#32 簡易店舗
「大変だぞ、響!」
「朝から賑やかな奴だな。朝ごはん、出来てるぞ」
翌朝、翔がうるさいです。
昨日は疲れて晩御飯が作れなかった負い目があるから、あまり文句は言えないが。
「とりあえず、落ち着け。な?んでもって朝ごはん、食べようぜ」
「お、おう…そうだな。今日の朝飯はなんぞ?」
「ハムカツサンド「いよっしゃぁあああああ!やったぜWRYYYY‼︎‼︎」…限りなくアウトに近いぞ…?」
昨日の夜に作るつもりだったトンカツの材料に少し手を加え、今日の朝はハムカツサンドとなったワケだが。
…少し遅すぎやしないか?真美菜の奴。
いつもならこの辺で「響、ご飯!」と、おはようを言うより早く食い意地を張るのだが。
…っと、二階から足音が聞こえて来た。
「響っ‼︎」
「今日の朝ごはんはカツサンドな」
「いや、まぁ、それも大事だけど。そんな事より!」
「…⁉︎」
そんな事より…だとっ⁉︎
真美菜が食い意地を張らずに何かを進めるなど…ありえん…
「真美菜、熱があるんじゃないのか?」
「え、なんで?」
「いや、真美菜が食い意地を張らないのが信じられないんだ…」
「え⁉︎あたし、そんなに腹減りキャラだったの⁉︎」
「ん?だって真美菜って、まみなだろ?」
「なによ、その‘‘腹減りキャラ=まみな,,みたいな比喩単語は……まぁ、いいわ。っと、それより大変よ響」
なんだ、真美菜もか?
翔も言ってたな、そんな事。
…って事は、やっぱりCDO 絡みなのか?
「大変よ、響!」
「おう、そうだぞ! (もぐもぐ)」
「食いながら喋るなよ…んで?何が大変なんだ?」
「あのね、響。よく聞いて?」
「よく聞け、響 (もぐ、ごくん)」
「ついに、イベントが開催されるわよっ‼︎」
「料理スキルが実装されるぞっ‼︎」
同じタイミングで違うことを吐かすなっ‼︎
聞き取れんだろ⁉︎
「お前ら…」
「お、なんだ?」
「ん、なによ?」
「…もう、朝ご飯食べてからその話しようぜ、な…?」
そう言って、今日この日、この朝だけは、二人を可哀想な物を見る目を辞めることが出来なかった。
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青とも緑とも言えない電子の海を越えて、俺はCDOの土を踏む。
数週間前まで、新鮮な感覚だったのに、今ではもう懐かしさを感じるから、不思議。
「で?料理がスキル化したって聞こえたけど?」
「おう、そうだぞ。んでもって、料理スキルを保持しないと、料理そのものを作れないんだ。つまり、CDOの中でスグルの料理が食べられなくなる」
「ん、それで?スキルってどうやって取るんだ?料理スキルって、どう考えてもユニークスキルだろ?あのチケットみたいなやつの」
俺の、この【鷹の目:Lv57】もユニークスキルのはずだ。
レベルが上がっているのは、料理を作る時に集中してしまい、それに【鷹の目】が反応して、ほとんど無意識に使っていたらしい。
マミナがそう言ってた。
「よく知ってるな…って、スグルは一つ持ってるんだったな。その通り、ユニークスキルはチケットを破る事で初めて使用可能になる。問題は入手方法だが…」
降り立った場所、もとい〈カフェ・スグル〉の前から、ショウは踵を返して歩き出す。
背中越しに、ついて来いと手招きするのを忘れずに。
「歩きながら話すか。ユニークスキルの入手方法は幾つかある。貰う、交換、買う、ガチャる。大きく分けてこんなもんだ」
ガチャ…る?
ガシャポンの事か?
「おっと、ここに寄るのを忘れちゃならねーな。スグル、5Mくらいおろして来てくれ。Mってわかるか?500万って事だぞ?」
「いきなりなんだ、銀行なんぞに連れて来やがって。銀行強盗かと思ったぞ?って言うかなんで500万Cも…?」
「つべこべ言わずに、財布に詰め込めェ‼︎」
「お前に聞いた俺がバカだった」
まぁ、多分だけど。
買うんだろうな…
素直におろして来るか…
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銀行からおろした後、ショウとの長ったらしいネタと雑談を省くと、まともな説明になる。
そのことから俺なりの解釈を加えると、だ。
・各プレイヤーは、簡易店舗を無料で開くことが(条件付きで)出来る。
・流行りにも寄るが、ガチャの中身を格安で入手出来る。
・ガチャを行うには、モンスター討伐で入手するCではなく、現実のお金をゲーム内のコイン、RCで回すことが出来る。
…と、こんな感じ。
RCは買いたくないし、銀行のCも消費法を考えてた所だ。
丁度良いと言える。
「なぁ、ショウ。いろいろ分かったが、その簡易店舗ってどこにあるんだ?」
「まぁ、そう焦りなさんな?今にわかるからよ…」




