精神は体に……?
修学旅行も間近に控えた今、俺は直虎の部屋にいたのだった。
直虎たちは俺がいなくても演奏はしているらしく、時折ライブハウスで演奏をしては小金を稼いでいるんだとか。
「でよ……お前女になってもうしたか?」
「したかって何を?」
「言わせんなよ。えっちなこと」
「してねえよハゲ」
突然何聞いてきてんだお前は。
「なんでしねえんだよ!? もったいねぇ! 女の快感は女だけのもんだぜ!?」
「お前割とクズだよな。ってかお前女の快感味わったことないだろ」
「ないけど気持ち良さそうなのは確かだろ!」
何言ってんだこいつは。
俺はコーラをじゅじゅーと飲む。
「なぁ、大体のTSものの小説って自分のアレを確認して”ない……”とか言って興味が出てきていじくるだろうが! なァ!?」
「俺の体が女になった場合はしてたけどよ……」
「できない理由でもあるのでありますか?」
「……千智ちゃんと同じ顔だろ。ちょっと罪悪感が」
「ふん」
直虎は鼻で笑った。こいつ……。
俺は近くにあったクッションを思い切りぶん投げておいた。直虎の顔にクリーンヒットし直虎はその場にぶっ倒れる。
っていうかなんで今日俺は直虎の家に来てんだっけか。
「いいから本題に行こうよ……。曲作りについてでしょ?」
「そうでありますな」
「なに? 曲作るの?」
「ああ。新曲作りたいんだが……」
「だが?」
「ボーカル込みで考えててよ。将来お前が戻ってきたときのために歌詞とか諸々考えたい」
「まだ戻るかどうかわからんけど」
「戻ってくる。お前は絶対に」
そう言い切る自信がすごい。俺も多分十中八九戻れるなら戻る。
曲作るときは決まって直虎の部屋に来るんだよな。というのも直虎は音楽に対してめちゃくちゃガチで、家を一軒親の金で購入して防音室とか音楽に関する設備を諸々ぶち込んでるから。親も相当金があるようでこういうことをさせてもらえたらしい
「歌詞考えろっつっても今俺それどころじゃねえんだけど」
「なんかあるの?」
「いや……近々桐羅のイベントで修学旅行があってイタリアに行くんだ」
「イタリア! マジ? 初の海外に行くのお前。いいなー。俺なんか高校の修学旅行京都だぜ? 新幹線で行ける距離で観光なんてだるくね?」
「僕は鹿児島だったな。桜島見に行ったな~」
「……我は長野にスキー旅行であった。泣いてよいか?」
それぞれ悲しいことになっているんだなぁ……。
俺が高校の時はどこ行ったっけな。海外じゃないのは覚えてるんだけど記憶が曖昧になってきている。そんな昔の話でもないと思うんだけどな。
「……音助ぇ。女の子っぽい所作ができてるねぇ」
「えっ?」
「座り方ももろ女の子座りだしマジで女子っぽいね」
「びみょーな気分……」
女の子なんだから女の子っぽいと言われても当たり前なんだけど、それでも俺は男として生きてきた自覚もあるので女の子っぽいと言われるとちょっと悲しい気持ちもある。微妙過ぎる気分だ。
俺は座り方を正座に直し、コーラを飲みほした。
「……俺もTSしたらそういうのになるのかな」
「やめろよ。メンバー二人が女の子になるって相当嫌だぞ」
「女の子になってお前らがかっこよく見えて……付き合っちゃう?なんて言ったりしてなぁ!」
「……その場合我らが惚れたらBLってことになるのでありますかね?」
「……さぁ?」
精神的にはBLになるんだろうけど見た目で言えばNLなんだよな。この場合ってどっちになるの?
「まぁ、でもNLでいいんじゃない? ほら、精神は体に引っ張られるって言うでしょ?」
「あー、なんかそういうのあるよね」
「フィクションでもそうなんだから現実でもそうなるよ。だから女の子座りとか音助がすると思うんだ」
「要するに俺がこの身体の性別に引っ張られてるってこと?」
「そういうこと。女の子の仕草を取るのもそのせいだよ。体に引っ張られて女の子になっていく。それはいつしか身体だけではなく心も女の子に……」
「や、やめろよ。俺男だぞ」
「むしろ直虎が言ってる場合、すでに恋してる前提でありますからその時点で後戻り不可では?」
「「たしかに!!」」
決めた。俺は絶対恋なんてしない。
俺は男のまま生きるのだ。体は女の子でも心は男の子です。いつだって少年の心は忘れません。ロボットアニメとか好きです。




