☆どこにいったの音子
幸村のクラスはとても混雑していた。
休む暇もなく、次から次へと客がやってくる。トイレ休憩などは途中で挟んでると言えど、6人でようやくさばききれているような客足だった。
「音子まだ帰ってきてないのか!?」
「うん……」
「かれこれ10分は経ってるよな? トイレそこまで遠いわけでもないし……なにかあったのかもしれん」
「こんな大勢いる中でなにかするやついる?」
幸村が心配していると、伊佐波が息を切らしてやってきたのだった。
伊佐波は幸村様!と叫ぶ。
「なんだ?」
「香澄姉さまの姿が見えないんですの!」
「……」
神和住 香澄。
伊佐波 優里亜の従姉であり、桐羅3年生。悪いうわさは十二分に耳にしていた。それこそ、今日見せられた朝比奈が撮影した写真で初日にずたずたにした犯人。
そんな奴の姿が見えない。幸村の嫌な予感は肥大していった。
「心配になってきたんですわ! 音子様はおりますの!?」
「いない……。トイレに行くと言って抜け出してから……」
「なっ……!」
伊佐波は焦りの表情を浮かべていた。
「え、敵対視してたんじゃないの?」
「幸村様を奪う勝負は私の負けで決着がついているのですわ! それよりだいぶまずいことになっておりますの! 確実に香住姉さまが音子様になにかしてますわ!」
そう聞くと、幸村はいてもたってもいられなくなったのか走り出す。
職務を投げ出し、まずは近くのトイレに向かったのだった。一番近い女子トイレに向かうと、トイレしたい女性が並んでいる。
幸村は一人に訪ねた。
「こ、ここでさっきなにかなかったか!?」
「えっ、あっ、いえなにもありませんでしたけど」
「そ、そうか。すまない」
桐羅には女子トイレはたくさんある。
ここが一番近いと言えど、ここのトイレを使ったとは限らない。もし人で多かったら違う場所に行ってみるかもしれない。
それこそ、体育館前とかは体育館は解放されていないから人気もそんなない。
「音子! どこにいる!」
「ゆ、幸村さま……」
「伊佐波! お前の従姉がどこにいるかわからないか!?」
「私には何も……。香澄姉さまは私のためならどんなことでもする人なので……」
「クソ、シスコンめ……」
「従妹としてお恥ずかしい限りですわ……」
幸村は呼吸を落ち着かせる。
こういうときはまず冷静になるのが必要だと知っていた。冷静に考え、まずは監視カメラの映像が映されている警備室へと向かう。
文化祭当日ということもあり、警備員は複数人配置されていた。一人に監視カメラの映像を見せてくれと頼みこみ、女子トイレ付近の映像を見る。
「なにかあったとするならトイレに出た9時30分から40分の間……。伊佐波も手伝え」
「わかりました」
手分けして映像を検める。
すると、おんぶされている音子の姿とおんぶする男子生徒の姿があった。複数人の男子生徒。そして、神和住の姿。
どこに向かっているのかはわからない。
「やっぱり……。どこに向かっている」
「あっ、玄関のほうに映っておりますわ……。先ほど外に出たみたいですわ」
「外……」
外に出られてしまった。
「チッ……。どうする? どう探し出す?」
「なにか手掛かりのようなものがあれば……。あっ、いや、私が聞いてみましょうか? 私が音子様と仲直りをしていると知っていなければ応答してくれるはずですわ……」
「……お前はこういうことするのを知っていたか?」
「いえ……」
「なら不自然だ。どこにいるか聞いてもはぐらかされるだけだろう。手を染めるのは自分だけでいいと思っているんじゃないか? お前を俺とくっつけたい以上、お前に悪評が付くのを避けているはず。独断専行だろう」
「そう、ですわね……」
幸村は頭を抱える。
いまだにどこにいるのかはさっぱりわからない。せめてどの方向に向かったのか、それだけわかれば……。
すると、音子たちとすれ違いに、音子の友人である直虎たちが入ってきたのが見えた。
「まずは直虎さんたちに聞いてみよう。どこに向かったのかはわかればいいが」




