もしかして:恋
勝手に期待して、勝手に失望する俺が嫌いだ。
なんでなんだろう。前まではこんなこともなかったのに。こんな俺をユキは嫌うだろうか。
いや……ユキは俺を嫌わない。今の俺がユキの嫌いな人間でもユキは変わらない。
「なるほどなぁ。つまり女の子と食事行くのを断らないのにムカついたってことか」
「……端的に言うと」
そのことを直虎たちに相談してみた。
直虎が住むアパートでネオエスケープの3人がゆったりくつろいでいる。
寝そべってポテチを食べる仁、眠たいのか欠伸をする文也。
俺はどうしたらいいのか、気心が知れている友人に相談するのが手っ取り早いと思い訪ねてきたが聞く気ねぇなこいつら……。
「それってよぉ」
「やっぱ女の子なんでありますなぁ……」
「それ僕たちに聞かれてもねぇ」
と、意味不明な解答が返ってくる。
「どうしたらいい? 俺嫌われたかな」
「……お前マジで本当に女の子になっちまったな」
「あん? んでそうなるんだよ。俺は真剣に……」
「その気持ち、心当たりがあるはずだろ思い出せ」
「はぁ? 何言ってんだよ」
心当たりなんか……。なんか……。
……ある。
"恋……だね……"
「待って、俺マジで恋しちゃってんの!?」
「気づいたな。そう、お前のその気持ち、やきもちだ! つまりやきもち妬いちゃうくらいお前はその人に恋をしている!」
「い、いやいやいや!? ないないない! 俺男だしあっちも俺の事情知ってんだぞ!? たしかに側は女の子だけど中身は……男同士の恋愛なんて……」
「馬鹿野郎!」
と、直虎は近くにいた仁の頬を引っ叩いた。
思い切り吹き飛びテーブルに顔をぶつける仁。
「何するんでありますか!?」
「殴りたくなったけど女を殴るわけにゃいかねえだろ! 身代わりだ!」
「ひどいであります!」
直虎はテーブルに足をかけ、俺を指差す。
「いいか!? 男はみな、ホモなんだよ!」
と、高らかに叫んでいた。
「お前もあるだろ! アニメでカッケー男を見てカッケーと思うこと! それだって憧れっつーこと! つまり恋! 好きだっつーことだ! 男と男の恋愛は異常? 笑わせんな! 昔から俺たちはホモで笑ってきただろう!」
笑われてるじゃねえかよホモ。というか異常でおもろいから笑われてんだろうが。なんの根拠にもなってねぇよ。
「それに、子供を産める性転換なんてまずねぇんだぞ! 男はイチモツをとっても子どもを産めねえ! だがお前は産める! 立派な女の子だ! つまりお前とその男の恋は異常でもなんでもなく普通なんだよ!」
と、叫んで息を切らしていた。
たしかにそうだ。反論はできない。ただお互いの気持ちも……。
「でもあっちは俺のこと友人として見てるし……」
「それはその男に聞いたのか?」
「えっ? いや、それは聞いてない……」
「聞いてないならわかった気になって話すな! あっちも意識してるかもしれねえだろ! 第一二人っきりで出かけてることが多いんだろう男女二人っきり。側から見ればそういう噂だって立てられる。それをわかってたら男女二人でなんてまず出掛けん! たとえそれが男同士であったとしても! 片方が女の子に見えてんならまず出掛けん!」
言われてみれば。
ユキってあらぬ誤解とか嫌ってる。俺と出掛けてそういう誤解があったら普通は嫌がるだろう。たとえ俺だと知っていても……。
つまりユキも少しは俺を意識して……?
「そっかぁ……。俺、恋しちゃって少しは脈アリか……」
「そうだ。ったく、女子から恋の相談受けるなんて初めてだぜ……」
「俺を女子カウントしてんのはまぁ別にいいけどよ、答えてる内容、割と女子からしたらドン引きだろ」
「え゛っ」
「子供を産める身体とか……割とキモいよね」
「まだ音助だからよかったものの……。他の人なら立派なセクハラでありますな」
だよな。
子供を産めるとか何言ってんだよお前。それって割とセンシティブすぎるんだよ。
こういうキモいことを声高々に言ってるのは流石に……。あとここは割と壁の薄いアパート。
「それに叫び声絶対外にまで聞こえてるよね」
「がっつり漏れてるでありますな」
「ボロアパートだからねぇ。だから直虎の家では楽器とか演奏しないでダベるだけなのわかってるよね?」
そういうと、直虎はそのまま崩れ落ちて涙で枕を濡らしていた。
「ご近所さんにキモいと思われてしまう……」
「割と普段からうっすら片鱗は見えてるからもうバレてそうなもんだけど」
「わかるであります」
「わかる……」
こいつ、素の言動でこういうセクハラ含むことがままあるから多分バレてる。




