#30 魔法少女(笑)
ーーーお前は何者だ。
「…何者…か」
先の彼等は、小さな情報収集専門のギルドで、ギルド名を〈DB〉と言うそうだ。
ちなみに、ヴェルを襲いに来たのは〈ブラウン〉と言う新人プレイヤーと、〈ゲシュタルト〉を名乗るレベル50越えのちょっと凄腕プレイヤーだ。
「スグル、だだいまー!めしー‼︎」
「だからもっと女性らしくしろと」
「あーはいはい、分かったから、めし‼︎」
まだかまだかと言わんばかりの勢いでテーブルをバンバン叩く。
あ、そのテーブルは……
バキッ
「……ファ⁉︎」
言わんこっちゃない…
ゲシュタルトが、むやみやたらにぶっ放すから、店の備品がボロボロなんだよ。
今度、〈DB〉に修理費でも払って貰おうか?
「…スグル…腹減った……なんか食わせて…今、なう」
「ショウ⁉︎どうしたんだ⁉︎体中傷だらけだぞ⁉︎」
一体どんなクエスト受けたんだよ!
ツッコミどころ満載じゃねーか!
「…大した事ねーよ。ちょっと栄養取ってログアウトすりゃ全開だからな…」
「あーはいはい!分かった分かった分かりましたよ‼︎作りゃいいんだろ?作りゃ!」
とにかく、今回は肉食材がメインだな。
体力回復、スタミナ増強、ただし脂が多いのはNG。
…うん、なんか作るもの見えて来たな。
調理酒、有ったかな…?
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「…ったくよ、どーしてあの時スキル使わなかったんだよ。おかげで、こっちは傷だらけなんだぞ?」
「ショウが悪いんでしょ?あたしが爆発魔法でトドメ刺そうと思ってたのにさ、いきなりあたしの間合に割り込むから」
………居づらい…
ウチもスグルと一緒にキッチンに行けば良かった…
「だから、魔法念唱のスキルを上げろと言ったのに。そもそも爆発魔法は攻撃魔法じゃねーだろ」
「それはそうだよ?爆発魔法は地面に風穴を開ける魔法だけど、当たればそれなりのダメージがはいるでしょうに」
爆発魔法……地面……泥だんごにあらかじめ魔法を仕込ませておけば、きっと効率が良いんだろうなぁ……ウチが入る余地は無いけど。
「だーかーらー!前提!わかる?前提が無いんだよ。当たれば当たればって、そもそも当たって無いから!当てる方法を考えろっていってんだよ。あーもう!ヴェルちゃん、このどうしようもない魔法少女になんか言ってやってくれ!」
……ん?
「え、なんでウチに聞くの?ウチ、爆発魔法使えないよ?」
「そうよ、この際だからショウに言ってあげて?爆発は最強だって」
「……ウチの入る余地、全然無いと思ってたけど。って言うか、二人の痴話喧嘩に付き合ってると、頭おかしくなっちゃいそうなんだけど」
痴話喧嘩は見てるだけで十分なのに、ね。
「…は?痴話喧嘩?それ、夫婦関係者が些細な事で口論する、アレか?」
「…あのね、ヴェルちゃん。あたしとショウは、夫婦でも無ければ恋人でも無いから。大体、こんなちんちくりんに彼女とかあり得ないんですけど」
…ちんちくりん…ふふ、何それひどい。
「誰がちんちくりんだコノヤロウ、あとヴェルちゃん、笑わないでくれるかな?お兄さん結構傷つくよ?」
「お、お兄さん……ぶふ」
「マミナも笑ってんじゃねーよ‼︎」
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見よう見まねで作ってみたけど、結構上手くいくんだな。
「ワインの代わりに調理酒使ったけど、でもまぁよし!終わり良ければすべて良しって言葉があるからな」
正直、フライパンに火が着くか心配してたが、着いて良かったよ本当に。
さて、この料理に名前を付けなければ…
「よし、決めた。ノヴァ、持って行ってくれ。料理名は〈燻兎のフランベ焼き〉でよろしく」
『おぅ、任せとけ。フランベ焼きだな』
ちなみに〈フランベ〉とは調理法の一つで、フライパンから炎が出る焼き方の事だ。
俺は直に見たけど、世間一般ではテレビなんかで見るんじゃないかな?
「…に、しても、客席の方は賑やかだな。俺も顔出してくるか」
腰に巻いた前かけみたいなエプロンを外して、俺は客席へと向かった。




