目には目を歯には歯を
翌日、桐羅の掲示板には桐羅新聞と書かれた紙がでかでかと貼ってあり、今話題の編入生の素顔!と書かれて編入してきたNさんという隠しきれてない名前で俺を批判していた。
もちろん隠しきれてないのでわかるらしく、万家の人だろ? やっぱクソだなっていう人も多かった。風評被害。
「さっそくやってきたか……。書かないという約束は破ったんだな」
「写真とかはぼかして使われてるし、誰がどう見てもわかってるから……。さすがにどうしようかと」
「任せとけ。俺が何とかする」
と、頼もしい発言。
ユキがさっそく行動を始めると言ってどこかに向かうと、すれ違いに俵さんと赤家さんがやってきたのだった。
赤家さんは俺の肩を持って大丈夫と声をかけてくる。
「気にしないで! 新聞部はそういう卑劣なことをするって有名なの」
「それあなたが言えるんですの……?」
「うっさい! 私はまだ本人にだけ直接やったからまだいいほうよ! ね!?」
「まぁ、裏でやられるよりかは直接来られたほうがまだマシ……」
「ふふん」
誇れることじゃないけど。
「あなたのことだからきっと財前様に相談なさったんでしょうけど……。でも大丈夫? いろいろ言われて傷ついてたりとか……」
「ちょっと傷ついたけど大丈夫かな……」
「な、ならいいけれど……。まったく、あの朝比奈ってやつも困ったものよね」
「知ってるの?」
「悪い意味で有名なのよ。新聞部の朝比奈。性格が悪く、誰にも相手されないの。まぁ、それはこの新聞でわかるわよね。嘘ばかりじゃない」
赤家さんは新聞をぎろりとにらむ。
「音子ちゃんは私も許してくれたし悪い子じゃない!」
「まぁ、そうですわね……。中身があのお方ですから……」
おい、危ないことを口走るな俵さん。
「それにしても……厄介この上ないですわよ。私たちのように音子様を知っている方ならばともかく、知らない方にはイメージを植え付けられてしまいました。挽回するのは至難の業でしょう。財前様は朝比奈を何とかするとは思いますが……。イメージの払しょくにまでは手が回らないのではないでしょうか」
「まぁでも表立って悪口言う子はいないと思うわよ。万家ってデカい家だし……。私のように噛みつくのは稀な例」
自分でも稀ってわかってて噛みついてきたのか……。
だがしかし……たしかにユキはイメージの払しょくとまでは……。いきそうだな。ユキだしそこらへんはぬかりなしだと思う。
「第一、この桐羅新聞には何の信ぴょう性もないってことは朝比奈を知ってる人は知ってるから放っておいても大丈夫。あまりかかわりのない外部生には誤解はされるでしょうけど……。そっちの人望はあると聞いたし」
「あー……」
井達ありがとう。俺のいいことばらまいてくれて。
「あっ! 音子さん!」
「噂をすれば井達くん」
「大丈夫ですか!? よからぬ噂ばらまかれて……」
「あまりいい気分じゃないかな」
「ですよね……。僕、できることはするので! 気をしっかり!」
「ありがとう」
井達くんはやる気で溢れており、とりあえずいいうわさを流しまくると息巻いていた。
「あれは井達ね」
「知ってるの?」
「名前程度は知ってるわ。高校編入試験でほぼ満点だったらしいもの」
「そこまで有名なんだ……てかすご」
優秀、なんだなぁ。
「さてと。これからどうするの?」
「どうするって?」
「あの朝比奈よ」
「ユキが何とかしてくれるから別に……」
「それであなたの気が晴れる?」
「というと?」
「自身の手で報復するのもアリってことよ」
赤家さんがニヤリと微笑む。
「ダメですわよ流石に……」
「なによ。今更良い子を演じてもダメよ。ハンムラビ法典でも目には目を、歯には歯をという言葉があるようにやり返すことは認められてるのよね」
「……でもまたいいように書かれると思う。こんな被害を受けましたって」
「だから書かせないようにするのよ」
「というと?」
赤家さんが何か企んでるようだ。良からぬ手段じゃないと良いけど。




