#28 主従契約
まぐまぐまぐまぐまぐ、ごくん。
まぐまぐまぐまぐまぐまぐまぐまぐまぐ、ごくり。
恐ろしいスピードで、作ったものがマミナの腹に消えていく。
「もっとゆっくり食えよ…」
ショウも、呆れてコーヒーばかり飲んでいる。
二人に作ったパスタは、全てマミナの腹に消えた。
ショウの分なんてなかったんや……
「ふはぁ〜美味しかった」
「ま、美味しかったなら良いんだけど」
さて、食事も終わった事だし、そろそろ…
「あ、スグル。話の前に、聞きたいんだけど。そこのドラゴンと可愛い幼女は何?」
ん?あぁ、ノヴァとヴェルの事か?
って、幼女…ね。
せめてもう少しオブラートに包めよ、本人が傷つくだろ。
「ドラゴンの方は、俺のサポートエッグから産まれたんだ。名前はノヴァ。で、こっちの少女みたいなのは、自称魔王のヴェルだ」
「自称⁉︎ウチは本物の魔王(娘)ですっ!」
「あのなぁ、こんな所に魔王の娘がいると思うか?」
大体、魔王って言ったら筋肉ムキムキマッチョマンって相場が決まってんだよ。
「それに、魔王って魔界を統べる最強の魔族なんだぞ?ヴェルみたいな可愛らしい少女が魔王の娘なわけないだろ」
「ぐぬぬ…可愛らしい少女…否定できない…」
しろよ‼︎
そもそもツッコミ所そこ⁉︎
「マミナ、お前からもなんか言ってやって「その子の言う事は多分、本当よ」…えぇ…」
おかしい。
そうだとしたら、魔王本人はどうなったっていうんだ?
「その話もしようと思ってたのよね…ヴェルちゃん?」
何か、確認するようにマミナは、ヴェルをちらりと見る。
「……構わない。ウチは大丈夫」
ヴェル、初対面の時の俺とマミナの対応が違うんだが……
…………………………。
……あ、そこは割愛なんですね作者さん……
「あのね、スグル。そもそもCDOの最終目標っていうのは、伝説の地に住むドラゴンを倒す事。その後の開拓って感じなのよ」
ありきたりだな…
おそらくだけど、そのドラゴンってのも、おそらくはクリスタルドラゴンだよな…
ま、作者の残念な頭じゃこれが限界か…(んだとゴルァ#)
「それで、それと攻略組となんの関係があるんだ?」
「スグルは相変わらず鈍いわね…いい?伝説の地はどこにあるかわからないの。少なくとも、あたし達が遊んでる、こちら側にはね。だったら、まだ未開の地である魔界を攻略して、あちら側を調べるしか無いでしょう?」
…なるほど、何と無く話が読めて来たぞ?
攻略組が先に進んだと言う情報、攻略対象が魔界の地であること、そして魔王の娘(仮)がここにいる事を踏まえて整理すると……
「わかったぞ?攻略組が魔王討伐に成功したんだな?」
「その通りだ、スグル。おかわり」
ショウ、まだ飲むのか?
腹の中液体でたぷんたぷんだろ絶対。
「もうやめとけショウ。体に毒だぞ」
そう言ってカップをノヴァに下げてもらう。
「って事は、今ほとんどのプレイヤーが制圧地帯の開拓をしてるワケか」
なるほどね。
…ん?
「ちょっとまて。だとしたら、ここにいるヴェルはどうなるんだ?攻略組は魔王を倒したかもしれんが、今回の場合はヴェルがその土地の次期魔王って事になっちまうぞ⁉︎」
もしそうだとしたら……ヴェルは攻略組に命を狙われている事になる。
「その通りよ、スグル。ヴェルちゃんは現在攻略中の魔界地の、現魔王。ヴェルちゃんを倒さないと、魔界は開拓出来ないの」
いずれ、攻略組がここを嗅ぎつけるでしょうね。
マミナはそう付け加える。
……………。
静寂の中、黙り込んでいたヴェルが口を開く。
「…スグル、今日はありがとうね。ウチ、もう帰る」
「…は?ヴェル、おま…帰るって…どこにだよ」
「ウチの家だよ?決まってるじゃない。これ以上、ウチがここにいたら…スグルやマミナさんに迷惑でしょう?」
「…何…言ってんの?お前」
ふつふつと、腹の奥から何か熱い感情が湧き上がってくる。
「じゃあね、スグル。ちょっとの間だけど、すっごく楽しかったよ……ありがと」
………………ブチッ
頭の中で、何かが切れた。
「…ふざけんなよ…なんだよそれ……マジで意味わかんねェ…」
帰り支度を始めたヴェルの肩を、手加減無しにつかむ。
「…スグル?痛いよ?」
「お前、バカか?迷惑なわけないだろ。命狙われてる奴が、ハイそうですかって狙われて良い命なんてねーんだよ。手の届く所に、助けて欲しそうな奴がいて、みすみす見逃すか?そんなのどこの鬼畜生だ。悪いがヴェル、お前にはずっとここにいてもらうぜ?…おい、マミナ」
「は、ハイッ⁉︎」
ヴェルから目を逸らさず、背中越しでマミナに話しかける。
「ヴェルを魔王の椅子から引き摺り下ろせるか?」
「……え……出来ない…事も…無い…事も無い?」
「…真面目に答えろ」
「(…うぅ…スグルが怖いよぉ……)わかんない…出来るかどうか、やってみない事には…」
出来るんだな。
「頼む。やってくれ」
「……どうなっても知らないよ?こんなの、初めてするんだから…」
マミナはアイテムBOXから、紙を二枚取り出して、星のようなルーンを書き込んでいく。
「本当はこれ、MOBを強制的に従える為に使う禁呪なんだから、絶対誰にも言わないでよ?」
その禁呪をなぜマミナが覚えているのかは、聞かないでおこう。
「じゃ、スグル。この紙に自分の血を付けてくれる?ヴェルちゃんも、ごめんね?あたしもスグルと同じ気持ちなの」
マミナに紙と、細い針を貸してもらい、準備をする。
「…あの、さ?スグル。なんで、どうしてウチにそんなに構うの?ウチとスグルはなんの関係も無いんだよ?」
「…関わっちまったからな。それに、俺はもう…二度と、誰かが目の前で傷つけられるのを見たくねーんだ」
まるで、かつての自分に言い聞かせる様に、話す。
ヴェルの頭を優しくなで、俺は自分の指に針を刺した。
▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎
「…うん、じゃあ二人とも手の甲を出して…行くよ?」
俺の右手の甲にはヴェルの血が付いた星のようなルーン、ヴェルの左手の甲には俺の血が付いた星のようなルーンの紙をそれぞれ乗せる。
「それじゃ、ちょっと痛みます…よっ!」
「痛っ⁉︎」
最後の仕上げに、マミナが紙を手の甲の上から杖で引っ叩く。
衝撃で、紙が落ちた時にはルーンは俺の手に刻まれてあった。
「…スグル、痛そう…ウチもあれやるの?」
ヴェルが怯えて、上目遣いでマミナを見上げる。
「そんなことないよ?スグルにはお仕置きも兼ねて強く叩いたけど、本当はこの杖で触れるだけで良いんだよっ」
おい、酷すぎるだろそれは…
そうこうしてる間に、ヴェルの手にも俺と似たようなルーンが刻まれた。
「これで、スグルとヴェルは主従関係になったわ。あくまで、形式上だけど」
「形式上?どういうことだ?」
「ルーンを刻む時に、何も言わないで刻んだから、無条件契約になってるのよ」
…なるほど、わからん。
だがしかし、無条件と言うからには縛りが無いと言う事だ。
「要するに、ウチとスグルは形式上の主従関係で、主人が従者に無理を言っても聞かなくて良いんだね?」
「うん、そうだよ」
それは少し惜しいことをした。
ヴェルの事だから、説教する時とか絶対じっとしてないよな…
その事だけでも吹き込めばよかったのかもしれない。
ちょっと後悔…
「で、もちろんウチが主人だよね?」
「…………」
「……マミナ…さん?」
「…………(苦笑)」
「えっ?えっ?えっ?」
「………(苦笑)」
なるほど、主人は俺か。
残念だったな。
「…あ、それからスグル。そのルーン、かなり強力なやつだから、ヴェルちゃんが魔法を覚えたら、劣化版だけど使える様になってるからね」
「…マジですかぃ」
次の展開思いつきません…




