#21 過去-響編-
「……る……ぐる……!」
…なんだろ…誰かに呼ばれて…?
…この声…真美菜…か?
「…優‼︎」
「…はひ⁉︎」
…なんでお前はそんな格好をしている。
…あぁ、そうか。
これは夢か。
そうだよな…俺たちはもう…
「優?うたた寝なんかして大丈夫なの?お父さんに叱られない?」
「大丈夫ですよ、真美菜お嬢様。これでも久城家の一族ですよ?役目は果たしています」
久城 優、元執事。
当時六歳にして福執事長に腰を治めている。
優の父親いわく、飛鳥時代より二条家に仕える家系だとか。
「そう?優がそう言うなら大丈夫なんでしょうけど。今日は八条さんは来ないの?」
「…本来ならば来られると困るのですが。なんなら今すぐ八条…さん…をハチの巣にして「ぃよーう、優に真美菜ちゃん。今日も遊びに来たぜー?」…キサマ…また勝手にセキュリティを突破したな?」
「おー怖い怖い。ここがザル警備なのが悪いんだろ?それに俺は愛しの真美菜嬢に会いに来ただけなんだから」
真美菜お嬢様の手の甲にそっとキスをする。
どこの貴族だ。
白々しい…
「そんな事言ってお前はまた二条家の金庫を開けるんだろう?キサマの先代の様に。泥棒め」
「先代は先代、俺は俺。確かに今しがた金庫を開けて来たが何も捕っちゃいねーよ…それから泥棒じゃなくて怪盗って言って欲しいね」
また開けたのか!
それで怒られるの誰だと思ってるんだこいつはっ!
泥棒も怪盗も大差無いだろ⁉︎
…いけない、ついつい感情的になってしまった。
落ち着いて、冷静に…クールに行こうクールに。
まずは、悟られない様、無線にスイッチを…ってあれ?
「お探しの無線機はこれかな?」
…コノヤロウ…
いつの間に取ったんだこいつは。
「さっさと返せ。それでおまわりさんこいつですってするから」
「そんな事言われて返すバカがどこにいる」
そんな事が毎日繰り返される。
そう、信じて疑わなかった。
父さんにアレが無ければ…
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「どうした優!そんな業では勤めを果たせんぞ!」
執事の朝は早い。
お日様より早い。
「…う…うるさい、なぁもう!集、中出来ないだろ!」
早朝から護身術、格闘術、料理、作法。
訓練を重ね、お嬢様を護る。
それが執事である俺の勤め。
父さんは既に引退済。
「まだまだ甘いな。優がこんなことでは安心して現役引退など出来んわ」
「もう諦めろよハゲ」
「親に向かってハゲとはなんだ!それにまだハゲてなどおらん!見ろ!この希望に溢れた我が頭皮を!」
「俺には薄れゆく希望にしか見えないね。それで健康体とか、とんだヤブ医者だな」
「何を言う。最後に健康診断した時は健全体の診断が出たんだぞ?」
嫌な予感がする。
「それ、最後っていつの事だ」
「二年前位かな?」
「今すぐ健康診断いけ、ハゲ」
「ハゲちゃう!ハゲちゃう‼︎ハゲちゃうもん‼︎」
嫌がる父さんを近くの病院に押し込み、健康診断を受けさせる。
その結果により、俺たちは全てを失う事になる。
視点を三点に分けて書くつもりなので、今回は響編でした。




