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#39 敗北者の勝利

今回も、グロシーンあり…かも?

…ちく…しょう…っ‼︎

どうして、こうなった⁉︎

どこで間違(ミス)った⁉︎


「くはは、それにしても無様だね。素晴らしいチカラに感謝を‼︎くは、そろそろ終わりにしようか?新人(ビギナー)クン?」


俺は、何をすればいいっ‼︎

答えろ、答えろっ‼︎

誰でもいいっ‼︎

"(こた)えろ"ッッ‼︎


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


ーーイベント時間2時間前 ・熱帯雨林上空


『お、スグル。あそこに雑魚(ザコ)がいるぞ?』

「雑魚だからって、()めてたら痛い目に合うぞ?」

『慎重だな。ま、油断大敵って言うし…いいぜ、のんびり行こうや、(マスター)


音もなく、木々の合間を縫ってMOBの集団(むれ)中に降り立つ。

攻撃射程範囲内に入ったので、それなりの数が一気に攻めてくる。

前の俺ならいざ知らず、今の俺は負ける気がしなかった。


「ノヴァお前、俺の考えてる事、読めるよな?」

『当たり前だろ。脳内会話してんだから』

「じゃ、よろしく頼むぜ?相棒(ノヴァ)


二丁拳銃(ツインハンドガン)を、それぞれ縦横斜めに【連射】のみで弾丸を撃ち出す。

だが、弾丸はそのまま撃ち出されずに、俺の周りに弾幕を張る。

それらを三秒以内に複数回繰り返し、最後は一気に全弾を任意の方向へと飛ばす。

数にして十体以上いたMOB集団は、目に見えてその数を減らした。


「作戦成功!」

『俺の労力を考えろよ。メチャクチャ疲れるんだぞ、今の⁉︎』

「叫ぶ元気があるじゃないですかヤダァ?」

『精神は余裕でも、肉体はバテバテだっ‼︎』

「よーし、成功したぞ。名付けて、拡散壁!次は残った敵を潰して行こう」

『俺の話を聞けっ‼︎』


ノヴァの重力操作が、スキルと重ね合わせられる事を確認したところで、他にも掛け合わせられるのかをためす。

次は【連射】を使わない方法。

代わりに、弾丸の初速を極限まで高める。

もちろん、ノヴァの協力で。

結論から言えば、弾丸は敵を貫通した。

一撃で敵を(ほうむ)り去る。

だが欠点があった。

反動で、体が後ろに吹っ飛んだ。

下手をすると、肩を外しかねない。

これでは使えない、と言う事で、捨て身の策とする。


他の、俺のスキルはどうだろう?

【鷹の目】と【料理人】

案外、高レベルになっている【鷹の目】には、ホーミング機能が追加されていた。

目視している地点に、寸分のブレも無く攻撃が命中するのだ。

ただし、目視している範囲内なので、敵を身失えば効果は無い。

【料理人】は、武器か一定の基準を超えた刃物を手に持つ時、食材(てき)のスジ、つまりは弱点が赤く染まる。


【鷹の目】と【料理人】の掛け合わせは、最高の組み合わせだった。

それらを検証し終えた頃、残ったMOBは一目散に逃げて行った。


『もう、疲れた…』

「そうか、なら少し休憩と行こう。アイテムの確認とかしたいし」


手頃な大岩を探し、そこに腰掛ける。

アイテムBOXを開き、中を確認した。

ふむ、先程のMOBは〈バトルキャット〉と言うのか。

アイテムBOXには〈バトルキャットの爪〉や〈バトルキャットの毛皮〉などが多く含まれている。

…っと、ユニークスキルのチケットまで落ちてたのか。


ーー【危機回避】レア度B

使用すると感覚が鋭敏になり、敵意をいち早く察知する。

ただし、自分より強者にのみ反応する。


使えそうだな。

特に今は、だけど。


『なぁ、スグル。あそこには行かないのか?』

「ん?どこに?」

『ほら、さっき上からこの辺を見ただろ?』

「……あぁ、遺跡みたいな感じの…あれか?」

『おぅ、行かないのか?』


遺跡と言うのは、古ぼけた石で出来た人工物の事である。

木の上から見た時は気付かなかったのだが、この森に降りる時に見えてきたのだ。


「…どうしようか?【危機回避】のスキルも試したいし、うぬぬ…とにかく、入り口付近まで行って見るか。ノヴァ、頼むぞ」

『へいへい、そうくると思ってましたよ…人使い荒いなぁ…』


お前は人じゃないだろ、とは面倒なので、言わないでおく。


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


遺跡入り口付近。

〈バトルキャット〉が数体いたので、倒しておく。

準備として、アイテムBOXの整理と、SP(スキルポイント)の振り分けを行った。


イベント前のレベルが8で、未振り分けのSPが9P。

現在のレベルが10、未振り分けSPが15P貯まっていた。

早速【回避行動】を5P使って最大レベルにする。

そして、解放された【立体逃走】を3P使用し、レベル2を取得。

【連射】に4P振り分け、レベル2を4に上昇させた。

残った3Pは…スタミナ補正にでも振っとくか。

これで、スタミナ補正はレベル3から4。

+40となった。


「…よし、行くか」

『おう』


準備は終わった。

いざ、遺跡内へ!


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


スグルのスキル一覧


未振り分けSP1


ユニークスキル

【鷹の目】Lv.57

一定の確立で麻痺効果付与

ホーミング追加


【料理人】Lv.3

料理が作れる


【危機回避】Lv.1

自身より強者に限り、気配を感じ取る


職業スキル

【連射】Lv.4

11連射が可能


【回避行動】Lv.5

回避に成功すると、最大HPの5%回復


【立体逃走】Lv.2

全ての物体を足場に出来る


【スタミナ補正 Ⅰ 】Lv.4

スタミナ補正+40


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


ーー遺跡内部


「暗いな」

『そうでも無いぞ?ほれ〈ヒカリゴケ〉があるじゃん』

「…今更だけどさ、このコケ…光る以外に需要無いかな」

『それって食べるって意味か?スキルで見れば一発だろ』

「…スキルで見れば、食える植物なんだよなぁ…でも、毒性が無いってだけでほとんど無味なんだよ」

『…採取して、マミナの(あね)さんに鑑定してもらえよ』

「…そうするか」


壁の所々に生えているコケを採取する。

アイテムBOXに入れた途端、ビン詰めされていた。

あぁ、やっぱりここってファンタジーの世界なんだなぁ…


「やっぱり暗いな」

『なぁ、その〈ヒカリゴケ〉ビンごとかしてくんね?』

「ん?はい」

『よしよし、先ずは〈ヒカリゴケ〉を出して、重力操作でビンを一度溶かして…レンズ状に加工…最後に〈ヒカリゴケ〉をビンに戻して…完成!』


〈ヒカリゴケ〉が〈ランプ〉に変わってしまったので、栽培も出来なくなってしまった。

もう一度〈ヒカリゴケ〉を採取する。

それを、今度は大事にアイテムBOXに入れた。


『どうだ?明るくなったろう?』

「どこの成金だ。明るくなったけどな」


そして、ランプで足元を照らすと。

蜘蛛(くも)が、いた。

手の平に乗るようなサイズなどでは無く、人間の子ども程の大きさだ。

ーー全身に、鳥肌が立った。

ゆっくりと、こちらの出方を伺っている。

【危機回避】を発動させたが、目の前の蜘蛛には反応しない。

自分より弱いか、敵対していないかのどちらかだ。

代わりに、自分の頭上…天井には、大量の気配を感じ取った。

ビッシリ、隙間無く存在する敵対者は、天井から糸を垂らし、音も無くゆっくり降りてくる。

…怖い。


『スグル、どうする?目の前の蜘蛛を倒すか?それとも逃げるか?』

「……んなもん、決まってるだろ」


両手を地に付け、前のみを見る。

右ヒザの角度は90度、左ヒザは120度に曲げる。


「………重力操作、重力三分の二で頼んだぞ?」

『…は?』

「…全速前進じゃあ‼︎」


地面が砕ける程に、右足で蹴り抜き、左足で着地。

左右交互に繰り返し、ほぼ直線の道を走り抜ける。


後ろで、蜘蛛の鳴き声とこちらに迫ってくる足音が聞こえてくる。

振り向けば、死ぬ。

走れ、走れ走れ遅いっ!

速さが足りないッ‼︎


『追いつかれるぞ‼︎』

「うっせえ!あんな大量な蜘蛛をどうやって倒すんだよ!んなもん、壁にぶち当てるしか……壁?壁、壁…」

『おいどうする⁉︎あまり考えてる暇はねーぜ⁉︎』

「ノヴァ、今から後ろに弾壁を張る。しかも、かなりの数だ。全部打ち出したら、弾に重力をかけろ。出来るだけ沢山だ。あとは…俺がなんとかする」

『んなこと言っても、お前……わかったよ。スグルがなんとかするって言ったんだからな?死んだら許さねぇ』


ノヴァに飛ばして貰いながら後ろを振り向き、腰に装着した二丁拳銃(ツインハンドガン)を手に持つ。

瞬間、蜘蛛の一部に赤いマーキングが施された。

同時に【鷹の目】を発動させる。

遺跡に入る前、職業スキルのレベルを上げて正解だった。

弾壁を、拡散壁の要領で築いていく。


「さあ、殲滅開始だっ‼︎」

『後で覚えてろ…ッ‼︎』


亜音速で飛ぶ弾丸の重量を加減なしに増やしている。

敵を貫かないわけが無いのだ。

追って来た蜘蛛は、一匹残らず電子の海に解けて消え、アイテムに早変わりする。


「……」

『……』

「『……ッはぁ…』」


迫り来る緊張感が消え去り、俺とノヴァはその場にへたり込む。

それもこれも、俺がスキルを発動させなかったが原因だった。

自分の力を過信し、警戒を怠った結果だ。

非は、自分にあった。


『…マジで死ぬかと思った』

「……悪りぃ」

『こんな事が続くなら許さないぞ俺はもう』

「…とか言いつつ、顔が緩んでるぞ」

『バカ、ドラゴンに表情筋なんかあるか』


静かな笑い声が、誰もいない通路に響いていった。


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


ーー遺跡内部・最下層


『楽勝だったな』

「当たり前だろ。スキル使って敵の位置特定して、敵の死角からホーミングに頼った狙い撃ち。反則だろ」

『仕方ねぇよ。あの蜘蛛…えと…個体名、なんだっけ?』

毒蜘蛛(ゲノムスパイダー)

『そう、それ。あいつら、スグルより強いんだから』

「否定はしないけど、な」


実際、正面から殺りあったら負ける。

ここに来るまで、何度か死にかけたし。

ノヴァがいなかったら、死んでただろうな。


『んで?ここにボスがいるのか?』

「多分。この奥から凄え殺気と気配がするからな。【危機回避】便利だわ」


目の前に広がる、巨大な空間は。

今までとは違う事が起こることを予感させてならない。

空間内部に一歩、また一歩と足を踏み入りていく。

ーーと、入って来た出入り口に結界が張られた。

逃走不能になってしまった……


『今更だ。もともと、逃げる気なんかねーだろ?』

「当たり前だろ」


密閉された空間を、静寂が包み込む。

【危機回避】で、ここにボスがいることは間違いない、ないのだが…

見当たらない。

右を見ても左を見ても、それらしき影は無かった。

気配に、近づいていく。

…どういうことだ?

確かにここ、まさしくこの地点にボスはいるはず…なのに、実体が無いだと?


「バグ?いや、そんなはずは…」

『俺にも、何がなんだか』


不可視生命体?

いや、この遺跡内に出てくる敵は、大きさの違いはあれど全て蜘蛛だった。

…蜘蛛?まて。

普通、蜘蛛って巣を作ってそこに餌が掛かるのを、じっと待ってるよ…な?

タラリと、冷や汗が背中を伝う。

まさか、まさかまさかッ‼︎

右を見ても左を見てもいない?

違うっ!ボスは、“ 初めから平面にいない ”っ‼︎

両手に二丁拳銃(ツインハンドガン)を構え、上を見る。


「居たッ‼︎奴は、ボスは初めから上だ‼︎」

『なっ、なにぃッ⁉︎』


すぐさま、ボスの真下から退避する。

すると、先程までいた地点に、ボスの糸が飛んできた。

こいつ、俺たちを捕食するつもりらしい。

自分の巣にへばりついて、一向に降りてこない。

ならば、と巣を支えているタテ糸を撃ち抜いた。

穴の空いた糸は、ボスの体重を支え切れずに、千切れた。

凄まじい地響きと供に、ボスが落下する。

ボスの個体名は〈ゲノパイダーキング〉と表示されている。

落とされ、頭に来たボスは、真っ直ぐこちらに飛び込んでくる。

動きが単純な為【回避行動】で避ける事が出来た。


「そんな速さじゃ、俺は捕まらんぞ‼︎」

『茶化すな』


【料理人】のおかげで、弱点が見える。

体から8対16本の足が伸びている。

赤いマーキングがされているのは、それぞれ足の付け根と、糸を出している部分の体との付け根。

それから顔の真ん中、(ひたい)の部分。


「要するに、バラせばいいんだな?」


方向転換したボスは、次こそ外すまいと言わんばかりの勢いで、突っ込んでくる。

だが、次は避けない。

それを察したのか、器用に前足二本を使い、鞭のようにしならせて、攻撃して来た。

だが、“ それすら避けずに ”じっとして…今だ。


ボスの攻撃が当たる瞬間、俺はボスの腹下に滑り込む。

視認は出来るだろうが、そこは攻撃の死角。

一瞬の隙をついて、足の付け根を撃ち抜いた。

足を一本もがれたボスは、うめき声を上げて、のたうちまわる。


「足の一本で大袈裟だなぁ」

『そうだな。世の中には足の二、三本失っても生きてる人がいるんだぜ?』

「足が三本もあるのは人じゃねーよ」


だが直ぐに、千切れた足が本体とくっつく。

すさまじい回復力だ。

これは、いちいち部位破壊とかしてられないな…

無闇に突撃するのは危険だと察したのだろうか。

再度、糸を出して捕まえようとしてくるのだが、意味がない。

直線的な攻撃は、非常によけ易いからだ。

右へ左へと避け続けるうち、重大な事に気づいた。

追い詰められているのだ。

初めこそ、縦横無尽に駆け回っていたのだが、気が付けば袋のネズミ。

右も左もボスの粘着糸で囲まれている。

トドメに、真っ直ぐ糸が飛んできた。

避ければ、周囲の粘着糸に触れて、次の攻撃でオダブツだ。

避けられないのならーー

ーー【立体逃走】

避けなければいい。

動けないなら、動ける場所を作れば良いのだ。

すなわち、糸の上。


「ノヴァ!」

『わかってらぁ』


重力が、進行方向に変わる。

銃口を、ボスの額に向け、そして。


「『俺たちの勝ちだ!くたばれェェ‼︎』」


打ち出される弾丸の初速を限界までひきのばし、貫通させる。


「『うぉぉ!貫けェェェ‼︎』」


【連射】で撃ち出される弾丸全ての初速を引き上げ、トドメに渾身の蹴りを食らわしてやった。

自身の数倍はある巨体が大きく吹き飛ぶ。

足の慣性を消し、当たる直前で重力の補正を受ければ、それは容易に叶った。

…やがて、ボスの体は動きを止め、光の粒子となって消え去った。

大量の経験値と、アイテムを残して。


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


『やったな、スグル』

「あぁ、ちょっとヤバかったからな…感謝するぜ?ノヴァ」

『やめてくれ。あんな土壇場で作戦考えてたスグルの方がすげェんだから。っていうか、最後の蹴りはなんだよ』

「ん?いや、絵的に地味かなって…つまんねーこと言うなよ。それに、別に考えてたわけじゃ…まぁ、いいか。勝てばいいんだし」

『抜かりねえな…』

「んな事より、また来た道通って帰らなきゃならねーのか?そんな気力、残ってねーぞ…?」


アイテムは拾った、経験値も貰った、イベントポイントも稼いだ。

だのに、またボスが再誕(スポーン)とか笑えねーぞ?


『安心しろ。ちゃんと、帰還用のテレポーターがあるから。ほれ、そこに』


見れば、確かに。

町で見かけた青いクリスタルが、ふよふよと浮かんでいる。


「あぁ、これで帰るのか」

『気を抜くなよ?帰るまでが攻略だぞ?』


どこの遠足だ。

息も切れ切れ体力の限界。

俺がそれに触れると、クリスタルが輝き、そして。


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「外だぁ…」


遺跡入り口付近。

長かったように感じた遺跡攻略が終わったと、一息付いたーーその刹那。


ーーーぷすっ


背後から忍び寄られた何者かによって、スグルの体に細長い、レイピアが突き刺された。


ーーこふっ…


『スグル!…てめぇ、俺の(マスター)に何てことを‼︎』

「関係ないよ、“ ノヴァ ”クン?君は、こっちに来るんだし、昔のご主人は、死んだんだよ」

『あ⁉︎何言ってんのお前ーー』


その言葉を言い終わらないうちに、攻撃して来たこの野郎は、ノヴァに手をかざし、スキルを発動させた。

すると、ノヴァの目から光が消え失せ、操られているかのごとく、フラフラと野郎の肩に止まった。


「くはは、すごいね!このドラゴン。初めて見た時から欲しかったんだ」


野郎は、体に刺さったレイピアを抜き。


「ノヴァ、こいつを抑えつけろ」

了解(イエス)御主人様(マイロード)


立っているのがやっとの俺の体に、かつてないほどの重圧がのしかかる。


「くはは、素晴らしい‼︎新人(ビギナー)が持つには余るチカラだ。これは俺が有効に使ってあげよう」


有効活用…だと?

プツリと、頭の中で何かが切れた。


「…るせぇ、よ…」

「…あ?」

「うるせぇってんだよ、愚図野郎…ノヴァを有効に使うだァ?ノヴァは、道具なんかじゃねぇよ」

「キミさ、立場ってものをわかってないのかな?」


レイピアで、足を貫かれた。

貫かれた足が崩れ、地に屈する。


「俺はね、ずっと君達を観察してたのさ。最初から、ね?」


さらに、残ったもう片方の足にも風穴が空き、腹ばいに倒れた。


「最初から、だと…⁉︎」

「そう、最初から。驚いたね、だって新人(ビギナー)がドラゴンを使役して空を飛び、自分より強い敵を効率良く殲滅してるんだもの」


見られていたのか…

わからなかった、いや。

“ 知らなかった ”。

如何なる状況下でも、無知は重罪を招く。

故に、無知は大罪である。


「おそらく、キミ一人だと遺跡攻略なんて無理なんだったよ?コレがいたから、生きて今ここにいる…ま、すぐ死ぬけど」


ちく…しょう…っ!

どこで間違(ミス)った⁉︎


「くはは、それにしても無様だね。素晴らしいチカラに感謝を‼︎くは、そろそろ終わりにしようか?新人(ビギナー)クン?」


俺は、何をすればいいっ‼︎

答えろ、答えろっ‼︎

誰でもいいっ‼︎

"(こた)えろ"ッッ‼︎


『……あー、スグル?』

ーー⁉︎

『おっと、喋るなよ?今はスグルの頭だけに話しかけてんだからな。会話は、頭の中で話せ』

ーーお前、洗脳されたんじゃないのか?

『の、はずなんだが…細かいことは良いんだよ』

ーー洗脳が解けたなら、さっさとこの重力を無くしてくれ。

『それが出来ないから困ってんじゃねーか』

ーーそれもそうか…なら、今俺がどんな風に重力を浴びてるか分かるか?

『え?どんなって…あー、真上から潰れない程度に、かな?あの愚図野郎の命令は “ 抑えつけろ ” だし』

ーーそうか。なら、俺は動けるな。


腕のみで、前に進む。

ホフクゼンシン…って言うのか?


「おいノヴァ、しっかり抑えつけろよ。こいつ動いてるだろ」

了解(イエス)御主人様(マイロード)


今度は腕に、重圧がのしかかる。

だが、動けない訳では無い。


「おいノヴァ‼︎抑えつけろって言ってるだろ⁉︎」

了解(イエス)御主人様(マイロード)


さらに、全身に重圧がかかる。

確かに、抑えつけるならこれで十分だろう。

だがしかし、行動を抑制するだけの重圧は、頑張れば動けるのだ。


「おい、抑えつけろよ‼︎抑えつけろって言ってるだろうが、ポンコツがぁ‼︎」

『……了解(イエス)御主人様(マイロード)

「てめぇはそれしか言えねぇのか‼︎」


こいつら、勝手に喧嘩を始めやがった。

それでも俺は、進むのをやめない。


「く、来るな!おい、ポンコツ!お前は仮にも〈思念竜〉なんだろ⁉︎だったら、サッサとこいつの息の根を止めろっ‼︎」


…〈思念竜〉か…どうやら、この愚図野郎は大きな勘違いをしているらしい。

ノヴァは、断じて〈思念竜〉では無い。

ノヴァは……俺の、家族だ。


「…っぐ、はぁぁぁ⁉︎」


喉をかきむしり、じたじたとのたうちまわる。

そして俺は、ゆっくりとまぶたを閉じた。


「……は、はは、くはは。やったぜ、俺の勝ちだ…もういいぞ、ノヴァ」

『……』

「…ったく、脅かしやがって…」


腹いせに、俺の横腹を蹴り飛ば…そうとして。

当たる寸前、その足を捕まえてやった。


「な⁉︎」

「…甘いぜ、愚図野郎。勝負は、相手が勝ち誇った時にこそ隙が生まれるもんなんだ」

「…ッチイ‼︎おい、ノヴァ‼︎」

「させねぇよ」


【立体逃走】で、野郎の背中に飛び乗り、そのコメカミに銃口を当てる。


「さぁ、俺を抑えつけてみろよ…無理だろ?」

「…良いだろう、俺の負けだ、完敗だよ」

「…ほう、許すとでも?」

「分かった、なんでも一つ望みを叶えよう。俺の出来る範囲で、だけど」


ん?今、なんでもって…良いだろう。


「なら、一つ聞く。お前が死んだら、ノヴァはどうなる?」

「元の持ち主に戻る。ただし、三日以内に俺が死ねば、だけど。さぁ、望みを叶えたぞ?その銃を戻してくれないか?」


無言で、背中から降り、右手に持った銃を下げた。


「…く、くはは!甘いんだよ、このバカチンがァ‼︎大方俺の勝ちだとでも思ってんだろうよ!ノヴァーー⁉︎」

「もう、遅い」


左手に持った銃から出た弾丸が、野郎の頭を撃ち抜いた。


「…そん、なの…ないよ……」


野郎は、敵対MOBと同じく、光の粒子となって消えた。


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


『…悪かったな、スグル』

「別に?お前の意思じゃないんだろ?」

『………』

「…冷や汗かいてるんですがそれは?」

『お、俺は信じてたぞ!』


その日の夜、ノヴァの晩御飯は、ひよこ豆的な何かに変わった。

ご愛読ありがとうございました。


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


スキル【危機回避】のレア度をCからBに変更。

レア度Cってなんだ…

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