俺を知っている理由
俺らは場所を移し、よく使っているというライブハウスを貸し切り話をすることになった。
「まず初めに……。なんで俺がこの姿になってるのを知ってるんですか?」
「愛、ですかね」
答えになってねえよ。
「友理奈。ふざけてないでマジで答えなよ」
「……あなたの妹が音助さんが女の子になって甦ったと」
……あの妹。
どうやら友理奈さんたちは妹の知り合い……というかSNSで知り合った仲らしい。裏垢でロックバンドオタク活動していたら俺の妹と知り合い、兄が女の子になっちゃったんですぅとDMでやり取りしていた。
最初は信じていないようだったが、今の俺の見た目の写真を送ったことで男の子に見えなくね?って感じになってるらしい。
「……女装が趣味なのですか?」
「……今の俺にはマジでブツはないけどそういうことにしておいて」
あの妹にはあとでマジで〆とかないと。
「会いたかったです。ネオエスケープのボーカル、音助さん」
「こ、こちらこそ。俺としても大ファンのUSAの皆さんと会えて光栄です……」
「大ファンだってよ」
「照れるねぇ」
「こっちも君のファンだよ」
と、照れることを言ってくれた。
実際のところ、活動歴はあっちのほうが断然上だし、お世辞で言ってくれてるかもしれないけどファンだと言ってくれてるのはとてもうれしいのだ。
「それで……なんで俺を探してたんですか?」
「いやぁ、実はねぇ。ここ最近考えてることがあって」
ボーカルでありリーダーの友理奈さんが笑顔のまま、考えてることを口にする。
「ここ最近、新しくボーカルもう一人増やそうーって思っててさ。男性ボーカルでもよかったんだけど、ほら、うちらガールズバンドじゃん? ここに男一人いれるのもあれかなぁって。でも声葉ちゃんから君の兄がボーカルで女の子に近しい見た目だっていうじゃん? だったらうちらにぴったしかなって! スカウトしたかったんだよ!」
おい。俺の個人情報駄々洩れじゃねえか。
「ボーカルとして、君は飛びぬけてうまいしぴったりだと思って」
「そこまでですか?」
「うん。ネオエスケープの曲、聞いてみたけど……ほかの三人もうまいけど君が段違いでうまい。むしろ、ほか三人には悪いけど、三人の技量が君に追いついてない」
……そこまで言われるとちょっと嬉しいんだけど。
「ネオエスケープが微妙といわれてるのは技量のずれから起きるズレなんだよ。音楽、昔からやってたでしょ」
「……いや、大学からですけど」
「……マジ?」
「大マジです」
「……じゃあ天性の才能ってわけだ。つまりまだ上限じゃない……。末恐ろしい……」
そこまで言われると照れる。
それに、三人の技量についてもちょっとだけ納得してしまっていた。俺はあの三人とやるのが好きだ。けれども、評価されているのは俺だけだった。
あの有名社長からの差し入れも俺にだけだった。あいつらはきっと笑っていたけど内心じゃ傷ついてたんだろうか……。
……いや、あの三人の性格的にないな。
あの三人は嫉妬というものをしてるのを見たことがない。ないものはないで諦めて吹っ切れてるタイプだから。
「どお? 私たちなら技量も十分。君に十二分に合わせられる。こんな最強な環境、ほかにないよ?」
「といわれましても」
だがしかし、俺は勧誘されても……。
「俺はあいつらとやるのが好きなんです。俺のレベルを落としてでもあいつらとやりたいんで」
「……そっかぁ」
「まぁ、今はマジに女子になってるんであいつらとやれるかどうかもちょっと怪しいんですけどね」
「……マジに女子ってどういうこと?」
「……音助さん」
あっ。
「……ちょっと失礼」
メンバーであるドラムのサナが俺の股間に手を当てる。
「マジでない」
「……男の子っていう話じゃなかったの!?」
「……いや、声葉ちゃんは兄だって。女の子になったって言ってたから」
「……男性から女性になるって可能なの?」
「……手術、しちゃった。そこまでの覚悟を」
「違う違う! いや、まぁ、それでもいいけどなんかそれだと俺に女性願望があったみたいでちょっと嫌! 説明しますから!」
「それで通せばいいと思いますが」
「俺のプライドの話なの! なりたくてなったわけじゃないの!」
俺も声葉と同じ口が軽いかもしれない。
いや、マジで気を付けないと……。




