#35 準備②
しばらくすると、ノヴァが戻ってきた。
もちろん、ヴェルを連れて。
『遅れてすまん』
「とんでもねぇ、待ってたんだ」
…また、ショウがくだらない話を出して来た。
もう、いちいちツッコミするのはやめておこう。
「ヴェル、怪我しなかったか?特に刃物とかで…」
「え?別に怪我なんかしてないよ?」
「そうか。なら良かった…んで?後ろのその袋は?」
いつ聞こうかと思ったが、ヴェルの背中には、大体ヴェルの身長と同じくらいの風呂敷包みが背負われていた。
「ん?これ?お鍋とかフライパンとか…スグルに頼まれたやつだよ?」
「…なんでアイテムBOXに入れなかったんだ?」
「あいてむ……あ、空間魔法のアレ?うん、入れようと思ったんだけど、なんでかな?食器類しか入らなかったんだよね」
空間魔法…?いろいろ気になるが、おそらくそれはヴェルがNPCゆえに、だろう。
まぁなんにせよ、怪我が無くて良かった。
「じゃ、ヴェル。早速で悪いが、コレを破ってくれるか?」
そう言って、ヴェルに料理スキルのチケットを渡す。
ヴェルは、それくらい自分でしろと言いたそうな目をしたが、俺の目を見て、そういう意図が無いのを確信すると、チケットを破ってくれた。
「よし、じゃあもう一度、調理器具類を…空間魔法…だっけ?の、中に入れてくれるか?」
「うん……おぉ?入ったぁ!ウチ、もしかして天才⁉︎さっきは入らなかったのに!全部ウチの中に入ったよ!」
喜んでいるヴェルに、真実を伝えるのはあまりにも酷なので黙っておくことにした。
「さて、と。ヴェルも来たし、そろそろ行くか?」
「おぅ、俺はいつでも準備万端だぜ‼︎」
「あたしも、イケるよ」
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町の中心は、思った通り。
初のイベントなだけあって、沢山のプレイヤーで埋め尽くされていた。
「おぉー…すごい人の数だなぁ…」
「スグル、ここにいる人達みんなお祭りに参加するの?」
ヴェルは沢山のプレイヤーに興味を示しまくっている。
「あぁ、多分な。ヴェルは、こんなに沢山の人達を見るのは初めてか?」
「うん、お店にいっぱい人が来たときよりも、もっと多いもんね!」
そりゃそうだ。
カフェに来た人数はせいぜい50人が良い所だろう。だが、今町の中心に集まっているのは、文字通りケタが違う。
おそらく、余裕で5千人を超えている。
「スグル、そろそろ始まるわよ。ヴェルちゃん、あそこの大きな写し鏡は見えるかしら?」
「うん、見えるよ」
"写し鏡"と言っても、正確には宙に浮く大きなディスプレイだ。
ヴェルが知らないと思って、似ている魔法道具にでも例えたのだろう。
──イベント開始まで、あと、1分。




