#25 カフェ・スグル
テーブルの上に、食パンを使ったサンドイッチと揚げパンを並べる。
揚げパンは、切り落としたパンの耳を油で焼き揚げた物だ。
牛乳と角砂糖ビンを一緒に並べて、俺は自分の場所に座る。
「…ふぁ…おはよう、優…じゃ無かった。響」
「あぁ、おはよう」
「あれ、翔は?」
「まだ寝てるんじゃ無いか?」
「あ、そう」
寝巻き姿のまま、真美菜は俺が用意した朝ごはんの前に座る。
「…うーす…おはよう」
「なんだ、ずっと寝てれば良かったのにな。お前は夜の住人だろ?」
「…えらく昔の話を持ち出すんだな?」
「夢の影響だ」
さて、全員揃ったところで、朝ごはんと行きましょうか。
「いただきます」
「「いただきまーす」」
流石に、朝はテンションが低い。
今日はみんなどうかしたんだろうか?
何か変な夢でも見たのか?
「あたしね、今日変な夢見たのよ。昔の事を夢で見たの。だからさっき、響のこと優って呼んじゃったのかな?」
「へー、奇遇だな。俺も見たぞ、昔の事」
なんだ?
真美菜も翔も見たのか?
「俺も見たぞ。俺が執事やってた時の夢だった」
…ん?
あれ?
「なんか怖く無いか?俺や真美菜、翔が全く同じ夢見るとか恐怖の塊だな」
それとも、別世界の作者の陰謀か?
「別に不思議では無いだろ?リンクギア使って脳波を限りなく似せてるんだから」
「お、おぅ…」
アホの俺には全く分からんが、とにかく偶然では無いらしい。
「それより、響?今日はあたし達が片付けやっておくから、早くCDOに行きなさい」
「え?なんで?」
「今日からお店、開けるからよ。丁度メンテナンスもアップデートも終わって、一段落した頃だから、今日開けないとこの波に乗り遅れるわよ?」
ふむ、流行りとはそう言う物なのか?
「んー、分かった。じゃ、洗い物よろしく頼むぞ?」
「安心しなさい。めちゃくちゃ頑張るから、主に翔が」
食後のコーヒーを楽しんでいる翔の顔色が悪くなっていく。
頑張ってくれたまえ。
「あ、そうだ響。カフェの聖地にいろいろ置いてあるけど、好きに使って良いからね?あたしが全部用意したやつだから遠慮なんてしなくていいよ」
マジか。
「何から何までサンキューな。真美菜には全く、世話になりっぱなしだな」
「え、いや、その…そんな事無いよ?あたし、何にも出来ないし。響の手伝いが出来るだけで精一杯なんだから」
おぉう…
なにこれ可愛い…
「おぃてめーら。イチャつくのも大概にしろよ?響はさっさとゲームに行ってろ。片付けは俺たちがやっとくから」
「お、おぅ…よろしく頼んだ」
食後の片付けを二人に任せ、俺は二階に上がり、リンクギアを装着した。
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青とも緑とも言えない電子の海を抜けて、俺はCDOの世界に降り立った。
「なんだ、こっちはまだ日の出して間も無いのか」
半分程、CDOの太陽が東の空に隠れている。
この分だと、開店準備が終わる頃には丁度良い時間帯になるんじゃ無いか?
「とりあえずは、キッチンに置いてくれてある、材料の確認だな」
真美菜の事だから、多分足りないとかそう言うのは無いと思うけど。
一応、な。
「うん、まぁこれなら大丈夫だろ」
冷蔵庫にはハンバーグ用のひき肉、卵、牛乳、バケット。
コンロの上の調味料棚には、砂糖に塩、酢、みりん、醤油。
更には菜箸から大窯に至るまで、何でもあった。
「よし、まずは珈琲豆の焙煎からだな…って言っても炒るだけだが」
フライパンを弱火にかけ、珈琲豆を炒っていく。
最初は青臭かったが、そのうち珈琲独特の香りがしてくる。
『いい香りだな』
「…⁉︎」
誰かが直接、俺の脳内に語りかけて来た。
『なぁ、主。そろそろここから出してくれねーか?俺、腹減った』
どこだ⁉︎
どこから脳内に語りかけて来ている…?
『ん?俺を探してるのか?だったらアイテムBOX開けてみな』
メニューを開き、アイテムBOXを確認する。
特に異常は無い。
『サポートエッグを外に出してくれ。何、心配は要らない。爆発とかしねーよ…多分』
多分かよ。
怪しさレベル半端ないぞ?
「…なぁ、俺がサポートエッグ出してメリットあるのか?」
『あぁ、メリットしか無いぞ』
「…よし、出すのやめよ」
爆発したら困るし。
『え、ちょまっ……お願いです出して下さい』
そこまで言うなら仕方が無い。
俺はアイテムBOXからサポートエッグを出した。
貰った時と同じように、特に変化はない。
『悪いな、恩に切るぜ』
ピシッ、パキッ…
パリッ!
「…卵に足が生えた」
『さぁ、行くぜ?この日の為にカッコ良く産まれるイメトレして来たんだ…ぜ!』
バキッ!
卵が弾けた。
欠片が散乱し、その内の幾つかが俺の頬をかすめる。
弾き飛ばした張本人は、決まった…と言わんばかりにドヤ顔をしている。
「…よし、オロして食べるか」
『あ、ちょ、ごめんなさいっ‼︎だから、首根っこ掴んで締めるのやめて下さい!お願いしますっ‼︎』
「…で、お前は何なんだ」
炒り終わった珈琲豆を、今度は惹きながら、目の前の小さな黒いドラゴンに視線を落とす。
『俺はドラゴン。名前はまだ無ぃいててててて‼︎痛い痛い痛い‼︎頭痛い‼︎』
ドラゴンの頭を持って、吊るす。
『おま、動物保護法で罰せられるぞ⁉︎』
頭を離し、キッチンテーブルに落とす。
「ドラゴンなのは見れば分かる」
ワニの様なトガったウロコに、鳥の様なクチバシ。
コウモリの羽と、頭から少し突き出たツノ。
生物はドラゴンと呼ぶに相応しい。
「俺が聞いてるのは、お前は何者か、名前は何なのかを聞いてるんだ」
惹きたての珈琲をお湯に溶かし、味見をする。
うん、美味い。
『俺は主のサポートパートナーだ。名前は本当に無い。まだ、付けて貰って無いからな』
心なしか、ドラゴンは俺の珈琲をチラチラ見てくる。
飲みたいのか?
「フーン…サポートパートナー、ねぇ…」
二杯目を注ぎ、ドラゴンに差し出す。
『いいのか⁉︎』
ドラゴンは目をキラキラさせて、俺の承諾を待っている。
「飲んで良いぞ。それに、お前がサポートパートナーなのは、何と無く分かってたし…ってどうした?全部飲まないのか?」
俺が飲んで良いと言った後、ドラゴンは顔をカップに沈めたが、しばらくすると飲むのをやめた。
『いや、あの…思ってた味と違ってて…想像以上に…苦い』
不味い、と言うのを遠回しに言いたかったのだろう。
だが安心しろ、苦いと思ってるのは俺もだ。
「ま、そう言う飲み物だからな…ちょっと待ってろ」
調味料棚の砂糖、それも角砂糖瓶を取り出して、一つ入れる。
「もう一度飲んでみ?」
今度は恐る恐る、飲む。
『…美味い』
「だろうな」
ドラゴンは、珈琲を惜しむ様にチビチビ飲む。
しっかし、名前か。
うーん…名前…名前?
…シグムンt…いや、ダメだ。
なんか危険な香りしかしない。
って言っても俺が思いつきそうな名前って大体、他作品に出てる(メメタァ…)からなぁ…
神話から連想して行こう。
まずは、ベースとなる名前だが…うん、黒いからバハムートで。
他に、黒そうな神話のドラゴンは…ヴリトラ?
えーと、あとヘルヘイムにティアマット。
それからエリュシオン。
…やっべぇこれ楽しい。
えーと、他には他には………
「よっしゃ決まった!今日からお前の名前はノヴァだ!」
『バハムートとかはどうした』
途中で捨てました。
「よろしくな、ノヴァ。俺の事は気軽にスグルって読んでくれ」
『こちらこそ、よろしく頼む。スグル』
ノヴァは羽ばたき、俺の肩に乗る。
「さて、そろそろ開店しますか。朝メニューはバタートーストと、フレンチトーストだけだからそんなに大変じゃ無かったな」
どうせ客は来ないしな。
俺は店の〈Close〉と書かれた札をひっくり返して〈Open〉にする。
ゲーム内時刻は午前八時前後。
〈カフェ・スグル〉の初オープンである。
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……いい匂いがする。
ウチはもふもふの布団から身体を起こし、いい匂いのもとへと歩いていく。
「この、あまくてこうばしい匂いはなんだろう…」
匂いの正体をたしかめたくて、ウチはかいだんを降り、キッチンのドアに手をかけた。
いつ、消されるかビクビクしながらネタを入れてます。




