#42 昔話
ほのぼの回です。
読者の皆様、マミナです。
ガタゴト揺れる馬車は終わって、街に着きました。
「おえぇ…気持ち悪い……」
「情け、ない」
「まあまあ、誰しも苦手なものはあるよ」
ハイ、馬車酔いです。
って言うかね、リアルに再現し過ぎなんですよ。
砂の上はまだ良かったんでが、街に近づくにつれて地面が砂岩に変わったんですよね。
それで、ガタゴト揺れるものですから、おしりが痛くて痛くて……おまけに、二頭のラクダで引いてるから、不規則に揺れる揺れる……
「ジュンさんとハクちゃんは、平気なの?…ぉぇ」
「んー、ボクはどっちかって言うと苦手なんだけど…本当はボクも吐きそうなんだよ?」
「姉ぇ、は、ポーカー、フェイス、上手い、から、わから、ない」
「…絶対嘘だよね、それ。からかってるよね」
「ボクは嘘なんて、ついたことありませーん。な、ハク?」
「うん、姉ぇは、嘘つか、ない。いつも、本当の、事だけ…言い方、話し、方の、問題」
「日本語、超便利」
つまりアレですね?
類義語をフル活用したりして、騙してるんですね?
……まんま詐欺師やないかい!
…閑話休題。
まずは、街に来てやりたかった事を消化しなくては。
何ってそれはもちろん、お買物ですよ。
「あ、見てくださいよジュンさん!この腕輪すっごく可愛いと思いません?」
「ハクちゃん、ハクちゃん!あっちに美味しそうな出店があったよ!」
「ああっ!この街の民族衣装ですよっ!こういうの、憧れなのよねっ!」
「……なぁ、ハク」
「なに?、姉ぇ?」
「……」
「…?…姉ぇ?」
「楽しいか?」
「…こくり」
「…姉ぇもだ」
「ジュンさん!ハクちゃん!なにしてるんですか!イベントアイテムは後で売れるんですよ?はーやーくーぅ!」
楽しげに出店や武器店を回るマミナの後ろを、困り顔の姉妹がてくてくと追っていった。
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「うふふ、出店の味は覚えた。売れそうな服と武器は手に入れた…完璧よね」
「「……」」
気持ち悪い笑い声。
この声が女性などと、誰が信じるのだろうか。
「うふ、うふふふふ」
「なぁ、マミナ。このゲームに知り合いはいるのか?」
「え?……ああ、うん。何人かいるよ?えーっとね、スグルにヴェルちゃん、ブラウンさんにゲシュタルトさん…それから、ショウとノヴァと……結構いるよ?」
「ふうん…」
いつの間にか、さん付けが無くなった事に若干ながら違和感を覚えつつも、指摘はしない。
興味有り気に、ジュンは頷く。
「…じゃあさ、その中に大切な人はいるのか?」
「え?…恋バナ?」
「あはは、違う違う。信じてる奴はいるのかって話し」
「信じてる……だったら、スグルかなぁ」
明後日の方向を見て、ぽつり。
森林エリアで農業でもしてそうなスグルを思う。
「スグルはね、すっごい頼りになるんだよ?料理も美味しいし、賢いし……それに、男の子って感じがするの…カッコイイでしょ?」
「マミ、ナ、は…スグルの、こと、好き、なの?」
「えっえっ⁉︎ああっと、別に好きって訳じゃ…そもそも、あの朴念仁は誰かに好かれても気付かないから、仮に!仮によ?仮にあたしがスグルの事が好きだとしても、一生報われないでしょうねって言うか、スグルを好きになる奴なんかいないだろうし……」
今なお続くマミナの、脱線しつつある話をニヤニヤしながら聞くジュンは、心密かに、そのスグルと言う人物に会いたいと思った。
「マミナ、スグルが朴念仁で色恋沙汰に疎いのはわかったから。他にはどんな人がいるの?」
「…あ、えっとね…ブラウンさんは、頼れるお母さんって感じで、ゲシュタルトさんはブラウンさんの放蕩息子って感じかな?ヴェルちゃんとノヴァはNPCなんだけど、あたし達プレイヤーと変わらないわ。あ、ノヴァはSPだから、人じゃ無いわよ?ショウは、なんかアホの子って感じがするの。なのに、運動神経良くて頭も切れるの。なんか悔しくない?」
三人で、大笑い。
笑った後は、あたしが聴く番だった。
「ジュンさんは、知り合いはいないの?」
「うん、ここにいるハクだけ」
「へぇ…少ないね」
「あはは、それは同感。でもね、ハクはボクがいないと、壊れてしまうから」
「…壊れ…る?」
「…ハクは、みんな、の、嫌われ、者…姉ぇも、嫌われ、者」
「嫌われ者…?」
こんなに、明るくて楽しそうな姉妹なのに?
この姉妹をどう嫌うと言うのか。
「そう、ボクとハクは嫌われ者。いつか、マミナちゃんも嫌うかもしれない」
「あたしが?ジュンさんとハクちゃんを?まさか!」
「…みん、な、そう、言って、嫌、う」
「…誰も、目の前の現実を受け入れないんだよ」
現実逃避、ね……
最低よ、そんな奴は。
あたしは、逃げないと言いたいのに、言えない。
だってあたしは、逃げてしまったから。
「…マミナちゃんは、信じられる人がいて良かったね…それじゃ、ボク達はイベントを満喫してくるよ」
「バイ、バイ…マミ、ナ」
あ、行ってしまう…
あたしには、彼女達を止める権利は無い。
始めから分かっていたことよ、マミナ。
彼女達は、偶然あたしを助けて、偶然目的地が一緒で、偶然関わっただけ。
そうよ、たったそれだけ、それだけよ。
別に、ちょっと心配だとか、そんな事は無いの。
“関わっちまったなら……”
いつも、スグルが口を酸っぱくして言っていた言葉。
“関わっちまったなら、それはもう他人じゃない”
「あの、ジュンさん!ハクちゃん!」
「ん?」
「あたしにも、現実を教えてくださいっ!」
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「サヴァン症候群って知ってる?」
「…聞いたことがある程度」
街中を散策しながら、クエストポイントが稼げる、あるものを探す。
「サヴァン症候群って言うのは、脳障害の一種だ。生まれつきだったり、事故とかの後遺症なんかでなったりするんだけど、兎に角は脳が異常に覚醒していると言っていい」
「…はぁ…?」
「ハクはね、二つの能力を持ってるんだ。一つは完全記憶、残りの一つは演算能力」
「完全…演算?」
ちらりと、数歩先を歩く、その少女を見やる。
「説明するより、見た方が早いな…ハクぅ!」
「…なに、姉ぇ?」
お探しの、あるものを指差して。
「クエスト掲示板を一秒で覚えて来てくれる?」
「えっ…流石にそれは無理じゃない?ね、ハクちゃん?」
「よゆー…終わった」
早っ!
一秒だって経ってないわよ⁉︎
もしかしてこの子、天才?
「お疲れ様。どうだ?信じた?」
「…うん、何と無く」
「…そうか、やっぱマミナは他の奴らとは違うのかな?」
「まぁ、似たような人がいたからね。頭の整理が上手な人が」
もっぱら、スグルの事だ。
スグルは、見たものや聞いたものを、瞬間的に整理、簡略化し、頭に留めるのが得意なのだ。
「そうなのか。ますます、スグルって人に会いたくなったよ」
「イベントが終わったら、会えるよ」
「姉ぇ、クエスト、どう、する、の?受け、る?」
「当たり前だろ?ゲームする以上は、ランクインしたいからな。一位、とは言わないけど」
この姉妹、ゲーマーなんだ。
あたしも頑張れば、ランクインできるのかな…?
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「討伐系、採取系、雑用系…ハクは何受ける?」
「全、部」
「だよなぁ!マミナは?」
「あたしは、討伐系と採取系かな?時間は限られてるんだし、出来れば並行処理して行きたい」
大量生産の基本ね。
ショウがいれば【敵意集中】使ってテキパキ出来たんだけど…今はいないし…
やっぱり、採取系クエストは壁役がいると楽なのよねぇ…
「…あー…マミナ?並行処理って…何を?」
「え?だから、並行よ。へ・い・こ・う。複数人で作業する際の基本よ?討伐対処と採取物が同じエリアにあるなら、パーティー組んで別々の作業をすれば、効率は上がるし、ポイントも大量に稼げるじゃない」
「なるほど、わからん」
「日本、語、で、おk」
なんでよ!
十分日本語よ⁉︎
………まさかとは思うけど、この人達。
集団行動はダメな感じですかね⁉︎
「…あー…のね、お二人さん?今まで、どんな風にクエストやったりしてました?」
「どうって…ハクと一緒にパーティー組んで、一つのクエストを二人でやってましたけど?」
「姉ぇ、と、なら、早く、終わ、る」
おおぅ…やっぱりそうか…
そりゃ、時間短縮にはなるだろうけど、今回みたいな数をこなす系は平行作業が最適なのだ。
「二人とも、あたしとパーティー組んで下さい。イベントランキング上位を目指すなら、あたしの支持に従って行動して下さい」
「え?良いけど、なんで?」
「ハク、も、同、じく」
「なんでもです。あと、ハクちゃん?クエスト掲示板は全部覚えてますか?」
「もち、ろん」
「なら、討伐系と採取系…地図的に同じ場所もしくは、近しい場所はいくつ?」
ハクちゃんの演算能力が確かなら、あらゆるパターンを導き出してくれるはず。
「検証………解。討伐系並びに採取系の同等場、八パターン。類似ヶ所、十二パターン。その他、一パターン」
……はぁ…はぁ…
息を切らし、たった十秒と満たない一文を演算してくれた。
ハクちゃん、ありがとう。
「……はぁ、これ、で…いい?」
「うん、お疲れ様。じゃあ、ハクちゃんとジュンさんは、同等場のクエストをお願い。あたしは、その他のクエストをやってみるから…ハクちゃん、後で教えてね?」
「こくり」
「じゃあ、マミナ。パーティーコード送るから。よろしくな」
電子音が頭に鳴り響き、メニュー画面にパーティー申請が表示される。
あたしは迷わず、イエスを選んだ。
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「送ったか?ハク」
「こくり」
「そうか…じゃあ、ボク達も行こう」
ジュン達は、目的地であるエリアに向かって歩き出し、街を出た。
しかし、驚いた。
ハクの力を怖がらず、あろうことか平行作業と言う方法も提示して。
今までの輩とは、明らかに違っていた。
「姉ぇ、怖い、顔、して、る?」
「ん?あぁ、ごめんごめん。ちょっと考え事してた」
「姉ぇ、は、マミナ、の、こと…嫌、い?」
「いや?姉ちゃんは、マミナの事は信用しても良いと思ってる」
「…ハク、より、マミナ、を、信用、する?」
「マミナより、ハクを信頼してる」
「…良かっ、た」
ボク達に初めて出来た、家族以外の人。
ハクと、いい友達になれたら、きっと…
「姉ぇ、もう、すぐ、着く」
「…ん、そうか。じゃあ、参謀の言ったとおり、ハクは鉱石採取、姉ちゃんは〈サンドウルファング〉五十体叩いてくる。あんまり、離れるなよ?」
「こくり」
二手に分かれて (五メートル程しか離れていないが) ボク達二人は作業を開始した。
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はい、みなさん。
再びマミナです。
ハクちゃんに言われた場所は、数あるクエストの中で唯一、古代遺跡と呼ばれる場所でした。
ここまで読んでくれた読者方は、お気づきでしょうか?
いわゆる、ダンジョンです。
だとすると、討伐系?
いえいえ、採取系クエストです。
戦闘シーンを期待して下さった読者方は、作者を呪ってやって下さい。
「砂に埋れた古代遺跡かぁ……ウ○ガモスは、いないよね?」
何と無く、ニ○テ○ドウの名作ポ○モンを思い出してしまった。
あぁ、もうこれはアウトかもしれない。
本家様のお目にかからず、なおかつ大事にならないで欲しいけど…何千年も前に、砂漠に遺跡なんてたてたら、そりゃあ砂に埋れて当たり前ですよね。
「ハクちゃんが言っていたクエストは、確か最深部にのみ生息してるのよね…行くの、面倒だなぁ…」
…まぁ、うじうじしても仕方ないし、行きますかね。
いざゆかん、砂漠の古代遺跡!
………
……
…
…
……
………
ココドコー?
盛大に、迷った。
驚く程に広いのよ、この遺跡。
登ったり降りたり、落ちたり。
たまに、モンスターがいるけど、中立モンスターみたいで、こっちから手を出さない限りは大丈夫だし。
…って言うか、ここさっきも通ったような…?
「うん、通ったわ、ここ。この壁画さっきも見たもん」
ちょっと仮定してみようかしら。
もし、無限ループしてるなら、この道の何処かに謎解きがあるはず。
「って言っても、壁画しか無いのよねぇ…何か、ヒントとか書かれて無いかしら」
端から、壁画を眺めていく。
しばらくして、面白い事に気がついた。
ここに描かれている壁画には、星の誕生と思われる描写と、魔物と人類の進化などについて描かれていたのだから。
「ふんふん、なるほど。昔の人は魔力から生まれたと考えていたようね」
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壁画の端、一つの点を宇宙の始まりとし、世界が誕生した。
広がる無の世界の中、一人の神が生まれる。
その神は、無の魔力を主とし、それぞれ五代元素と呼ばれる魔力を生み出した。
やがてそれぞれの魔力は〈火の神〉〈水の神〉〈風の神〉〈雷の神〉〈土の神〉となり、無の世界に有の世界を作り出した。
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ここで、このフロアの壁画は終わっている。
「次のエリアね。あたしの勘が当たっていると良いのだけど…」
当たってくれないと、正直詰む。
当たってくれと、心の中で思いながら、次のフロアに続く階段を降りる。
地下二階、でいいのかな?
右の壁と左の壁に、それぞれ別の壁画が描かれている。
まずは、右の壁画から確認した。
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有の世界を作り出した五代の神は、協力し、数多くの有の世界に魔力を与えました。
魔力は、有の世界を潤し、生命の根源を作り出しました。
長い時を経て、進化をした生命は、それぞれの住む場所や環境に適した姿へと変わっていきました。
その一つが、人間だったのです。
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右の壁画はこのへんで終わっておく。
あたしの勘が当たっているなら、壁画の話を繋げるという事なら、障りだけで十分ですからね。
次は、左の壁画を確認する。
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有の世界を作り出した五代の神は、それぞれの住む場所を求め、やがて見つけた場所に永住しました。
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「ここで終わるって…無いわ…短すぎて無いわ…その後の神の馴れ初めとか、マジ無いわ…」
右と左に階段が設置されていたけど、あたしは迷わず右の階段を選んだ。
そして、どうやら当たっていたらしく、まだ行ってないフロアへとたどり着く。
さてさて、あたし的には、このペースで進んで、全カットしたいのだけれど。
作者的にも読者的にも、それじゃあつまらないでしょう?
ですので、壁画のストーリーをノーカットでお楽しみ下さいませ (?)。
▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎
壁画の端、一つの点を宇宙の始まりとし、世界が誕生した。
広がる無の世界の中、一人の神が生まれる。
その神は、無の魔力を主とし、それぞれ五代元素と呼ばれる魔力を生み出した。
やがてそれぞれの魔力は〈火の神〉〈水の神〉〈風の神〉〈雷の神〉〈土の神〉となり、無の世界に有の世界を作り出したのです。
有の世界を作り出した五代の神は、協力し、数多くの有の世界に魔力を与えました。
魔力は、有の世界を潤し、生命の根源を作り出しました。
長い時を経て、進化をした生命は、それぞれの住む場所や環境に適した姿へと変わっていきました。
その一つが、人間だったのです。
他にも、種族は沢山おりました。
中でも、魔力操作に特化した種族を魔種と言いました。
人型魔種を魔族と称し、動物型魔種を魔物と呼んだのです。
古来より、魔種と人間の間には、それなりの交流がありました。
魔種に魔道具を教わり、人間は食料を与えていました。
そうして、均衡を保っていたのです。
しかし、ある時その均衡が崩れました。
人間の身でありながら魔種を愛し、魔種でありながら人間を愛する者がうまれたからです。
本来、全ての生命は五代の神の恩恵を受けて存在することができるのでした。
しかし、魔種と人間の間に出来た生命は、無の魔力の恩恵を受けてこの世に誕生しました。
魔種と人間の間で、審議が問われました。
生まれた生命を観察するか、壊すのか。
審議は三日三晩続けられ、観察し、五年後にもう一度審議するという事でその場は収まりました。
そうして、審議の三年後。
審議より、確かに増え続けた無の生命達が魔法を使いました。
魔種のみに許されていた魔法を、他種族が使用してしまったのです。
それも、達の悪い事に無の生命の魔力は無限に近いということが分かったのです。
その事が魔種に届いたその日、世界は二つに分かれてしまいました。
魔種側と人間で第一次魔法大戦を始めてしまったのです。
人間は武器を持ち、魔種は魔法を行使して。
大戦は、無数の昼と夜を繰り返し、数多くの屍を出しました。
そして、大戦後何度目かわからない、ある日の夜。
永遠に続くと思われた大戦は、突如として終わりを迎えました。
始まりである無の生命の一人が、人間に魔法を教えたのです。
もともと、感覚のみで魔法を行使していた魔種とは違い、無の生命は数式や理論で魔法を解き明かしたのです。
そこからは、一瞬の出来事でした。
解き明かされた魔法は、魔種の魔法を打ち消し、無効化することで、人間は確実に勝利を納めたのです。
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…ハイ、到着しました。
最深部でございます。
話はまだ少し残っていると思うのですが…全てを観る前に最深部にたどり着いてしまいました。
決して、作者の限界とかではありません。
ええ、決して。
ところで、あたしの採るアイテムは〈タブーフルーツ〉という…まぁ、禁断の果実ですよ。
最深部にのみ自生する〈タブーツリー〉になる禁断の果実です。
…あぁ、やはりありましたか。
天井から微かに差し込む光…その光の下に、弱々しくもどっしりと生きる〈タブーツリー〉…それを取り囲むように、最後の壁画が描かれていた。
「ふぅ、これで最後ね。第一次魔法大戦の後が気になって仕方ないのよ」
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魔法を解明し、大戦を終わらせた無の生命は、魔法理論を一つの果実に込め、この地に植えた。
いつか、魔法のさらなる解明に挑む者のために……
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「ふんふん、なるほど。つまり、ここは無の生命と呼ばれた人の研究施設か何かなのね」
……ん?あれ?何か忘れてる気がする…?
特に、ヴェルちゃんについて…?
…まぁ、多分大丈夫でしょう。
あたしは〈タブーフルーツ〉を回収し、ジュンさんとハクちゃんの二人と合流しに行った。
外に出た時、既に日は落ちており、今日一日が終わりを迎える事を物語っていた。
ご愛読ありがとうございます。




