだろ』

捕虜(エサ)は黙ってろ」

「そうだぞ。口を(つつし)め、たかがドラゴンの分際で。なぁ、シュウト」


ハルキは、木の上に目をやるも、そこにシュウトの姿は無く、代わりに〈DEAD〉と表示されていた。

音も無く、シュウトは殺されたのだ。

誰に?もちろんスグルだ。それ以外考えられない。

残された魔法使いのハルキ、剣士のフユキは即座に背中を合わせ、警戒する。


「どういう事だ?奴はそこのドラゴンがいないと、飛べないんじゃ無かったのか?」

「わからん、もしかすると “ 新たな飛行方 ” を見つけたのかもしれん」


なかなか良い読みだ、それは概ね正しい…が、もう終わりだ。

テメェらは俺に仕掛けた事を後悔するがいいさ。


久々にキレたなと、ノヴァは思う。

俺が身につけられているアイテムは、体の自由を奪う麻痺効果と、魔法妨害だ。

なので、動く事は愚か魔法行使は出来ない。しかし、脳会話(テレパシー)や【密度操作】はスキルとして認識されるため、使用することができた。

ゆえに、ノヴァにはスグルの行動を手助けしたり、その全てを把握する事が出来るのだ。


「クソが、来るなら来やがれ!こちとら死ぬ覚悟は出来てんだよ!」


ーーなら、遠慮無く。


…一発の銃声、倒れるフユキ、コメカミから漏れる光の粒子……そして、表示される〈DEAD〉のエフェクト。

その全てが一瞬で、断末魔(だんまつま)を上げる暇も無く、フユキの体は電子の海に溶け込んだ。それは、死亡(リタイア)を意味する。


ーーさて、残るはお前か…?


ハルキの背筋に、冷気が走る。

今まで、沢山の(プレイヤー)を葬り、同じくらい殺された俺が、今更恐怖だと…?

舐めてんじゃねぇよ、クソヤロォ。


「ハンッ、姿も見せないでコソコソ殺るのはチキンのすることだ!正々堂々、正面からかかって来やがれ!」


ブラフだった。

敵の位置さえ判れば、どうとでもなる。

挑発に乗って姿を現した時…それがお前の最後だ。


「…お望み通り、正面から来てやったぞ」


ハルキの目の前に、スグルが姿を現せた。


「くたばれ!」

「……」


スグルの足元に、奈落へと続く穴が開く。しかし、スグルは落ちない。

それどころか、たった一度の蹴りでハルキの後ろへと飛んで見せた。


「お前さ、それしか脳が無いのか?」

「チィッ!黙れ黙れ黙れェ!」


今度は違う魔法、頭上から大岩を降らせた。

だが、それはスグルに当たる前にピタリと止まる。


「なん…だと…⁉︎」

「俺はお前を許さない。俺の家族に手を出したことを、俺は許しはしない。簡単に死ねると思うなよ?」

「…ッちくしょお‼︎なンなんだよテメェはァ‼︎」

「ただの家族思いな料理好きだ」


そのあと、ハルキはもれなくイベントから弾かれ、ある意味死より恐ろしい体験をし、二度とCDO(ここ)に戻って来ることは無かった。


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


『スグルって容赦無いのな』

「何が?」


即席キッチンで魚を焼きつつ、雑談する。


『何がってお前…まぁいいか。スグルが俺の(マスター)で良かったよ』

「な、何を言って…」

『お、スグルでも照れたりするのか。マミナとショウに言ってやろう』

「バカ、やめろ」


火に当てる面を変える。焦げると不味いからな…好きな人もいるけど。


『冗談だよ、誰にも言わねぇって』

「勘弁してくれよ、本当に…」


そんな事を言っているうちに、魚が焼けた。ランクはSだが、スグルにとっては美味しければいいわけで。


「…うん、ウマウマ」

『塩ふってないのに、パリッとして最高だな』

「素材の味ってやつだろ。美味しければ良いじゃ無い」

『いかにもマミナが良いそうなセリフだな』


焼き上がった魚を全て平らげ、また森の中を探索しようとすると。


「あのぅ…ちょっと良いですか?」

「はい?」


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


俺を中心に、人集りが出来ている。

この前のアップデートで空腹メーターが実装された為に、イベント二日目ともなるとお腹が空いてバッドステータスのオンパレードらしいのだ。


「にーちゃん、こっちも頼むぜ」

「シェフさん!まだですか?」

「今行きます!少々お待ちを!」


空腹メーターを回復させるには、料理を食べるしか無く、さらに料理を作る事が出来るのは専用NPCと【料理人】のスキルを持つ人だけ。

全プレイヤーのうち、料理人スキルを取得したのはほんの一割程度。さらにその一部がここ森林エリアにいるので、非常に少ない。


「ご注文はお決まりですか?」

「おう、サンドイッチ四つ頼むぜ」

「私はキノコスープを一つ」

「かしこまりました」


そんな中、見知らぬ青年が食材さえあれば料理を出す、なんて事が掲示板に投稿されれば。バッドステータスを抱えたプレイヤーが殺到するのは目に見えている。と言うか、既に殺到していた。


「料理長!次のオーダーは⁉︎」

「三番テーブルサンドイッチ四つ、キノコスープ一つ。五番テーブルホワイトパスタ二つ、塩焼き魚三つ!」

「「はいッ!」」


客足が増えるにつれ、同じ【料理人】スキルを持つ人が応援に駆けつけてくれたり、魔法使いの人達の協力で石窯や静水、高温の火や発掘した岩塩などで料理に幅が広がっていく。

いつしか、そこは森林エリアにいる全プレイヤーの食事処となり、挙句の果てには〈スグルカフェ〉などと呼ばれる様になった。


「出来たぞノヴァ!よろしく頼んだ」

『任せとけ』


その日は、夜遅くまで営業し、明日の下ごしらえと協力してくれた魔法使いの皆さんや、他の【料理人】達に料理を振舞って、泥のように眠り、翌日も早朝から営業を開始した。

グダグダエンド、略してグダエン


活動報告見て下さると嬉しいです。


ご愛読ありがとうございます。

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