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#18 響の手料理⑤

「やっぱ客席に八坪は振りすぎじゃ無いのか?」

「いや、スグルの飯は最高だから絶対売れる!客席に八坪、キッチン四坪、畑と二階の出入り口に四坪だ!」

現在、不動産にて家の設計中。

大きなタッチパネルを前に、家の大きさや見取図なんかを作成すると、自分の土地に勝手に建てられていく仕組みだ。

もちろん、後で草刈りを手伝うつもりだから、今は設計だけだが。

「あのさ、俺の料理が美味いわけないだろ?凡人以下の腕だよ?せいぜい、ショウとマミナの好みに合ってる程度だろ」


本当に、俺の料理が美味いはずが無い。

昔、ちょっとだけとある良家の料理長にしごかれた程度だ。

「そんな事無いって。そこらの三ツ星より絶対美味い。いい加減認めろよ」

そういうわけにはいかない。

味にムラがある時点で人様に出して良いわけが無い。

「絶対美味いし売れるから。頼むから、俺のこの超絶的イケメンに免じて。頼むっ!」

どこがイケメンなんですかって言う事は置いといて。

「…分かった、分かった。お前のキタナイ顔に免じて、八坪にしてやる。ありがたく思えよな」

置いていけませんでした。

「あざーっす」

否定しないのね。


結局、客席に八坪、キッチン四坪、畑と井戸それから二階への出入り口に四坪を振り分け、設計。

外観と内装、その他の細かい色塗りはショウにしてもらい、データベースに保存する。

お金を払い、設置マーキングを貰って契約成立。


「結構簡単に家って作れるんだな。なんで建築社とかがあるんだ?」

少し疑問に思ったのでショウに聞いてみる。

「不動産で作った家は、購入者が引越しをする時に住んでいた家をそのまま動かしたり出来る。建築社はそれが出来ない」

「だったら不動産の方が良い…と言いたいところだが。メリットがある分、デメリットもあるんだよな?」

「そうだ。家ごと引越す代わりに、一度買うとたとえ購入者でも売ることは出来ない。その家は不動産側の所有物になって、借家となる。建築社はそれができる」

ふむ、思い出を取るか、新しい生活の足しにするか。

悩みどころである。


「じゃ、そろそろ行くか?マミナも戻って来てるだろうし」

「そうだな」

そうして、携帯型ポイントを使用し、俺たちは設置型ミニポイントへと飛んだ。


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「うぅ…疲れたぁ…疲れたよぉ…」

コーヒーの木だけ残し、周りの雑草を刈り切って、ついでに苗木も入手したのはいいけれど。

もうM(マジカル)P(ポイント)も切れてしまって、動こうにも動けない。

「よーし、じゃあ早速草刈りをって、終わってる⁉︎」

ショウが戻って来た。

「おぉ、大分スッキリしたな。これ全部マミナがしてくれたのか?」

少し遅れてスグルも帰ってくる。

だけど、唇を動かす事すら出来ない。


▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


俺たちが帰ってくれば、既に草刈りは終わっていて、その真ん中あたりにマミナがうなだれている。

「おぉ、大分スッキリしたな。これ全部マミナがしてくれたのか?」

「…」

返事が無い。

ただのしかばねのようだ。

「おい、マミナ?大丈夫か?」

「…」

ショウが問いかけるも、帰ってくるのは静寂だけ。


「えーっと、マミナ?本当に大丈夫なのか?」

「…み…ず…」

やっと聞こえた。

「え、水?…ちょっと待ってろ」

最初に着ていた初心者の服をアイテムから取り出し、井戸へ向かう。

幸いにも、ポンプ式のようで、水質については問題無さそうだ。

「ショウ、ちょっとその大剣借りるぞ」

「お?おう…」

服を切り裂き、それに井戸の水を染み込ませる。

「ほら、マミナ。水だぞ。ゆっくり飲めよ」

顔を上に向かせ、ぼろきれと化した布を絞る。

「…くそっ飲まねぇ…こうなったら…」




俺は残った水分を吸い出し、マミナに口移しで与えた。

「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

ショウから殺気の塊が出ているが、気にしていられない。

「…んっ…んく…こくん…んく…ブハァッ…ハァ、ハァ…ななななななな、何すんのよいきなりっ‼︎‼︎」

「仕方ないだろう。今にも死にそうだった奴が恥じらいを感じてどうする」

「そそそそそそ、それ、それにしたってもっと他に手段があったでしょうが⁉︎」

そんな事言われても、だ。

あの時はそれが最善だと思ったし、何より一番確実だったからな。

「だ、大体、あたしまだしたこと無かったんだよ⁉︎…その……キス……とか…」

…マジですかぃ。

「…それは…悪かった…初めて、取っちゃって…その…すまん」

「…もう良いわよ。謝られたって戻ってくるわけじゃないし。その代わり、喫茶店出来たら安くしなさいよ?」

「あぁ、分かった。約束する」

ちろりと舌を出して、そっぽを向かれた。

あんまり怒って無くて良かった。


「おイ…スグる…テメェ…」

…忘れとりました。

殺気がこちらに向いている。

これは…ちょっと…その…

「おおおお、おちおちオチ、もちつけショウ!こ、これはいわゆる…そう!人工呼吸と同じ、人命救助みたいなもんだから!決っしてやましい気持ちなんて!これっぽっちも‼︎」

「そんな事はわかってる…問題はその後の会話だ………お前ら…付き合いたてのカップルかっ‼︎‼︎‼︎‼︎」

え、そこ⁉︎

「くっそ!くっそ‼︎羨ましいったら羨ましいっ‼︎」

あぁ、ショウがいじけ始めた…

「良いよなぁお前ら…もう結婚しろよ」

「なんっでだよ‼︎」

そんなワケないだろう⁉︎


「そうか…で?実際どうだった?」

…ん?

「何が?」

「もう、とぼけちゃって。なんだかんだ言ってお前も初めてだったんだろ?」

「…あぁ…うん」

「どんな感じだった?」

どんな……

思い出して、顔が赤くなる。

「…え…と……凄く…柔らかいです」

「ちね☆」

「え、ちょっと⁉︎なんかこういう事前にもあった気がするんですけどってウワァァァァァァァ⁉︎」

静寂の彼方に俺の悲鳴が轟きましたとさ。

こういうオチは好きです。

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