台無し文化祭 ②
千智ちゃんはすぐに仕立て屋に向かい、残ったクラスメイトはこの教室の回復に勤しんでいた。
開場時間となり、二人が教室の前に立ちやってきた客に謝罪をして追い返す。
「ユキ、犯人探しも並行してやらないとだめじゃないやっぱり……。今日、直せたとしても今日直した分またやられたら台無しだし」
「それはそうなんだが、証拠が少ない。監視カメラの映像といえど万能ではないからな……。個人を特定できるような証拠があればよかったが」
「そっか……」
個人を特定できるものは映っていなかった。
そこもまぁ不自然だなぁ。やっぱり俺に罪を擦り付けようとしたんだろう。そういうことするやつって俺にマジで恨みがあるようなヤツ……。
ユキの婚約者になっているのは周知の事実。俺を下手に刺激するとユキが怒るというのはだいたいみんなわかっていそうなものなんだけど。
ユキを敵に回しても構わないって人の犯行か? 俺に強い恨みがあってユキの怒りを買ってもあまり問題ない人物……。
……八重津 剣? 家柄的にはユキと同じくらい。怒らせたとてユキと絶交するだけであまりピンチにはならない。が、俺に恨みを抱いてるとは思えない。剣も俺が音助ということは知っている。あの時語ったことは本心ならそんなことする理由がない。
「となると……。一人しか思いつかないんだけどまさかなぁ」
俺が思い浮かべているのはあと一人いた。
俺に強い恨みがあって、ユキを怒らせても問題ない人物。
ユキも大方目星はついているんだろう。だが今はそれどころじゃない。
確実な証拠が欲しい。その人がやったっていう確実な証拠が……。
……。
俺はちょっと痛い目を見ることを決意した。
せめて、明日の被害はなくしたい。それなら俺一人の犠牲で済むのならそうするべき。俺は静かに教室から出ていったのだった。
そして、出ていった脚で向かったのは新聞部の部室。
「こんにちは」
「……なに?」
「部長さんしかいないんですか?」
「ええ。ほかはみーんな取材に向かってんの。なに?」
新聞部部長、朝比奈。
俺は犯人だと思うのはこの人だ。ユキをすでに怒らせてあとは破滅に向かうのみ。女性であるということ、俺に恨みがあることすべてを満たしている。だいぶ逆恨みに近いものだが。
「いえ、私のクラスの取材を前なさったじゃないですか。その記事が見たくて」
俺の読みが当たっていればこの状況はチャンスだと思うはず。
俺と朝比奈が二人きり、しかも攫ったわけではなく、自分から入ってきたこの状況。俺だったら利用しないわけがない。
どうせ破滅に向かうのみならば。
「これよ」
と、パソコンを開き、記事を見せてくる。
部長が作ったわけじゃないんだろうが、めちゃくちゃ丁寧なものだった。俺は背後を警戒しながらも記事を見せてもらう。
だがしかし、俺の予想とは裏腹に何も起きなかった。
「……?」
「なに鳩が豆鉄砲食らった顔をしてるのよ」
「いや、なにもしないんですか?」
「なにをするってのよ……」
朝比奈はあきれたように笑っていた。
「あの一件で災難な目にあってるのよ。父さんからはマジで叱られたけど、なんとか首の皮一枚つながってる状態なの。これ以上問題ごとを起こしたらそれこそ私が死ぬわ。なにをしようにもできるわけないじゃない」
「そうなんすか……」
「なに、あんたのクラスをめちゃくちゃにした犯人探してるの?」
と、何か知っているような顔をしていた。
「まぁ、探している状況ではありますね」
「そう……。……ねぇ、私も協力したら財前に言いように伝えてくれる?」
「まぁ、協力してくれるなら……」
「そ、そう……。じゃあ協力してあげる。とはいっても犯人知ってるわけじゃないけど」
知ってるわけじゃないのか。だったらなんで俺らのクラスの事情を知っているんだろうか。
「あんたのクラスのことは普通に騒ぎになってるわよ。外部生とかならまだしも財前がいるAクラスで起きたんだからそりゃ周りは平静を装っていてもだいぶ慌ててるの。仮にも新聞部よ? その情報はすでに入ってくるわ」
あぁ、そういうことね……。




