#31 宣伝させていただきました
今目の前の出来事を話そう。
ショウとマミナの料理を作っていたはずが、いつの間にか大人数の料理を作っている。
何が起こったかわからない?
当然だ、俺にも何が何だかさっぱりわからない。
「ノヴァ、次はこっちな」
「ゔぇるたん、注文おなしゃす!」
ショウとマミナの料理を作っていた。
ここまでは良いな?
次に大人数だが、これはとあるギルドの全員を指す。
『ご注文は?』
「お決まりですか?」
なら、なぜにギルドが丸々全員いるのか?だが。
そもそもこのギルドと言うのが、大きく関係している。
「スグルさーん、こっちもお願いしまーす」
「スグル、はよ」
「あーはいはい、今行くっての」
ブラウンさんと、ゲシュタルトに呼ばれてしまった。
…もう、分かったよな?
そう、ギルド名〈DB〉御一行様が来ているのだちくしょう。
「スグル、肉くれ!」
「あーそうかくれてやる。テメェには生肉をやろう」
「スグルさん、私はパスタをお願いします」
「おぅ、任しとけ」
まったく、人手が足りないよどうしてくれる。
誰か雇える余裕は(勧誘する時間的に)無いし、かと言って宣伝してくれる人脈があるわけ無いし。
そもそも俺、まだレベルが一桁の初心者だし、クエストに行かなきゃならない……
どうしたもんかねぇ………
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「はい〈燻兎のトマトパスタ〉お待たせ」
「あ、ありがとうございます」
「スグル、肉は?」
「…そろそろ野菜食え」
そう言って、ゲシュタルトに即席で作ったレタスのサラダを出す。
「…え、野菜…肉は……?」
「諦めて食べてください、先輩♡…残すのは……許しませんよ?」
ちょっと怖い一面が見えた気がしたが、ブラウンさん。
あなた良いこと言いますね。
青ざめた顔で、ゲシュタルトがサラダ食ってるよ。
「スグルさん、今日は本当にすみませんでした」
「え、あぁ、いいよ別に。おかげで今日は繁盛してるんだから」
「いえ、そんなことないです。先輩に代わって全裸で謝罪させて欲しい位です。しませんけど」
淡い期待をした俺が恥ずかしいですっ‼︎
だからと言って野郎の体なんぞ見たくもねーが。
「…ぉいスグル、野菜食ったぞ肉くれ」
「もう自分の腕肉でも食ってろ」
「ヒドイッ‼︎」
「スグルさん、やめてあげて下さい。先輩の腕にはお肉なんて付いてないんです」
「…ブラウン、それ俺のコンプレックスだと何度言えば…?」
いや、それにしてもだ。
今日は繁盛してるのは事実であって、謝られても困るのもまた事実だ。
「ブラウンさん、今日は本当にありがとうございます。〈カフェ・スグル〉を開いてこんなに客席が埋まったのは始めてなんですよ?ありがたい限りですよ」
「いえ、私は皆さんに、美味しそうなカフェがあると伝えただけですので。スグルさんなら、すぐにでも満席状態に出来ますよ」
そうですかね、俺にそんな事出来ますかね。
…ま、出来るとは思ってないけど。
「…あの、スグルさん」
なんか良い考えがあると良いんだが。
まだ始めたばっかりで本当に人脈無いし、そもそも流行るかどうかすらわからない。
「スグルさん?」
いや、もともと俺が料理人とか向いてないんだし、流行る流行らないの前に美味しいかどうかだよな…
俺自信無いわどうしよ…
「スグルさんっ!」
「え、はい?」
「このお料理、スグルさんが作ってるんですよね?」
「…ん?そうだけど、不味かった?」
「とんでも無いです!すっごく美味しいですよ!現実ではお店でも開いてるんですか?」
「まさか!この程度で店とかナメてるとしか言えないですよ!」
「…もしかしてスグルさん、自分の料理食べたこと無いんですか?」
そんなわけ無いでしょうに。
答えは決まってノーだ。
「いや、毎日食べてるけど?」
「…聞き方がおかしかったですね。CDOで料理は食べましたか?」
「もち………あれ、食べたっけ?」
最初に作った料理は…たしかヴェルに全部食われた気がする。
追加で作った料理はマミナが食べたし……あれ?
「…ごめん、食べたことねーや。せいぜい味見程度の記憶しかねーや」
「それなら…」
くるくると、フォークでパスタを絡め取り。
ブラウンさんが、それをこちらへ差し出す。
「一度食べてみて下さい。あーん」
「…それで何かわかるなら…あーん、ぱく」
…うん、良く出来てる。
食べる直前に空気がピリッとしたけど、気にしたら負けな気がする。
「どうです?美味しいでしょう?」
「いえ、なんとも。良く出来てるとは感じますけど」
「…うーん、この出来でその感想…これはもう…」
ブラウンさんが何やらブツブツ考えてる間にも、他の人の注文が入って来てるわけでして。
「スグル!早くキッチンに戻ってよ!ウチじゃ料理作れないんだよ⁉︎」
『スグル、次の注文だ。早くキッチンに戻った方がいい』
ほら、二人から催促来てますよ?
これはいよいよ、忙しくなりそうですな…
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どれほど時間が経っただろうか。
もう、かれこれ3,4時間もキッチンと客席を行ったり来たりしている気がしてならない。
だが、それもいよいよ終わりを迎えている。
「ありがとうございました」
「おぅ、美味かったぞ。またな、スグル」
「ゲシュタルトさん、また来て下さいね?」
「あたぼーよ、ゔぇるたんの為なら地獄でも‼︎」
うわ、キモッ!
何これキモッ!
「スグルさん」
「お、ブラウンさん。どうでした?美味しかったですか?」
「もちろんですっ!すっごく美味しかったですよ!」
「それは良かった。また来て下さい」
「あ、はい…」
気の抜けた返事。
まだ言いたい事があるらしい。
「あの、スグルさん。一つお願いしても…?」
「もちろん」
今日の満席は、ほとんどブラウンさんのおかげなんだから、断るのは筋違いだろう。
「あの、このお店…宣伝させて下さいっ‼︎」
………ファ?
「…ダメ……ですか?…私じゃ、ダメですか?」
「あ、いや!別にそんな事無いです!むしろ願ったり叶ったりで…」
「ほ、本当ですかっ⁉︎良かった…てっきり断れるのかと…」
安心してるブラウンさん、なんだか見ててほっこりするのはなんでだろ。
そしてゲシュタルト、お前は早よ帰れ。
ヴェルを持ち帰ろうとしてんじゃねーよ、ロリコンとか変態の極みだぞ。
「…はい、ギルド公式掲示板に投稿完了です!本当にありがとうございます。私の初めて、スグルさんで良かったです」
へぇ、もしかして初記事だったのか?
「じゃ、なスグル。また来るぜ」
「ちょ、離しなさいよ!ウチにはスグルというものが」
おまわりさんこっちです、こいつです。
早くこの変態ロリコン野郎をなんとかしてください。
「はいはい、先輩。そんな事してたらお縄にかけちゃいますよ?あ、それじゃあスグルさん。また来ますね」
「あぁ、じゃ、また」
「スグル、ウチこの人キライ」
「あぁ、ゔぇるたん、そんな事言わないで。でもなんだろ、この体の底から湧き上がるゾクゾク感は…まさかこれって…恋?」
「先輩、それは持っちゃダメな感情です」
やいのやいの言いつつも、ブラウンさんが適当にゲシュタルトをあしらっていく。
そこにしびれる、憧れる。
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さて、仮想から現実に帰って来たわけだが。
もう、疲れて料理作れないです………
翔、真美菜、ごめんなさい…




