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用意したプレゼント

 ワックスで頭を固め、オールバックに決めているユキ。

 会場にいる女性全員が、ユキの美貌に思わず見惚れてしまっていたのだった。凛々しい顔で壇上へと一直線に歩いていくユキの姿。


「かっけぇ……」

「そう、ですわね……」


 ユキはマイクを手に取り謝辞を述べる。


『今日は俺の誕生日パーティにお越しいただきありがとうございます。些細な式ではございますが、ぜひ楽しんでいってください』


 そう述べて、ユキは壇上から降りて俺のほうに向かってくる。

 ユキの席は俺の隣で、俺はユキの隣で一緒にパーティを楽しむ。なんてったって婚約者だから。婚約者になっていなければ同じ席になっていなかったかもしれないと考えると、婚約しておいて正解だった気がする。


「ユキ、誕生日おめでとう」

「ありがとう」


 ユキは満面の笑みを浮かべたのだった。


「音子に祝われるのなら誕生日を迎えることも嬉しいものだな」

「……そんなことをさらっというんだから」


 そんなこと言われたら照れるだろうが。

 だがすぐに、ユキの周りには人だかりができたのだった。プレゼントを渡すタイムがないが、みなユキにプレゼントを用意したらしく、ユキに受け取ってほしいと上げていた。

 大体は自分が好きなものを相手に渡そうとしているようにも見える。アロマキャンドルとかまさにそうだろう。自分が好きなものを好きになってほしいのはわかるが、そこに少し他意を感じるのは考えすぎなんだろうか。


「財前様~。プレゼントです~」

「ありがとう」

「幸村様~。プレゼントですわ~」

「……」


 千智ちゃんが悪ふざけしてプレゼントを渡していた。ユキは呆れたようにプレゼントを受け取る。

 プレゼントを渡し終えた人たちはいったん席に戻っていた。話したいのはやまやまだろうけどあまり長居したら機嫌を悪くしちゃうという判断だろうか。

 ユキの周りは物であふれかえっている。さすが取り入りたい人が多い財前家様だぜ……。


「……音子はないのか?」

「……」


 俺は押し黙る。

 ある、あるんだけど……。ちょっと恥ずかしいっていうか。財前家のことだ、プレゼントもものすごく高級なものばかり。

 俺の用意したものと比べてもものすごくお高いんだろう。

 なんつーか、高級なものばかりもらった後に出すと俺のが陳腐なものになってしまうような感じがする。実際陳腐なものだが。


「……ないのか」


 と、ユキはちょっと悲しそうな顔をした。

 さすがに渡せないのも困る。俺は用意したプレゼントを渡した。


「ん」

「……なんだこれは」

「私が作ったケーキ……」

「……音子が作ったのか?」

「うん。作ったのは初めてだからうまくできてるかわからないしお店の味には到底かなわないけど……」


 保冷剤が入ったケーキの箱を手渡したのだった。

 ユキはさっそく開けて、ケーキを一つ取り出す。不格好なショートケーキがみんなの前に取り出されたのだった。

 ちょっと恥ずかしい。


「あまりプレゼントとか送ったことないから……。最後まで悩んで……一番喜んでもらえた気がする私の料理のほうがいいかなって思って……。まずかったら捨ててもいいから……」

「ありがとう」


 ユキはそのまま手づかみでケーキを一口食べる。


「しっかりと丁寧に作られた生クリームにふかふかのスポンジケーキ。いちごの酸味が生クリームのくどさを中和して美味しく仕上げてるな。美味い」

「……無理してない?」

「してない。俺の本音だ。俺は嘘はつかん」

「そ、そう……」


 美味しいなら何より……。


「だが食べ物は食べたら消えてしまうのがもったいないな」

「……来年は何か物にします」

「無理して用意しなくてもいい。音子がいること、それだけで俺は嬉しいんだ」

「ユキ……!」

「いちゃついてんねぇーお二人さん」

「……ごほん」


 ユキはケーキの箱のふたを閉め、あとでまたいただくと言ってしまったのだった。

 とりあえずケーキ美味しいといってもらえてよかった……。










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