トラウマ
下駄箱に虫入れる犯人はわかったが、以前俺を襲った犯人の真犯人が分かっていない。
わかっているのは女子生徒ということ、この桐羅の生徒ということだけだった。ヴィットーリアから得られた情報ではまだ特定に至ることはできない。
なにせ目撃情報がヴィットーリアしかおらず、時間帯も昼休みなだけあって不特定多数が自由に行動で着ている時間。
聞きだすには俺を襲ったやつに聞きだすのが早いのだが……。
ユキ曰く、一向に話そうとしないらしい。
中世とかそういう時代ならば拷問で聞きだすところなんだが、現代ではそういうことをするわけにもいかず。手詰まり状態になっていた。
「とりあえず女子生徒には気を付けろ」
「そうします……」
今の対策としては女子生徒全員に気を配り怪しい動きがないか見るしかなかった。
「よぉ、音子~」
「ノート貸してくれっ!」
と、俺のもとに九条がやってきた。
俺はため息を吐きながら九条にノートを渡そうとすると、九条と手が触れあってしまう。その時反射で「ひっ……」と思わず手を引っ込めてしまった。
「…………」
「え、俺なんか気に障ることしちゃったか!?」
「い、いや……」
なんていうか、ちょっと怖い。
襲われたときのことがまだ恐怖を感じていて、ちょっと男を見ると嫌になっている自分がいた。
「ご、ごめん……。ノートは勝手に持って行って……」
「……? いや、俺を怖がってるから勝手に持ってくのは嫌だぞ。なんか俺がまるで怖い奴みたいじゃん」
「実際怖えだろ顔は」
「顔だけだろ!? 前までは普通に接してくれてたじゃんかよ!」
「なんかあったのか?」
と、尋ねてきたので事情を話すことにした。
「なるほど。襲われて男性が怖い状態になってると」
「それは要するにトラのウマっつーわけですな」
そういうことです。
俺自身も不思議だったが、あの事件で俺はだいぶ心に深い傷を負ってしまったようだった。男の人の顔が見れない。
九条達はそんなことする人じゃないのはわかっている。心ではわかっているつもりなのだが、男の人を見るとフラッシュバックしてしまうあの時の光景。
「そういう事情ならしゃーねえよ」
「だけど俺たち気軽に話せなくなっちゃったな!?」
「ごめん……」
「無理もない。俺たちはしばらく関わらないほうがいいな。そのトラウマを克服したかったら俺たちが手伝うぞ」
「うん……」
「あっ、そうだ!」
と、九条がなにか思いついたようにどこかへ走っていった。
そして数分後、現れた九条の姿は。
「どうかしら。うふーん」
女子生徒の制服を着て、黒髪ロングのかつらをかぶった女装した九条の姿。あまりにも似合っていなくて、ちょっと目をそらしてしまった。
なんだろう、俺のせいでこんな辱めを自らやってるのが少し申し訳ない。
だがしかし、女装というのはなかなかありかもしれない。見た目だけでも女子になれば俺は話せるかも……。
と、思っていると城前も立ち上がり、俺もちょっとやってくるかといって出ていった。
そして、また姿を現す城前。城前に関してはもともと華奢よりの姿と、中性的な顔立ちもあってものすごく女装が似合っている……というか、言われなくちゃ男子って気づかないレベル。
「普通に可愛い……」
「女装姿なら普通に会話できるんだな」
「いや、私自身は普通なつもりなんだけど、体が本能的に拒絶しちゃってるだけで……」
「見る分には構わないのか?」
「見るにはいいけど触れたりするのがちょっと今は嫌かな……」
「……女装する意味がまるでねえじゃねえかよコラ」
と、城前が九条をぶったたく。
クラスメイトはその女装した二人を笑っていた。
「……何してるんだ二人とも」
と、ユキが帰ってくる。
「いや、なんか男の人が怖いみたいだからよぉ、女装したら普通に行けるかなって」
「それでそんな頓珍漢な格好を……。どこから持ってきたそれは」
「演劇部から借りてきたんだぜ!」
「行動力だけは評価してやるよ」
ユキもだいぶあきれていたのだった。
ユキが俺の頭に手を置く。凄い自然に俺の頭を撫でるじゃん。凄いナチュラルすぎて二人も指摘していなかったが……。
あれ、俺ユキなら普通に触っても拒絶反応起きない。




