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ローマのきゅーじつ ④

 婚約者とはまた大胆な嘘を……。

 だが相手も歴戦の猛者。嘘かどうかを訝しんでいる。


「嘘ダ! 嘘ダネ!」

「嘘ではありませんよ」

「なら……そうだな。婚約者だと言い張るならば……」


 ヴィットーリアの父さんが険しい顔でこちらを見ていた。俺も構え、何を言い出しても対応できるようにしていると。

 ヴィットーリアの父の口が重々しく開く。


「ならキスをしたまえ。婚約者ならできるだろう」


 と。

 キス……。


「キス!?」


 思わず聞き返してしまった。


「愛し合っているもの同士ならできるはずだ。ほら、してみろよ。キスこそが愛の証明、二人をつなぐ架け橋だ」

「えっ、あっ、そのぉ……」

「音子、すまない」


 と、突然ユキの顔が間近に迫る。

 その瞬間、俺の唇が奪われたのだった。濃厚なディープキスとまではいかずとも衝撃的なファーストキスの味。

 俺はキスから解放され、もう心はここにあらずだった。


「これで証明できたでしょうか」

「……そこまで深い愛を見せられちゃ溜まらんな。百合もいいが改めてノーマルもいいものだと認識できたよ。ありがとう」

「いえ。では俺らは修学旅行がありますので」

「ああ。ヴィットーリア。送っていってやれ」

「うぅ……」


 解放された。

 帰りのタクシーでユキに謝られた。


「悪かった。突然とはいえキスを……」

「かまわないひょ……。助けてふへへあひはほう……」


 ろれつが回らない……。頭もうまく働かない……。

 不思議と悪い気分じゃなかったって言うのは秘密。顔がいいとこういうのも不快にならないものなのだろうか。俺と男同士の口づけってちょっと俺的にはあれなんだけど……。

 でも、それでも不快感がなかったって言うのは不思議。思い返すのはあいつらの言葉。


 ”精神は体に引っ張られる”


 という言葉。

 俺ももう引っ張られてイケメンにキスされたら不快じゃなくて少しうれしくなっちゃう体になったんだろうか。俺がもう女の子だから……。

 それがちょっと何気にショック。俺はいつまでも男の心を忘れてないつもりだったけれど体は、心は無意識に女の子に変化し始めちゃってる気がして……。


「俺は男俺は男俺は男……」

「何言ってるんだ?」

「あっ、いや、なんでも……」


 どうしよう、なんか心なしかユキがかっこよく見える!

 輝いて見える! なんつーか今は目を合わせたら合わせたでちょっと精神衛生上よくない気がする! 今まで普通に接することができたのに!

 俺は全力でユキから目を逸らしながら窓の外の景色を眺める。ごめんユキ。今俺はお前と目が合わせられないよ。


「顔色が悪いぞ? やっぱ気にするか? すまなかった……」

「心遣いまで完璧……! 惚れてまうやろ……」

「ん?」


 なんて配慮ができる男なんだ……! モテるのも納得がいく……!

 だがこれは実際には俺だけに対する対応だともわかってるから俺限定なのはちょっと優越……じゃなくてもったいない。配慮しなくてもモテるイケメン男子が配慮まで覚えたらさらに人気が出るだろうが。

 時間はもうとっくに夜になっていたので、班行動も終わってホテルにチェックイン。俺らも遅れてチェックインし、千智ちゃん、俵さんが待つ部屋へと向かう。


「じゃ、じゃあ俺は女子部屋だから……」

「おう。また明日な」


 そういってユキと別れる。

 俺はさっきのキスが何度もフラッシュバックしていた。キス顔までイケメンのユキ。不完全なところはどこにあるんだろう。

 それに……ちょっとキスが上手かった……。


「ぐあーーーーっ!」


 心頭滅却! 忘れろ忘れろ忘れろ! 甘い思い出なんて忘れろーーーっ!










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