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#38 真剣と姉妹

うぬぬ…釣れない。

やっぱりアレか?

釣竿にエサつけないとダメか?


「いや、これも待ち望む桃源郷(おたから)の為だ。安請け合いしちまったが、全ては…ッ‼︎」


(ショウ)は、実にバカだった。

頃合いの小枝にツタを結びつけ、申し訳程度の石針で獲物(さかな)を捕まえようとしているのだから。


「おかしい。イメトレでは五分間隔で体長1m程の魚が釣れる筈だと言うのに…なにゆえ釣れんのだ…?」


同じエリアに飛ばされたプレイヤー達は、初めこそ(バカ)を観察していたが。

今となっては全員、見向きもせずに探索を開始している。


「もうこれ、潜って切った方が早いんじゃねーか?」


本気でそう思った、そのとき。

長らく反応の無かった手首が、何かが掛かった事を知らせた。


「お、おおお⁉︎キタ来たキタぁ!」


逃がすまいと、全力で竿を引いていく。

そのうち、水面に白い泡が目立つようになって、獲物が(そら)に姿を現した。


「おおお、お?カエル?」


ここは海だと言うのに、なぜかカエルの様な生物が釣れた。

大きさは、30cmほど。

ハズレか?そう思った矢先の事だった。

水面に、先程とは違う、だがしかし大きな、2mに近い魚影が映り。

今釣り上げたカエルをパクリと食べてしまった。

ーー(ツタ)は切れずに。

食物連鎖(しょくもつれんさ)垣間見(かいまみ)た瞬間であった。


「ははは!やったぜ!エサなしで大物が食らいつきやがった!」


大物は、空中で(カエル)を食らうと、また海中に姿を消そうとする。


「逃がすかよぉ‼︎」


力任せに竿を引き、海岸に大物を打ち上げようとするも、失敗。

大物は物理法則に従い、海中に姿を隠す。


「いいぜェ?綱引きと行こうじゃねーか!」


(ツタ)が切れないように、持ち前の職業スキルを発動させる。

ーー【耐久保護(ガードプロテクト)

生物から無機物に至るまで、ありとあらゆる物質を、一定時間の間のみ破壊不能にする、スキル。

ショウの職業【守護兵士(ガーディアン)】の職業スキルである。


「さぁ、制限時間は約二分!存分に楽しもうや‼︎」


大物との決着は、あっさりと着いた。

残り十秒で、ショウは違反(ズル)をしたからだ。

もう一つの職業スキル【敵意集中(ヘイトターゲット)】で大物の関心をこちらに向けさせ、海岸で襲われる瞬間に大剣で真っ二つにしてしまったからだ。


そんな、試合に負けて勝負に勝った下衆(ショウ)の言い訳は…


「勝てばよかろうなのだッ‼︎」


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


重力操作で空を飛び、変態をあしらえる技を身に付け、下衆が桃源郷を目指していた頃。

本作品のメインヒロイン (と、思い込んでいる)我らがマミナは…


「あづい…のどかわいた…水はどこじゃあ…」


およそ女性とは思えないほど、だらしなく、汗だくで歩いていた。


「もお…なんじゃこれ。歩いても、歩いても歩いても、砂・(スナ)(すな)!マジふざけんじゃねぇわよ」


暑すぎて頭がどうかしたのだろうか。

口調すら変わっている。


「誰でもええから水のある場所を…」


そう呟くも、誰1人として答える者はいない。

ーーあ、やばい…意識が、遠く……

………

……























……

………

…う、ん?

…頭が、痛い…

目眩のせいか、揺れている気が…?

うっすらと、まぶたを上げる。

どうやらここは、馬車の中のようだ。

あたしは、体育座りのような形で毛布を巻かれていた。

目の前に人の気配が…二人。

1人は、白のローブを頭まですっぽりとかぶり、もう一人はこれまた白のジャージを着ていた。


「あ、起きたのね」


ジャージの人が話しかけてきた。


「自分、の、名前、分か、る…?」


今度はローブの人。

…いまいち、理解が追いつかない。

声をかけてくれた彼女達は、自分と同じプレイヤーのようだが…?


「はい、水。飲みたかったんでしょ?」

「あ、ありがとうございます」


口ではそう言うが、既に水筒らしき物の蓋を開けている。

恐ろしい反応速度だ。


「ありがとうございました。あたしは、マミナって言います」


水筒を返し、名を名乗る。


「そう、マミナさん、か。ボクはジュン。そっちは、妹のハク」

「よろし、く」


ジュンさんと、ハクちゃん。

まさかボクっ娘に会えるとは、思わなかったけど。


「あの、ここはどこですか?見た所、馬車の積荷車両だと思うのですが…」

「よく分かったね。ここは移動商業グループ。ほら、キャラバンってやつ?」


キャラバン…なるほど、分かった。


「あれ?でもどこからこのキャラバンに乗せてもらったんですか?あたし、結構歩きましたけど、そういう集団は見えませんでしたよ?」

「乗った、のは、リスポ地点、の近く…乗り場、が、あった」

「で、見えなかったのはボクの職業スキルの効果だよ。物質を、知的生命体の意識外に飛ばして……まぁ、いわゆる隠密行動って事だね」

「へー、そうだっ…そうなんですか」

「あはは、敬語は堅苦しいよね。気にしないから、崩してくれて構わないよ」


よかった。

そろそろ堅苦しさで息が詰まるところだった。


「あの、このキャラバンってどこにいくのかしら」

「さぁ?」

「わから、ない…?」


……大丈夫かな?


「でも、近く、に町、あるみた、い?」

「砂漠の中を歩くのは、かなり嫌だったからね。MOBの湧きも悪いし、ポイント稼げないし…まぁ、なんとかなるでしょ」


あ、ダメかもしれない。

姉妹(このひとたち)、無計画で進んでる。

砂漠の中を歩きたくないのは、激しく同意するけど、だからと言ってこのキャラバンがあるかどうかもわからない町に着く保証なんて、無い。

もしかすると、ただ単に一定のアルゴリズムに沿って動いているだけじゃ…


「それは無いな」

「ありえ、ない」

「…え?」


まるで、思考を読まれた感じだ。


「ボク達はずっと起きてたけど、同じような道は通っていない。な、ハク?」

「ん、()ぇの、言う通、り。ハク、が、保証す、る」

「それに、ボクのスキルで既にこの世界(エリア)の地図は作成済みなんだ。乗り込んだ位置から計算しても、最短では無いけど町に近づいてる」

「だい、じょー、ぶ」


………はぁ…

諦めたような、呆れたようなため息が、口を付いて出て来た。


「そんな顔で言わないでよ。反則だわ」


無邪気な、ハクちゃんの笑顔を見て。

無条件に信じて見る事にした。

今回は、予約投稿してみました



ご愛読ありがとうございました。

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