止められたハズ
現場に着くとユキがものすごい形相で男子生徒に詰め寄っていた。
男子生徒もボクシング部にボコボコにされたのか、顔には青痣が出来ている。やりすぎ……。
「ユキ……」
「音子、大丈夫か!?」
「うん……」
私は部長さんに降ろしてもらい、痛む足で男子生徒に近寄る。
そして、仕返しとして頭に思い切りチョップを喰らわせた。
「仕返し。本当はまだやりたいけど……もう関わりたくない」
怖かった。
ものすごく怖かった。男の力。対抗出来なかった。ただただ恐怖心しか湧かなかった。
もう金輪際関わりたくない。俺はユキにもう行こうと告げる。
「今日のところはここまでにしておこう。あとは親を交えて話をしましょうか。明日葉先輩」
「お、親だけは……」
「出来ない相談です。では」
そう言って現場を後にする。
俺はユキにおぶってもらう。
「ごめん。迷惑かけて」
「気にするな。まったく、こういうことするから人間は嫌いなんだ」
「そう……だね……」
俺はユキにしがみつく。
「正直怖かった。俺には男だった意識もあったけど、力で敵わなくて、ものすごく怖かった」
「……あぁ」
ユキは俺には何も言わなくなっていた。
俺はただユキにしがみつく。学校に戻り保健室でまずは足の手当てをすることになった。
挫いた足首にテーピングを施す。ちょっと動かしづらいが仕方ないことだろう。
「俺が男のままだったらなんとか出来たかもしれないのに……」
「……あぁ。だが、こればかりは仕方ない。恨むなら万家を恨め」
「それも出来ないんだよなぁ」
俺が女になったのは万家のせい。ただ、生き返ることができたのは万家のおかげ。
どんな形であれど恨むことは俺には出来なかった。
靴を履き、送ってもらおうと立ち上がった瞬間、保健室の扉が勢いよく開かれる。
「愛しのネコチャーーン! 怪我したのは本当デスカ!? ってあぁ! 愛の敵!」
「愛の敵ってお前な……」
「くうぅ……。私が現場にイレバ必殺ヴィットーリアスマッシュを喰らわせラレタノニ……」
ヴィットーリアが拳を勢いよく突き出した。
そして、すぐにしょんぼりする。
「コレばかりは私が止められた事件デシタ……。自分が情けナイ……」
「止められた? どういうことだ」
と、ユキがヴィットーリアに詰め寄った。
「キョーの昼休み、オベンジョに行った時デスネ、倉庫から体育倉庫から話し声が聞こえたンデス」
「体育倉庫? 教室からは少し遠いだろ。なぜそこに行った」
「日本の文化である便所メシをしたくて!」
「それは文化じゃないよ」
むしろボッチのやつが気まずくてやる奴だよ……。文化扱いにしないほうがいいよ……。
「流石にランチの匂いをトイレに蔓延させるワケにはいきませんカラネ。人があまりいない体育館付近のトイレでしてたんデス」
「本当か?」
「本当デス! 醤油を溢しちゃったので醤油の匂いがするハズです! 確かめてみてくだサイ!」
「あ、いやわかった。本当だな。進めてくれ」
「ランチを食べ終わり、帰ろうとすると人が来たんデス。男の人が。体育倉庫に入って行って珍しいナと思い覗き込んだのデスが……女子生徒が何やら男子生徒と話してイマシタ」
「男? こいつか?」
と、ユキは写真を見せる。
「ハイ!」
「なるほどな。女子生徒の顔はわかるか?」
「暗かったのデ……。今に思えばシューゲキとか言ってたので止められたかもシレマセン……。突撃すればヨカタ……」
「いや、突撃したら危なかっただろう。よくやった。とりあえず裏に誰かいることが分かっただけで万々歳だ」
そう言ってヴィットーリアを慰めるが、ヴィットーリアは俺に抱きついてきた。
「オー、ゴメンナサイ! 私がへなちょこだったばかりニこのような怪我ヲ!」
「く、苦しい……」
ヴィットーリアの豊満な胸に顔を埋められ、さっきとは違う意味で苦しかった。
胸で圧死させるつもりか!? 俺は急いで引き剥がす。が、さっきの胸の感触がなんか癖になり……。
俺は思わず手を伸ばして胸を触ってしまった。
「Oh……積極的デスネ……」
「あっ、ごめん……」
「ネコならイイデス……。ほら、慰めの……」
「そこまでだ。音子、お前な……」
「ごめん……。ちょっと意外にも心地いい触感で……」
「生々しい話はやめろ。今日は帰るぞ」
そういってユキは俺を持ち上げた。
「ヴィットーリアもありがとな」
「お姫様抱っこ……私もシタカッタ……」
「これは俺だけのもんだ。誰にもやらせん」
ユキは上機嫌で俺を運んでいくのだった。




