#33 ヴェルたんが料理をするそうです
「ふぉお!すっげェ‼︎」
街の中心から少し東に位置する大通り。
簡易店舗のみが建ち並ぶ商店通りだ。
「簡易店舗って言うからもっと小さいのを想像してたけど、かなりの数だな!」
「まぁ、全プレイヤーが無料で開く権利を持ってるからな。MOBのレアドロップも売れるしな。さて、マミナは何処だ?」
辺りを見回すが、それらしき人影は見当たらない。
いや、そもそもマミナが一箇所に留まる方が珍しい。
期待するだけ無駄か…
そう思い、俺は心の中で小さくため息をつく。
「お、いたぞスグル!あそこだ」
ショウが指を指した位置に、マミナがいた。
なにやら、激しく口論している様だ。
「あんたさぁ、一体何がしたいの⁉︎」
「は、はぁ…」
「もうね、全っ然ダメ!商品の並べ方は汚いし、価格も適当すぎ!」
…あぁ…これは完全にスイッチ入っちゃってるよ…
ショウに至っては、事を察して頭を抱えている。
「あんた、コレが何か分かってる?そこらのスライムが落とす〈青いジェル〉よ⁉︎それをどーして100Cも出して買わなきゃならないの⁉︎こんなの1Cの価値も無いわ」
「お、お前に何が分かるんだよ!俺がどれだけ苦労して採って来たかも知らないのに‼︎」
「あんたの苦労なんて、消費者には関係無いわ。生産者になりたいなら、せめて、それ相応の価格にする事ね」
あまりに現実的過ぎて、相手が半泣きだ。
そろそろ、連れて行くか…
「マミナ」
「あ、スグル…と、ショウ」
「おっかしーなー?呼びかけたの、ショウって言うプレイヤーなんだけどなー?」
話しかけていない俺が先に出て来るとは、これいかに…?
「ちょっとショウ聞いてよ!この店最悪なのよ⁉︎たかがスライムのレアドロで100Cも取るのよ⁉︎」
「あー、ハイハイ。そーだねそーだね」
「本当にごめんなさい。お兄さんのお店に口出して…」
「…あ、あぁ」
その後、お兄さんの店で〈青いジェル〉を10個買い、精一杯の謝罪をしておいた。
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「あんなの、買う必要無いのに」
「そうは言ってられないだろ?あれだけ罵っといてトンズラは出来ないだろ?」
「罵って無いわ。アドバイスよ」
「心をズタズタに殺っといてアドバイスなもんかよ…」
俺だって、この豆腐メンタルで真面にマミナと口論したら……考えるだけで心が折れる。
「ところでショウ【料理】のユニークスキルって、何処で売ってるんだ?」
「さぁ?それを今から探すんだよ」
「探すったって、簡易店舗は見たところかなり多いぞ?見つかるのか?」
「いや、普通に探したら見つからないだろうな」
「え、じゃあ…」
「まぁ、慌てなさんな。な?マミナ」
「えぇ」
「……?」
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「あぁー…だりぃー…」
何で今日に限って店番なんか…
「うるさいですよ、先輩。ノルマ達成したら、今日は閉めて良いって、ギルマスに許可撮ったんですから」
「そーだけどさぁー?あと一時間で2Mとか、無理ゲーだろ」
「そうでも無いですよ?スキルチケット2枚売ったら終わりですからね」
って言ってもなぁ…
スキルチケットをわざわざ買いに来る客なんていないだろ。
「大体さ、一体誰が【料理】スキルなんて欲しがるんだよ」
「えー…料理人…とか?」
「じゃあ、ブラウン。お前の知ってる料理人、言ってみ?」
「えぇと…スグルさんと…スグルさん?」
「俺の知る限り、スグルって言う奴は一人しか知らねーんだが?」
「う、うぅ…」
そもそも、CDOの世界で料理人が圧倒的に少ないんだよ。
もうちょっと、買う奴が多ければ良かったのに…
「…なぁ、ブラウン。俺さ、こっそり抜けても良いか?」
「ダメです。そのうちお客さんが……あ」
「ん?どうしt……」
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「……ゲシュタルト、なぜお前がここにいる…?」
「……ラッシャーイ (何の用だ)」
「…まぁ、無いとは思うけど。一応、聞くわよ?【料理】スキルってある?」
「ゴチュウモンノシナハゴザイス(絶対買えよ?出すから買えよ??)」
「…おいくらですか?」
「ソウガク2Mトナリマス(はよ買え。1Cも負けねぇからな)」
…嘘、着いてるな。
ショウとマミナは騙せても、俺は騙せねぇぜ?
「先輩、値段偽装はダメです。ごめんなさいスグルさん。チケット一枚1Mなの。買いますか?」
1M…か。
本当は一枚で足りるんだが…
「二枚くれ。合計で2Mだ」
「ちょ、スグル⁉︎二枚買ってどうするの⁉︎」
「一つは俺で、もう一つはヴェルの分だ。ヴェルにはそのうち厨房を手伝って貰いたいからな」
そうすれば、俺がいなくても多少はお客さんを捌けそうだし、何より俺が助かる。
「ほほー、愛しのヴェルたんがお料理とな?これは俺に手料理を振る舞うフラグですなっ‼︎」
「もうお前、死んだ方がいいよ」
「あ、それは私も思います。そろそろ先輩は、おまわりさんに捕まって死刑になるべきかと」
「救いは無いんですか⁉︎」




