#23 過去-翔編-
「警部、奴は本当に現れるでしょうか?」
「あぁ、奴は必ず現れる」
フフ…クフフ…
やっべぇ面白い。
いやいやまてまて。
今感情を表に出すのはマズイ。
「しかしですね警部。あと五分で予告時間ですよ?それなのにまだ騒ぎの一つもありません」
「…俺はずっと奴を追っているが、奴が時間通りに来なかった事など一度も無い」
それは、光栄ですな。
あと…一分。
……カチリ。
屋敷の応接間、大時計が九回鐘を鳴らす。
それが聴こえたその刹那、彼等の空気がバリッとした。
たまらないね、この空気。
屋敷全体のブレーカーを落とす。
「っ⁉︎明かりが⁉︎」
「気をつけろ!奴の常套手段だ!」
「いやー、お褒めに預かり光栄ですよ?警部どの」
仕事も終わったし、そろそろ明かりをつけますかね。
「おのれバード!今度こそ貴様をお縄にしてやる!」
「それでは、私はこれにて失礼します。またお会いしましょう」
煙幕を張り、姿をくらます。
「警部!窓の外に奴が!」
「おのれまたしてもっ…‼︎追え!逃がすな‼︎」
警備をしていた彼等は揃って偽物を追いかける。
さて、と。
堂々と今回の獲物の前に立ち、ゆっくりと時間をかけてセキュリティを突破する。
厳重な防弾ガラスケースの扉を開けて、中身を取り出し、最後に監視カメラに向かって一礼をして、俺はその場を後にした。
〈怪盗バード〉…本名、八条 翼。
職業…朝はマジシャン夜は怪盗。
俺、八条 翔の自慢の父であり尊敬すべき人間である。
どんな物でも盗める父さん曰く、一番盗むのに苦労したのは母さんの心だそうで。
父さんは母さんに超がつく程デレている(そこはリアルにキモイ)。
幼少期より怪盗のイロハを教え込まれ、今となっては父さんと肩を並べる程になっている。
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「あーヒマだなぁ…今日も遊びに行って来ようかなぁ…」
「なんだ翔、また真美菜ちゃんの家か?人の心を盗むのは大変だぞ?」
「と、盗らねーよ!あいつはただの友達だ!」
「へーほーふーん」
「…信じてねーだろ。もういいよ…行って来ます」
高さ約3m、上には赤外線センサーに監視カメラ。
「今日も完璧な警備だな、真美菜の家は」
だが甘い。
俺は赤外線感知メガネを装着した。
まずは、赤外線センサーの根元。
センサーに触れないよう、ネジを外す。
見えたコードに持ってきた無線アンテナを接続し、反対側にも同じ物を取り付ける。
1m程の、センサーの隙間が出来る。
そこから、潜水艦に付いてる様な覗き穴を使って周囲を確認する。
事前に調べた結果、目の前にはカメラが内側に向かって設置されている。
カメラの映像を前日に録画しておいた、何事も無い映像とすり替える。
「…ふぅ、これで大丈夫だな。全く余裕だぜ」
堂々と、屋敷の中を歩く。
すれ違う警備員は完全に真美菜と優の友達だと思い込み、中には挨拶する人もいる。
「本当にザル警備だな。平和ボケとしか言いようが無いぜ…っと、金庫室か。ヒマだからちょっくら開けるかな」
金庫室の前には黒スーツの警備員が二名、駄弁っている。
「おじさん」
「ん?お嬢様のお友達かい?何か用かな?」
「トイレってどこにあるの?道あんないしてくれるとうれしいな」
「トイレ?あぁ、それならこっちだよ」
…ふ、かかった。
「ありがと、おじさん」
「どういたしまして」
「お礼に良い事教えてあげる」
左手を口に当てる。
そうすると、警備員は姿勢を低くして顔を近付けてくる。
そこにすかさず右手に隠し持った催眠スプレーを吹き付ける。
「なっ………ぐぅ」
「おやすみ、おじさん」
「おっ、小僧。トイレは終わったか?」
「おじさん!大変だよ!あんないしてくれたおじさんが倒れちゃった!」
「なに、本当か⁉︎」
警備員のおじさんは持ち場から離れ、トイレへと向かった。
「ダメだよ、警備員が持ち場から離れちゃ。俺みたいな怪盗の卵に金庫開けられるでしょ」
俺は金庫の鍵を開け、その場を後にした。
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「ぃよーう、優に真美菜ちゃん。今日も遊びに来たぜー?」
「…キサマ…また勝手にセキュリティを突破したな?」
「おー怖い怖い。ここがザル警備なのが悪いんだろ?それに俺は愛しの真美菜嬢に会いに来ただけなんだから」
俺は、優に見せつけるように真美菜の手の甲にキスをする。
「そんな事言ってお前はまた二条家の金庫を開けるんだろう?キサマの先代の様に。泥棒め」
「先代は先代、俺は俺。確かに今しがた金庫を開けて来たが何も捕っちゃいねーよ…それから泥棒じゃなくて怪盗って言って欲しいね」
しばらく優から怒りと殺意のオーラを感じたが、やがて何かを探し始めた。
俺は背後に持っていた、優から盗った無線機を見せる。
「お探しの物はこれかな?」
「さっさと返せ。それでおまわりさんこいつですってするから」
「そんな事言われて返すバカがどこにいる」
ま、後で返すけど。
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そこで目が覚めた。
「ふぁ……ねむ………しっかし懐かしい夢見たな…」
寝ぼけた脳で真美菜の事を無意識に考え、悶絶する。
「ちっくしょう……可愛すぎる……」
しばらく自分と格闘した結果、現実に帰ってきた。
「…はぁ…まだ、諦め切れてねーんだな…俺は」
随分、女々しくなっちまったな。
時計を確認し、響が朝ごはんを作っている時間帯である事を悟る。
「…腹減ったな。飯食べるか」
流石に眠気はもう無い。
それより食い気が買ってる時点でどうかしてるよ本当に。
俺って単純過ぎてため息が出る。
そんな事を考えながら、窓から響の家に入って行った。
過去編シリーズ、三人視点と言いましたよね?
あれは嘘ですごめんなさい。
詳細は次回の後書きで詳しく。




