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過去と今、移りゆく

 ユキが来たかった場所って俺とユキが出会った公園だったのか。

 懐かしい遊具が並んでいる。だがしかし、大体の遊具に使用禁止と書かれていた。


「老朽化も進んでるからほとんど遊べないね。ブランコだけ新品みたいだけど」

「出会ったのは十年近く前になるからな。月日が経って老朽化が進むのも無理はない。それに、ここは東京湾も近い公園だ。潮風のせいで錆びつきやすくもなってるんだろう」


 見えるところに海はないけれど、あともう少し歩いたら東京湾が見えてくる。

 潮風がここまで薫る。そこも変わっていなかった。


「ここは公園っていうにはいささか小さいよな」

「そうだね。サッカーできる広さはないよね」

「ああ。調べてみたんだが、ここは個人所有の土地だそうだ」

「えっ、そうなの?」

「土地の所有主が好意で子供たちが遊べる公園として整備していたらしい。その土地主も今は死去し、息子さんに土地が渡ったそうだ」


 そっかぁ。そういう事情だったかぁ。

 ブランコ以外が錆びついていて遊べないのはその息子さんにはもうこの公園を直すつもりはないということなんだろうか。

 仕方ないとはいえ、ちょっと寂しいな。思い出があるからこそ、寂しい。


「俺も……ここは思い出の場所だ。だからここを買い取った」

「えっ、買ったの?」

「ああ。思い出というのは保存しておきたいだろ。あのブランコだって一番よく遊んでいたから真っ先に直したんだ」


 そういう理由で新しいのか……。

 そっかぁ。ユキのものになったんなら安心だ。


「それで、音子……いや、音助さん」

「なに?」

「……女の子になる覚悟、出来たんだな」

「……どうしてそう思うの?」

「俺もばかじゃない。鈍感でもない。好意を向けられたら気づく」

「……そっか」


 ユキはやっぱり鋭い。俺の恋心なんてすでにお見通しってことかよ。こう、正面から言われるとちょっと恥ずかしいな。

 

「元男に好意を向けられて嫌だった?」

「いや……」


 俺はブランコに座る。

 ユキは俺の隣に座った。ブランコを漕ぎ、ゆらゆらと揺れる。


「不思議と嫌じゃない。むしろ、俺が尊敬し、信頼している音助さんなら俺は別に構わない」

「……告白もしてないのにOKの返事を出すなよ」

「そうだな」


 ユキは笑った。


「俺は人間が嫌いだ。男も女も、どちらも嫌い。だが、俺だっていずれかは結婚しなくてはならない日が来る。それが俺は嫌だった。どうしてもというのなら、俺は気心知れている千智を選ぶつもりだった」


 ユキは人間が嫌い。だからこそ結婚したくないという気持ちがあったらしい。

 だが、家が家である以上、跡継ぎを作っていくというのも必要であり、いずれかは伴侶を見つけなければならなかった。

 最初は父が見つけてきたというか、仲良くしている友人の娘……伊佐波と婚約関係を結んでいたがすぐに解消、高校卒業まで見つけられなかったら婚約し、伊佐波と結婚する予定だったそうだ。


 ユキは伊佐波が嫌い。だからこそ、何も知らない伊佐波と結婚するよりかは小さい時から仲良くしている千智ちゃんを選んで、千智ちゃんと結婚しようと思っていたらしい。


「伊佐波は俺が嫌いとする人間の一人だ。あの横暴な性格は気に食わん。だがしかし、無下にするわけにもいかず……そのせいで音子を傷つけた」

「あれは俺が悪かったよ。大人げなかった」

「いや、断る勇気がない俺の女々しさに失望したんだろ。理解できるし、俺だってそんな男は嫌だ」


 ユキはそういうけど俺が勝手に期待して勝手に失望しただけの事なんだ。ユキが謝る筋合いはない。


「だから……音助さんが俺を好きになってくれて正直ほっとしている」

「……そう。俺は伊佐波と結婚したくない代わりってこと」

「違う。俺もな、やっぱり今の音助さんを男としてみるのは無理なんだよ」


 ……だよな。


「今は紛れもなく女の子なんだ。俺だって意識してる。服を選んだ時もどんな服が似合うか、どんな服が好みかをしっかり考えて選んだ」

「俺の好みの服ドンピシャだったのはそれが理由か……」


 そっか。お互い、好きだったんだな。

 俺はそれをつい最近自覚した。俺が男だったからという理由で無意識のうちに気づかないようにしていたのかもしれない。

 だがしかし、俺はもう女の子として生きる覚悟を決めた。だから俺は一歩踏み出さなくちゃならない。


「……ユキ」

「……」

「俺……いや、私と付き合ってくれ」

「……ああ」


 










言えたじゃねえか・・・(感涙)

ラブコメとしては付き合った時点でエンド近いですがまだ続きます。

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