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終わらない夢

 深夜、目を覚ましたと気付いたのは白い天井を見上げていたからだった。

 目を開けた瞬間、すぐに何かおかしいと感じた。

 なぜなら、その天井は、今まで見慣れていたものと違ったからだ。

 どうしても思い出せなかったけれど、どこか不安定で、どこかが違う気がした。

 名前を呼ばれたわけでもないのに、体が自然と動いた。

 どこか、足元が冷たいことに気づき、急いで布団を引き寄せた。

 まるで、誰かに見られているような感覚があった。

 視線が、後ろから迫ってくる。 

「どうして……」

 ふと、声が漏れた。自分の口から出たその声は、思ったよりも震えていて、力が入らなかった。

 恐怖。

 それが今の自分を支配していた。

 今、どこにいるのかすら分からなかった。

 部屋の様子を見渡しても、そこには見覚えのない家具が置かれていた。

 そして、それらはひとつひとつ、妙に鮮明に映っていた。

 カーテンが揺れ、静かな空気の中で、微かに耳を澄ませると、どこか遠くから声が聞こえてくる。

「誰……?」

 答えはなかった。目をこらしても、視界には何も映らない。

 ただ、空気がぬるぬると、まるで透明な糸のように手足を絡めてくる。

 そして、急にその糸に引っ張られるように、体が動き出した。

 目の前に見えるのは、長い廊下とドアの先の部屋。

 恐る恐る立ち上がり、足を引きずるようにしてその部屋に向かって歩き始めた。

 だが、何もない廊下には、さっきまでの不安定な感覚が、さらに強く感じられた。

 歩みがどんどん速くなる。

 まるで、この廊下を抜けることで何かから逃げられるような気がした。

「どうして、こんなところにいるんだろう?」

 自分がなぜここにいるのか、その理由すら思い出せなかった。

 自分の名前も、どこに住んでいたのかも、全てが霧の中に消えていた。

 やがて、廊下の先に小さな扉が見えてきた。

 そこには、さっきの部屋と同じような奇妙な家具が並んでいた。

 だが、その扉には異様な雰囲気が漂っていた。

 触れてみるのも怖いような、誰かが開けたくないと思っているような、そんな強い圧力を感じる。

 しかし、足は自然とその扉に向かって進んでいた。

 握ったドアノブが冷たく、手のひらに張りつくような感触を残した。

 扉を開けた瞬間、そこで目に飛び込んできたのは、予想外の光景だった。

 部屋の中には、古びたベッドがひとつだけ置かれていて、その上には誰かが横たわっている。

 それは、自分自身の姿だった。

「……え?」

 驚きと同時に、恐怖が背中を駆け巡る。

 そのベッドに横たわっている自分の姿が、まるで夢の中のように薄れて見える。

 そして自分の名前も急に頭の中に浮かんできた。

 その自分は、動かない、まるで眠っているかのように見えたが、千尋はその目を見ていた。

 その目が、静かに、ゆっくりと開いていった。

 まるで、何かを期待しているかのように。

 その目を見た瞬間、千尋は背筋を凍らせるような感覚を覚えた。

 そこに映っていたのは、間違いなく自分の目だった。しかし、その目は、今まで見たことのない恐ろしさを秘めていた。何かが、それを見ているのだ。

 まるで、深い闇の中に引き込まれそうな感覚。

 その目が、ゆっくりと自分に向けられた。

「君……」

 突然、その自分が口を開いた。その声は、響くような、深い声だった。

「君は、もう目を覚ましたんだ」

 その言葉に、千尋は動けなくなった。

 全身に冷たい汗が流れ、体が重く感じる。

「何を言ってるの?」

 千尋は、その自分に問いかける。

 しかし、その答えはすぐには返ってこない。

 ただ、静かな沈黙が部屋を支配し、千尋の心を乱す。

 その沈黙が破られたのは、突然だった。

「君が目覚める場所は、ここしかない」

 その言葉と共に、部屋の暗闇が急激に膨れ上がり、千尋はその中に飲み込まれそうになる。

 目の前に広がる黒い闇の中から、手が伸びてきた。

「ここで目覚めなければならないんだ」

 その手が、千尋を引き寄せようとする。

 必死に抵抗しようとするが、力が抜け、体は動かなくなっていく。

 自分の手も、まるで重りをつけたかのように動かない。

 その時、最後に聞こえたのは、あの深い声だった。

「君はここから出られない……」

 そして、すべてが闇に飲み込まれ、千尋は再び深い眠りへと落ちていった。

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