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味方にすると頼もしくなる人

 朝比奈は俺を椅子に座らせる。


「まず第一に、犯人の目星はある? いや、ないか。私を犯人だと踏んでたんでしょ」

「……」


 否定できなかった。


「まぁ無理もないわね。失うものがないから財前をいまさら怒らせたところでって話だし、あんたに恨みがあるというのは誰もが想像つくからね。言っておくけど、今はあまり恨んでないわよ」

「そうなんですか?」

「あんたの友人の赤家ってやつは恨んでるけど……」


 あぁ、まぁ、あんなことしたから……。

 朝比奈は缶コーヒーを差し出してきた。ブラック。あまり得意じゃないけどもらったもんはありがたくいただくことにした。


「あんたそんな普通に飲む? 睡眠薬とか警戒しない?」

「いや、開けられてないですし……」

「あんたねぇ……。昔、缶コーヒーの底に小さい穴があけられてそこから毒物を入れられた事件だってあるのよ? 目の前のものだけ見て信用するのはダメ。こういうことを考えるやつだっているんだから」

「ごめんなさい……」


 そういう事件もあったのか。迂闊に飲むことはできないな……。


「で、犯人は知らないとしても心当たりはあるんですよね?」

「心当たりっていうか……。まぁ、やるだろうなっていう奴はいるわね」

「どんなやつですか?」

「あんたはまぁ、知らない人だとは思うわよ。ただ、財前とは深いかかわりがあるの」

「深いかかわり?」

「伊佐波 優里亜って知ってる?」


 伊佐波……。たしかユキの元婚約者の。

 俺は知っていると頷くと、それなら話が早いと言っていた。だけれど伊佐波はたしかに俺に恨みがあるとはいえど通っている学校が違う。

 文化祭最中ならともかく、文化祭が始まってもいない前日にこういったことをするのは不可能だと思うけど……。


「伊佐波 優里亜の従姉がこの学校に通っているの。神和住かみわずみ 香住かすみっていうんだけどね。そいつがまぁまぁ従妹の伊佐波を溺愛しているの。やる理由としては十分じゃない?」

「たしかに……」


 伊佐波がそう願ったのならやるって言うことは不自然じゃない。

 むしろ、溺愛しているのならやるだろう。あっちにも相応にメリットがある。ユキが怒れば自分の独断専行ということにしておけばいいし、気づかなかったら気づかなかったで不明のままでいられる。

 いや、まぁ、ばれたらバレたで立場はちょっと危ないだろうけど……。


「私が犯人候補としてあげるのはこの子ね。まぁ、財前も行きついていそうだけど……。新聞部で張り付いて決定的な証拠を持ってきてもいいわよ。財前との仲を取り持ってくれるなら」

「それだけでいいならお願いします」

「オッケー。契約成立。ただ、まだ怪しいっていう段階だから決定的な証拠を持ってこれるという確証はないわ。だから、報酬は成功した後でいいわ」

「ありがとうございます」

「ったく。汚名返上チャンスがこんな形で来るとは! 来てくれてありがとう音子ちゃん! これからは仲良くしようネ!」

「それはちょっと……」

「まぁ、あんなことしたからなぁ! 笑って許すのが大人ってもんだぜ! さぁ、汚名返上チャンスとなるとテンションぶちあがってきたなぁ! 人海戦術で追い詰めてやる!」


 なんかめちゃくちゃテンションがぶちあがっている。


「この私から逃げ切れると思うなよ神和住!」


 敵にすると怖いけど味方になるとちょっと頼もしくなるなこの人。












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