財前家創設パーティ ②
パーティは食べるどころの話じゃなかった。
ほかの家の子たちがおめでとうとユキと俺に言いに来ていた。
「ユキ……言わないんじゃなかったの? 俺らの学校の子も来てるっぽいけど」
「言わないつもりだったんだが父がぶち込んできたな」
とユキも笑っていた。
「まぁ、父さんとしても自分の息子が初めて自分が好きだと言って結んだ婚約になるんだから浮かれるのも無理ないだろ。俺は人間嫌いだってことは父も知ってるし、父は恋愛結婚じゃなかったからな」
「あー、自分の息子が恋愛をしていることで浮かれてるのか」
自分が恋愛結婚じゃないならなおさら喜ぶか。
すると、俺の肩を誰かが叩く。後ろを振り返ると、城前と九条が立っていた。
「お前ら付き合ってたのかよーっ! 早く言えよなーっ!」
「おめでとう。普段から仲いいから心配はないと思うけど、喧嘩別れとかはしないようにね」
「ありがとう」
「おう! でも付き合っても俺にノートだけは見せてくれよ? 頼りなのはお前のノートなんだから……」
「自分でやれよ……」
九条たちも満面の笑みで祝ってくれていた。
その後ろから。
「おめでとうございますわ、音子様ぁ!」
と、俵さんが抱き着いてきた。
俵さんの豊満な胸があたり、ちょっと心地いい。柔らかい……。
「付き合っていてもバンド活動はなさいますわよね!?」
「今聞くのそれ……」
「今後にかかわる大事なことなのですわ! そういった関係で脱退なされる方もごまんとおりますもの……」
いやまぁいるけども。
「普通にやるよ。っつーかそれは切り離したくないし」
「ならよかったですわ」
安堵したようにほっと胸をなでおろしていた。
「さ、食べようぜ! せっかくの料理が冷めちまう!」
「今はスープだし冷製スープだから冷めるもくそもないと思うけど」
九条達は席へと戻っていく。
それと入れ替わりにユキの後ろから八重津が近寄り、しーっと悪だくみをしている感じだった。そして。
「おめでとさん」
と、八重津は思い切りユキの頭をはたいた。
「てめぇ剣!」
「僕なりのお祝いだって。そんな怒るなよ」
「叩くことがお祝いじゃねえだろ。こっちこい、ぶん殴ってやるから」
「さ、席に戻ろ」
八重津はすたこらさっさと自分の席に逃げ帰っていった。
男同士のやり取りって感じだなァ。なんて思いながらスープを口にする。
「……幸村様、本当に婚約なされたんですか」
「ああ。言っていなかったな。そうだ。俺と音子は婚約を結んだんだ」
「……んな小娘のどこが」
伊佐波は俺をぎろりとにらんでくる。
伊佐波とすれば、人間嫌いのユキが自分で婚約者を見つけて来るとは思っていなかったから待っていたんだろう。高校卒業まで。そうしたら自分が自動的に婚約者となるから。
だからこそ余裕を見せていた。だがしかし……そこに俺という泥棒猫が現れた。
まぁ、気に食わないんだろうな。
理解はできる。ただ、自分で待つことしかしなかったあんたに睨まれる筋合いはない。俺は意趣返しのように、笑って見せた。それが刺激したのか、もっと強く睨まれてしまった。
俺は伊佐波から目を背け、目の前の料理を食べることにする。
睨まれて心地はよくない。けれど、今の俺はユキと付き合っているという幸福感もあり、そんなこと気にする暇はない。
今はただ、この幸福を精いっぱい噛みしめるのみ。




