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文化祭二日目を乗り切れ! ②

 伊佐波 優里亜が客としてやってきた。

 扱うべき当主である黄緑の紐を律儀に手首に結んでいる。俺はアイコンタクトでユキのほうを見ると、銀太郎が前に出る。


「お帰りなさいませお嬢様」

「ええ、ただいまですわ。それより……私はあなたではなくメイドである万様に対応していただきたいのですが」

「かしこまりました」


 そういうと俺のほうを見たので小さく首を振っておく。

 千智ちゃんが前に出たのだった。


「ご指名でしょうか」

「あー……。そういえばそうでしたわね。千智様ではなく音子様を指名しているのですわ」


 何で俺なんだよ。万様って言ってただろうが。

 俺は諦めて接客することにした。正直やりたくない。やりたくないが、ここで嫌だともいえないし。


「お嬢様。大変お待たせいたしました」

「ん」


 俺は刺激しないように伊佐波を席まで案内する。

 伊佐波に今日のティータイムはいかがいたしましょうかと尋ね、メニューを調理班に伝えたのだった。俺は次の接客に向かおうとすると、伊佐波が俺の服をつかむ。


「二人でお話、いたしませんこと?」

「いえ、私はメイドですので……」

「主人の言うことが聞けないのですか?」

「……はい」


 俺は横に座らせてもらい、自分の分の紅茶を淹れた。

 無言の空間が流れる。伊佐波は黙って紅茶を飲んでいた。


「申し訳ありませんでしたわね。私の従姉が」

「えっ、な、なんのことでしょう?」

「昨日の騒ぎは耳にしておりますわ。私の従姉の香澄を問い詰めたところ、先ほど白状いたしました。従姉に代わり、謝罪させていただきます。本格的な謝罪はまた後日とさせてくださいませ」


 そう淡々と述べる。


「……幸村様もこんな控えめな子がタイプですのね。わたくしもそうするべきでしたかしら」

「え、えと……」

「とりあえず婚約者になりおめでとうと言っておきますわ。あの時はつい睨んでしまいましたが……。大変幼稚でございました」

「え、あ、えと……」

「父に叱られたのです。見向きされなかったのは自分の落ち度だと。それはもうこっぴどく叱られました。それからというもの、ものすごく反省させられました」


 淡々とあったことを述べていく伊佐波。

 えと、思ってた反応と違う。難癖付けられると思っていたんだけど。


「自分を客観視するというのは大事でしたわね。よろしくない感情を子どもみたくあなたにぶつけてしまったことを謝りたかったのです」


 そういって微笑んでいた。

 これって信用していい感じなんだろうか。


「全く自分が情けなかったですわ。あなたには完敗です。幸村様を振り向かせることはわたくしにはできませんでした」

「伊佐波様……」

「優里亜でいいですわ。音子様」


 少し涙目になりながら、微笑む彼女。


「ですがっ! あなたがもし別れた際、二度と付き合えるとは思わないでくださいまし! あなたが手放した瞬間、私がすぐに奪ってやりますわ!」

「手放すことはありません。私も、ユキも」

「そんな目で真剣に堪えられたらもう勝ち目ないですわね。業務中、引き留めてしまい申し訳ございませんでした。幸村様によろしくお伝えくださいませ」


 と解放されたのだった。

 とりあえず伊佐波とのごたごたはなくなった……ってことでいいんだろうか。


「では」


 伊佐波はお茶を平らげて出ていく。

 とりあえず一つ懸念点がなくなって安心というところか。伊佐波はもっと邪魔してくるものだと思っていたけど……。

 心配が杞憂に終わり、ちょっと力が抜ける。


「ユキ、ごめん、ちょっとトイレしてくる」

「わかった」


 俺は尿意を催し、トイレへと向かっていった。

 花を摘み終わり、水を流し手を洗って外に出た時、俺の頭に強い衝撃が走ったかと思うと、意識を保っていることができず、そのまま意識を投げ飛ばしてしまったのだった……。








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