#27 調理開始
マミナのことだ。
空腹ゲージが無くなっているということは、クエストをクリアしてきたという事で。
ショウが一緒に来たって事はつまり、マミナに振り回されてクエストに付き添われたと考えて良いだろう。
「結局、二人分作るのか…」
食材はあるが、気力が無い。
誰か手伝ってくれればいいのに…
「あー、おいしかったぁ」
『当たり前だろ。スグルが作ったんだぜ?』
「スグルってコックさんなの?ウチの家の料理よりおいしかったよ?」
…いるじゃねーか、お手伝い。
「ノヴァ、あとそこの少女。ちょっと手伝え」
『お、スグル。客は始末したのか?」
なんで物騒な事しか考えられんのだお前は。
「少女⁉︎ウチはもうオトナです‼︎それにウチにはちゃんと〈ヴェルタニア・ル・シル・サタン〉って言う可愛い名前がある!」
なにそれ初耳。
てっきり俺が付ける流れになるかと思ってたのに…
って言うか、全然可愛くない。
むしろカッコイイ…
「スグルには特別に、ウチの考えた略称〈ヴェル〉って呼んでもいいよ!」
『略称の所為で可愛さが消えたぞ』
そんな事で会話が弾んでいるところ、申し訳ないが。
こっちは人を待たせてるんでね。
「えーっと、じゃあヴェル。冷蔵庫から〈燻兎の肉塊〉を出して、一口サイズに切って焼いてくれ。味付けは、そこの塩とコショウだけで良い」
「うん、わかった」
聞き分けのいい子だ。
「ノヴァは…魔法で何が出来る?」
『俺の魔法は重力魔法だ。演唱とか、発動条件は無いが、Gを上げる事しか出来ねーぜ?』
充分、役に立つな。
「分かった。なら、鍋に水をたっぷり入れて、お湯を沸かしてくれ。鍋の中の圧力を上げるだけで良いから」
料理初心者の一人と一匹は、俺の言った事をミス無くしてくれている。
その間に、俺は一人トマトの湯むきをして、ボウルの中で潰していく。
『スグル、お湯湧いたぞ』
「よし。じゃ、ちょっとこのこのトマトを潰してくれ」
ノヴァにトマトを任せて、俺は鍋のお湯でパスタを茹でる。
「スグル、お肉こんな感じでいい?」
ヴェルのフライパンを覗き込み、焼け具合を見る。
「うん、もういいよ。ありがとヴェル。ノヴァ、トマトはどんな感じだ?」
パスタを混ぜながら、ノヴァに聞く。
『芯に近い部分がまだ残ってる』
「よし、それで良い。トマトを肉の入ったフライパンに入れてくれ」
トマトをノヴァに入れさせ、それをヴェルに、焦げ付かない様に混ぜてもらう。
茹で上がったパスタをザルに移し、しっかり水を切る。
パスタを皿に盛って、そこにトマトソースに絡めた〈一口 燻兎〉を掛け、仕上げにイタリアンパセリを振り掛ければ、【ローストラビットのトマトパスタ】の出来上がりである。
『あぁ…疲れた…』
「こんなに疲れたの、久々なんですけど…」
ぐったりと、うなだれるノヴァとヴェル。
だが、最後の仕事がまだ残っている。
「疲れてる所わるいが、これをお客さんに持って行く最後の仕事がまだあるぞ」
本当は、ノヴァに全部持って行ってもらおうと思っていたんだが。
みんなで頑張ったし、最後までみんなで終わりたいじゃん?
「うぅ…子どもにお仕事なんてむりだよぉ…」
『お、俺は魔力が切れて一歩も動けましぇん…』
…はぁ。
「ヴェル、お前さっきウチは子どもじゃないって言ってなかったっけ?ノヴァ、喋る元気があるならまだ魔力残ってるよな?」
『「うぅ…ハイ、おっしゃるとおりで…」』
まったく、困ったもんだよ。
「ほら、行くぞ。せっかくの料理冷めちまう」
ヴェルにショウの分を持たせて、俺がマミナの分を持ち、俺達はカウンター席へと向かった。
2014/7/29
読者様のご指摘により、ヴェルのフルネームのみを変更しました。
魔王の娘ですので、サタンはもちろんの事、ルシフェルをもじった物を使用し、ヴェルと付くカッコ良い名前を考えました。
これ以上は作者の頭では無理ですので、ご了承ください。




