女ならば殴り合え! ①
放課後となった。
俺は昨日のこととかいろいろ気にしすぎて今日一日集中出来なかった。
小テストもあったが、採点を返されてものすごい低い点数をとった。先生からも。
『お前集中出来てないんじゃないのか? 解答欄がズレてたぞ。病み上がりだから仕方ないかもしれんが……』
と苦言を呈された。
こんなことを気にしているようじゃこの先俺はどうなってしまうんだろう。
「集中出来てないようならボクシングしようぜ!」
でも……キスされた時も半裸だった時もドキドキしてしまったのは事実だ。
男同士だという認識があればドキドキなんてしない。ただの野郎の裸だ。気にすることでもない。
俺が考えていると目の前にニョキっと日焼けした女の子が視界に割り込んできた。
「ボクシングしようぜ!」
「えっ、ぼ、ボクシング?」
「あぁ! 万さんなにか集中できてねーみてーだからよ! 集中するためにボクシングしようぜ!」
「何の因果関係があるかわからない……。ってかあなた誰だっけ……」
「同じクラスの八重 咲良だよ! 酷いなー。万家にとってあたしの家は眼中にないってのか?」
「いや、違くて……」
「傷ついた。お詫びにボクシングしよう」
何の因果関係だよ。何でそんなにボクシングしたいんだよ。
「私やったことないから……」
「誰だって最初はそうさ! 何事も初めてやればやったことないなんてなくなる! ボクシングしよう!」
「でもボクシングなんて……痛そうだし……」
「痛くないスポーツなんてない!」
"思い悩んでるならスポーツで発散もいいんじゃないかな?"
くっ、百花ちゃんまで……。
ボクシングって殴り合う競技じゃん……。絶対痛いし……。
でも、いい機会か。
「ちぇー、ダメかー。なんか出来そうだったのによ〜。悪い、無理にやらせるつもりはねぇよ〜。ごめんな引き止めて」
「いや、やってみる」
「マジでェ〜〜!?」
俺は嬉しそうにボクシング部の部室に連れて行こうとする八重ちゃんについていく。
女子ボクシング部と書かれた看板があり、中にはものすごく強面なお姉さんたちがいたのだった。
「ん? なんだ八重。そんなよわっちそうな奴は」
「体験入部! 編入生の……」
「えと、万 音子です」
「万……。あの万か!? お前ど偉えもん連れて来んなよ! 怪我でもさせたらあとがこえーよ……」
「えー、本人やる気なのに!?」
「追い返してきなさい! ボクシングとか柔道はマジで痛いんだから!」
「いや、私やります……」
ここまで来たら引き下がりたくない。
やってみると決めたんならやってみる。ただそれだけのことだ。
ここで引いてしまったら男が廃る。
"今女の子だけどね"
うるさい。
「はぁ……。じゃあ八重と勝負して終わりでいいだろ。八重」
「はぁーい! さ、特設リングの上に乗っかって!」
八重ちゃんはサポーターとグローブを嬉々として嵌めていた。
俺も部長さんからサポーターとかヘッドギアとか貸してもらう。でも、八重ちゃんはつけてない。
「私もつけないでやってみます」
「お、おい! 流石にそれはやめてくれよ! 万家の子にそんなことしたら私が死ぬって!」
「大丈夫です。私の意思でやるんですから。部長さんには迷惑をかけません」
「やる気だねぇ〜。さっきまで断ってたのに」
「やると決めたらとことんやるんだよ。お手柔らかに頼みます」
「手加減はしないよぉ!」
ゴングの音が鳴り、八重ちゃんの左フックが飛んできた。




